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第一章
③
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街中、国中、世界中が勇者一行の偉業に沸き立っている中を、私はある場所に向かって歩いていた。
ルウが勇者となってから、男爵家には国から定期的にお金が入ってくるようになった。
いわゆる「勇者褒賞金」とでも言おうか、勇者を排出した家に対する褒美のようなものだ。
それは一ヶ月で、それまでの男爵家の一年間の維持費に匹敵する金額だった。
しかし私たちは、それがルウを売ったお金に思えて、手放しには喜べなかった。
そして家族で相談した結果、そのお金で必要最低限の家の修復を行った。ルウが戻ってきて邸が荒れ放題では申し訳ない。
せめて、屋台骨はしっかりと、雨漏りや隙間風を防ぎ、彼が帰ってくる家を守ろうと。
ブレアル男爵家の収入では生活するのが精一杯で、とてもそこまで手が回らなかったので、ルウも納得してくれるだろう。
しかしどこからか、そのお金のことを聞きつけた輩が、それを目当てにすり寄ってくるようになった。
これは何とかしなければと、考えて少しだけ残してそれを然るべきところに預けることにした。
それが街の商業ギルドだった。
ギルドは国内に三種類ある。
有名なのが冒険者ギルドだが、あとは職人ギルドと商業ギルドだ。
「おはよーございます」
私は、勢いよく建物の扉を開け、挨拶した。
「おはよーデルフィーヌ」
「おはようございます、カイラさん」
受付嬢のカイラと挨拶を交わす。
ギルドはどんな小さな街にも支部がある。大きい都市ならそれぞれに建物を構えているが、ここ、オークレールでは役所兼冒険者ギルド兼職人ギルド兼商業ギルドがひとつの建物に集まっている。
それはそれで横の繋がりがスムーズでいいのだが、収支の計算がやりにくい。
私は、このギルドでルウの褒賞金を預け、ついでに会計のしごとをしている。
とは言っても三日に一度通うだけの非常勤である。
この世界では何の能力もない平凡なモブキャラだが、前世は一応三大国家資格である公認会計士の資格を持っていた。
計算や会計は得意分野である。
ブレアル家の家計も、少し前から私の仕事だ。
そしてカイラは三つのギルドに加え、役所の受付もこなす看板娘だった。
とは言え、年齢は私より十歳上の一児の母である。
そして町長の奥さんだ。
ルウが旅立ってから、褒賞金の一部をここに預け、そして運用している。
そのついでに経理の腕を買われて、会計係をしている。
「来たばかりで悪いんだけど、この三日分の帳簿付けお願いできる?」
「はい。うわ、すごい数ですね」
鞄を奥に置いて、箱に積み上げられた伝票の中身を見て呟く。
「そうなのよ。ほら、勇者ルドウィックの生まれた町ということで、発売した記念コインやらグッズが飛ぶように売れて、職人ギルドと商業ギルドが大忙しなの」
実は町長の発案で、ルドウィックの横顔を彫った記念コインやら、バッジなどを作成してところ、それが大人気になり、連日それを求めて多くの人々が、この街に押し寄せてくるようになった。
中には絵姿(前世で言うブロマイド)や絵皿など、ルドウィックの顔がいいこともあって、女性に大人気である。
人気なのはいいことだが、ちょっと複雑な思いもある。
相変わらずルドウィックは手紙の中で、私への想いを熱く語っているが、すでにルドウィックは私の義弟に留まらず、国のアイドル的存在で時の人だ。
弟ならそれでも自慢だけで済むが、もし、彼に想い人ができ、それが自分だと知られたら、どんな目にあうか。
考えると恐ろしい。
ルウが勇者となってから、男爵家には国から定期的にお金が入ってくるようになった。
いわゆる「勇者褒賞金」とでも言おうか、勇者を排出した家に対する褒美のようなものだ。
それは一ヶ月で、それまでの男爵家の一年間の維持費に匹敵する金額だった。
しかし私たちは、それがルウを売ったお金に思えて、手放しには喜べなかった。
そして家族で相談した結果、そのお金で必要最低限の家の修復を行った。ルウが戻ってきて邸が荒れ放題では申し訳ない。
せめて、屋台骨はしっかりと、雨漏りや隙間風を防ぎ、彼が帰ってくる家を守ろうと。
ブレアル男爵家の収入では生活するのが精一杯で、とてもそこまで手が回らなかったので、ルウも納得してくれるだろう。
しかしどこからか、そのお金のことを聞きつけた輩が、それを目当てにすり寄ってくるようになった。
これは何とかしなければと、考えて少しだけ残してそれを然るべきところに預けることにした。
それが街の商業ギルドだった。
ギルドは国内に三種類ある。
有名なのが冒険者ギルドだが、あとは職人ギルドと商業ギルドだ。
「おはよーございます」
私は、勢いよく建物の扉を開け、挨拶した。
「おはよーデルフィーヌ」
「おはようございます、カイラさん」
受付嬢のカイラと挨拶を交わす。
ギルドはどんな小さな街にも支部がある。大きい都市ならそれぞれに建物を構えているが、ここ、オークレールでは役所兼冒険者ギルド兼職人ギルド兼商業ギルドがひとつの建物に集まっている。
それはそれで横の繋がりがスムーズでいいのだが、収支の計算がやりにくい。
私は、このギルドでルウの褒賞金を預け、ついでに会計のしごとをしている。
とは言っても三日に一度通うだけの非常勤である。
この世界では何の能力もない平凡なモブキャラだが、前世は一応三大国家資格である公認会計士の資格を持っていた。
計算や会計は得意分野である。
ブレアル家の家計も、少し前から私の仕事だ。
そしてカイラは三つのギルドに加え、役所の受付もこなす看板娘だった。
とは言え、年齢は私より十歳上の一児の母である。
そして町長の奥さんだ。
ルウが旅立ってから、褒賞金の一部をここに預け、そして運用している。
そのついでに経理の腕を買われて、会計係をしている。
「来たばかりで悪いんだけど、この三日分の帳簿付けお願いできる?」
「はい。うわ、すごい数ですね」
鞄を奥に置いて、箱に積み上げられた伝票の中身を見て呟く。
「そうなのよ。ほら、勇者ルドウィックの生まれた町ということで、発売した記念コインやらグッズが飛ぶように売れて、職人ギルドと商業ギルドが大忙しなの」
実は町長の発案で、ルドウィックの横顔を彫った記念コインやら、バッジなどを作成してところ、それが大人気になり、連日それを求めて多くの人々が、この街に押し寄せてくるようになった。
中には絵姿(前世で言うブロマイド)や絵皿など、ルドウィックの顔がいいこともあって、女性に大人気である。
人気なのはいいことだが、ちょっと複雑な思いもある。
相変わらずルドウィックは手紙の中で、私への想いを熱く語っているが、すでにルドウィックは私の義弟に留まらず、国のアイドル的存在で時の人だ。
弟ならそれでも自慢だけで済むが、もし、彼に想い人ができ、それが自分だと知られたら、どんな目にあうか。
考えると恐ろしい。
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