私が仕えるお嬢様は乙女ゲームの悪役令嬢です

七夜かなた

文字の大きさ
上 下
3 / 21

3 お嬢様の病気

しおりを挟む
それから私が起きたか様子を見に来たメイド長に連れられて、私は帰宅した公爵に改めて挨拶に向かった。
修道院長は私が気を失っている間に帰ってしまっていた。

「あの……アシュ……お嬢様……」
「お父様のところに行くのでしょ?私もご挨拶したいから一緒に行きましょう」

メイド長の後に続いて公爵夫妻の待つ部屋に行くのを、なぜかアシュリーもついてくる。
父親にお帰りなさいと言うためだとわかるが、なぜか彼女は私の手を握って歩いている。

「だって私たち仲良しでしょ」

六歳とは言え公爵令嬢の彼女の行動に口出しできないのか、メイド長も特に注意しない。使用人としては仕えるお嬢様と手を繋ぐとかはいささかどうなのかと思うが、六歳と四歳のすることなので黙認しているのかもしれない。

「やあ、君がコリンヌだね」

私を待っていた公爵は優しそうな笑顔で、娘と手を繋いで入ってきた新しく来た使用人の娘を出迎えた。

「こ、公爵様。お初にお目にかかります。コリンヌと申します。どうぞよろしくお願いいたします」

すらりとした栗色の髪とハシバミ色の瞳をした公爵は、しかし夫人と並ぶと少し華やかさにかけていた。アシュリーの容姿は明らかに母親譲りだった。

「しっかりした挨拶ができるのだな。四歳と聞いていたが、利発な子のようだ。これなら二つ上のアシュリーともうまくやっていけそうだな」

そりゃあ一応精神年齢は十六歳だし、これくらいは言える。

「すっかりアシュリーはあなたが気に入ったみたいだわ」

「はい、お父様お母様……私はコリンヌが気に入りました」

公爵に挨拶する間も彼女は私の手を離さないので、公爵夫妻の手前、手を振り払おうとするのだが、ますます指を絡めて強く握ってくるので、目で訴えるものの、彼女はにっこりと笑うだけでまったく伝わらない。

「あの奥様は今何ヵ月なのですか?」

振り払うのは諦めて気になることを訊いてみた。
階段から落ちたのは子どもを産む前。その間を乗りきれば、彼女もお腹の子も助かるはずだ。

「八ヶ月目に入ったところなのよ」

ということは出産まで後二ヶ月……それまでは気を付けないといけない。

「ねえ、ご挨拶はもういい?コリンヌに邸を案内してあげてもいい?」
「ああ、もうすぐ夕食の時間だからそれは明日にしなさい」
「ええ~」

公爵に言われて明らかに不満そうにアシュリーが口を尖らせる。

「アシュリーはもうすぐお姉さんなんだから我が儘言わないの。ほらお薬も飲まないと」
「あれ苦いの……飲みたくない」

薬と聞いて驚いた。アシュリーが病弱だという設定だっただろうか。

 「どこか……お悪いのですか?」

言ってから訊いて良かったのかと不安げに見渡すと、夫妻は黙って頷く。

「薬さえ毎日きちんと飲んでいれば大丈夫なの。あなたもこれからアシュリーの側にいることになるのだから、覚えておいてね」
「はい」

毎日欠かさず飲まなければいけない薬があると聞いて、前世の自分を思い出す。苦い薬を飲まされて何度も検査のために血を抜かれた。体力もなかった。

別のメイドが持ってきたコップを彼女の前に差し出す。

「これはこの子のために特別に調合されているの。あなたはこの子が毎日欠かさず飲んでいるか確認してね」
「は、はい」
「お母様ひどい……コリンヌに見張らせるなんて」
「お嬢様、お嬢様のためなんです。頑張って飲みましょう」

良薬口に苦しという。良く効く薬ほど苦く感じるものだ。

「じゃあ飲んだらご褒美をくれる?なら頑張れるわ」

「ご褒美?」

「それから飲んでいる間、側に座って手を握っていて」

「ええ!」

「だめ?」

こてんと首を傾げて小悪魔のような上目遣いでそう言われたら、断りたくても断れない。

「コリンヌ、アシュリーの言うとおりにしてくれないか、いくらこの子とためとは言え、苦い薬を飲ませるのは可哀想でね」
「そうよ。それでこの子が飲んでくれるなら」

「わかりました」

三人に見つめられ、名前呼びに続いて今度も断ることができなかった。
その日から彼女が薬を飲む間、側に座って手を握っていてあげるのが日課になった。

彼女が言ったご褒美とは、飲み終わった後に頭を撫で撫ですることだった。ただし、するのはアシュリーで、なぜか私の頭を撫でられた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく 公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった 足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で…… エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた 修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく…… 4/20ようやく誤字チェックが完了しました もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m いったん終了します 思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑) 平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと 気が向いたら書きますね

【完結】白い結婚をした悪役令嬢は田舎暮らしと陰謀を満喫する

ツカノ
恋愛
「こんな形での君との婚姻は望んでなかった」と、私は初夜の夜に旦那様になる方に告げられた。 卒業パーティーで婚約者の最愛を虐げた悪役令嬢として予定通り断罪された挙げ句に、その罰としてなぜか元婚約者と目と髪の色以外はそっくりな男と『白い結婚』をさせられてしまった私は思う。 それにしても、旦那様。あなたはいったいどこの誰ですか? 陰謀と事件混みのご都合主義なふんわり設定です。

乙女ゲームの正しい進め方

みおな
恋愛
 乙女ゲームの世界に転生しました。 目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。  私はこの乙女ゲームが大好きでした。 心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。  だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。  彼らには幸せになってもらいたいですから。

罠にはめられた公爵令嬢~今度は私が報復する番です

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
ファンタジー
【私と私の家族の命を奪ったのは一体誰?】 私には婚約中の王子がいた。 ある夜のこと、内密で王子から城に呼び出されると、彼は見知らぬ女性と共に私を待ち受けていた。 そして突然告げられた一方的な婚約破棄。しかし二人の婚約は政略的なものであり、とてもでは無いが受け入れられるものではなかった。そこで婚約破棄の件は持ち帰らせてもらうことにしたその帰り道。突然馬車が襲われ、逃げる途中で私は滝に落下してしまう。 次に目覚めた場所は粗末な小屋の中で、私を助けたという青年が側にいた。そして彼の話で私は驚愕の事実を知ることになる。 目覚めた世界は10年後であり、家族は反逆罪で全員処刑されていた。更に驚くべきことに蘇った身体は全く別人の女性であった。 名前も素性も分からないこの身体で、自分と家族の命を奪った相手に必ず報復することに私は決めた――。 ※他サイトでも投稿中

悪役令嬢エリザベート物語

kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ 公爵令嬢である。 前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。 ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。 父はアフレイド・ノイズ公爵。 ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。 魔法騎士団の総団長でもある。 母はマーガレット。 隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。 兄の名前はリアム。  前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。 そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。 王太子と婚約なんてするものか。 国外追放になどなるものか。 乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。 私は人生をあきらめない。 エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。 ⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

【完結】悪役令嬢は婚約者を差し上げたい

三谷朱花
恋愛
アリス・デッセ侯爵令嬢と婚約者であるハース・マーヴィン侯爵令息の出会いは最悪だった。 そして、学園の食堂で、アリスは、「ハース様を解放して欲しい」というメルル・アーディン侯爵令嬢の言葉に、頷こうとした。

【完結】転生地味悪役令嬢は婚約者と男好きヒロイン諸共無視しまくる。

なーさ
恋愛
アイドルオタクの地味女子 水上羽月はある日推しが轢かれそうになるのを助けて死んでしまう。そのことを不憫に思った女神が「あなた、可哀想だから転生!」「え?」なんの因果か異世界に転生してしまう!転生したのは地味な公爵令嬢レフカ・エミリーだった。目が覚めると私の周りを大人が囲っていた。婚約者の第一王子も男好きヒロインも無視します!今世はうーん小説にでも生きようかな〜と思ったらあれ?あの人は前世の推しでは!?地味令嬢のエミリーが知らず知らずのうちに戦ったり溺愛されたりするお話。 本当に駄文です。そんなものでも読んでお気に入り登録していただけたら嬉しいです!

処理中です...