【R18】勇者の姉は究極のモブではなかったんですか?

七夜かなた

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第一章

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「ほんとに、町長は心配性ですね。まるでもう一人の父親みたい」

 カイラさんがそう言うと、うんうんとオットーさんが頷く。
 
「ほんとですよ。最初の頃はおれがデルフィーヌと二人きりになっただけで、怖い目で睨んできて。おれがシモーネと結婚するまで、いくらデルフィーヌに興味がないって言っても、ちっとも信じてもらえなかったんですから」
「悪かったな」

 町長はオットーさんに謝ったが、私にも謝ってほしいと思う。
 オットーさんに異性として好かれても困ってしまうが、全く興味なしと言い続けられるのも、地味に傷つくものがあった。
 
「私にはそんなこと一切ないじゃないですか。あ、別に心配してほしかったとか言っているわけじゃないですよ」

 カイラさんが慌てて打ち消す。
 
「心配しなくても、デルフィーヌは狩りの腕も立つし、あの勇者の姉なのは伊達じゃないですよ。冒険者ギルドの長でもある町長だって知ってるじゃないですか」

 私の狩りの腕はなかなかのもので、それは街の皆が知っていることだ。狩りの腕で言えばこの辺りの男性たちに匹敵する。女性の中では群を抜いていると言える。
 当たり前だが、前世では狩りなんてまったく縁がなかった。牛肉や豚肉は食べていたのに、実際に命を奪うとなると、初めは抵抗があった。
 でも、この世界ではそうしないと生きていけない。
 特に私が生まれたブレアル家は貧乏だから、食糧は自給自足が基本だった。
 それに、ルドウィックが将来勇者として活躍するためには、狩りはいい訓練になった。
 ルドウィックの狩りの腕は、この辺りでは誰にもひけを取らないレベルだった。
 弓を引けば飛ぶ鳥の目を射貫き、イノシシだって真正面から眉間を貫いた。
 時折魔物も狩っていた。魔物の肉や素材は高く売れる。魔核も魔道具の核になるので、いい小遣い稼ぎになった。

「狩りの腕前は知っているが、それとこれとは別だ。デルフィーヌのことは、変な虫が付かないようにと、頼まれている」
「え、俺たち虫ですか?」

 本気で怒ってはいないが、オットーさんは虫呼ばわりされたことに対して文句を言った。

「もう二十歳の娘にお父さんたちも心配性なんです」

 私がギルドで働くことに、最初両親は難色を示した。でも、ルウの褒賞金の活用については両親も賛成してくれた。しかし、ギルド長には娘をくれぐれもよろしくお願いします。嫁入り前なので、間違いのないように頼みますと、しつこいくらいに頭を下げていた。
 十六歳が成人年齢だし、前世ではいいお年だったのだから、今更ほっといてくれと思う。

「ご両親の気持ちもわからないではないですが、ちょっと過保護過ぎですね」
  
 自分も「虫」の一人だと思われているファルビオさんも、同じように思ったようだ。
 
「そう思いますよね。そのうえ町長まで口出ししたんじゃ、家と職場の両方で見張られいるみたいで、うっとおしいでしょ」
「心配してくれるうちが花とも言える」

 オットーさんが言うと、町長はムッとした顔で反論した。

「でもデルフィーヌだってそろそろ結婚を考える年齢でしょ。つい忘れがちだけど一応貴族だし、あの勇者のお姉さんなんだから、もしかしたらそこそこいい相手も望めるんじゃない?」
「リタさん、それって私が貴族令嬢っぽくないってことですか?」
「あら、そんな風に聞こえたかしら、ごめんなさい」
「思いっきりそう聞こえました」

 決して悪意があって言っているのはわかるし、確かに優雅にお茶を飲んで花を愛でて、おしゃべりに興じている貴族令嬢のイメージとはかけ離れていることは認める。
 それを悪いと思ってはいないし、ここにいる皆も馬鹿にしていないのはわかっている。

「うちより裕福な平民なんてたくさんいますし、爵位なんてお腹の足しにもなりませんから、いいんですけどね」
「まあ、いいじゃない、勇者の実家って泊もついたし、多少一般的な貴族令嬢とは違っても、お嫁の貰い手はある筈よ」
「誰かお目当ての人はいないの?」
「お目当て…ですか」

 そう言われてルウの顔が浮かんだが、慌てて心の中で打ち消した。
 ルウのことは嫌いではないし、家族としては愛している。
 でも世間的には彼は弟で、誰も私と彼が結ばれるなんて思っていないのがわかる。
 両親はルウが私のことを思っていることも、あの日何があったかも知っている。その上で、私達が一緒になって、ブレアル家をもり立ててくれることを望んでいる。
 でも、勇者となったからには、ルウだって他の選択肢が出来た。望めばお姫様とだって結婚できるかも知れない。
 王宮に出入りするご令嬢たちと比べれば、貴族令嬢として落ちこぼれの私なんて、下の下もいいところだ。
 人として負けているつもりはなくても、女としてはどうだろうか。

「今のところは特にないです」

 これから先も、ルウが同じ想いを私に抱くかなんて、保証はどこにもない。
 だから私はそう言うしかなかった。
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