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ロザリーさんがやって来たのは宴の前日だった。
「ごめんなさいね。色々と忙しくて…」
「そんな……わざわざ来ていただいてすいません。私なら先に送っていただいたもので十分でしたのに」
数日前にロザリーさんから既に一着送られていた。そちらは私が希望していたような暗い色合いの詰襟のドレスで、後ろに大きなリボンが付いていて、長いリボンの紐が歩くと風になびくようになっていた。
「ああ、あれはまあ無難なラインというか、まああなたの意見を参考に一応作ってみたんだけど、おとなしすぎるのよね」
「それでも私が着たことのないものでした。リボンやレースは、もっと小柄で愛らしい人が身に付けるものだと……」
あのドレスを見たときでも少しときめいたのに、ロザリーさんはまだあれでも納得していないようだ。
「さあ、微調整をするから、一度着てみて。後で男性の意見も聞きたいから、よろしくね」
「…………私…女の人のこと……わかりません」
いきなりロザリーさんに言われ、ベラーシュさんはぶるぶると首を振り、拒否するように両手を前に翳す。
「率直な意見が聞きたいから、それでいいのよ」
「そ……?」
「見たまま、言ってくれればいいわ」
まるで死刑宣告を受けたみたいな顔をするベラーシュさんを置いて、私はロザリーさんを寝室へ案内した。
後ろから付いてきた我が家のメイドのキンバリーがロザリーさんが首都から運んできたドレスの入った箱を下げてきて、ベッドの上に置く。
「そう言えば、ロザリーさんは何てお店で働いていらっしゃるんですか?」
首都の仕立屋についてあまり詳しくはないが、こんな短期間に首都からここまで二回も来ることができるなんて、経営者は余程理解のある人なんだろう。
「あ~、言ってませんでしたか…私が自分で経営してるんですよ。小さなお店ですけど、何人か人も雇っていてそれなりにお得意さんもいて、女一人なら何とかやっていけます」
「そうなんですか……すごいですね」
「それほどでも……あなたこそ、茶畑を持っていてあんな美味しいお茶を淹れられるなんて、すごいわ。私は食べることの方が得意で、作る方は人並みにしかできないのよ。あ、髪の毛はできれば上げて貰える?」
ロザリーさんの指示でキンバリーが髪を結ってくれる。
「明日は全て私に任せてくださいます?髪も化粧も全て衣裳に合わせて行きたいと思います」
「それは……いいのですが……ガルシアさん……このドレス」
「ロザリーと呼んでください」
「ロザリー……さん、これ…」
「とてもキレイでしょう?」
「………はい」
ドレスは全体に青を基調としていたが、薄い青から藍色へと上から下に色が変化し、上半身とスカートの裾には星のように煌めく石が縫い込まれていた。
膨らんだスカートが周りで流行っている中、そのスカートはラッパ型に広がり、前側よりも後ろに長い。
肩の辺りから後ろにひらひらとした柔らかい光沢のあるフリルの生地が繋がり、優雅に海を泳ぐ美しい魚の鰭とも蝶の羽のようとも見える。
袖もふんわりと丸みのあるものが流行っているが、このドレスの袖は肘までぴったりと腕に添い、身頃や裾にあしらった石が螺旋のようにあしらわれ、腕を動かすと入れられた切り込みから肌が見え隠れする。
「髪は高い位置でまとめて、横の髪はこんな風に下ろすのよ。こうするとあなたの長くほっそりしたうなじが際立つわ」
簡単にささっとまとめてキンバリーに説明する。
「星は夜見えるものだけど、昼でもちゃんと輝いているのよ。太陽の光が眩しくて見えないだけで。あなたの美しさも同じ。きちんとわかっている人には見えるものよ」
「でも……こんな……」
どっしりとした生地の重いドレスしか着たことがなかったのが、このドレスは驚くほど軽い。それでいてしっかり裏地が付いているので寒くはない。
「気に入らない?この生地でデザインしたドレスを考えていたのだけど、背が低いとこの色の変化を殺してしまうから、あなたくらい背が高いと映えるのよね」
私の身長が高いことを長所のようにロザリーが言う。
「この外套も作ったのよ。女性用だけど、マントみたいで格好いいでしょ」
白に銀糸で蔦のような模様の刺繍をした外套は、まるで雪の精のようだ。白っぽい私のアッシュブロンドが銀糸の輝きを受けて、光って見える。
「すごいです……私じゃないみたい」
姿見の前で鏡越しにロザリーさんを見る。
「女性はみんなキレイになれるというのが私の持論。体型に不満があるならそれを活かすか目立たなくする。自分に何が似合うかわかっている人もいれば、大半は自信がなくて気付いていないの。私の顧客には自分の魅力に気付いて自信を持ってもらいたい。それが私の店『クリスタル・ギャラリー』の信念なの」
「『クリスタル・ギャラリー』!」
それは私でも知る首都の有名なお店だった。
大きな規模の仕立屋はいくらでもあるが、店の規模は中堅だが、『クリスタル・ギャラリー』は、顧客になるには紹介がなければなれない。徹底したオーナーの拘りがあり、彼女のドレスを着ることは淑女のステータスになっている。
「そんな大袈裟な……好きなものを作っているだけよ」
そんな人に私は二着もドレスをつくってもらった。
恐縮する私にロザリーさんはあなたのことが気に入ったからだと言ってくれた。
そんな凄い人の知り合いって、メリッサさんってどんな人何だろう。
「ごめんなさいね。色々と忙しくて…」
「そんな……わざわざ来ていただいてすいません。私なら先に送っていただいたもので十分でしたのに」
数日前にロザリーさんから既に一着送られていた。そちらは私が希望していたような暗い色合いの詰襟のドレスで、後ろに大きなリボンが付いていて、長いリボンの紐が歩くと風になびくようになっていた。
「ああ、あれはまあ無難なラインというか、まああなたの意見を参考に一応作ってみたんだけど、おとなしすぎるのよね」
「それでも私が着たことのないものでした。リボンやレースは、もっと小柄で愛らしい人が身に付けるものだと……」
あのドレスを見たときでも少しときめいたのに、ロザリーさんはまだあれでも納得していないようだ。
「さあ、微調整をするから、一度着てみて。後で男性の意見も聞きたいから、よろしくね」
「…………私…女の人のこと……わかりません」
いきなりロザリーさんに言われ、ベラーシュさんはぶるぶると首を振り、拒否するように両手を前に翳す。
「率直な意見が聞きたいから、それでいいのよ」
「そ……?」
「見たまま、言ってくれればいいわ」
まるで死刑宣告を受けたみたいな顔をするベラーシュさんを置いて、私はロザリーさんを寝室へ案内した。
後ろから付いてきた我が家のメイドのキンバリーがロザリーさんが首都から運んできたドレスの入った箱を下げてきて、ベッドの上に置く。
「そう言えば、ロザリーさんは何てお店で働いていらっしゃるんですか?」
首都の仕立屋についてあまり詳しくはないが、こんな短期間に首都からここまで二回も来ることができるなんて、経営者は余程理解のある人なんだろう。
「あ~、言ってませんでしたか…私が自分で経営してるんですよ。小さなお店ですけど、何人か人も雇っていてそれなりにお得意さんもいて、女一人なら何とかやっていけます」
「そうなんですか……すごいですね」
「それほどでも……あなたこそ、茶畑を持っていてあんな美味しいお茶を淹れられるなんて、すごいわ。私は食べることの方が得意で、作る方は人並みにしかできないのよ。あ、髪の毛はできれば上げて貰える?」
ロザリーさんの指示でキンバリーが髪を結ってくれる。
「明日は全て私に任せてくださいます?髪も化粧も全て衣裳に合わせて行きたいと思います」
「それは……いいのですが……ガルシアさん……このドレス」
「ロザリーと呼んでください」
「ロザリー……さん、これ…」
「とてもキレイでしょう?」
「………はい」
ドレスは全体に青を基調としていたが、薄い青から藍色へと上から下に色が変化し、上半身とスカートの裾には星のように煌めく石が縫い込まれていた。
膨らんだスカートが周りで流行っている中、そのスカートはラッパ型に広がり、前側よりも後ろに長い。
肩の辺りから後ろにひらひらとした柔らかい光沢のあるフリルの生地が繋がり、優雅に海を泳ぐ美しい魚の鰭とも蝶の羽のようとも見える。
袖もふんわりと丸みのあるものが流行っているが、このドレスの袖は肘までぴったりと腕に添い、身頃や裾にあしらった石が螺旋のようにあしらわれ、腕を動かすと入れられた切り込みから肌が見え隠れする。
「髪は高い位置でまとめて、横の髪はこんな風に下ろすのよ。こうするとあなたの長くほっそりしたうなじが際立つわ」
簡単にささっとまとめてキンバリーに説明する。
「星は夜見えるものだけど、昼でもちゃんと輝いているのよ。太陽の光が眩しくて見えないだけで。あなたの美しさも同じ。きちんとわかっている人には見えるものよ」
「でも……こんな……」
どっしりとした生地の重いドレスしか着たことがなかったのが、このドレスは驚くほど軽い。それでいてしっかり裏地が付いているので寒くはない。
「気に入らない?この生地でデザインしたドレスを考えていたのだけど、背が低いとこの色の変化を殺してしまうから、あなたくらい背が高いと映えるのよね」
私の身長が高いことを長所のようにロザリーが言う。
「この外套も作ったのよ。女性用だけど、マントみたいで格好いいでしょ」
白に銀糸で蔦のような模様の刺繍をした外套は、まるで雪の精のようだ。白っぽい私のアッシュブロンドが銀糸の輝きを受けて、光って見える。
「すごいです……私じゃないみたい」
姿見の前で鏡越しにロザリーさんを見る。
「女性はみんなキレイになれるというのが私の持論。体型に不満があるならそれを活かすか目立たなくする。自分に何が似合うかわかっている人もいれば、大半は自信がなくて気付いていないの。私の顧客には自分の魅力に気付いて自信を持ってもらいたい。それが私の店『クリスタル・ギャラリー』の信念なの」
「『クリスタル・ギャラリー』!」
それは私でも知る首都の有名なお店だった。
大きな規模の仕立屋はいくらでもあるが、店の規模は中堅だが、『クリスタル・ギャラリー』は、顧客になるには紹介がなければなれない。徹底したオーナーの拘りがあり、彼女のドレスを着ることは淑女のステータスになっている。
「そんな大袈裟な……好きなものを作っているだけよ」
そんな人に私は二着もドレスをつくってもらった。
恐縮する私にロザリーさんはあなたのことが気に入ったからだと言ってくれた。
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