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7 お茶会とお嬢様の病
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「お嬢様お似合いです。今日集まるご令嬢の中で一番きれいです」
銀糸の髪を緩く巻き、薄いブルーに花柄の模様のドレスに身を包んだアシュリー様はゲームのスチルそのままだと思いながら誉める。
この日のために誂えたドレスを着て、女の子なら喜ぶべきなのに、なぜかお嬢様は不機嫌だ。
「嬉しくない……どうしてコリンヌは一緒じゃないの」
私は五歳になって少しは背が伸びたが、お嬢様の方がその倍は成長していた。
「私は使用人ですから、王宮には付き添えません。奥様がついていかれるのですからいいではありませんか。ビアンカ様とお帰りをお待ちしています」
奥様は産後の日達が悪く、ビアンカ様を出産してから半年は寝たり起きたりを繰り返していた。その間、ビアンカ様は乳母や私が面倒を見て、私が構いすぎるとアシュリー様が嫉妬するくらいだった。
「行きたくない。王子なんて興味ない」
「お嬢様はトレディール公爵家のご息女です。貴族としての義務があるんです」
「そんなの知らない。行きたくないったら行きたくない」
今日は一段と我が儘ぶりがひどい。最近はお嬢様が我が儘を言うと皆が私を当てにするようになっていた。嫌いな食べ物も苦手なレッスンも私が宥めると大抵はぶつぶつ言いながらでも言うことを聞いてくれる。
「そんなだだをこねるお嬢様は嫌いです。もうアシュリーとも呼びません」
「それはだめ!」
「なら、大人しく王宮に行って下さい。新しいお友達ができるかもしれません」
王子との婚約については出来れば避けたいところだが、私には止める権利も力もない。もし婚約となったらなったでお嬢様の性格を矯正するとか何とかしなければならない。
お友達が出来たら私にべったりも少しはなくなるかもしれない。
お嬢様は嫌いではないし、その分公爵夫妻も周りも良くしてくれるが、私が将来ここを出ていくことになったら困るのはお嬢様だ。
一年経って少しは熱が冷めると思ったが、そうはならなかった。
「お友達なんて……コリンヌだけでいい」
初めての公式な場所への出席で少しナーバスになっているのだろう。さっきの勢いはなくなったが、まだ行きたくなさそうだ。
「お嬢様、お帰りをお待ちしています。そして帰ったら今日あった楽しいことをいっぱい聞かせてくれることを期待しています。楽しい思い出をいっぱい持って帰ってきてください」
「じゃあ、今日は一緒に私のベッドで寝ましょうよ。そうすればいっぱいお話ができるわ」
「奥様のお許しがあれば……」
「馬車の中でお話してみる。きっとお許しくださるわよ」
多分奥様はお許しにならないだろう。ここに来た頃は頻繁にお嬢様の望むままに同じベッドで寝ることもあったが、最近奥様はいい顔をなされない。
そこはやはり使用人とお嬢様とが近付き過ぎると思われているのだろう。
二人が乗った馬車を見送り、ビアンカ様と遊んだりしながら、この先の展開についてイベントを思い出せる限り思い浮かべる。
お茶会で天使のような容姿に完璧なマナーで挨拶をしたお嬢様に王妃様が気に入り、その日の内に王室から王子の婚約者にどうかと打診が入るはずだ。
それから何度かお嬢様は王宮に呼ばれ、正式にお妃教育が始まるのが十歳頃。
お妃教育が始まるにつれ、お嬢様は優秀な成績を修めていくのとは反対に王子と、すれ違って行く。
そしてその隙間にヒロインが入り込むのだ。
もし本当にお嬢様が王子の婚約者となった暁には、できるだけ王子との時間を作るように説得するべきかも知れない。
けれど事態はゲームのシナリオどおりに運ばなかった。
お嬢様はお茶会の途中で倒れられ、ぐったりとした状態で王宮から旦那様と奥様と共に帰って来た。
銀糸の髪を緩く巻き、薄いブルーに花柄の模様のドレスに身を包んだアシュリー様はゲームのスチルそのままだと思いながら誉める。
この日のために誂えたドレスを着て、女の子なら喜ぶべきなのに、なぜかお嬢様は不機嫌だ。
「嬉しくない……どうしてコリンヌは一緒じゃないの」
私は五歳になって少しは背が伸びたが、お嬢様の方がその倍は成長していた。
「私は使用人ですから、王宮には付き添えません。奥様がついていかれるのですからいいではありませんか。ビアンカ様とお帰りをお待ちしています」
奥様は産後の日達が悪く、ビアンカ様を出産してから半年は寝たり起きたりを繰り返していた。その間、ビアンカ様は乳母や私が面倒を見て、私が構いすぎるとアシュリー様が嫉妬するくらいだった。
「行きたくない。王子なんて興味ない」
「お嬢様はトレディール公爵家のご息女です。貴族としての義務があるんです」
「そんなの知らない。行きたくないったら行きたくない」
今日は一段と我が儘ぶりがひどい。最近はお嬢様が我が儘を言うと皆が私を当てにするようになっていた。嫌いな食べ物も苦手なレッスンも私が宥めると大抵はぶつぶつ言いながらでも言うことを聞いてくれる。
「そんなだだをこねるお嬢様は嫌いです。もうアシュリーとも呼びません」
「それはだめ!」
「なら、大人しく王宮に行って下さい。新しいお友達ができるかもしれません」
王子との婚約については出来れば避けたいところだが、私には止める権利も力もない。もし婚約となったらなったでお嬢様の性格を矯正するとか何とかしなければならない。
お友達が出来たら私にべったりも少しはなくなるかもしれない。
お嬢様は嫌いではないし、その分公爵夫妻も周りも良くしてくれるが、私が将来ここを出ていくことになったら困るのはお嬢様だ。
一年経って少しは熱が冷めると思ったが、そうはならなかった。
「お友達なんて……コリンヌだけでいい」
初めての公式な場所への出席で少しナーバスになっているのだろう。さっきの勢いはなくなったが、まだ行きたくなさそうだ。
「お嬢様、お帰りをお待ちしています。そして帰ったら今日あった楽しいことをいっぱい聞かせてくれることを期待しています。楽しい思い出をいっぱい持って帰ってきてください」
「じゃあ、今日は一緒に私のベッドで寝ましょうよ。そうすればいっぱいお話ができるわ」
「奥様のお許しがあれば……」
「馬車の中でお話してみる。きっとお許しくださるわよ」
多分奥様はお許しにならないだろう。ここに来た頃は頻繁にお嬢様の望むままに同じベッドで寝ることもあったが、最近奥様はいい顔をなされない。
そこはやはり使用人とお嬢様とが近付き過ぎると思われているのだろう。
二人が乗った馬車を見送り、ビアンカ様と遊んだりしながら、この先の展開についてイベントを思い出せる限り思い浮かべる。
お茶会で天使のような容姿に完璧なマナーで挨拶をしたお嬢様に王妃様が気に入り、その日の内に王室から王子の婚約者にどうかと打診が入るはずだ。
それから何度かお嬢様は王宮に呼ばれ、正式にお妃教育が始まるのが十歳頃。
お妃教育が始まるにつれ、お嬢様は優秀な成績を修めていくのとは反対に王子と、すれ違って行く。
そしてその隙間にヒロインが入り込むのだ。
もし本当にお嬢様が王子の婚約者となった暁には、できるだけ王子との時間を作るように説得するべきかも知れない。
けれど事態はゲームのシナリオどおりに運ばなかった。
お嬢様はお茶会の途中で倒れられ、ぐったりとした状態で王宮から旦那様と奥様と共に帰って来た。
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