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第一章

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「いいわねぇ、王都で王宮のパーティーなんて、一度でもいいから行ってみたいわ、せめて王宮だけでも見てみたいわ」

 王都行きを羨ましそうに語られる。
 田舎あるある。一度は行ってみたいと思う都会。
 私だって異世界転生して、あちこち見てみたいとは思う。
 山があって川があって森があって、自然豊かなオークレールも嫌いではないが、やっぱり憧れる。
 でも、「そうよね、私も楽しみ!」とは言えなかった。
 正直、これから後のことはまったくわからない。
 暗黒竜を倒した後、エンドロールで見たスチルは、王宮で王様に謁見し、皆で宴会をして、それからそれぞれのメンバーが自分たちの故郷へ帰る。
 最後に勇者の帰郷のシーンがあって、出迎えた家族と勇者が楽しく食卓を囲む。
 それでエンドだ。

 王宮でのパーティーなど、情報にはなかった。
 貴族とは言え田舎の貧乏貴族の私は、社交界デビューしていない。一応教会でこちらの世界で言う成人式みたいなものは、十六歳の時に行ったが、王宮のパーティーには参加していない。
 前世も普通のサラリーマン家庭で生まれ育ち、パーティーと言えば大学の卒業式の謝恩会と、結婚式の二次会、後は社会人になって関わったクライアントに招待された、会社のパーティーくらいしか経験がない。
 スピーチを聞いて乾杯して、立食式のお食事をいただくスタイルで、重役さんたちと言葉を交わしてそれなりに上手くやってきた。
 でも、この世界のパーティーはそんなものじゃないことはわかる。
 社長や政治家先生など、偉い人とは会ったことがあっても、王様とかなど会ったことはない。
 ブレアル男爵家としてなら、目立つこともないだろうが、勇者と家族となればそんなわけにはいかない。
 
 それに…

 ルウにとって私は何になるんだろう。
 家族? 義姉? それとも恋人? 
 ルウが勇者として旅立つ前の日、いきなり気持ちをぶつけられて、初めてを捧げた…というか奪われた。
 足腰立たないくらい抱き潰され、見送りもできなかったことを思い出す。
 
「今頃、後悔していないかな」

 届けられる手紙の文面には、今でも義姉ではなく女性として好きだという想いが綴られている。
 でも、それって、たまたま私が身近にいただけの存在で、狭い選択肢の中で一番だっただけなのでは?
 あれから二年経って、その間にルウはたくさんの人々に会っただろう。王族やパーティメンバー、訪れる街などでも、たくさん出会いの場がある。
 芋くさい田舎の、ろくにおしゃれも知らない私なんて、きっとその人たちと比べれば、月とスッポンなはず。

「デルフィーヌ、お客様よ」

 そろそろ休憩を切り上げようと思っていると、表からカイラが客が来たと言ってきた。

「私に? また?」
 
「違う違う、勇者ルドウィックの姉上とは言わなかったわ。デルフィーヌ・ブレアルさんに会いたいって言ってたもの」
 
 勇者ルドウィックの姉が私だとは知られていることなので、時々こうして伝手を求めて人が訪ねてくる。
 家にもいつも誰かが訪ねてきては、ルドウィックを知っているようなうまいことを言って、食事を振る舞わさせたりする。
 勇者を排出した立派な家だと褒めそやしながら、まさか勇者の実家がケチくさいことをしないよな、と言いながらタカリにくるのだ。
 
「私に?」

 ルドウィック目当てでもなく、私に用事とは誰だろう。
 
「若い男の人よ。ルドウィックほどじゃないけど、なかなか男前」
 
 ますますわからない。

「まあ、男前ですって?」

 私よりリタさんの方が食いついて、カイラさんを押しのけて先に受付へと走って行った。

「リタさんのお客じゃないのに」
「やれやれ、そんなに顔のいい男がいいのかな」
「まったくです。リタさんは旦那さんがいるのに」

 アインのオットーが呆れる。

「男の人だって、美人とか胸が大きいとか色々言うじゃないですか」
「そうですよ。男性が女性について騒ぐのは良くて、女性が男性のことではしゃいじゃだめなんて、誰が決めたんですか」

 ジェンダーフリーの思想を持つ人は、まだまだこの世界では珍しい。でも国によっては女性が指導者となるところもある。
 エルフの国では女王が治め、男性は王配と呼ばれている。この国では統治者や跡継ぎは男性が多いけど、女性でも実力があれば官職に就けるし、女性騎士もいる。でも貞淑な妻を望むと人が多いのも事実だ。

「デルフィーヌはすぐに来ます。お待ちください、デルフィーヌ、早く来て」

 先に受付に言ったリタさんが私を呼ぶので、私は「はい、今行きます」と慌てて事務室と受付とを繋ぐ扉を潜った。 
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