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プロローグ

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五年間の魔獣討伐を終え、一度首都を訪れた後、長年放置していた領地にようやく戻ったビッテルバーク辺境伯ジーンクリフトは、八ヶ月後、再び首都を訪れた。

王家の新年の宴に出席するためである。

自分が五年間留守にしていた領地は、優秀な家令の采配の元、特に大きな問題もなく治められていたが、領主である彼が戻ると、それはそれでやることが山積みだった。

ヴェルサス王国を統治するローデラルク王は彼とは歳が近いが、関係は叔父と甥にあたる。彼の一番上の兄の息子が現王だ。

ジーンクリフトが魔獣討伐の統括者として任を受けたのが五年前の二十五歳。今年で三十になる彼は未だに独身だった。

「叔父上はどなたか気になる女性はいらっしゃらないのですか?」

新年の宴に参加している時に国王が訊ねた。

「ここには多くのご令嬢がおります。皆、見事魔獣討伐の任を果たした叔父上の気を引こうと、先ほどからこちらを気にしております」

「私も以前は結婚のことなどまったく考えたこともなかったのだが、死と隣り合わせの生活を経験して考えなくもない」
「だったら……」
「しかし、我が領地は辺境の地だ。ここにいるご令嬢方が果たして我が領地での生活に満足するだろうか」
「住めば都と言います。これだけ大勢いるのですから、何人かはそんな女性がいるのでは?叔父上はこの国で私の次にいい男ですから」

黒髪に琥珀色の瞳。男らしい精悍な顔立ちにがっしりとした大きな体。ジーンクリフトは自分の容姿が女性にとって十分魅力的に見えることは分かっていた。

しかし逆にそれが女性に対して一歩引いた気持ちにさせていた。彼女たちが見ているのは自分の見かけと地位だけで、彼の内面を見てくれる者などいない。

貴族同士の結婚は大抵が家同士の結びつきによるものだとわかっているが、遠く離れた彼の領地では殆どの者が互いの条件でなく、恋愛による結びつきが多く、それを羨ましいと思っていた。

出来れば結婚するなら少しでも好意を抱いた女性がいいと彼は思っていた。
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