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第2章
イレーネ➁
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私がお嬢様と出会って、もうすぐ2年が過ぎようとしている。私はもうすぐ、14の歳になろうとしていた。
いつも通り、庭の掃除をしていたら、急に声をかけられる。
「貴方が、イレーネですわね。知っておりますわよ。その背中、平民臭くて嫌になりますわね。鼻が潰れてしまいそうですわよ。どーせ、顔も醜いのでしょう? 早くその顔を私に見せてくださいな」
私は振り返る。
小さな女の子が腰に手をやり、足を広げ、顔は少し斜めにして不適な顔で私を見上げていた。
しかし、すぐに私の顔を見て驚いた顔になる。
「ま、まぁ、悪くはないですわね。体は――なんですの、その卑猥な体は!」
いきなり訳の分からないことを言って、指を突き付けられた私は戸惑うことしかできない。
「なるほどですわ。その体で私のお姉様を誘惑した、ということですわね。平民風情がなかなかにやりますわ。ですが、私だって後、数年でいけるはずですわ!」
腕を組み、威勢のいい声で言う。
「それにしても、あなたはただのメイドなのでしょう? それなのに、そんな白いワンピースドレスを着て、給仕服を着ないメイドなど聞いたことがありませんわ」
私は自分の服を引っ張る。
「私もそうするべきだと思ってるんですが、給仕服を着るとお嬢様が怒りますから」
目つきは鋭いが、可愛い子だ。赤いドレスは彼女に良く似合っている。
しかし、両側にくるくるとまかれた髪は毎朝セットが大変そうだなぁーと私は思った。
私のお嬢様は髪が凄く綺麗だ。髪型はいつも、後ろで1本に束ね、三つ編みにしている。毎朝、私が髪のセットをしている。初めは苦労したけど、彼女の髪に触れているだけで、私はいつも幸せな気分になる。
女の子の後ろからお嬢様と、見知らぬメイドが歩いてくるのが見えた。
「平民、調子に乗らないことですわ。いくら外見でごまかせても、内に流れる血は誤魔化しようがありませんもの。すぐに化けの皮がはがれ、見捨てられますわよ。残念でしたわね」
そう言って、女の子は口元に手を当てて、優雅に笑って見せた。
「エリーナ?」
その声に、女の子は体を震わせる。顔を強張らせ、ゆっくりと振り返る。
「お、お姉様」
「いきなり飛び出したらいけませんよ。人を心配させるんですから」
「ご、ごめんなさいですわ」
素直に謝る女の子を見て、変わり身の早さに私は驚く。
お嬢様は女の子の目線に合わせると、彼女の頭をなでる。それを見て、私は何故か心の中がもやもやとする。
エリーナ。お嬢様からよく聞く名前。お嬢様が彼女の名前を出し、誉めるたび、私の心がささくれていく。
私は初めて見る彼女に、訳の分からない対抗心が芽生えてくる。
「それに、平民だからと、悪く言ってはいけませんよ」
「……でも、そうしたらお父様が誉めてくれたんですわ」
お嬢様は、女の子をやさしく抱きしめる。
「そうでしたね、ごめんなさい。でもね、私の大事な人を悪く言わないで欲しいの」
「分かりましたわ」
お嬢様は体を離し、女の子の頭を撫でる。
女の子は私の方に振り向くと、頭を下げて謝罪した。
「いえ、別に私は――」
私に向かって、女の子は下瞼を指で下げ、ベロをだした。そして笑う。馬鹿にした感じで。
そして、すぐに私に背を向けて走り去る。それを、メイドさんが慌てて追いかけていく。
「まったく、すぐに走るんですから」
お嬢様は困ったように笑う。
「あれが、エリーナ様、なんですね」
「そう、可愛いでしょ?」
「ええ、まぁ」
私はあいまいに笑う。
「数ヶ月前に5歳となったばかりとは思えないぐらい、しっかりした良い子よ」
「いとこ、なんでしたっけ?」
「そうよ。あの子が赤ん坊の頃から知っているわ。5歳児に見えないときがあるけど、年相応に幼いところもある。けれど、あの子の母親はもういない。義理の母親も、本当の父親もあの子には冷たい。両親のために努力し、両親の顔色をうかがうあの子を見ていると、構わずにはいられないわ。無理だとしても、ほんの少しくらい、あの子の母親の代わりにでもなれれば、いいんですけどね」
その話を聞いても、私は特に同情する気持ちにはなれない。それどころか、こんなにお嬢様に思われている彼女に対して、苛立ちさえ覚えた。
私はあの女の子のことを好きになれない、そんな気がした。
「それにしても、イレーネ」
私の名前を呼んで、お嬢様は私を眺める。
「いつのまにか、私より背が高くなりましたね」
2年前は背が低く、やせ細った体が信じられないぐらいだと、自分でも思う。
そして、お嬢様は何故か私の胸を眺める。
「本当に、大きくなりましたね」
お嬢様の声はどこか、熱を帯びて聞こえた。
いつも通り、庭の掃除をしていたら、急に声をかけられる。
「貴方が、イレーネですわね。知っておりますわよ。その背中、平民臭くて嫌になりますわね。鼻が潰れてしまいそうですわよ。どーせ、顔も醜いのでしょう? 早くその顔を私に見せてくださいな」
私は振り返る。
小さな女の子が腰に手をやり、足を広げ、顔は少し斜めにして不適な顔で私を見上げていた。
しかし、すぐに私の顔を見て驚いた顔になる。
「ま、まぁ、悪くはないですわね。体は――なんですの、その卑猥な体は!」
いきなり訳の分からないことを言って、指を突き付けられた私は戸惑うことしかできない。
「なるほどですわ。その体で私のお姉様を誘惑した、ということですわね。平民風情がなかなかにやりますわ。ですが、私だって後、数年でいけるはずですわ!」
腕を組み、威勢のいい声で言う。
「それにしても、あなたはただのメイドなのでしょう? それなのに、そんな白いワンピースドレスを着て、給仕服を着ないメイドなど聞いたことがありませんわ」
私は自分の服を引っ張る。
「私もそうするべきだと思ってるんですが、給仕服を着るとお嬢様が怒りますから」
目つきは鋭いが、可愛い子だ。赤いドレスは彼女に良く似合っている。
しかし、両側にくるくるとまかれた髪は毎朝セットが大変そうだなぁーと私は思った。
私のお嬢様は髪が凄く綺麗だ。髪型はいつも、後ろで1本に束ね、三つ編みにしている。毎朝、私が髪のセットをしている。初めは苦労したけど、彼女の髪に触れているだけで、私はいつも幸せな気分になる。
女の子の後ろからお嬢様と、見知らぬメイドが歩いてくるのが見えた。
「平民、調子に乗らないことですわ。いくら外見でごまかせても、内に流れる血は誤魔化しようがありませんもの。すぐに化けの皮がはがれ、見捨てられますわよ。残念でしたわね」
そう言って、女の子は口元に手を当てて、優雅に笑って見せた。
「エリーナ?」
その声に、女の子は体を震わせる。顔を強張らせ、ゆっくりと振り返る。
「お、お姉様」
「いきなり飛び出したらいけませんよ。人を心配させるんですから」
「ご、ごめんなさいですわ」
素直に謝る女の子を見て、変わり身の早さに私は驚く。
お嬢様は女の子の目線に合わせると、彼女の頭をなでる。それを見て、私は何故か心の中がもやもやとする。
エリーナ。お嬢様からよく聞く名前。お嬢様が彼女の名前を出し、誉めるたび、私の心がささくれていく。
私は初めて見る彼女に、訳の分からない対抗心が芽生えてくる。
「それに、平民だからと、悪く言ってはいけませんよ」
「……でも、そうしたらお父様が誉めてくれたんですわ」
お嬢様は、女の子をやさしく抱きしめる。
「そうでしたね、ごめんなさい。でもね、私の大事な人を悪く言わないで欲しいの」
「分かりましたわ」
お嬢様は体を離し、女の子の頭を撫でる。
女の子は私の方に振り向くと、頭を下げて謝罪した。
「いえ、別に私は――」
私に向かって、女の子は下瞼を指で下げ、ベロをだした。そして笑う。馬鹿にした感じで。
そして、すぐに私に背を向けて走り去る。それを、メイドさんが慌てて追いかけていく。
「まったく、すぐに走るんですから」
お嬢様は困ったように笑う。
「あれが、エリーナ様、なんですね」
「そう、可愛いでしょ?」
「ええ、まぁ」
私はあいまいに笑う。
「数ヶ月前に5歳となったばかりとは思えないぐらい、しっかりした良い子よ」
「いとこ、なんでしたっけ?」
「そうよ。あの子が赤ん坊の頃から知っているわ。5歳児に見えないときがあるけど、年相応に幼いところもある。けれど、あの子の母親はもういない。義理の母親も、本当の父親もあの子には冷たい。両親のために努力し、両親の顔色をうかがうあの子を見ていると、構わずにはいられないわ。無理だとしても、ほんの少しくらい、あの子の母親の代わりにでもなれれば、いいんですけどね」
その話を聞いても、私は特に同情する気持ちにはなれない。それどころか、こんなにお嬢様に思われている彼女に対して、苛立ちさえ覚えた。
私はあの女の子のことを好きになれない、そんな気がした。
「それにしても、イレーネ」
私の名前を呼んで、お嬢様は私を眺める。
「いつのまにか、私より背が高くなりましたね」
2年前は背が低く、やせ細った体が信じられないぐらいだと、自分でも思う。
そして、お嬢様は何故か私の胸を眺める。
「本当に、大きくなりましたね」
お嬢様の声はどこか、熱を帯びて聞こえた。
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