私が仕えるお嬢様は乙女ゲームの悪役令嬢です

七夜かなた

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5 責任取ります

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目が覚めると、側にアシュリー様が寝ていて、私はまたもや彼女のベッドにいた。

「コリンヌ、気がついたのね」

目を開けてボーっとしていると、メイド長が傍らにいて顔を覗き込む。

「痛い」

額が焼けつくようでそこに手をやると、包帯が巻かれていた。

「額を切ったの。傷は残るそうよ」

気の毒そうにメイド長が言う。

「奥様は?」
「体の方は大丈夫よ。お腹の赤ちゃんにも問題はないわ。あなたが下敷きになってくれたお陰ね。あなたが目覚めないから少し気が動転されたので大事を取って休まれているわ」
「良かった……ここ……お嬢様のお部屋」

ぐっすりと寝ているお嬢様の顔を見下ろす。
奥様と赤ちゃんが無事と聞いて安堵する。二人が無事ならお嬢様もゲームでのようにはならないかも知れない。

「どうしてもあなたをこの部屋で休ませるとおっしゃって、あなたが目覚めたら一番に顔が見えるようにって……さすがにお疲れになったみたい」
「ん………」

彼女を起こさないように話していたが、お嬢様が身動ぎして目を覚ました。

「コリンヌ!目が覚めたの!」

私と目が合って彼女の瞳が見開き、私に抱きついてきた。

「お、お嬢様」

「良かったぁ……このまま目が覚めなかったらどうしようかと……」

わんわんと彼女が泣き出した。

「お嬢様……あまりきつく抱きついたら」

メイド長が注意するが、彼女はなかなか泣き止まない。

「取りあえず、私は旦那様たちにあなたが目が覚めたことを伝えて参りますね」

お嬢様の鳴き声が響き渡る部屋に残され、私は抱きついて泣きじゃくるお嬢様の背中をポンポンと叩く。

「お嬢様……私は大丈夫ですから、どうか泣き止んでください」

どっちが歳上かと思う。精神年齢は私が上なので、この場合は私が落ち着かないと。

エッグエッグとひきつりながらようやく腕を外してくれた。涙で顔がぐちゃぐちゃだが、さすが美少女。少しも見苦しくないどころか、泣き顔も完璧。

「……から」
「はい?」

泣いたせいでしゃくりながら何か言っている。

「い……め……をみるから」
「落ち着いてください。深呼吸しましょう」

着ていた寝間着の袖で涙を拭い、深呼吸するよう促す。

「コリンヌ、目が覚めたのね」
「良かったコリンヌ……三日も目が覚めなかったから心配したのだ」

そこへ旦那様に支えなれながら奥様がやってきた。

「え、三日も」

そんなに長い間寝込んでいたとは知らなかった。

「旦那様、奥様、心配をお掛けして申し訳ありませんでした」

「何を言っている。謝る必要はない。こちらが礼を言いたいくらいだ」
「そうよ、あなたがクッションになってくれたお陰で私は何ともなかったのだから」
「でも寝込まれたと聞きました」
「あなたに何かあったらと心配して大事を取っただけよ」
「奥様と赤ちゃんに何もなくてよかったです」

二人が無事ならお嬢様の運命も変わる。小さい時に母と娘を亡くし父親に疎まれて育ったお嬢様の運命が変われば婚約者である第二王子との婚約破棄騒動も変わるのではないだろうか。
それは私の将来にも関わってくることだ。

そんな自分のためにやったことだから皆に感謝されることではない。

「お父様、お母様、私、一生コリンヌの面倒を見ます」

私とお二人の間に割って入ってお嬢様が宣言する。

「一生は……」

成人すればここを出ていく可能性もあるし、処刑を免れるなら私も恋愛して結婚もしたい。

「一生は無理だよ。アシュリー……彼女は成人すれば何をするか選ぶ権利がある。ここで一生働くことを強制はできないよ」

公爵もそれをわかってお嬢様を諭す。

「でも、お医者が言っていたわ。顔の傷が残るだろうって……お父様たちも顔に傷があっては結婚は難しいだろうって」
「アシュリー」

慌てて公爵が咎める。
確かに顔に傷があるのはマイナスポイントだろう。それでメイド長を暗い顔をしていたのか。

「それなら一生私の側にいればいいわ。私がお嫁さんにもらってあげるから」

幼くてお嫁さんの意味をわかっていないのだろう。女同士で結婚などできない。

「アシュリー、あなたがコリンヌをお嫁さんにすることはできないわ」
「どうして?お嫁さんにしたらずっと側に……私、コリンヌを大好きだもの」
「そのことは今決めなくてもいい。大きくなってからでも遅くないよ」
「そうね」

まあ、二人の言うことももっともだ。大きくなれば女同士の結婚などできないとわかるのだし、今はそっとしておけばいい。

「だが、あなたが独り立ちするときにはできるだけのことはしよう。いや、させて欲しい。それだけのことをしてくれたのだから」

「いえ、どうかお気になさらず、自分のためにしたことですから。でも、何かあればご相談します」

本当に自分のためにやったことだが、あまりここで遠慮しても公爵たちも困るだろう。

「あの、そろそろ自分の部屋に戻らせて」
「だめ、コリンヌは私とここで寝るのよ。いいでしょ、お父様お母様」

がっしりと私に抱きつき、お嬢様が主張する。

「仕方ない……今夜までだよ」

娘に甘い二人は彼女の我が儘だとは思いながら、私に申し訳ないという顔をした。

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