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プロローグ
勇者の旅立ち②
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物語は彼が成人を迎える頃、古の暗黒竜が目を覚まし、人々を苦しめる。そこへ神託が下り勇者として選ばれるのがルドウィックなのだ。
勇者、神官、魔法使い、エルフにドワーフ、そして聖女が彼と共に王国から出発し、暗黒竜討伐に向かいながら、ひとつひとつクエストをこなしていくのがストーリー。まあ、冒険RPGだから変な恋愛要素とかはない。ただ敵と戦い、クエストをこなしてレベルアップしながらラスボスを倒すのが最終目標だ。
そして私は、物語の始まりに旅立つ主人公を「いってらっしゃい」とたったのひと言で見送る勇者の姉。名前さえ出てこないし、主人公が暗黒竜を討伐し、国王から褒美をいただくラストまで二度と登場することのない究極のモブだった。
けれどモブとしてメインストーリーには関係なくとも、そこは現実世界のお約束。私にも人生というものがある。
とりあえずルドウィックをお姉チャン子にして慕わせ、彼が暗黒竜を見事倒した後には、王都へ両親共々呼び寄せてもらって、勇者の姉として玉の輿に乗るのを最終目標に頑張ろうと決めた。
そのために、物心ついたルドウィックの体を鍛え、生活のためでもあったが、狩猟技術を取得させ、神殿にも通わせて教養も身に付けさせた。町に派遣される護衛騎士に頭を下げ、剣術や馬術も教えてもらった。彼らに渡す袖の下の為に何日も徹夜して縫い物をしたり、薬草を採取してお金を稼いだのは、いつかこの努力が報われるからと思っていたから。
さすが主人公補正というか、ルウは一を教えれば十を覚えた。
下地は出来上がっていた。後はこれから王都で受ける本格的な訓練を終えれば、完璧な勇者の出来上がり。
「ありがとうお姉チャン」という言葉まで期待はしていなかったけど、まさか姉認定すらされていなかったとは。
「デルフィーヌ、少しいい?」
食事を終えて、明日の朝夜明け前に出発するということで、早めに休むことにしたのだが、寝支度を終えて布団に入ろうとした私の部屋を、ルウが訪ねてきた。
「うん、いいよ」
ルウが私の部屋に来るのは随分久しぶりだった。
入ってきたルウは緊張気味だった。
「どうしたの?」
「その…さっきの…姉とは思ってないって話だけど…」
さっきはごめん、照れくさかったんだ、お姉チャンというシチュエーションを想像する。
「ちょっとあれは傷ついたかな…」
ちょっと大げさに傷ついたふりをして、俯く。
「あれは、ごめん、傷つけるつもりはなかったんだ。その…言葉を間違えたというか…」
一生懸命説明しようとして、モゴモゴと口ごもる。
体もすっかり大人になって立派になったと思っていたけど、まだまだ子どもだなぁと微笑ましい思いで、次の言葉を待つ。
「えっと、暫くは会えないから…今夜は一緒に寝ていいかな?」
「いいよいいよ…え?」
ごめんなさい。という言葉を想像して返事をしたが、聞こえてきた言葉に耳を疑った。
「え、いいんだ。じゃあ、よろしく」
「え? ちょっと…ルウ」
私が戸惑っている間にルウは長い脚でさっと私に近づき、逞しい腕で抱き上げて私を寝台に寝かしつけた。
いきなりの二人分の体重に寝台がギシリと軋む。
仰向けになって寝台に横たわる私に、立派になったルウが覆いかぶさってきた。
「ちょ、重い…ルウ」
「弟なんかじゃない」
「え、う、うぐ」
筋肉質の大きなルウの体に押さえつけられ、状況が呑み込めないまま、いきなり唇を奪われた。
勇者、神官、魔法使い、エルフにドワーフ、そして聖女が彼と共に王国から出発し、暗黒竜討伐に向かいながら、ひとつひとつクエストをこなしていくのがストーリー。まあ、冒険RPGだから変な恋愛要素とかはない。ただ敵と戦い、クエストをこなしてレベルアップしながらラスボスを倒すのが最終目標だ。
そして私は、物語の始まりに旅立つ主人公を「いってらっしゃい」とたったのひと言で見送る勇者の姉。名前さえ出てこないし、主人公が暗黒竜を討伐し、国王から褒美をいただくラストまで二度と登場することのない究極のモブだった。
けれどモブとしてメインストーリーには関係なくとも、そこは現実世界のお約束。私にも人生というものがある。
とりあえずルドウィックをお姉チャン子にして慕わせ、彼が暗黒竜を見事倒した後には、王都へ両親共々呼び寄せてもらって、勇者の姉として玉の輿に乗るのを最終目標に頑張ろうと決めた。
そのために、物心ついたルドウィックの体を鍛え、生活のためでもあったが、狩猟技術を取得させ、神殿にも通わせて教養も身に付けさせた。町に派遣される護衛騎士に頭を下げ、剣術や馬術も教えてもらった。彼らに渡す袖の下の為に何日も徹夜して縫い物をしたり、薬草を採取してお金を稼いだのは、いつかこの努力が報われるからと思っていたから。
さすが主人公補正というか、ルウは一を教えれば十を覚えた。
下地は出来上がっていた。後はこれから王都で受ける本格的な訓練を終えれば、完璧な勇者の出来上がり。
「ありがとうお姉チャン」という言葉まで期待はしていなかったけど、まさか姉認定すらされていなかったとは。
「デルフィーヌ、少しいい?」
食事を終えて、明日の朝夜明け前に出発するということで、早めに休むことにしたのだが、寝支度を終えて布団に入ろうとした私の部屋を、ルウが訪ねてきた。
「うん、いいよ」
ルウが私の部屋に来るのは随分久しぶりだった。
入ってきたルウは緊張気味だった。
「どうしたの?」
「その…さっきの…姉とは思ってないって話だけど…」
さっきはごめん、照れくさかったんだ、お姉チャンというシチュエーションを想像する。
「ちょっとあれは傷ついたかな…」
ちょっと大げさに傷ついたふりをして、俯く。
「あれは、ごめん、傷つけるつもりはなかったんだ。その…言葉を間違えたというか…」
一生懸命説明しようとして、モゴモゴと口ごもる。
体もすっかり大人になって立派になったと思っていたけど、まだまだ子どもだなぁと微笑ましい思いで、次の言葉を待つ。
「えっと、暫くは会えないから…今夜は一緒に寝ていいかな?」
「いいよいいよ…え?」
ごめんなさい。という言葉を想像して返事をしたが、聞こえてきた言葉に耳を疑った。
「え、いいんだ。じゃあ、よろしく」
「え? ちょっと…ルウ」
私が戸惑っている間にルウは長い脚でさっと私に近づき、逞しい腕で抱き上げて私を寝台に寝かしつけた。
いきなりの二人分の体重に寝台がギシリと軋む。
仰向けになって寝台に横たわる私に、立派になったルウが覆いかぶさってきた。
「ちょ、重い…ルウ」
「弟なんかじゃない」
「え、う、うぐ」
筋肉質の大きなルウの体に押さえつけられ、状況が呑み込めないまま、いきなり唇を奪われた。
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