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 頭ではわかっている。ここで拒まなかったら、大変なことになる。
 この男が、本気で私を狙っているわけがない。何か魂胆があるはずだ。

「本当のことを言ってください」
「本当のこと?」
「そうです。何が狙いですか?」
「狙い?」
「もう、私の言葉をオウムみたいに繰り返していないで、はっきり言ってください。お酒に酔ったのを介抱してくれたのは感謝しています。お世話になったことも。シャワーを使わせてくれたのも、着替えも、それから朝食も。でも、あなたみたいな人が」
「俺みたいな人? 俺って君にどんな風に思われているのかな」
「そ、それは……」

 面と向かって言われると、はっきり言えない。だって今日で会ったのはたった三回だ。

「あ、あなたは顔も良くて、背も高くて、女性にもてて……」
「まあ、そうだよね。それは否定しない。それから?」
「それからって……えっと、こ、こんな豪華なマンションに住んでいて、きっとお金持ちなんだろうし」
「まあ、それなりに、お金はあるかな。あ、言っておくけど、別に詐欺とか違法なことをして手に入れたものじゃないから。ちょっと投資とか、株とか、まあ色々ね」
「そ、そうなんですね」

 ホストで稼いだお金か、もしかしたら裏社会の住人かと思っていた。もちろん今の言葉は嘘で、本当は騙されているのかもしれないという可能性は残っている。
 ただ、たとえさっき彼が言ったことに嘘が混じっていたとしても、それは今はどうでも良かった。

「それで?」
「え?」
「それだけ? もっと他に俺について知っていること……もしくは、俺についての君の印象は?」
「え、えっと…」

 後は、有美さんが話してくれたことくらいしかない。

「女遊びが激しいとか、俺を巡って女の子同士が揉めて警察沙汰になったとか、そんなところかな。多分姉さん達が、そんな風に言っていたんだろうから」
「う…」

 図星だったので、何も言えなかった。

「まあ、ちょっと大袈裟だけど事実だから、否定はしないけど」
「ほ、本当なんですか?」
「誰にだって、過去はある。確かに女性に不自由したことはない。俺から何もしなくても、向こうが寄ってくるんだ。頼まれたら嫌って言えない押しに弱いんだよ俺は」
「は、はあ~」

 自慢にしか聞こえない。
 でも、だったら尚更、彼が私に構う理由がわからない。女性に不自由していないのなら、わざわざ私を構う必要は無い。

「でも、放っておけないんだよね、旭ちゃんのこと。気になっちゃって。グズグズに甘やかして、囲い込みたくなる」

 獲物を狙う獣のような目で、彼はそう言ってペロリと舌なめずりする。

「な、何ですか。意味がわからない。甘やかしたいとか、わ、私はそんなこと…」
「そう? でも、さっきから君の脈凄いことになっているよ。ドキドキしてる?」

 そう言われて、私は彼の長い指が手を擦るのを許したままでいることに気づいた。

「は、離してください! あっ!」

 慌てて彼の手を振り払おうと腕を引っ張ったら、意外にあっさり彼が手を離したので、勢い余って私は後ろに倒れそうになった。

「危ない!」

 やだ、倒れる! 
 覚悟を決めて、私は身を固くしたけで、床に倒れることはなかった。
 温かくて力強い国見さんの腕が、私を抱き留めてくれたから。
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