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第一章
⑫
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王都行きの話になるので、母も一緒に話を聞くことになった。
「そこまで褒めていただいて有りがたいですが、本当にデルフィーヌの能力だけを気に入っていただけたということでしょうか」
褒めてもらって嬉しい反面、父は町長と同じような反応を見せた。
「お父様、それ以外に何があるのよ。すみません、父が変なことを。あ、それと町長にも変なこと頼んだでしょ」
変な虫が付かないようにとか、町長に頼み込んでいたことを追求する。
「そ、それは・・」
「ちょっとは娘のことを信用してよね。誰かにお守りしてもらわないといけないような、子供じゃないんだから。ギルドの皆にもいい歳をして親が口出ししてるって笑われてたのよ」
実際は笑ったりはしていないが、変だと思われたのは本当だ。
「しかし、ルドウィックが・・」
「あなた」
「え?」
「あ、いや・・別に」
何か言いかけて、母がそれを止めて父がもごもごと口ごもる。でも私は口から漏れた言葉を聞き逃さなかった。
「わかったわ。それで、同行についてはどうする?」
色々追求したいところだが、これは家庭内の話だ。それにいつまでもファルビオさんを引き留めるわけにはいかない。
「まあ、その・・断る理由はありませんが・・」
「わかりました。それでは、ご一緒にまいりましょう。それで、お嬢さんの方から二、三日のうちに出発される予定だと伺いましたが、私の都合で申し訳ありませんが、明後日の朝には出発したいと思います。大丈夫でしょうか?」
「はい、それは大丈夫です。だな、デルフィーヌ」
「ええ」
「では、明後日の朝、夜明け頃に伺います。護衛隊長にも同行者が増える件と、三人分の食料も追加で手配しておきます。費用については王都に着いてからで結構です」
「何から何までありがとうございます」
最初こそ戸惑っていた父だったが、色々気配りしてもらって最後にはかなり乗り気になっていた。
「私と娘は初めての遠出ですし、夫の方も、もう何年も王都に行っていませんから、途中の街や村の状況がわかりません。普段狩りにも出て少々の荒事は慣れているつもりですが、不安に思っておりました」
母が今回の話を聞いて一番ほっとしていた。私も日本なら一人旅も平気だった。それは治安がいいから。でもここは一足飛びに移動もできないし、途中には盗賊もいたり、魔物だって出たりする。危険な旅なのだ。
「お礼はいりません。ちゃんと費用もご負担いただきますし、私も道中の傍ら、お嬢さんに決算書の書類について色々ご教授いただきたいと思っています」
「娘に・・ですか?」
「はい。画期的な決算書でした。これから本部やギルドの支部でも取り入れたいと思っています」
「え、そんな全ギルトで?」
「商業ギルドだけでなく冒険者ギルドや職人ギルドもです。何しろ貴女は他のギルドの会計処理もなさったでしょ? 今回代表して私がまいりましたが、どこも絶賛していました」
「え~、そうなんですかぁ」
ファルビオさんに褒められたのも嬉しかったが、私の決算書があちこちで褒められていると聞いて、もっと嬉しくなった。
しかしファルビオさんを見送り家族だけになると、私は父達をさっきのことで問いつめた。
「さっきの人、何だったの? 私に用があるみたいだったけど、どうして私に相談もなく追い返そうとしたの? それに、ルドウィックがどうしたって?」
「お、親に向かって何だその口の利き方は。まるで尋問じゃないか」
父は逆ギレ気味に言い返す。ルウが旅立つ日の前の日、勝手に私と彼を二人きりにしたことで、問い詰めたときも同じ感じだった。
「私にも知る権利があると思うけど」
「あなた、デルフィーヌも知っておいた方がいいわ。また同じようなことが起らないとも限らないし」
「しかし・・」
母に説得されて、父もようやく話すことにしたようだ。
「実は、少し前からお前にいくつか縁談が来ていた」
「え、縁談!」
思ってもいなかったので思わず叫んだ。
実は勝手に父がどこかに借金でもしているとか、そんなことだと思っていたからだ。
気のいい父にうまいことを言ってお金をせびったりする人達が、最近増えてきているからだ。
それもルウの補償金目当ての輩が多い。
しかし、自分にそんな話が持ち込まれていたとは、まったく思っていなかった。
「そこまで褒めていただいて有りがたいですが、本当にデルフィーヌの能力だけを気に入っていただけたということでしょうか」
褒めてもらって嬉しい反面、父は町長と同じような反応を見せた。
「お父様、それ以外に何があるのよ。すみません、父が変なことを。あ、それと町長にも変なこと頼んだでしょ」
変な虫が付かないようにとか、町長に頼み込んでいたことを追求する。
「そ、それは・・」
「ちょっとは娘のことを信用してよね。誰かにお守りしてもらわないといけないような、子供じゃないんだから。ギルドの皆にもいい歳をして親が口出ししてるって笑われてたのよ」
実際は笑ったりはしていないが、変だと思われたのは本当だ。
「しかし、ルドウィックが・・」
「あなた」
「え?」
「あ、いや・・別に」
何か言いかけて、母がそれを止めて父がもごもごと口ごもる。でも私は口から漏れた言葉を聞き逃さなかった。
「わかったわ。それで、同行についてはどうする?」
色々追求したいところだが、これは家庭内の話だ。それにいつまでもファルビオさんを引き留めるわけにはいかない。
「まあ、その・・断る理由はありませんが・・」
「わかりました。それでは、ご一緒にまいりましょう。それで、お嬢さんの方から二、三日のうちに出発される予定だと伺いましたが、私の都合で申し訳ありませんが、明後日の朝には出発したいと思います。大丈夫でしょうか?」
「はい、それは大丈夫です。だな、デルフィーヌ」
「ええ」
「では、明後日の朝、夜明け頃に伺います。護衛隊長にも同行者が増える件と、三人分の食料も追加で手配しておきます。費用については王都に着いてからで結構です」
「何から何までありがとうございます」
最初こそ戸惑っていた父だったが、色々気配りしてもらって最後にはかなり乗り気になっていた。
「私と娘は初めての遠出ですし、夫の方も、もう何年も王都に行っていませんから、途中の街や村の状況がわかりません。普段狩りにも出て少々の荒事は慣れているつもりですが、不安に思っておりました」
母が今回の話を聞いて一番ほっとしていた。私も日本なら一人旅も平気だった。それは治安がいいから。でもここは一足飛びに移動もできないし、途中には盗賊もいたり、魔物だって出たりする。危険な旅なのだ。
「お礼はいりません。ちゃんと費用もご負担いただきますし、私も道中の傍ら、お嬢さんに決算書の書類について色々ご教授いただきたいと思っています」
「娘に・・ですか?」
「はい。画期的な決算書でした。これから本部やギルドの支部でも取り入れたいと思っています」
「え、そんな全ギルトで?」
「商業ギルドだけでなく冒険者ギルドや職人ギルドもです。何しろ貴女は他のギルドの会計処理もなさったでしょ? 今回代表して私がまいりましたが、どこも絶賛していました」
「え~、そうなんですかぁ」
ファルビオさんに褒められたのも嬉しかったが、私の決算書があちこちで褒められていると聞いて、もっと嬉しくなった。
しかしファルビオさんを見送り家族だけになると、私は父達をさっきのことで問いつめた。
「さっきの人、何だったの? 私に用があるみたいだったけど、どうして私に相談もなく追い返そうとしたの? それに、ルドウィックがどうしたって?」
「お、親に向かって何だその口の利き方は。まるで尋問じゃないか」
父は逆ギレ気味に言い返す。ルウが旅立つ日の前の日、勝手に私と彼を二人きりにしたことで、問い詰めたときも同じ感じだった。
「私にも知る権利があると思うけど」
「あなた、デルフィーヌも知っておいた方がいいわ。また同じようなことが起らないとも限らないし」
「しかし・・」
母に説得されて、父もようやく話すことにしたようだ。
「実は、少し前からお前にいくつか縁談が来ていた」
「え、縁談!」
思ってもいなかったので思わず叫んだ。
実は勝手に父がどこかに借金でもしているとか、そんなことだと思っていたからだ。
気のいい父にうまいことを言ってお金をせびったりする人達が、最近増えてきているからだ。
それもルウの補償金目当ての輩が多い。
しかし、自分にそんな話が持ち込まれていたとは、まったく思っていなかった。
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