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それから先のことはよく覚えていない。ジーンクリフト様と共に皆の所へ戻り、正式に婚約したと発表をすると、会場は大いに湧き、皆が再度婚約成立の祝杯を掲げた。
次々と皆から祝いの言葉が投げ掛けられ、その間ジーン様はずっと腰に手を添えて側にいてくれた。
笑顔で祝いの言葉を掛けられれば掛けられるほど、私は罪悪感に苛まれた。
婚約はしたが、私がジーン様の花嫁になることはないだろう。
式はいつか、どうするのかと訊ねられ、一年は喪に服すこと。ジーン様は王族なので少なくとも婚約期間を一年は設けなければならないのだと話すと、是非式に呼んで欲しいと口々に頼まれた。
私のお茶会に来ていた人達も、私の背の高さをバカにしていた人達も一転して私を誉めそやし、聞いているだけで嫌気が差した。
次々と招待客を見送り、最後に残ったのはその日ビッテルバーク家に泊まることになっていた人達だけになった。クリオさんたちも用意された部屋に引き上げ、玄関ホールには私とジーン様だけになった。
「疲れただろう、すぐに馬車の手配をするから、ここに座って休んでいなさい」
入り口のホール脇でここへ来る時に羽織っていた外套をジーン様が肩に掛けてくれた。
「ありがとうございます………ジーン様?」
「今日の君は綺麗だと、言ったかな」
少し考え込むように私を見下ろしていたジーン様がいきなり言うので、驚いた。
「はい……あの衣裳が……ロザリーさんのドレスが似合っていると」
顔を赤くしてもごもごと言う。キャサリンに衣裳のお陰でましに見えるようなことを言われて、彼が言ってくれた。
「ドレスが君の良さを引き立て、今日の君はとても美しい」
「あ、ありがとうございます……でも、ここには私とジーン様しかおりませんので、そのような気遣いは不要です」
「人前でなければ、君を誉めては駄目なのか?」
「そういうわけではありませんが……気遣っていただかなくても私は大丈夫です。容姿を誉められ慣れていないので……」
背が高いだの女らしくないなどと言われたことはあっても綺麗だとかは言われ慣れないので、正直対応に困ってしまう。
「今夜皆さんが私に好意的だったのは、ジーン様の婚約者だからです。私は昨日までの私と何も変わっていません」
「君は自分のその自己評価の低さを何とかしなければいけないな。『クリスタル・ギャラリー』の主人も君のことを誉めていたではないか。アッシュブロンドの髪も、蒼天の瞳も美しい。何よりも君の美徳である知性と思慮深さが滲み出ている。堂々としていればいい。そうでなければ、彼らを黙らせることはできない」
ジーン様の言うことは正しい。今日は不意打ちで叔父たちを撤退させられたが、一晩経って冷静に考えたら、あの場を収めるための嘘ではないかと疑ってくるのではないだろうか。
「少し練習が必要かな」
「え、練習?」
どういう意味だと訊ねようとして顔を上げた時、ジーン様の唇が近づいて軽く唇に触れた。
「★☆△□」
思ってもみなかったジーン様の行動に慌てて体を引いた。
「な……ジーン様……」
「できればティアナが来る頃までは、もう少し動揺しないまでに慣れてくれているといいのだが」
心臓が早鐘を打っているのがわかる。すっかりパニックになった私とは反対に、ジーン様は冷静だ。
「ぜ……善処しますが……できれば不意打ちはやめてください。し、心臓がもちません」
「なら、もう一度してもいいか?」
不意打ちはやめてと言ったが面と向かって言われるのも恥ずかしい。それでも自分が言ったのだから覚悟するしかない。
「どう……どうぞ」
手を間接が白くなるまでぎゅっと握りしめ、目を瞑って待ち受ける。
「そんなに固くなられてはやりにくい……おや、これは何だ?」
「え?」
ジーン様が何か異変を見つけたのか、その発言に何があったかと目を見開くと、目の前に彼の顔が近づき、唇が再び重ねられた。
「ん……んふ」
今度はさっきより深く永かった。
柔らかい唇の感触に頭がくらくらして、微かにワインと彼の体臭が鼻腔を擽る。
いつの間にか彼の腕が背中に回され抱き寄せられる。
憧れ続けたジーン様との初めての口づけは、少し温度が下がり掛けた玄関ホールの寒さを忘れさせる程に私を夢中にさせた。
次々と皆から祝いの言葉が投げ掛けられ、その間ジーン様はずっと腰に手を添えて側にいてくれた。
笑顔で祝いの言葉を掛けられれば掛けられるほど、私は罪悪感に苛まれた。
婚約はしたが、私がジーン様の花嫁になることはないだろう。
式はいつか、どうするのかと訊ねられ、一年は喪に服すこと。ジーン様は王族なので少なくとも婚約期間を一年は設けなければならないのだと話すと、是非式に呼んで欲しいと口々に頼まれた。
私のお茶会に来ていた人達も、私の背の高さをバカにしていた人達も一転して私を誉めそやし、聞いているだけで嫌気が差した。
次々と招待客を見送り、最後に残ったのはその日ビッテルバーク家に泊まることになっていた人達だけになった。クリオさんたちも用意された部屋に引き上げ、玄関ホールには私とジーン様だけになった。
「疲れただろう、すぐに馬車の手配をするから、ここに座って休んでいなさい」
入り口のホール脇でここへ来る時に羽織っていた外套をジーン様が肩に掛けてくれた。
「ありがとうございます………ジーン様?」
「今日の君は綺麗だと、言ったかな」
少し考え込むように私を見下ろしていたジーン様がいきなり言うので、驚いた。
「はい……あの衣裳が……ロザリーさんのドレスが似合っていると」
顔を赤くしてもごもごと言う。キャサリンに衣裳のお陰でましに見えるようなことを言われて、彼が言ってくれた。
「ドレスが君の良さを引き立て、今日の君はとても美しい」
「あ、ありがとうございます……でも、ここには私とジーン様しかおりませんので、そのような気遣いは不要です」
「人前でなければ、君を誉めては駄目なのか?」
「そういうわけではありませんが……気遣っていただかなくても私は大丈夫です。容姿を誉められ慣れていないので……」
背が高いだの女らしくないなどと言われたことはあっても綺麗だとかは言われ慣れないので、正直対応に困ってしまう。
「今夜皆さんが私に好意的だったのは、ジーン様の婚約者だからです。私は昨日までの私と何も変わっていません」
「君は自分のその自己評価の低さを何とかしなければいけないな。『クリスタル・ギャラリー』の主人も君のことを誉めていたではないか。アッシュブロンドの髪も、蒼天の瞳も美しい。何よりも君の美徳である知性と思慮深さが滲み出ている。堂々としていればいい。そうでなければ、彼らを黙らせることはできない」
ジーン様の言うことは正しい。今日は不意打ちで叔父たちを撤退させられたが、一晩経って冷静に考えたら、あの場を収めるための嘘ではないかと疑ってくるのではないだろうか。
「少し練習が必要かな」
「え、練習?」
どういう意味だと訊ねようとして顔を上げた時、ジーン様の唇が近づいて軽く唇に触れた。
「★☆△□」
思ってもみなかったジーン様の行動に慌てて体を引いた。
「な……ジーン様……」
「できればティアナが来る頃までは、もう少し動揺しないまでに慣れてくれているといいのだが」
心臓が早鐘を打っているのがわかる。すっかりパニックになった私とは反対に、ジーン様は冷静だ。
「ぜ……善処しますが……できれば不意打ちはやめてください。し、心臓がもちません」
「なら、もう一度してもいいか?」
不意打ちはやめてと言ったが面と向かって言われるのも恥ずかしい。それでも自分が言ったのだから覚悟するしかない。
「どう……どうぞ」
手を間接が白くなるまでぎゅっと握りしめ、目を瞑って待ち受ける。
「そんなに固くなられてはやりにくい……おや、これは何だ?」
「え?」
ジーン様が何か異変を見つけたのか、その発言に何があったかと目を見開くと、目の前に彼の顔が近づき、唇が再び重ねられた。
「ん……んふ」
今度はさっきより深く永かった。
柔らかい唇の感触に頭がくらくらして、微かにワインと彼の体臭が鼻腔を擽る。
いつの間にか彼の腕が背中に回され抱き寄せられる。
憧れ続けたジーン様との初めての口づけは、少し温度が下がり掛けた玄関ホールの寒さを忘れさせる程に私を夢中にさせた。
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