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第3章

第77話 宣言

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 ソフィーはベットの上で眠るマリアを眺めた。
 疲れ果て、意識を失うように眠った彼女の髪を、優しく撫でる。

 幸せだった。これほどの幸せは今まで感じたことがない。
 もう、マリアは私の全て――だから、彼女を失うことなど、ソフィーにはとても考えられない。

 足りない。あれだけではとても足りない。触れたい。もっと彼女に触れたいと、ソフィーは思う。

 マリアとひとつになれば、遠征の数日を耐える何かを得ることができる――そう、考えていた。しかし、むしろ悪化したとすら思う。彼女の体温を感じれば感じるほど、離れがたくなるこの感情は一体、何なのだろうかと、ソフィーは少しだけ考えた。すぐにマリアの顔が思い浮かぶ。先程までの可愛いマリアの顔を。

 必死に声を漏らすまいと耐えていたマリア。それが可愛くて、愛おしくて、必要以上にいじめてしまった。それについて、ソフィーは全く反省していない。むしろ、マリアが悪いとすら思っている。

 止めてと懇願されればされるほど、それ以上の絶頂を与えたくなる。止められるわけがない。そんな可愛い顔で、そんな艶かしい声で、止まるはずがない。だからマリアが悪いと、ソフィー思う。

 次はどうやって可愛がろうかと、考え始めた。

 ――それが思いのほか楽しくて、気付いたら日が明けていた。

 日の光がマリアの顔を照らしている。

 彼女が目を覚ますまで、ソフィーは寝顔を眺め続けた。

 目覚めたとき、一体どんな可愛い顔を見せてくれるのか――そんな妄想に囚われてしまえば、時間の流れなどあまりにも薄く儚いものだ。


 
 * * *



 オーランドから秘宝を渡されている。それはペンダント型の青い魔法石であり、水玉の形をしている。ソフィーはそれを首にかけた。

 城の前にたくさの人が集まっている。

 城門の上に国王は立ち、国民たちを見下ろす。両手を上げると、歓声が起こった。

 ソフィーはいつもの水色のドレスで王の隣に立つ。少し離れた場所にはふたりの王子の姿。
 マリアとオーランドは後ろの方で待機しており、彼らの姿は辛うじて国民の目に映る程度。
 マリアの姿はメイドではなく、シスター服。

 王はソフィーの旅立ちについて国民たちに語る。
 それは精霊の子による試練であり、この国の平和と成長に繋がると口にする。

 ソフィーとマリアの婚約については言葉にしない。
 それはまだ、内々でのお話。

 試練が終わるまで、殆どの人間はマリアがソフィーのものだということを知らないまま。
 後ろで控えるマリアはそのことについて、特に気にした風はない。

 ――その事実が、ソフィーには大変おもしろくない。

 国王の演説が終わる。

 オーランドから秘宝である魔法石に魔力を流すよう指示がくる。
 ソフィーは打ち合わせ通り、魔法石へ魔力を込めた。

 それは――七色に輝くと、光が空へ直線状に伸び、その後は北東の方に走った。
 そして目的地にまで光が届いた瞬間、光は拡散し、消えた。
 ソフィーはその瞬間、場所を把握する。

 ――確かに、少し遠いと、ソフィーは感じた。

 その速さは人の目には一瞬。
 しかし、神々しいその光は、人々の心の中に残った。
 
 国民たちは盛大に手を叩き、この国の繁栄に胸を踊らせた。

 打ち合わせでは、ソフィーはこのまま空を飛び、目的地に向かうこととなっている。

 ソフィーはマリアの方に視線を向けた。

 彼女は空を眺め、嬉しそうに手を叩いている。ソフィーの視線に気づくと、少しはにかんだように笑った。

 その顔が、ソフィーを幸せにし、不安にもさせた。

 ソフィーは朝から、マリアには一切触れていない。
 もう一度、彼女の体温を感じてしまえば、二度と離れられなくなりそうだからだ。
 

 ――朝の彼女を思い出す。
 
 
 シーツを頭からかけ、顔を赤くしながら威嚇してくるマリアはとても可愛い。

 何か言うたびに、きゃんきゃん吠えるマリアはなんと愛らしいことか。

 先程まで怒ってたのに、直ぐに笑って受け入れてくれる彼女を――愛している。
 

 ――マリアへと無意識に伸びた手を止めると、ソフィーは空を飛んだ。

 一度でも触れてしまえば、きっともう――飛び立つことなどできない。

 彼女を失えば、この世界を破壊しても――何ひとつ満たされることはない。
 
 空高く飛び、王都を見下ろす。

 そして、ソフィーは口を開け、言葉を発した。
 その音は、風の魔法で王都内の人間へと届ける。

「私は第一王女ソフィーです。貴方たちが化け物と呼ぶ存在です。しかし、私は私なりにこの国のために剣を振るい、魔物を殺してきました。しかし、私は昨日、黒髪の少女マリアと婚約いたしました。それ故に、私はこれから彼女のために剣を振るいます。もしも彼女を害するものがいたなら、私は躊躇なくその人間を殺します。マリアがこの国を愛するのなら、私はこの国に忠誠を誓いましょう。マリアがこの国を呪うならば、私はこの国を滅ぼしましょう。それは何故か、それは私が彼女を愛しているからです。彼女は私のものであり、私は彼女のものです。それ故に気をつけなさい。マリアに手を出すことは――この私が許さないのだから」

 そう言って、ソフィーは満足する。
 マリアの驚いた顔を見ると、愛おしさで胸が一杯になる。
 ここからではマリアの感情が見えにくい。
 それでも、彼女は喜んでくれているとソフィーは信じて疑わない。帰ったらきっと、感謝のキスをしてくれると、彼女は確信している。
 そのまま一日中、マリアに愛を返そう――そんなことを考え、ソフィーは心躍らせながら旅立った。
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