15 / 21
15 お嬢様の頼み
しおりを挟む
「ただいま、コリンヌ」
「ぴぎゃあ!」
突然背後から抱きつかれ、私は驚いて変な声を出してしまった。
「そんなに驚いた?」
「お、お嬢様、どうして?」
抱きついたのは当然アシュリーお嬢様だけど、考え事をしていたので、気づかなった。
「今日はオリエンテーションだけだから、早く戻ってくるって言っていたでしょ?」
不思議そうにお嬢様が小首を傾げて私を見る。
「え、もうそんな時間ですか?」
時計を見るとあれから二時間が経っている。
朝見た光景について考えているうちに、すっかり時間が過ぎてしまっていた。
「さっきから名前を呼んでいたのに、コリンヌったらちっとも返事をしてくれないんだもの。どうしたの? 気分でも悪い?」
私の顔を覗き込み、額に手を当ててくる。
「だ、大丈夫です。熱はありません」
「そうみたいね」
手を動かしたお嬢様の視線が、額に注がれる。
額に付いた傷を見ているのだとわかる。
「随分薄くなりました」
「うん、でも、まだ残っている」
「こうして前髪で隠していれば大丈夫です。あの、それより、そろそろ離してくださいますか?」
最初に抱きついたまま、お嬢様は私から離れようとしない。
「二時間もコリンヌと離れていたのよ。コリンヌを補充させて」
「補充ってなんですか」
「そのままの意味よ。あ~明日から授業が始まるわ。お昼までコリンヌに会えないなんて、辛すぎるわ」
「お昼? 明日は夕方まで授業があるはずでは?」
一応お嬢様の学園でのタイムスケジュールは確認している。
明日は夕方までばっちり授業がある。
「お昼休みには戻ってくるわ。一緒に食べましょう」
「え、お昼は皆様学園で取られるので、寮の厨房は休みですよ?」
お昼休みは二時間もある。貴族の子息たちはゆったりと食事を取り、その後残りの時間は自由に過ごす。
前世から見たら、昼休みが二時間なんて考えられない。
もともと学園に通うのは社交のためでもあり、基礎課程はほぼ終了している。
そういうカリキュラムになっていて、食事も本人が希望すればコースでいただける。
「じゃあ、コリンヌが何か作っておいて。一緒に食べましょう」
「そんなことでいちいち帰ってくるのは大変でしょう?」
「そんなこと? コリンヌと一緒に食べることは、私にとって大事なことよ」
「ですが、社交のためもあるのです。私とより、他のご令嬢方と仲良くされた方がよろしいのでは?」
シナリオでは、お嬢様は触れれば切れるナイフのようにキレキレで、他の令嬢方に対しては殿下を狙うハイエナ扱いだった。
でも今のお嬢様なら、友人の一人や二人出来そうだ。
ヒロインとのエンカウントは避けたいところだけど、せっかくいい方向に変わったのだから、お嬢様にはもっと視野を広げてもらいたい。
友人が増えれば、断罪イベントが起こったとしても、誰かが助けてくれそうだ。
「コリンヌは、私が他の人と仲良くしているのを見ても平気なの?」
お嬢様は、ちょっと拗ねて頬をぷくりと膨らます。
「え、平気なのかって、私がお嬢様の交友関係に意見するなどできませんわ」
もしお嬢様がヒロインとライバルではなく、仲良く歩く道という裏ルートに発展すれば、断罪は免れる。
朝の光景を見て、それもありかもと思った。
「そういえば今朝、どなたかとお話してましたよね。何て方なのですか?」
「え?」
さりげなく、ヒロインとの出会いについて、あの時なぜ四人でいたのか探りを入れてみた。
「今朝?」
「はい。お嬢様を見送ってから、学園の生徒さんにお会いして、講堂への道を尋ねられたので教えてさしあげたんです。気になって追いかけたら、殿下とお嬢様と、もう一人赤毛の男性がいらっしゃいました」
「見ていたの?」
「はい、あ、その覗くつもりは…」
考えてみれば、物陰から盗み見たことになる。
慌てて言い訳をした。
「コリンヌ」
相変わらず私にひっついたまま、少し低めの声でお嬢様に呼ばれた。
「はい、何でしょうか」
「実はあなたに協力してほしいことがあるの」
「え、協力…ですか?」
「ええ、あなたが今朝見たという女生徒のことよ」
「え、あの方のこと…とは?」
まさか王子に近づいたのが気に入らないと、私にヒロインをいじめろとでも言うのだろうか。
「ぴぎゃあ!」
突然背後から抱きつかれ、私は驚いて変な声を出してしまった。
「そんなに驚いた?」
「お、お嬢様、どうして?」
抱きついたのは当然アシュリーお嬢様だけど、考え事をしていたので、気づかなった。
「今日はオリエンテーションだけだから、早く戻ってくるって言っていたでしょ?」
不思議そうにお嬢様が小首を傾げて私を見る。
「え、もうそんな時間ですか?」
時計を見るとあれから二時間が経っている。
朝見た光景について考えているうちに、すっかり時間が過ぎてしまっていた。
「さっきから名前を呼んでいたのに、コリンヌったらちっとも返事をしてくれないんだもの。どうしたの? 気分でも悪い?」
私の顔を覗き込み、額に手を当ててくる。
「だ、大丈夫です。熱はありません」
「そうみたいね」
手を動かしたお嬢様の視線が、額に注がれる。
額に付いた傷を見ているのだとわかる。
「随分薄くなりました」
「うん、でも、まだ残っている」
「こうして前髪で隠していれば大丈夫です。あの、それより、そろそろ離してくださいますか?」
最初に抱きついたまま、お嬢様は私から離れようとしない。
「二時間もコリンヌと離れていたのよ。コリンヌを補充させて」
「補充ってなんですか」
「そのままの意味よ。あ~明日から授業が始まるわ。お昼までコリンヌに会えないなんて、辛すぎるわ」
「お昼? 明日は夕方まで授業があるはずでは?」
一応お嬢様の学園でのタイムスケジュールは確認している。
明日は夕方までばっちり授業がある。
「お昼休みには戻ってくるわ。一緒に食べましょう」
「え、お昼は皆様学園で取られるので、寮の厨房は休みですよ?」
お昼休みは二時間もある。貴族の子息たちはゆったりと食事を取り、その後残りの時間は自由に過ごす。
前世から見たら、昼休みが二時間なんて考えられない。
もともと学園に通うのは社交のためでもあり、基礎課程はほぼ終了している。
そういうカリキュラムになっていて、食事も本人が希望すればコースでいただける。
「じゃあ、コリンヌが何か作っておいて。一緒に食べましょう」
「そんなことでいちいち帰ってくるのは大変でしょう?」
「そんなこと? コリンヌと一緒に食べることは、私にとって大事なことよ」
「ですが、社交のためもあるのです。私とより、他のご令嬢方と仲良くされた方がよろしいのでは?」
シナリオでは、お嬢様は触れれば切れるナイフのようにキレキレで、他の令嬢方に対しては殿下を狙うハイエナ扱いだった。
でも今のお嬢様なら、友人の一人や二人出来そうだ。
ヒロインとのエンカウントは避けたいところだけど、せっかくいい方向に変わったのだから、お嬢様にはもっと視野を広げてもらいたい。
友人が増えれば、断罪イベントが起こったとしても、誰かが助けてくれそうだ。
「コリンヌは、私が他の人と仲良くしているのを見ても平気なの?」
お嬢様は、ちょっと拗ねて頬をぷくりと膨らます。
「え、平気なのかって、私がお嬢様の交友関係に意見するなどできませんわ」
もしお嬢様がヒロインとライバルではなく、仲良く歩く道という裏ルートに発展すれば、断罪は免れる。
朝の光景を見て、それもありかもと思った。
「そういえば今朝、どなたかとお話してましたよね。何て方なのですか?」
「え?」
さりげなく、ヒロインとの出会いについて、あの時なぜ四人でいたのか探りを入れてみた。
「今朝?」
「はい。お嬢様を見送ってから、学園の生徒さんにお会いして、講堂への道を尋ねられたので教えてさしあげたんです。気になって追いかけたら、殿下とお嬢様と、もう一人赤毛の男性がいらっしゃいました」
「見ていたの?」
「はい、あ、その覗くつもりは…」
考えてみれば、物陰から盗み見たことになる。
慌てて言い訳をした。
「コリンヌ」
相変わらず私にひっついたまま、少し低めの声でお嬢様に呼ばれた。
「はい、何でしょうか」
「実はあなたに協力してほしいことがあるの」
「え、協力…ですか?」
「ええ、あなたが今朝見たという女生徒のことよ」
「え、あの方のこと…とは?」
まさか王子に近づいたのが気に入らないと、私にヒロインをいじめろとでも言うのだろうか。
21
お気に入りに追加
371
あなたにおすすめの小説
どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~
涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!
愛されたくて悪役令嬢になりました ~前世も今もあなただけです~
miyoko
恋愛
前世で大地震に巻き込まれて、本当はおじいちゃんと一緒に天国へ行くはずだった真理。そこに天国でお仕事中?という色々と規格外の真理のおばあちゃんが現れて、真理は、おばあちゃんから素敵な恋をしてねとチャンスをもらうことに。その場所がなんと、両親が作った乙女ゲームの世界!そこには真理の大好きなアーサー様がいるのだけど、モブキャラのアーサー様の情報は少なくて、いつも悪役令嬢のそばにいるってことしか分からない。そこであえて悪役令嬢に転生することにした真理ことマリーは、十五年間そのことをすっかり忘れて悪役令嬢まっしぐら?前世では体が不自由だったせいか……健康な体を手に入れたマリー(真理)はカエルを捕まえたり、令嬢らしからぬ一面もあって……。明日はデビュタントなのに……。いい加減、思い出しなさい!しびれを切らしたおばあちゃんが・思い出させてくれたけど、間に合うのかしら……。
※初めての作品です。設定ゆるく、誤字脱字もあると思います。気にいっていただけたらポチッと投票頂けると嬉しいですm(_ _)m
王子殿下の慕う人
夕香里
恋愛
エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。
しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──?
「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」
好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。
※小説家になろうでも投稿してます
悪役令嬢?いま忙しいので後でやります
みおな
恋愛
転生したその世界は、かつて自分がゲームクリエーターとして作成した乙女ゲームの世界だった!
しかも、すべての愛を詰め込んだヒロインではなく、悪役令嬢?
私はヒロイン推しなんです。悪役令嬢?忙しいので、後にしてください。
光の王太子殿下は愛したい
葵川真衣
恋愛
王太子アドレーには、婚約者がいる。公爵令嬢のクリスティンだ。
わがままな婚約者に、アドレーは元々関心をもっていなかった。
だが、彼女はあるときを境に変わる。
アドレーはそんなクリスティンに惹かれていくのだった。しかし彼女は変わりはじめたときから、よそよそしい。
どうやら、他の少女にアドレーが惹かれると思い込んでいるようである。
目移りなどしないのに。
果たしてアドレーは、乙女ゲームの悪役令嬢に転生している婚約者を、振り向かせることができるのか……!?
ラブラブを望む王太子と、未来を恐れる悪役令嬢の攻防のラブ(?)コメディ。
☆完結しました。ありがとうございました。番外編等、不定期更新です。
村娘になった悪役令嬢
枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。
ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。
村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。
※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります)
アルファポリスのみ後日談投稿しております。
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
婚約破棄されなかった者たち
ましゅぺちーの
恋愛
とある学園にて、高位貴族の令息五人を虜にした一人の男爵令嬢がいた。
令息たちは全員が男爵令嬢に本気だったが、結局彼女が選んだのはその中で最も地位の高い第一王子だった。
第一王子は許嫁であった公爵令嬢との婚約を破棄し、男爵令嬢と結婚。
公爵令嬢は嫌がらせの罪を追及され修道院送りとなった。
一方、選ばれなかった四人は当然それぞれの婚約者と結婚することとなった。
その中の一人、侯爵令嬢のシェリルは早々に夫であるアーノルドから「愛することは無い」と宣言されてしまい……。
ヒロインがハッピーエンドを迎えたその後の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる