令嬢娼婦と仮面貴族

七夜かなた

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新婚旅行編

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「温泉は普通の体を綺麗にするために入るだけでなく、お湯に溶け出した体に良い成分により、体をより温めるだけでなく、肌質を良くしたり、何日も時間をかけて入ることで、体の痛みを和らげたりする効果がありのだったな」

アレスティスが温泉について説明する。

「そうです。良くご存知ですね。温泉に入られたことがあるのですか?」

クルミナが感心して言う。

「ルーヴェンの受け売りだ。私も実際に入るのは初めてだ」

「左様でございますか。治療の目的もあり、共同の浴場もあります。先ほども申し上げましたが、必ずというものではありません」

どうするかとメリルリースがアレスティスの方を見る。

「せっかくだ。郷に入れば郷に従えと言う。試しにこれを身につけて入るとしよう。すまないが、妻の着替えを手伝ってもらえるか? 私は自分で着替える。夕食はその後でいい。今夜は部屋に運んでくれ」

「畏まりました」

アレスティスは男性用の浴衣を受け取ると、先に浴室へと向かった。

メリルリースはプリシラとクルミナに手伝ってもらい、浴衣を身に付け三人を下がらせて、浴室へ足を踏み入れた。

扉を開けると、すぐそこは薄い板の隙間を少し空けて並べた筏のようなものが置かれていて、石の床がその先にあった。

メリルリースは、バスタブのようなものを想像していたが、実際は床よりも深い穴があって、そこにたっぷりのお湯が張られている。
浴槽は深さはあまりなさそうだが、大の大人が寝転んで手足を伸ばしてもいいくらいに広い。

手前には水瓶のような大きな壺があって、そこにもお湯が入っている。

アレスティスは既に浴衣を身に付け、その壺の前に立っていた。

こちらを向いたアレスティスを見て、メリルリースはどきりとした。

きっちり浴衣の前を合わせて身を包んでいるメリルリースと違い、アレスティスの浴衣は腰から下はきちんと合わさっているが、上半身は胸がはだけ、お腹の傷の上部分が丸見えだ。

丈も太ももの中程しかないので、たくましい足が殆ど見えている。

「そこで何をするんです?」

アレスティスが手に大きな杓のようなものを持っているのが見えて訊ねた。

「これでここからお湯を汲んで、体にかけてからあちらに入るらしい。体を洗う際もこのお湯を使うみたいだ」

それも事前に知っていたのか、アレスティスが説明する。
言ったとおり、最初は気がつかなかったが、石鹸などが入った篭がそこにあった。

「体を? でも……」

体を洗うなら、この浴衣は脱がなくてはいけない。だが、確かに体を先に洗わなければお湯が汚れてしまう。

「こっちへおいで、メリルリース。体を洗ってあげよう」

まだ眼帯をしたままのアレスティスの、緑の瞳が怪しい光を湛えている。

普段は恥ずかしがるメリルリースだったが、二人きりになると、その羞恥はどこかへ吹き飛ぶ。さらに、アレスティスの欲望を込めた瞳を見ると、まるで催眠術にかけられたかのように、大胆になる。

アレスティスに一歩ずつ近づきながら、メリルリースは紐をほどき、彼の前までくると浴衣をすとんと落として生まれたままの姿を見せた。

「アレスティスも……後で私が洗ってあげるわ」

夫の腰ひもに手を伸ばし、紐を外すと手際よく彼の着ていた浴衣を剥ぎ取る。

夫の下半身がすでに臨戦態勢であるのを見て、メリルリースの顔が紅潮する。

「相変わらず、二人になると積極的だな」

妻がどこを見ているか彼もわかっている。

うつむいたメリルリースの顎に手を持っていくと、顔を上向かせその唇に唇を重ねた。

「あなたが積極的にさせるのよ」

欲望で潤んだ目を夫に向け、その首に自分の腕を絡める。

テオドールが生まれてから、メリルリースは良き母、慈愛に満ちた聖母のようになったかと思えば、時折、躾だと言っていたずらには容赦なく息子を叱りつける。

息子を叱るのはだいたいが父親のアレスティスの役割だったが、他人や自分を傷つける可能性のあるいたずらには厳しい。

そんな新しい一面を見せてくれるメリルリースだったが、最近寝室での振る舞いおいて、妖艶さに磨きがかかってきた。

愛する人との子どもを生み、女としての自信に満ち溢れてきたせいか、今でもアレスティスは彼女の仕草ひとつひとつに心を奪われる。

見つめあい抱き合ったまま、アレスティスはお湯を掬い、肩から彼女の体に流した。

緩く上に纏めた髪から溢れたひと房が、細い首筋に張り付く。

「とっても気持ちいいわ」

お湯の心地よさか擦り付けて触れあう肌の感触か、どちらを指しているのか、豊かな胸が固いアレスティスの胸板に押し付けられ、さらに密着する。

「メリルリース……そんなにひっつかれては、体が洗えない」

抗議しながらもアレスティスの下半身がさらに固く大きくなりメリルリースの腹部にその存在を知らしめた。
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