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第39話 クラーラの愛する人

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 扉の先は、狭く、長い廊下。両隣にランタンが光、部屋の扉が1つもない。

 暫く歩くと、一番奥に扉。

 トーレスはドアノブを掴み、静かに開いた。

 広い部屋。白いレンガで覆われた部屋。所々に大きな柱で支えられ、家具が1つもない殺風景な部屋。
 とこどころ壁が割れ、床に大きな亀裂があり、ソファは大きな石で代用している。
 天井はステンドグラスで敷き詰められ、月の光と少しのランタンで、部屋の中を照らす。

 中にいるのは、3人だけ。

 扉の近くにいた男、ロランが、トーレスに気付き、手を上げる。しかし、その後に続くエリーナの顔を見、表情を変えた。腰にぶら下げた剣の柄を握る。
 赤色の髪を短髪にしており、野性的な風貌をしている。身長は179cmほど。

「トーレス、どう言うことだ?」

 他の人間も警戒を強める。その中に、イレーネはいない。

「ロラン、俺は彼女らが敵でないと信じた。ただ、それだけの話だ」
「絆されちまったのかよ、トーレス。俺達はそいつの父親がしたことをただ繰り返すだけだと、そう誓ったはずだろう。もう、人間じゃないんだよ俺達は。ただの化け物だと、いい加減に認めろ、この馬鹿が」
「それでも俺達は、最後に人として、イレーネの幸せを誓ったはずだ」

 クラーラは部屋を見渡すが、どこにもいない。

「奥に、1つだけ部屋がある。そこにイレーネがいる。魔法具で眠らせたため、すぐには起きないかもしれないが――」

 クラーラは言葉を最後まで聞かずに、脇目もふらずに駆け出す。

「お前――」

 クラーラの方に意識を向けたロランの首に、トーレスは槍を突き付ける。

 後ろの2人もクラーラの方に駆け出そうとしたため、マリアは結界の中に閉じ込めた。
 
「行かしてやってくれ、イレーネのためだ」
「……トーレス、何を考えてやがる」
「本当にこれで最後だよ。俺は最後に、人であろうとしただけだ」


 
 扉を開けた先に、小さな、それでいて小綺麗な部屋がある。
 
 真ん中にベッドがあった。

 イレーネがいる。

 愛する人が、そこにいる。

「――イレーネさん」

 声がかすれて、上手く発声できない。

 クラーラは自分の胸を、押さえる。

「イレーネさん!」

 何度も叫ぶ。何度だって。

 イレーネは夢現に目を覚ます。ぼんやりとした顔で、クラーラを眺める。

 クラーラはイレーネを抱きしめる。今までの寂しさを埋めるために。



「――ばかばかしい」

 ロランは吐き捨てるように言うと、剣の柄から手を離す。トーレスはそれを確認すると、ロランから槍を離した。
 他のメンバーも矛を収める気配がしたため、マリアは少し悩んでから、結界を解除する。

「で、説明はしてくれるんだろうな?」

 ロランは、トーレスに向かって、口を開く。

「今、イレーネの傍に向かったのは、あいつの恋人だ」
「恋人……ねぇ」
「あの子は、イレーネの平和の象徴だ。だから、殺すわけにはいかないだろう?」
「だとしても、ここに連れて来る必要はなかっただろうが。ここで全てが終わるまで、あいつを眠らせるんじゃなかったのかよ」
「ここが絶対に安静だと言い切れない可能性があると、そう言っただろう」
「それは、そうなんだけどよ」
「少し、よろしいかしら?」

 エリーナは口を挟む。

「そもそも、なぜイレーネがあなた達と一緒に行動をしているのかしら」
「イレーネは、記憶を取り戻している」
「あり得ませんわ。イレーネの記憶は、神器の力により、記憶の一部を消したはずですわよ」

 神器。神より授かったと言われる魔法遺物。それは、人の力では起こせぬ奇跡を生む。
 
「――でも、そう考えれば考えるほど辻褄は合いますわ。私たちへの恨みだけで、クーデタに参加するとは思えませんもの。だって、今の幸せを捨ててまでの記憶を、彼女は持っていないはずですもの」
「原理もわからないはずの、古代の魔法を打ち消した誰かがいると、俺たちはそう思っている」
「だとしても、何のために……理解が出来ませんわ」
「だから、イレーネを守る誰かが必要なんだ」
「それが、こいつらだと?」

 トーレスの言葉に、ロランは小馬鹿にしたように鼻で笑う。

「因みにですが、あなたたちの目的は、本当に私の父を殺すことだけですの?」
「お前の父親と同じことをするだけだよ」

 ロランは吐き捨てるように言う。

「それはどこまでですの? 一家全員皆殺しにするまで? それとも、彼を支持する全員を殺すまでですの?」
「俺達には時間がない。だから、まずはお前の父親を殺す。その先は、また後で考えればいい」
「本当に、計画性がないんですのね」

 なぜ彼らには時間がないのか。問いただしたところで、答えはしないだろと、エリーナは判断した。
 
「相変わらず、うるせぇ奴だな。お前から殺してやったっていいんだぜ?」
「確か、あなた達のチーム名は――アローネ軍、でしたわね」
「その名前を出すな、昔の話だ」
「全員で7人でしたわね。他の3人はここにはいないのかしら?」
「死んだよ」
「――そう、ですのね」
「勘違いするなよ。あいつらは無駄死になんかじゃねぇ。立派に死んでった。人として、ちゃんと死ねたんだ」
「……では、私は彼等に敬意を表しますわ。カロル、テオ、ライク、貴方がたに祝福を」
「お前なんかに――」

 ロランがエリーナを掴みかかりそうになったため、トーレスはそれを止めた。

「エリーナ、感謝する」

 エリーナは目を閉じると、彼等のために祈りを捧げた。
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