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第一章
④
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医療行為を行える者に与えられる医師免許。
それと同じように、公認会計士という資格は、会計の専門家だという証だ。
前世でそれを目指したのは高校二年の時。
ある先輩の話を聞いたからだった。
学校のカリキュラムのひとつで、それは学生たちの将来の進路形成のために、色んな職業の人たちを講師として招き入れて、話を聞くというものだった。
「私は大学三年生の時に資格を取りました。四年の時は留学などをしてその後、監査法人に就職しそこで経験を積んだ後、現在は独立した先輩の事務所でパートナーとして働いています」
そう講演したのは、高校の卒業生で四十代の男性だった。
「うちの事務所は会計士だけでなく税理士などもいて、チームを組んで案件にあたっています。繁忙期と閑散期がはっきりしているので、閑散期になる夏は海外旅行に行ったりしています」
医師と違い、高卒でも勉強すれば資格を取れる。そして国家資格だということに魅力を感じた。
それからその先輩の卒業した大学を受験し、二十一歳の時に資格を取った。
卒業後は同じように監査法人に入り、先輩について仕事を覚えた。クライアントをいくつも抱え、忙しい日々を過ごした。
「暗黒竜と双剣の勇者」にはまったのは、その頃だった。
仕事とゲームばかりの日々が続き、恋愛とは程遠い人生だった。
それから誘いを受けて、監査法人を退職して個人事務所に転職した。
でも、自分がどうやって前の生を終えたのかは覚えていない。
テンプレ通りなら、途中で事故か何かで死んだのかも知れない。
とにかく、自分の死んだ時の記憶など、思い出したくないので、それは気にしていない。
前世の記憶を思い出し、その時に勉強したことも思い出した。
ただ、ブレアル男爵家の問題は、収入に対して支出が多いこと。それをなんとかしないと、採算は合わなかった。
そこへ舞い込んだ褒賞金で、取り敢えず男爵家の台所は潤った。
私がギルドへ通いだしたのは、ルドウィックが旅立ってからで、そのことを手紙には書いていない。
ルドウィックは、自分が一緒に行けないときに、私が街へ出ていくのを嫌がったからだ。
街へ行くなら父さんか母さんに頼め。一人で行くな。
そう言いだしたのは、私が十六歳になる頃だった。
「街くらい一人で歩けるわよ」
日本でだって一人で出張もしていたし、海外旅行も行った。
もちろんここと日本は違う。
盗賊とかはまだ普通に存在するし、魔物もいる。
ただ彼の心配はそこじゃないらしい。
「デルフィーヌは可愛いから、変な男に言い寄られたら困る」
というのが、彼の言い分だった。
私が一人で出歩くと、ナンパでもされると思っているのだ。
家計の足しにと狩りもするし、地味でどこにでもいる平凡な髪色で、日にも焼けている自分を、どこの誰がナンパするというのだ。
「気にしすぎだって。身内の欲目だよ」
当の本人すら、自分の顔は嫌いではないが、特別美人でもない自分の容姿を、可愛いと言うのは親とルドウィックくらいだ。
「俺が目を光らせているから、皆寄ってこないだけだ。デルフィーヌのこと狙ってる奴は多いんだぞ」
「それが本当ならモテてみたいわ。でも、今のところ、ルウに告白してくる子の方が多いと思うけど」
「興味ない」
「あんたねぇ、そんなこと言ってるとお嫁さん一人も来ないよ」
「いいんだ。俺はデルフィーヌがいればそれで」
何度かそんなやり取りをルウとした。
小さな街だし、殆どが知り合いの中で、皆が私をルドウィックの姉だと知っている。
勇者の姉に手を出そうなんて物好きはいない。
寄ってくるとしても、勇者の身内から甘い汁を搾り取ろうとする不遜な考えの者だけだ。
たまによそから来た冒険者とか商人とか、勇者の出身地に興味がある観光客が道を聞いたりして、声をかけてくるが、それだけだ。
まあ、お礼にとお茶に誘われたりするが、それは大したことではないし、急いでいるからと断っている。
ギルドへ通うのは週三回。
週三回なのは、ブレアル家の切り盛りもあるからなのだ。
しかし、それも少し考えもので、三日間放置すると今回のように仕事が山積みになっている。
午前中いっぱいを、ギルドごとの伝票の仕分けに翻弄されて、ようやくお昼になった。
「う~ん、やっと終わった」
机の前で腕を上に上げて大きく伸びをする。
「お疲れ様、お茶でもいれようか?」
「ありがとう」
首を回したりして、ストレッチしていると、事務職のリタが声をかけてきた。
リタは私の母親と同年代だ。
仕事場は受付奥の事務室で、リタと私、それから受付のカイラ、それから男手としてアインとオットーがいる。アインはまだ十五歳、オットーはカイラと同じ年だ。
二階にはこの街の町長と副町長の部屋がある
「それにしても、すごい数ね。仕分けだけで半日かかったわ」
「デルフィーヌが来てくれるまで、私とカイラで何とかやってたんだけど、間違いも多くて困ってたの。おかげで助かっているわ」
「そう言ってもらえて嬉しいです。皆さん親切だし仕事は面白いし、思い切って応募して良かったです」
この世界にも算盤があってよかった。なかったらもっと時間が掛かっただろう。
「それより、来週から暫く私も街を離れるんです。大丈夫ですか?」
たった三日で箱は山積みだった。
「な、何とかするわ。デルフィーヌが作ってくれた指南書もあるし」
私は勘定科目の分け方、どこに何を記載するかなどを詳しく説明を添え、計算間違いさえしなければ大丈夫なように、
自分がいなくても誰でも会計ができるように、マニュアルを作成していた。
「ルドウィックって、てっきり暗黒竜を倒したらここに帰ってくると思ったのに、あっちで爵位やお屋敷まで貰ったって言ってたわね」
「そうなんです」
この前届いた手紙には、早くデルフィーヌに会いたい。でも、引き止められてなかなか会いに行けない。近いうち祝勝パーティーが開かれるから、父さんと母さんとデルフィーヌの三人で来てほしい。と書かれてあった。
それと同じように、公認会計士という資格は、会計の専門家だという証だ。
前世でそれを目指したのは高校二年の時。
ある先輩の話を聞いたからだった。
学校のカリキュラムのひとつで、それは学生たちの将来の進路形成のために、色んな職業の人たちを講師として招き入れて、話を聞くというものだった。
「私は大学三年生の時に資格を取りました。四年の時は留学などをしてその後、監査法人に就職しそこで経験を積んだ後、現在は独立した先輩の事務所でパートナーとして働いています」
そう講演したのは、高校の卒業生で四十代の男性だった。
「うちの事務所は会計士だけでなく税理士などもいて、チームを組んで案件にあたっています。繁忙期と閑散期がはっきりしているので、閑散期になる夏は海外旅行に行ったりしています」
医師と違い、高卒でも勉強すれば資格を取れる。そして国家資格だということに魅力を感じた。
それからその先輩の卒業した大学を受験し、二十一歳の時に資格を取った。
卒業後は同じように監査法人に入り、先輩について仕事を覚えた。クライアントをいくつも抱え、忙しい日々を過ごした。
「暗黒竜と双剣の勇者」にはまったのは、その頃だった。
仕事とゲームばかりの日々が続き、恋愛とは程遠い人生だった。
それから誘いを受けて、監査法人を退職して個人事務所に転職した。
でも、自分がどうやって前の生を終えたのかは覚えていない。
テンプレ通りなら、途中で事故か何かで死んだのかも知れない。
とにかく、自分の死んだ時の記憶など、思い出したくないので、それは気にしていない。
前世の記憶を思い出し、その時に勉強したことも思い出した。
ただ、ブレアル男爵家の問題は、収入に対して支出が多いこと。それをなんとかしないと、採算は合わなかった。
そこへ舞い込んだ褒賞金で、取り敢えず男爵家の台所は潤った。
私がギルドへ通いだしたのは、ルドウィックが旅立ってからで、そのことを手紙には書いていない。
ルドウィックは、自分が一緒に行けないときに、私が街へ出ていくのを嫌がったからだ。
街へ行くなら父さんか母さんに頼め。一人で行くな。
そう言いだしたのは、私が十六歳になる頃だった。
「街くらい一人で歩けるわよ」
日本でだって一人で出張もしていたし、海外旅行も行った。
もちろんここと日本は違う。
盗賊とかはまだ普通に存在するし、魔物もいる。
ただ彼の心配はそこじゃないらしい。
「デルフィーヌは可愛いから、変な男に言い寄られたら困る」
というのが、彼の言い分だった。
私が一人で出歩くと、ナンパでもされると思っているのだ。
家計の足しにと狩りもするし、地味でどこにでもいる平凡な髪色で、日にも焼けている自分を、どこの誰がナンパするというのだ。
「気にしすぎだって。身内の欲目だよ」
当の本人すら、自分の顔は嫌いではないが、特別美人でもない自分の容姿を、可愛いと言うのは親とルドウィックくらいだ。
「俺が目を光らせているから、皆寄ってこないだけだ。デルフィーヌのこと狙ってる奴は多いんだぞ」
「それが本当ならモテてみたいわ。でも、今のところ、ルウに告白してくる子の方が多いと思うけど」
「興味ない」
「あんたねぇ、そんなこと言ってるとお嫁さん一人も来ないよ」
「いいんだ。俺はデルフィーヌがいればそれで」
何度かそんなやり取りをルウとした。
小さな街だし、殆どが知り合いの中で、皆が私をルドウィックの姉だと知っている。
勇者の姉に手を出そうなんて物好きはいない。
寄ってくるとしても、勇者の身内から甘い汁を搾り取ろうとする不遜な考えの者だけだ。
たまによそから来た冒険者とか商人とか、勇者の出身地に興味がある観光客が道を聞いたりして、声をかけてくるが、それだけだ。
まあ、お礼にとお茶に誘われたりするが、それは大したことではないし、急いでいるからと断っている。
ギルドへ通うのは週三回。
週三回なのは、ブレアル家の切り盛りもあるからなのだ。
しかし、それも少し考えもので、三日間放置すると今回のように仕事が山積みになっている。
午前中いっぱいを、ギルドごとの伝票の仕分けに翻弄されて、ようやくお昼になった。
「う~ん、やっと終わった」
机の前で腕を上に上げて大きく伸びをする。
「お疲れ様、お茶でもいれようか?」
「ありがとう」
首を回したりして、ストレッチしていると、事務職のリタが声をかけてきた。
リタは私の母親と同年代だ。
仕事場は受付奥の事務室で、リタと私、それから受付のカイラ、それから男手としてアインとオットーがいる。アインはまだ十五歳、オットーはカイラと同じ年だ。
二階にはこの街の町長と副町長の部屋がある
「それにしても、すごい数ね。仕分けだけで半日かかったわ」
「デルフィーヌが来てくれるまで、私とカイラで何とかやってたんだけど、間違いも多くて困ってたの。おかげで助かっているわ」
「そう言ってもらえて嬉しいです。皆さん親切だし仕事は面白いし、思い切って応募して良かったです」
この世界にも算盤があってよかった。なかったらもっと時間が掛かっただろう。
「それより、来週から暫く私も街を離れるんです。大丈夫ですか?」
たった三日で箱は山積みだった。
「な、何とかするわ。デルフィーヌが作ってくれた指南書もあるし」
私は勘定科目の分け方、どこに何を記載するかなどを詳しく説明を添え、計算間違いさえしなければ大丈夫なように、
自分がいなくても誰でも会計ができるように、マニュアルを作成していた。
「ルドウィックって、てっきり暗黒竜を倒したらここに帰ってくると思ったのに、あっちで爵位やお屋敷まで貰ったって言ってたわね」
「そうなんです」
この前届いた手紙には、早くデルフィーヌに会いたい。でも、引き止められてなかなか会いに行けない。近いうち祝勝パーティーが開かれるから、父さんと母さんとデルフィーヌの三人で来てほしい。と書かれてあった。
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