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11 再びの発作
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入学の一ヶ月前、お嬢様はいつもの発作を起こされた。
入学準備で忙しかったからか、家から出ることに不安を感じられたからかはわからない。
朝、いつものように起こしに行くと、寝台の中で震えておられた。
「お、お嬢様、大丈夫ですか?」
「だ、だいじょ…」
大丈夫だと言おうとされたけど、その声はいつもの可憐なお嬢様の声ではなく、ひどくガラガラしていた。声も出し辛い様子だった。
「お、おがあざま…よんで…ゴホッ、ゴホ、ゴホ」
慌てて奥様を呼びに行き、ただちにお嬢様は離れに移された。
「お、奥様、お嬢様は大丈夫なのでしょうか」
いつもは発作の時期を見計らって、先に離れに移動されるので、私にとって発作を起こした状態のお嬢様を見るのは、今回が初めてのことだった。
「大丈夫よ。そろそろ発作が起こることは、ある程度予想されていたの。少し予定より早かっただけ」
心配ではあるが、今回の発作も想定内だったらしく、少し安堵した。
「学園に入る前で良かったわ」
それは私も思った。もし、学園で私しかしなかったら、どうすればいいかわからない。
お嬢様の病気については、投薬の管理は任されているものの、発作が起こった時の対処法などは、まったく知らされていない。
「薬が新しくなるそうだから、処方に時間がかるそうなの。だから、離れから戻ってくるのは出発ギリギリになると思うわ」
いつものように十日から二週間で回復されると思っていたけど、今回は症状がいつもと違うのか、そのように告げられた。
普段お嬢様専属なので、お嬢様が離れにいる間、昼間は他の仕事をこなしていた。
ビアンカお嬢様も、姉であるアシュリー様のことを心配されていたが、奥様がアシュリー様にかかりきりになるため、その間は奥様の実家に預けられることになっていた。
以前はビアンカ様のお世話などをして、何とか過ごしていたが、それも出来ない。
頼まれた仕事を終えて、私はアシュリー様の部屋を掃除していた。
普段から掃除はしているが、部屋にお嬢様がいる間は出来ない場所を、念入りに掃除したりして過ごした。
「早くお嬢様が元気になりますように」
夜、離れの近くまで行き、見つからないようにこっそり祈るのが、日課になっていた。
春先の夜。
長い間そうしていたせいで、冷たい夜風にブルリと震え、思わずクシュンとくしゃみが出た。
「誰?」
「きゃっ!」
生け垣の向こうから、問いかける声が聞こえて、びっくして声を出してしまった。
「そ、そちらこそ、どなたですか?」
聞こえた声は一瞬だったけど、若い男性の声に聞こえた。
離れに出入りできる人間は限られている。
旦那様たちとメイド長、それから執事長とお医者様だけだ。
その中の誰でもない人物なことはわかり、驚きが去ると、怒りがこみ上げてきた。
私が入り込めないこの生け垣の向こうにいることが許される人なのだ。
「あなたこそ、誰ですか? どうしてそこにいるのです? そこはアシュリーお嬢様が療養されている場所ですよ」
八つ当たりだと思われても仕方がないが、心配しすぎて私も平静さを失っていたのかも知れない。
少しトゲトゲした言い方をしてしまった。
「コリンヌ?」
「え?」
生け垣の向こうの男性が、なぜかわたしの名前を知っていた。
入学準備で忙しかったからか、家から出ることに不安を感じられたからかはわからない。
朝、いつものように起こしに行くと、寝台の中で震えておられた。
「お、お嬢様、大丈夫ですか?」
「だ、だいじょ…」
大丈夫だと言おうとされたけど、その声はいつもの可憐なお嬢様の声ではなく、ひどくガラガラしていた。声も出し辛い様子だった。
「お、おがあざま…よんで…ゴホッ、ゴホ、ゴホ」
慌てて奥様を呼びに行き、ただちにお嬢様は離れに移された。
「お、奥様、お嬢様は大丈夫なのでしょうか」
いつもは発作の時期を見計らって、先に離れに移動されるので、私にとって発作を起こした状態のお嬢様を見るのは、今回が初めてのことだった。
「大丈夫よ。そろそろ発作が起こることは、ある程度予想されていたの。少し予定より早かっただけ」
心配ではあるが、今回の発作も想定内だったらしく、少し安堵した。
「学園に入る前で良かったわ」
それは私も思った。もし、学園で私しかしなかったら、どうすればいいかわからない。
お嬢様の病気については、投薬の管理は任されているものの、発作が起こった時の対処法などは、まったく知らされていない。
「薬が新しくなるそうだから、処方に時間がかるそうなの。だから、離れから戻ってくるのは出発ギリギリになると思うわ」
いつものように十日から二週間で回復されると思っていたけど、今回は症状がいつもと違うのか、そのように告げられた。
普段お嬢様専属なので、お嬢様が離れにいる間、昼間は他の仕事をこなしていた。
ビアンカお嬢様も、姉であるアシュリー様のことを心配されていたが、奥様がアシュリー様にかかりきりになるため、その間は奥様の実家に預けられることになっていた。
以前はビアンカ様のお世話などをして、何とか過ごしていたが、それも出来ない。
頼まれた仕事を終えて、私はアシュリー様の部屋を掃除していた。
普段から掃除はしているが、部屋にお嬢様がいる間は出来ない場所を、念入りに掃除したりして過ごした。
「早くお嬢様が元気になりますように」
夜、離れの近くまで行き、見つからないようにこっそり祈るのが、日課になっていた。
春先の夜。
長い間そうしていたせいで、冷たい夜風にブルリと震え、思わずクシュンとくしゃみが出た。
「誰?」
「きゃっ!」
生け垣の向こうから、問いかける声が聞こえて、びっくして声を出してしまった。
「そ、そちらこそ、どなたですか?」
聞こえた声は一瞬だったけど、若い男性の声に聞こえた。
離れに出入りできる人間は限られている。
旦那様たちとメイド長、それから執事長とお医者様だけだ。
その中の誰でもない人物なことはわかり、驚きが去ると、怒りがこみ上げてきた。
私が入り込めないこの生け垣の向こうにいることが許される人なのだ。
「あなたこそ、誰ですか? どうしてそこにいるのです? そこはアシュリーお嬢様が療養されている場所ですよ」
八つ当たりだと思われても仕方がないが、心配しすぎて私も平静さを失っていたのかも知れない。
少しトゲトゲした言い方をしてしまった。
「コリンヌ?」
「え?」
生け垣の向こうの男性が、なぜかわたしの名前を知っていた。
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