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第48話 夢の中

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 ロザリア家の御三家は、アルデンヌ家、オーウェル家、トゥール家となる。

 アルデンヌ家が御三家の代表だが、領主ディオス・アルデンヌがクーデタにより討たれたと世間では言われている。実際は謀反として、オーウェル家、トゥール家の精鋭部隊により暗殺されている。

 今から5日後、ロザリア家は、オーウェル家、トゥール家を率いて、アルデンヌ家が治める都市ルクセンブルクを壊滅する計画となっている。そして、ルクセンブルクの民全員の命は、ロザリア家の当主ルーカスへ捧げられる。
 
 オーランドは計画を立てた。まずはトゥール家と交渉し、何も知らされていないアルデンヌ家にもロザリア家の計画を伝え、防衛の準備をさせる。そして、ロザリア家が兵を挙兵した隙を狙ってローズウェストを落とす。
 
 オーランドはロザリア家が5日後に兵を出すことをローズウェストの情報屋たちに報せた。
 
 エリーナたちもまずは今の現状を調べるはず。そのため、この情報をもとに行動する確率が高いと、オーランドはマリアに伝えた。だから、まだ猶予はあると。

 一体、何の猶予なのだろうか?

 ――ぼんやりとした、思考が蘇る。

 閉じた瞼が、動く。

 今度こそ、見知らぬ天井――ではなく、再びソフィーの顔。

「マリアは本当に馬鹿ですね。やはり貴方は、鎖で繋いでおかないと不安です」

 そんな恐ろしいことを、ソフィーは無表情で呟く。

 マリアは額の上に手を置いて、まだぼやけた頭で思考する。

「ところでもう、大丈夫なのですか?」
「何がです?」
「マリアは、お風呂で倒れたのですよ」

 少しのタイムラグの後、マリアは思い出す。風呂に使ってからの記憶がないことに。

 マリアは慌てて上体を起こした。

 髪はまだ少し湿っているが、体は濡れておらず、着たことのない白いネグリジェ姿になっている。因みに、下着は履いていない。

 マリアは口をパクパクとさせながら、ソフィーの顔を見る。

「安心してください。貴方の裸体は他の誰にも見せてはいませんし、触らせもしていません。そんな人間がいたら、私が殺しますので」

 マリアは顔が真っ赤になる。

「も、もしかして、ソフィー様がここまでしてくれたんです?」

 マリアは恐る恐る尋ねた。

「ええ、マリアの世話をするのも案外、悪くはないのですね」

 マリアは頭を押さえ、叫びかかった声を何とか体内に引きずり込んだ。

「変なこと、してないですよねぇ」
「変なこととはなんですか?」

 マリアは言葉に詰まる。

 ――そうだ、ソフィー様に性の知識などあるわけがない。

 下手なことを言ったら藪蛇になる。マリアはそう考え、押し黙ることにした。
 マリア自身、性の知識に詳しいわけではないのだが。

「安心してください。マリアの意識がなければ、何もするつもりはありません。可愛い声が聞けませんから」

 何を? とは、怖くて聞けない。

「昔、聖女様が言っていました。女同士で行うSexの仕方を」

 流石に、マリアの思考が追いつかない。嫌、追いつかないようにしているだけ。

「聖女様は熱を持って語っていました。女性を逝かせる方法を。全て、彼女が実際に行い、効果は検証済みとのことです」

 マリアは聖女への怒りで、体をワナワナと震わせる。

 ソフィーに変な話をしたことへの怒りもあるが、理由はもうひとつあった。

 聖女が色んな女に手を出している――そんな噂が、教会で広まったことがある。
 その時、マリアはすぐに確認した。聖女はそれを聞いて、鼻で笑ったのだ。彼女は否定しなかった。
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 ――今まで信じていた自分が一番腹立たしい。これはもう、一発殴ったくらいでは気がすまない。

「マリア」

 ソフィーから名前を呼ばれ、思考の海から戻ってくる。

「今、私以外のことを考えていましたね」

 そう言って、ソフィーはマリアの首筋をなでた。

「貴方が誰のものなのか、分からせないといけませんね」

 ソフィーの顔が、マリアに近づく。

 マリアは慌ててソフィーの肩に手を置くと、引き離した。

「だから今はまだ、駄目ですってば」

 ソフィーはマリアを見つめ、微笑を浮かべる。

「分かっています。今回のことが終わるまでですよね」
「そうですよぉ。今回のことが終わるまでは我慢してください」
「それが終われば、もう我慢する必要は――もう、ないのですね」

 ソフィーの言い方が少し気になったが、マリアは頷く。

「大丈夫ですよ。キスの1つや2つぐらい、どんとこいですねぇ」

 マリアは得意げに鼻を鳴らした。

 そんなマリアを見て、ソフィーは、はぁ? という顔をした。

「何を言っているのですか? そんなことで済むわけがないです」

 マリアは、ん? と言う顔をした。一体、それ以上の何があると言うのか。

「さっき言いましたが、まずはSexをします」

 聞き飛ばしたはずの単語が再び現れ、マリアは恐怖でわななく。

「女性を逝かす方法を何十通りと聞いていますので、ひとつひとつ――それを試させてください」
「……冗談、ですよね?」

 マリアは笑顔を作って、尋ねた。
 
 それが、どんなものか想像がつかないが、とんでもないことだけは容易に理解できる。

「馬鹿なんですか? そんな訳がないです」

 マリアの顔が引き攣っていく。

「子供に興味はありませんが、マリアに私の子を孕んで貰うのも良いかもしれません」
「女同士ですけど!?」
「マリア、知らないんですか? 王家には女同士で子を作れる神具があります。精霊の子はなぜか生殖能力がありません。そして必ず女性としてこの世に生を受けます。歴代の彼女たちも、人の子に自分の子を産ませています」
「いや、そんな話、聞いたことないんですけど……」

 マリアの声は震えている。

「この事実は、王国の中でも知る人間はほんの一部です」

 ……言葉がでてこない。嫌な想像が思い浮かぶ。
 
「だからマリア、大丈夫です」

 何が大丈夫なのか、マリアにはまったく分からない。

 これは悪い夢であり、たちの悪い冗談だ。

 マリアは思考を停止することにした。
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