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領地での結婚式からひと月後、私とジーン様は首都で催す披露宴のために再び首都に足を踏み入れた。

「この度はご結婚おめでとう」
「ありがとうございます。陛下」

首都に着いてまず私たちは式を無事に終えたことを国王陛下に報告するため、王宮を訪れていた。
臣下ではあるが陛下の伯父という立場のジーン様は膝を折らず、立礼で挨拶をする。
私は膝をついて胸の前で腕を交差して頭を下げていたが、陛下が手で立つように指示をされたので、ジーン様の助けを借りて立ち上がった。

「奥方もお疲れではないか?」

ジーン様から私に視線を移すと陛下が私の体調を気遣い訊ねられた。

「ゆっくりとした旅程で参りましたので、大丈夫でございます」

今回で登城はまだ三度目なので、少し緊張気味に答えた。

「たくさんの祝いの品を送っていただきありがとうございました」

陛下からは成婚に際し、絹織物や宝飾品や、貴重な薬材などを戴いた。薬材が主に精力剤を作るために使われることの多いものだったことは、陛下なりのお遊びだったのだろう。

「ようやくビッテルバーク家に春が訪れたのだ。これが祝わずにおられようか。次はもっと目出度い報告を期待している」
「そのための努力は惜しまないとお約束はしますが、そればかりは、神の采配に身を委ねるしかありません。それほど長くはお待たせしないつもりです」

陛下が後継ぎのことを言っているのはわかったが、ジーン様が子作りのための努力をしていると言ったのが恥ずかしくて顔を下に向けた。

「まだ新婚なのだ。あまり気負わずに取り組むことだ」

「は、はい……」

「しかし、この前も思ったが、すっかり雰囲気が変わられたな。女性というものはこれほどに変わるものなのか」

陛下が感心したようにまじまじと私を見る。

「ジーン……」

どこかおかしいところがあったのかと不安になり、そわそわしてジーン様に助けを求める視線を向けた。
それに対し、ジーン様は誇らしげに頷いたかと思うと陛下の面前にも拘わらず、私の手をとり恭しく手の甲に唇を寄せた。

「心配するなセレニア、陛下は悪い意味でおっしゃったのではない」
「そうだ。誤解させてしまったようで悪かった。すっかり美しく魅力的になったと言いたかった。伯父上と並んだ姿もなかなか様になっている。お似合いの夫婦だ」
「ありがとうございます」

実はこの一年で胸の辺りが少し大きくなり、昔着ていた洋服では窮屈になってきていた。
他の女性と比べるとまだまだ大きい人はいて、比べるときりがない。
しかし、どんな大きさでもジーン様が慈しんでくれるなら、そこに拘るのはやめた。

「今日は伯父上に会わせたい人物がいる」
「会わせたい人物ですか?」
「懐かしい者だ。彼をここへ」
「畏まりました」

誰だろうと思って黙って見守っていると、陛下が側近に声をかけ、その人物を部屋に引き入れた。

現れたのは肩までの黒髪で緑色の目をした背の高い男性だった。
特徴的なのは右目に眼帯をしていることだ。

「ギレンギース」

その人物を見てジーン様は明らかに嬉しそうな顔をした。

「お久しぶりです。閣下」

ギレンギースとジーン様が呼んだ男性はジーン様の前まで来るとお辞儀をして挨拶をした。

「親善大使になったと聞いた。ここで会えるとは思っていなかった。体はもう大丈夫なのか?」

「はい。こちらの目も夜なら大丈夫ですし、他は特に問題はございません。治療中はお見舞いに来ていただきありがとうございました」
「苦楽を共にした仲だ。しかも私が何事もなく帰ってこられたのは君のお陰だ。心配するのは当たり前だろう」

現れたの男性と握手を交わしながら、ジーン様が心底嬉しそうだ。

「こちらが閣下の奥様でいらっしゃいますか?」

男性が私の方を見て訊ねる。

よく見ると彼は雰囲気がジーン様に似ている。瞳の色は違うが共に黒髪で背が高く、眼帯があってもかなりの男前だ。

「彼はアレスティス・ギレンギース。魔獣討伐の仲間で、将軍を勤めたことがある。彼が身を呈してくれたお陰で、私は小さなかすり傷だけで帰ってくることができた」
「セレニア…ド……セレニアです」

思わずドリフォルトと名乗りかけて思いとどまり、名前だけを告げた。

「ジーン様がお世話になりました」

「そのようにおっしゃらないでください。尊敬する閣下を御守りできて光栄でございます」

彼は柔らかく微笑んだ。眼帯があっても男前だと思ったが、それがあることで何だか怪しい魅力を醸し出していると思った。ジーン様以外でこんなにときめくのは初めてだった。



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