【完結:R18】女相続人と辺境伯

七夜かなた

文字の大きさ
上 下
22 / 68

21

しおりを挟む
翌日私は熱を出して寝込んだ。
寒い玄関ホールで長時間いたせいだ。
そのうえ、ジーン様との婚約や口づけと、色々許容範囲を上回る出来事が重なって、知恵熱めいたものもあったのだろう。

発熱は三日ほど続いた。その後落ちた体力を取り戻すのに四日かかり、床から起き上がったのは宴の日から一週間後のことだった。



熱が下がった頃にジーン様に頼まれたと、クリオさんが様子を見にきてくれた。
彼が医療に携わっていたからだが、少し熱が出たくらいでは滅多に医者にかからないし、この辺りのお医者様はおじいちゃん先生なので、若い男性の診察はとても照れた。

脈を取り、額に手を当てられただけで顔を赤らめる私とは逆にクリオさんは至って冷静なので、意識した自分がばかみたいだった。

「総大将……失礼…まだ討伐隊での呼び名が抜けなくて……閣下も心配されておりました。どうしてホールに長時間いたのか聞きませんが……」

「ご心配をおかけしました……」

外套も着ていなかったジーン様が風邪ひとつ引かなかったのに、私だけが引いたので二人でいたことはばれていないといいが、恥ずかしくて理由を訊かれても答えられない。

「まあ、予想はつきます」
「え!」

クリオさんがため息と共に言った。それを聞いて驚いて顔を見ると、彼は優しく微笑んでいる。

「な、なんで……どうして……何だとお思いになるのですか?まさか……ジーン様が」
「内緒です。私の勝手な憶測ですから……私はこう見えて医者の端くれですから、人の顔色を窺うのが得意なのです。そうそう、ナサニエルが君に話があると言っていた」

クリオさんがそう言いかけた時、下から騒がしい声が聞こえてきた。

「おやめください」
「うるさい、使用人は下がっていろ」

「あの声は……」

嫌な予感がして顔を曇らせる。

「セレニア!」

荒々しく扉を開けて入ってきたのはグラント叔父とカーターだった。

「なんだお前は!」

入ってくるなり二人はその場にいるクリオさんを睨み付けた。

「セレニア、この前はよくも恥をかかせてくれたな!」
「叔父さんたちこそ、なぜ許可もなく勝手に入って来たのですか!」

いきなり許可もなく入り込んできた叔父に怒鳴った。病み上がりでいつもより迫力が足りないが、怒りは伝わったと思う。

「私は親戚として寝込んでいるお前を心配して見舞いに来たのだ」
「誰も頼んでいません。それに、あなた達に来られては元気なものも病気になります。お引き取りください」
「生意気な!それが心配して来た者に対する態度か、まったく亡くなった大叔父も、大叔母もどんな躾をしたんだか……ありがとうのひと言も言えないのか」

「お祖父様たちは親切にしてもらったらお礼を言いなさいと、ちゃんと教えてくれています。我が物顔で人の家に上がり込む礼儀知らずに対する対応についてもね」

お祖父様たちのことを悪く言われて腹が立った。

「な、何だと?この……人が下でに出ていれば付け上がりおって……可愛げもなにもないな、余計な知識ばかり身に付けおって、見てくれが恵まれていない上に、口ばかり回るお前のような女が一番最悪だ。なぜお前と結婚するなどと辺境伯も仰ったんだ。どうせ一時の気の迷いか何かだろう」

「何の権利があってそのようにご令嬢を侮辱するようなことを仰るのですか」

私が反論する前にクリオさんが叔父に食って掛かった。

「黙れ、どこのどいつか知らんが、お前こそなんだ!庇護者のいない独身の娘を親族が後見するのは当たり前ではないか」
「そうだ!父上の言うとおりだ!」

「私はそんなこと頼んでおりません。それに、私は既に成人しております。誰の庇護も必要としていません!帰ってください」
「そんなことあるか!女には無理だと言っているだろう」
「病み上がりの者にその態度はなんですか!」

クリオさんが一歩前に進み出て恫喝する。
医者とは言っても背が高く、体もそれなりに鍛えているのがわかる。そんな彼に詰め寄られ、いつかのジーン様に威圧されたのと同じように二人は後ずさった。

「私はクリオ・ロータフと言い、ビッテルバーク家の客です。魔獣討伐の際には閣下の部下でした。ちなみに父は伯爵で、首都で近衛武官として勤務しております」

「は、伯爵……」

彼の身分を知って二人は分が悪いと思ったのか腰が引けて動揺したのがわかった。



しおりを挟む
感想 35

あなたにおすすめの小説

密室に二人閉じ込められたら?

水瀬かずか
恋愛
気がつけば会社の倉庫に閉じ込められていました。明日会社に人 が来るまで凍える倉庫で一晩過ごすしかない。一緒にいるのは営業 のエースといわれている強面の先輩。怯える私に「こっちへ来い」 と先輩が声をかけてきて……?

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】

Lynx🐈‍⬛
恋愛
 ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。  それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。  14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。 皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。 この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。 ※Hシーンは終盤しかありません。 ※この話は4部作で予定しています。 【私が欲しいのはこの皇子】 【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】 【放浪の花嫁】 本編は99話迄です。 番外編1話アリ。 ※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。

王宮医務室にお休みはありません。~休日出勤に疲れていたら、結婚前提のお付き合いを希望していたらしい騎士さまとデートをすることになりました。~

石河 翠
恋愛
王宮の医務室に勤める主人公。彼女は、連続する遅番と休日出勤に疲れはてていた。そんなある日、彼女はひそかに片思いをしていた騎士ウィリアムから夕食に誘われる。 食事に向かう途中、彼女は憧れていたお菓子「マリトッツォ」をウィリアムと美味しく食べるのだった。 そして休日出勤の当日。なぜか、彼女は怒り心頭の男になぐりこまれる。なんと、彼女に仕事を押しつけている先輩は、父親には自分が仕事を押しつけられていると話していたらしい。 しかし、そんな先輩にも実は誰にも相談できない事情があったのだ。ピンチに陥る彼女を救ったのは、やはりウィリアム。ふたりの距離は急速に近づいて……。 何事にも真面目で一生懸命な主人公と、誠実な騎士との恋物語。 扉絵は管澤捻さまに描いていただきました。 小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

腹黒宰相との白い結婚

恋愛
大嫌いな腹黒宰相ロイドと結婚する羽目になったランメリアは、条件をつきつけた――これは白い結婚であること。代わりに側妻を娶るも愛人を作るも好きにすればいい。そう決めたはずだったのだが、なぜか、周囲が全力で溝を埋めてくる。

魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて

アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。 二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――

処理中です...