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王宮での新年の祝賀で、再会したティアナは更に美しくなっていた。

ビッテルバーク辺境伯として背負わなくてはならない責務。自分が生を受けた時には、いずれ自分の代で魔獣討伐の大遠征が行われることが確実視されていた。

辺境伯を継ぐ者として学問を修めるべく首都の王立学園へ入学してから、彼女と再会した。

彼女の母と自分の母が姉妹だったこともあり、彼女の存在は知っていたが、彼女の生まれ故郷、つまり叔母の嫁ぎ先がビッテルバーク辺境伯領とは首都を挟んで対極にあったため、直に顔を会わせるのは小さい頃に数回程度だった。

鮮やかな色彩を持つ美しい従姉妹に思春期の自分はすっかり魅了された。

デイリー侯爵家には彼女ともう一人まだ小さい弟がいた。いずれは彼女はどこかに嫁ぎ、侯爵家を弟が継ぐ。
当たり前のように決まっていた。

だから当然彼女は自分の所に嫁いでくれるものと思っていた。

だがそれは自分の早合点だった。

彼女は自分が異性からどう見られているか理解し、自分の価値をわかっていた。

「ジーン……あなたは素敵だけど、あなたとは結婚できないわ。私はいつも傍にいて私を大事にしてくれる人でなくてはいやなの。あなたはいずれ魔獣討伐に行く。その間私に一人であの辺境の土地で待っていろと言うの?」

ビッテルバーク辺境伯家の跡継ぎとしての身分を棄てるつもりも逃げるつもりもない自分に取って、どちらを選ぶかは一目瞭然だった。

陛下から彼女が近く結婚すると聞き、その相手と共に宴に現れた彼女を見ても、かつての恋心は芽生えることはなかった。

もしあの時彼女が自分との結婚を承諾してくれたとしても、いずれ破綻していたかも知れない。

あれで良かったと思っていた。

デイリー侯爵家の領地はビッテルバーク家の領地と違い、歴史的建築物が多い観光地として有名な場所で、とても賑やかなところだった。

そういう土地で育った彼女も賑やかな場所が好きで、自然溢れると言えば聞こえはいいが、素朴な我が領地で満足できるとは思えなかった。

そんな彼女と従姉妹でもあるためいくらか会話を交わしただけだったが、まさかそういう自体になろうとは思ってもみなかった。

陛下からの手紙にはこちらへ来ることを無理に反対することも出来ないため、周りも認めざるを得なかったらしいが、節度ある態度で対応してくれるようにとあった。

万が一にも彼女の結婚が破談になることのないように。

男性から称賛を得ることが当たり前だと思っているティアナは、今でも私が彼女に気持ちがあると思っている。

彼女が少し微笑むだけで、簡単に私が夢中になるとでも思っているのだろうか。

君に対する気持ちは既にないと口で言い、冷たくするのは簡単だが、果たしてそれで彼女は納得してくれるだろうか。

しかし従姉妹でもあり、それなりの地位にある彼女を全くもてなさないわけにもいかない。

どうすべきか考えながら、宴が始まった。

その気もないのに親戚から結婚が明らかに決まっているかのように言われ、対応に困っているセレニアを見て助けてやりたいと手を差し伸べようとして、ふと彼女の問題と自分の差し迫った問題を解決する方法が頭に浮かんだ。

彼女との時間は思った以上に楽しかった。

尊敬するサミュエル・ドリフォルトの孫というだけでなく、その経営手腕や邸を切り盛りする能力には感心する。

控え目で決して自分から売り込もうとせず、彼女と共に過ごす時間なら楽しいだろうと思った。

確かに彼女の言うように、結婚を迫る親戚から遠ざけるなら、クリオやナサニエルと一時的にでも婚約の真似事をさせても良かった。
そのために彼らを呼んだのだから。

なのに思わず自分との結婚を持ち出してしまった。

それはティアナを牽制するためでもある。だからセレニアに正直に打ち明けた。

彼女はこれをあくまでも取引であると考えている。そう取られても仕方ない。そのように持ちかけたのは自分だし、大勢の前であそこまで公言しては彼女も立場上、断れないことはわかっていた。

なのに契約という言葉が彼女の口から発せられた時、なぜか腹が立った。

自分は彼女となら尊敬し合えるいい夫婦になれると思っているのに、彼女はこれを事業としてしか見ていない。

何の契約書だと言うのだ。貴族同士の結婚では時折婚前契約というものを結ぶ。

互いの財産や跡継ぎについてなど、将来揉めそうな懸念について予め話し合いをしておくのだ。そこには結婚が破綻する前提の考えがある。

彼女がすでに婚約を結ぶ前からそのことを想定しているのだと考えると、なぜか不愉快な思いがした。

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