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翌日、ナサニエルさんとクリオさんとジーン様までついてきた。
「元気になったと聞いたので、本当かどうか確認しに来た」
正直どんな顔をして会えばいいかわからなかった。
「ご心配をおかけしました」
ちらりとジーン様の方に視線を向けるが、まともに顔を見ることが出来ず、ナサニエルさんの方に顔を向ける。
「まずはお茶を……話はそれからでもよろしいでしょうか」
「是非そうしてください。閣下があなたの煎れたお茶が大変美味しいと絶賛されていたので、楽しみにしておりました」
「そんな風に言っていただいて、身に余る思いですが、そんなに期待しないでください」
ジーン様が私の煎れたお茶を気に入ってくれているのはわかっていたが、あまり期待されると緊張してしまう。
「ベラーシュさんも、こちらに座って一緒にどうぞ」
扉の前で立つ彼に声をかけ、自分の隣に座れるよう動いた。
一人掛けの椅子にジーン様が座り、その両脇の長椅子の一方にクリオさんとナサニエルさん、反対側に私が座っていた。ジーン様は私の隣に座りたそうだったが、この中で一番身分の高いのはジーン様だからそこは譲れなかった。
「うまい!話に聞いていましたが、それ以上です」
「ナサニエルの言うとおりですね。これは飲む価値がある。普通に煎れても美味しいですが、お上手ですね」
「気に入ってもらえて良かったです」
二人が絶賛してくれてほっとした。ベラーシュさんは言葉がまだ慣れていないので、東華国の言葉で何か言うか、黙って飲むことが多かった。
「これが飲みたかった」
ジーン様がひと口ひと口を味わいながら、心から美味しそうに飲む。
「講習会もされていると聞きました。この辺りの女性たちの花嫁修行のひとつになっているとか」
「はい。祖父が亡くなって暫く開催していなかったのですが、閣下が戻られてから開催して欲しいう要望が多くなり、この前久しぶりに開きました。うちの茶葉を閣下が好まれているということもありますし、皆、ジーン様の花嫁選びに一役買いたいと思っていたようです」
「それももう必要ないことだな」
「そ、そうですね……」
あれから寝込んでいたので、世間が私とジーン様とのことについてどう言っているのか直接聞くことはなかった。使用人たちからは色々と噂は聞いていた。あの場にいなかった人達はそれが本当かどうか確認してきたそうだ。
「これなら父も取引に納得してくれるでしょう。これまではどのように首都へ出荷されていたのですか?」
「昔からこの辺りに行商に来ていた人に卸しておりました。でもその人はあちこち周りながら荷を運ぶので、時間も経費も掛かっていました」
「そうですね。保存状態も心配ですし、直接運んだ方が少しは安く値段を設定できますし、それでもこれくらいの利益は見込めるのではないでしょうか」
「そんなに!」
カーサスさんの提示した月の売上予想額を見て声を上げた。これまでの倍近くの利益が見込める。
「出荷量はあまり増やす必要はないかと思います。希少価値を高めるためにもなかなか手に入りにくいものとして売り出すつもりです」
「そんな売り方で大丈夫なのでしょうか」
「このお茶なら…あと、いくつかお試しで出せる小分けも作って売りましょう」
カーサスさんとの交渉に私はすっかり夢中になってしまった。
「すいません、退屈ではなかったですか?」
黙って私たちのやり取りを聞いていたジーン様たちに訊ねた。
「気にするな。内容がわからないわけではないから。逆に感心した」
「ありがとう……ございます」
素直に誉められて照れてしまった。
「私もいい取引が出来ました。明日の朝早くに首都へ戻りたいと思います。もうすぐ新茶の季節ですからね。茶葉を詰める袋の大きさや外装のデザインも検討しなくてはいけませんし、時間がありません」
「忙しくなるな。体だけは壊すなよ」
「はい。大丈夫です」
「熱を出したばかりで説得力がないな 」
「………ごもっともです」
「メリッサがビッテルバーク家の家内を取り仕切ることについて、君に色々教えたいと言っている。その上新しい商売の準備やこの邸のことなど、これまでの忙しさの倍どころではないぞ」
熱を出して寝込んだばかりの私が大丈夫だと言っても信用がないかも知れないが、そこは信じて貰わなければ、何も進まない。
それにビッテルバーク家の花嫁修行など、そのうち必要がなくなる。仮の婚約なのだから。
でもカーサスさんたちの前ではそれも言えない。
「無茶はしません」
「ご心配なさらずとも、軌道に乗ればこちらからも人手を手配することもできます。ご成婚の頃には落ち着いているでしょう」
「それならいいが」
「あの、私はこれで失礼してよろしいでしょうか。書類をまとめて荷造りもしなくてはなりませんし、なるべく早く取り掛かりたいと思います。クリオはどうしますか?私と一緒に戻りますか?」
「私はもう少しこちらに居ます。次の仕事を始めるまでまだ日がありますから」
「クリオは王宮の医学科の研究室に入るのだったな」
「はい、討伐に参加するため断念した研究を続けたいと思います。でも、ナサニエルの荷造りを手伝いたいとは思いますので、今日はこれで失礼します。ベラーシュも一緒に戻ろう」
そう言って三人は慌ただしく帰っていき、部屋にはジーン様と私が残された。
「元気になったと聞いたので、本当かどうか確認しに来た」
正直どんな顔をして会えばいいかわからなかった。
「ご心配をおかけしました」
ちらりとジーン様の方に視線を向けるが、まともに顔を見ることが出来ず、ナサニエルさんの方に顔を向ける。
「まずはお茶を……話はそれからでもよろしいでしょうか」
「是非そうしてください。閣下があなたの煎れたお茶が大変美味しいと絶賛されていたので、楽しみにしておりました」
「そんな風に言っていただいて、身に余る思いですが、そんなに期待しないでください」
ジーン様が私の煎れたお茶を気に入ってくれているのはわかっていたが、あまり期待されると緊張してしまう。
「ベラーシュさんも、こちらに座って一緒にどうぞ」
扉の前で立つ彼に声をかけ、自分の隣に座れるよう動いた。
一人掛けの椅子にジーン様が座り、その両脇の長椅子の一方にクリオさんとナサニエルさん、反対側に私が座っていた。ジーン様は私の隣に座りたそうだったが、この中で一番身分の高いのはジーン様だからそこは譲れなかった。
「うまい!話に聞いていましたが、それ以上です」
「ナサニエルの言うとおりですね。これは飲む価値がある。普通に煎れても美味しいですが、お上手ですね」
「気に入ってもらえて良かったです」
二人が絶賛してくれてほっとした。ベラーシュさんは言葉がまだ慣れていないので、東華国の言葉で何か言うか、黙って飲むことが多かった。
「これが飲みたかった」
ジーン様がひと口ひと口を味わいながら、心から美味しそうに飲む。
「講習会もされていると聞きました。この辺りの女性たちの花嫁修行のひとつになっているとか」
「はい。祖父が亡くなって暫く開催していなかったのですが、閣下が戻られてから開催して欲しいう要望が多くなり、この前久しぶりに開きました。うちの茶葉を閣下が好まれているということもありますし、皆、ジーン様の花嫁選びに一役買いたいと思っていたようです」
「それももう必要ないことだな」
「そ、そうですね……」
あれから寝込んでいたので、世間が私とジーン様とのことについてどう言っているのか直接聞くことはなかった。使用人たちからは色々と噂は聞いていた。あの場にいなかった人達はそれが本当かどうか確認してきたそうだ。
「これなら父も取引に納得してくれるでしょう。これまではどのように首都へ出荷されていたのですか?」
「昔からこの辺りに行商に来ていた人に卸しておりました。でもその人はあちこち周りながら荷を運ぶので、時間も経費も掛かっていました」
「そうですね。保存状態も心配ですし、直接運んだ方が少しは安く値段を設定できますし、それでもこれくらいの利益は見込めるのではないでしょうか」
「そんなに!」
カーサスさんの提示した月の売上予想額を見て声を上げた。これまでの倍近くの利益が見込める。
「出荷量はあまり増やす必要はないかと思います。希少価値を高めるためにもなかなか手に入りにくいものとして売り出すつもりです」
「そんな売り方で大丈夫なのでしょうか」
「このお茶なら…あと、いくつかお試しで出せる小分けも作って売りましょう」
カーサスさんとの交渉に私はすっかり夢中になってしまった。
「すいません、退屈ではなかったですか?」
黙って私たちのやり取りを聞いていたジーン様たちに訊ねた。
「気にするな。内容がわからないわけではないから。逆に感心した」
「ありがとう……ございます」
素直に誉められて照れてしまった。
「私もいい取引が出来ました。明日の朝早くに首都へ戻りたいと思います。もうすぐ新茶の季節ですからね。茶葉を詰める袋の大きさや外装のデザインも検討しなくてはいけませんし、時間がありません」
「忙しくなるな。体だけは壊すなよ」
「はい。大丈夫です」
「熱を出したばかりで説得力がないな 」
「………ごもっともです」
「メリッサがビッテルバーク家の家内を取り仕切ることについて、君に色々教えたいと言っている。その上新しい商売の準備やこの邸のことなど、これまでの忙しさの倍どころではないぞ」
熱を出して寝込んだばかりの私が大丈夫だと言っても信用がないかも知れないが、そこは信じて貰わなければ、何も進まない。
それにビッテルバーク家の花嫁修行など、そのうち必要がなくなる。仮の婚約なのだから。
でもカーサスさんたちの前ではそれも言えない。
「無茶はしません」
「ご心配なさらずとも、軌道に乗ればこちらからも人手を手配することもできます。ご成婚の頃には落ち着いているでしょう」
「それならいいが」
「あの、私はこれで失礼してよろしいでしょうか。書類をまとめて荷造りもしなくてはなりませんし、なるべく早く取り掛かりたいと思います。クリオはどうしますか?私と一緒に戻りますか?」
「私はもう少しこちらに居ます。次の仕事を始めるまでまだ日がありますから」
「クリオは王宮の医学科の研究室に入るのだったな」
「はい、討伐に参加するため断念した研究を続けたいと思います。でも、ナサニエルの荷造りを手伝いたいとは思いますので、今日はこれで失礼します。ベラーシュも一緒に戻ろう」
そう言って三人は慌ただしく帰っていき、部屋にはジーン様と私が残された。
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