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どうやら私はお酒に酔うと、前後の記憶があやふやになるらしい。
恥ずかしながら、この年齢になるまで前後不覚になるほど飲んだことがなく、自分の加減がわからなかった。
しかし時間の経過とともに、朧げながら、昨夜の記憶が蘇ってきた。
私は彼と飲みに行き、たったハイボール二杯で酔い潰れてしまった。
「お酒弱いのに、あんな飲み方をしたらだめだよ。旭ちゃんが家に着くなり吐いたから、汚れた服を脱がせて洗濯している。下着姿のままでは何だから、オレのシャツを着せただけで、酔って前後不覚のところを襲う趣味はないよ。まあ、隣で寝たけど」
「ね…寝た」
やっぱり同じベッドで寝たと聞いて、自分がしたことを思い出した。
「す、すみません、わ、私…」
勘違いに平謝りする。
「大変ご迷惑を…め…イタ」
ペコペコ頭を上げ下げすると、頭痛がまた襲ってきて、クラクラした。
「完全に二日酔いだね。これ薬、飲んで」
彼から錠剤を渡され、次いで水の入ったコップを受取る。
「すみません…」
「気にしないで。『すみません』より『ありがとう』って笑顔を向けてくれる方がいいかな。オレまだ一度も旭ちゃんの笑顔見たことない。オレに見せてくれない?」
「…!!そ、それは…」
いきなり笑顔を見せろと言われても、無理な話だ。
どうして彼は、私に構おうとするんだろう。
「とにかく、シャワーでも浴びてきたら?」
「え、そ、そんな…で、でも」
「朝ごはん食べれる? あ、会社には叔父ですって言って、休むからって連絡しといたから」
「え、や、休む?」
慌ててベッドサイドの時計を見ると、既に十時を回っていた。
「体調不良だと、変に勘ぐられるし、家の都合ってことにしたけど、構わなかった?」
「あ、ありがとう…ございます」
休みの連絡どころか、理由まで気を使ってくれたことに、お礼を言った。
「頼りになる叔父さんだろ?」
なせが彼は、叔父と姪の関係が気に入っているようだ。
「さ、今日は会社も休みだし、ゆっくりしよう。ほら、ここを出て左がバスルームだから」
そう言って、彼に言われるままに、シャワーを浴びることにした。
「すご…広い」
さっきの寝室も広かったけど、脱衣場兼洗面所のここも、とても広くて豪華だ。さっき寝室からちらりと見えた外の景色から、ここが高層階のマンションだと言うことは気づいていた。
廊下も幅があって、床面積はかなりのものだ。
いわゆるタワマン。
彼は一体何者なの?
脱衣場の籠には、彼が用意してくれた着換えが置かれ、その上には使い捨てのシャンプーや化粧落としなどが置かれている。
至れり尽くせりだ。
シャワーも噂のバブル方式で、浴室暖房やジャグジーが付いていた。
「すごい。彼って何をやっている人なの?」
髪を乾かしてリビングの方に行くと、対面型キッチンに国見さんが立っていた。
「すっきりした?」
「はい。ありがとうございます」
当然ながらリビングも広い。大きな窓からは、高層ビル群が見える。十人は座れる広いソファーに、100インチはありそうな大型テレビ。大きなダイニングテーブルに、バーカウンターやワインセラーまである。
「ちょうど出来上がったところだ。座って」
キッチンの流し台に沿って置かれたテーブルに、彼は料理の乗ったお皿を二人分置く。
「コーヒーも入れ直したから」
彼が指し示した場所に腰掛ける。豪華なホテルの朝食とも言える、メープルシロップと粉糖のかかったフレンチトーストに、サラダ、そしてキウイやイチゴ、パイナップルなどのフルーツも添えられている。
「これ、国見さんが?」
「旭ちゃんに食べてもらおうと、張り切っちゃった」
入れ直したコーヒーを置いて、彼も隣に腰掛ける。
「どうしたの? 食べないの? 食べさせてあげようか? ほら」
「だ、大丈夫です」
またもや「あ~ん」されそうになり、慌てて彼からフォークを奪い、ひと口食べた。
「おいし…」
フレンチトーストはたっぷり卵液に浸かっていて、しっとりとろける。
「良かった。旭ちゃんに喜んでもらえて」
「あの、国見さん」
「唯斗さん、もしくは唯斗おじさんでもいいか。旭ちゃんなら特別に許す」
どっちも呼びにくい。ここは二人きりだから、省略しても会話は出来るかも。
「改めて、ご迷惑おかけしました」
酔って管を巻いて、吐いてひと晩泊めてもらった。多大な迷惑をかけてしまった。
「気にしないで。迷惑とは思っていないから」
「でも…どうしてここまで良くしてくれるんですか? 私達、殆ど他人なのに」
「下心があるって言ったら、どうする?」
「え?」
頬杖をついて、油断ならない表情で顔を覗き込まれ、ごくりと唾を飲み込む。
恥ずかしながら、この年齢になるまで前後不覚になるほど飲んだことがなく、自分の加減がわからなかった。
しかし時間の経過とともに、朧げながら、昨夜の記憶が蘇ってきた。
私は彼と飲みに行き、たったハイボール二杯で酔い潰れてしまった。
「お酒弱いのに、あんな飲み方をしたらだめだよ。旭ちゃんが家に着くなり吐いたから、汚れた服を脱がせて洗濯している。下着姿のままでは何だから、オレのシャツを着せただけで、酔って前後不覚のところを襲う趣味はないよ。まあ、隣で寝たけど」
「ね…寝た」
やっぱり同じベッドで寝たと聞いて、自分がしたことを思い出した。
「す、すみません、わ、私…」
勘違いに平謝りする。
「大変ご迷惑を…め…イタ」
ペコペコ頭を上げ下げすると、頭痛がまた襲ってきて、クラクラした。
「完全に二日酔いだね。これ薬、飲んで」
彼から錠剤を渡され、次いで水の入ったコップを受取る。
「すみません…」
「気にしないで。『すみません』より『ありがとう』って笑顔を向けてくれる方がいいかな。オレまだ一度も旭ちゃんの笑顔見たことない。オレに見せてくれない?」
「…!!そ、それは…」
いきなり笑顔を見せろと言われても、無理な話だ。
どうして彼は、私に構おうとするんだろう。
「とにかく、シャワーでも浴びてきたら?」
「え、そ、そんな…で、でも」
「朝ごはん食べれる? あ、会社には叔父ですって言って、休むからって連絡しといたから」
「え、や、休む?」
慌ててベッドサイドの時計を見ると、既に十時を回っていた。
「体調不良だと、変に勘ぐられるし、家の都合ってことにしたけど、構わなかった?」
「あ、ありがとう…ございます」
休みの連絡どころか、理由まで気を使ってくれたことに、お礼を言った。
「頼りになる叔父さんだろ?」
なせが彼は、叔父と姪の関係が気に入っているようだ。
「さ、今日は会社も休みだし、ゆっくりしよう。ほら、ここを出て左がバスルームだから」
そう言って、彼に言われるままに、シャワーを浴びることにした。
「すご…広い」
さっきの寝室も広かったけど、脱衣場兼洗面所のここも、とても広くて豪華だ。さっき寝室からちらりと見えた外の景色から、ここが高層階のマンションだと言うことは気づいていた。
廊下も幅があって、床面積はかなりのものだ。
いわゆるタワマン。
彼は一体何者なの?
脱衣場の籠には、彼が用意してくれた着換えが置かれ、その上には使い捨てのシャンプーや化粧落としなどが置かれている。
至れり尽くせりだ。
シャワーも噂のバブル方式で、浴室暖房やジャグジーが付いていた。
「すごい。彼って何をやっている人なの?」
髪を乾かしてリビングの方に行くと、対面型キッチンに国見さんが立っていた。
「すっきりした?」
「はい。ありがとうございます」
当然ながらリビングも広い。大きな窓からは、高層ビル群が見える。十人は座れる広いソファーに、100インチはありそうな大型テレビ。大きなダイニングテーブルに、バーカウンターやワインセラーまである。
「ちょうど出来上がったところだ。座って」
キッチンの流し台に沿って置かれたテーブルに、彼は料理の乗ったお皿を二人分置く。
「コーヒーも入れ直したから」
彼が指し示した場所に腰掛ける。豪華なホテルの朝食とも言える、メープルシロップと粉糖のかかったフレンチトーストに、サラダ、そしてキウイやイチゴ、パイナップルなどのフルーツも添えられている。
「これ、国見さんが?」
「旭ちゃんに食べてもらおうと、張り切っちゃった」
入れ直したコーヒーを置いて、彼も隣に腰掛ける。
「どうしたの? 食べないの? 食べさせてあげようか? ほら」
「だ、大丈夫です」
またもや「あ~ん」されそうになり、慌てて彼からフォークを奪い、ひと口食べた。
「おいし…」
フレンチトーストはたっぷり卵液に浸かっていて、しっとりとろける。
「良かった。旭ちゃんに喜んでもらえて」
「あの、国見さん」
「唯斗さん、もしくは唯斗おじさんでもいいか。旭ちゃんなら特別に許す」
どっちも呼びにくい。ここは二人きりだから、省略しても会話は出来るかも。
「改めて、ご迷惑おかけしました」
酔って管を巻いて、吐いてひと晩泊めてもらった。多大な迷惑をかけてしまった。
「気にしないで。迷惑とは思っていないから」
「でも…どうしてここまで良くしてくれるんですか? 私達、殆ど他人なのに」
「下心があるって言ったら、どうする?」
「え?」
頬杖をついて、油断ならない表情で顔を覗き込まれ、ごくりと唾を飲み込む。
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