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第2章
第38話 変化
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「もう一度だけ言う、俺の邪魔をしなければ、エリーナ以外は殺さない。だから黙って、大人しくしていろ」
クラーラが前に出る。
「俺は大人しくしていろと言ったつもりだが?」
トーレスはクラーラを睨みつける。彼女は一瞬、怯んだものの、前に出る。
「イレーネさんはどこにいるの?」
トーレスは顔を顰める。
「イレーネさんを返して!」
「お前、俺が化け物だと知ってなお、そんなことを言うのか?」
「そんなの関係ない、イレーネさんを返して!」
クラーラは今まで我慢していた感情が溢れだし、止まらなくなる。
トーレスは急に泣き出したクラーラを見て、困惑する。
「トーレス、私はあなたに抵抗するつもりがありませんわ。それぐらい分かるでしょう? だから、少しだけ話を聞いて頂戴」
トーレスはエリーナに向けた槍を地面に下した。
「少しだけだ」
「感謝、致しますわ」
エリーナは深々と、頭を下げた。
「私たちがここに来た理由の1つは、イレーネの捜索ですわ」
「理解できないな、何のためだ」
「そんなの、連れ帰すために決まってるよ!」
トーレスは横目でクラーラを見た後、すぐに視線を戻す。
「こいつは何なんだ?」
「名前はクラーラ。イレーネの恋人ですわ」
「恋人? あいつの女好きは本物だった訳か」
「そして、イレーネは彼女に手紙を残し、旅立ちましたわ。戦士が死地に向かう詩と、クーデタに参加する旨を書いて」
トーレスは少し考え込む。
「なるほど、それでここまで来たわけか」
簡単に信じてくれたと、エリーナは驚く。だが、これで分かった。イレーネはトーレスと関わっている。
「イレーネはどこにいるのかしら?」
「そんなこと、言うわけがないだろ」
「返してよ、イレーネさんを返して!」
クラーラの言葉に、トーレスは困ったように頭を掻く。
「俺としては、あいつを引き取ってくれるなら、願ってもないことだが」
「どういうことですの?」
「俺たちは誰一人、あいつの参加を望んじゃいない。あいつは、俺たちとは違う」
「では――」
「それでも、それをあいつが望まない。何を言ったって、あいつは聞く耳を持たない」
「私が説得する。私は絶対にイレーネさんを連れ帰るから」
「だとしても、居場所を知られるわけにはいかないな」
「では、私を拘束しなさい」
トーレスは眉をひそめる。
「何を考えている?」
「言葉以上の意味なんてありませんわ。私を拘束し、あなた達の好きなように利用すればいい。だから、イレーネのところに連れて行きなさい。そして必ず、彼女たちがイレーネを救いますわ。あなた達の代わりに」
「まさか、殺されないとでも思っているのか?」
「それが、あなたたちの望みなら、それも致し方ありませんわ」
「簡単に言うなよ。絶望を知らないお前が、軽々しく言っていい言葉じゃない」
「私なりに覚悟を持ってここにおりますわ。それが、あなた達を見捨て、逃げるようにこの地を離れた、私なりの罪滅ぼしですわ」
暫く睨み合った後、トーレスはため息を吐く。
「……お前、そんな奴だったか?」
「変わったのでしょう。私は4年間もずっと、馬鹿で、変わった、それでいて優しい人間を見続けましたのよ。トーレス、人は変わりますわ。今、この瞬間も」
「変わらない人間もいる」
「そうですわね、では、あなたはどうですの?」
「化け物の俺に、そんなことを問うのか?」
「この少ない時間の中で、私は貴方を人間だと判断しましたのよ、トーレス」
エリーナの言葉に、トーレスは苦笑する。
「もう一度だけ問いますわ、トーレス。あなたはどちらですの? 貴方は変わらないまま、私に槍を向け続けるのかしら」
「俺は変わらない。変わらないまま、ずっと馬鹿のままだ」
そう言って、トーレスは左手を何もない空間に向かって伸ばすと、ドアが現れる。
「だから、俺はお前の言葉を信じてしまう」
ドアノブを掴む。
「私を拘束しなくていいんですの?」
「不自然な動きをしたら、容赦なく殺す。それは忘れるな」
ドアが開く。そこから微かな光が漏れてくる。
「先に言っておく、これは俺の独断だ。俺はお前らが何もしなければ手は出さない。しかし、他の奴らの行動までは保証しない。それでも良ければここを通れ」
エリーナがクラーラ、マリアの順で目配せする。二人共、静かに頷いた。
「マリア、気を付けてください」
頭上からソフィーの小さな声。
「私が言うのもなんですが、彼女の外見は人間でも、中身は化け物そのものです」
「彼女?」
「あぁ、なるほど。マリアは彼女が男だと勘違いしているのですね。彼女は男装をしていますが、れっきとした女性ですよ」
マリアは、トーレスを眺める。
なるほどと頷いた。
確かに、男性にしてはあまりにも綺麗すぎる。
「ソフィー様、彼女の心は人間だと思いますよ」
マリアの言葉により、長いため息が出た。
「嘘はついていないようですが、どうか気は許さずに」
「分かってます」
マリアは光の玉を消すと、エリーナ、クラーラの後に続いて、扉を通り抜けた。
クラーラが前に出る。
「俺は大人しくしていろと言ったつもりだが?」
トーレスはクラーラを睨みつける。彼女は一瞬、怯んだものの、前に出る。
「イレーネさんはどこにいるの?」
トーレスは顔を顰める。
「イレーネさんを返して!」
「お前、俺が化け物だと知ってなお、そんなことを言うのか?」
「そんなの関係ない、イレーネさんを返して!」
クラーラは今まで我慢していた感情が溢れだし、止まらなくなる。
トーレスは急に泣き出したクラーラを見て、困惑する。
「トーレス、私はあなたに抵抗するつもりがありませんわ。それぐらい分かるでしょう? だから、少しだけ話を聞いて頂戴」
トーレスはエリーナに向けた槍を地面に下した。
「少しだけだ」
「感謝、致しますわ」
エリーナは深々と、頭を下げた。
「私たちがここに来た理由の1つは、イレーネの捜索ですわ」
「理解できないな、何のためだ」
「そんなの、連れ帰すために決まってるよ!」
トーレスは横目でクラーラを見た後、すぐに視線を戻す。
「こいつは何なんだ?」
「名前はクラーラ。イレーネの恋人ですわ」
「恋人? あいつの女好きは本物だった訳か」
「そして、イレーネは彼女に手紙を残し、旅立ちましたわ。戦士が死地に向かう詩と、クーデタに参加する旨を書いて」
トーレスは少し考え込む。
「なるほど、それでここまで来たわけか」
簡単に信じてくれたと、エリーナは驚く。だが、これで分かった。イレーネはトーレスと関わっている。
「イレーネはどこにいるのかしら?」
「そんなこと、言うわけがないだろ」
「返してよ、イレーネさんを返して!」
クラーラの言葉に、トーレスは困ったように頭を掻く。
「俺としては、あいつを引き取ってくれるなら、願ってもないことだが」
「どういうことですの?」
「俺たちは誰一人、あいつの参加を望んじゃいない。あいつは、俺たちとは違う」
「では――」
「それでも、それをあいつが望まない。何を言ったって、あいつは聞く耳を持たない」
「私が説得する。私は絶対にイレーネさんを連れ帰るから」
「だとしても、居場所を知られるわけにはいかないな」
「では、私を拘束しなさい」
トーレスは眉をひそめる。
「何を考えている?」
「言葉以上の意味なんてありませんわ。私を拘束し、あなた達の好きなように利用すればいい。だから、イレーネのところに連れて行きなさい。そして必ず、彼女たちがイレーネを救いますわ。あなた達の代わりに」
「まさか、殺されないとでも思っているのか?」
「それが、あなたたちの望みなら、それも致し方ありませんわ」
「簡単に言うなよ。絶望を知らないお前が、軽々しく言っていい言葉じゃない」
「私なりに覚悟を持ってここにおりますわ。それが、あなた達を見捨て、逃げるようにこの地を離れた、私なりの罪滅ぼしですわ」
暫く睨み合った後、トーレスはため息を吐く。
「……お前、そんな奴だったか?」
「変わったのでしょう。私は4年間もずっと、馬鹿で、変わった、それでいて優しい人間を見続けましたのよ。トーレス、人は変わりますわ。今、この瞬間も」
「変わらない人間もいる」
「そうですわね、では、あなたはどうですの?」
「化け物の俺に、そんなことを問うのか?」
「この少ない時間の中で、私は貴方を人間だと判断しましたのよ、トーレス」
エリーナの言葉に、トーレスは苦笑する。
「もう一度だけ問いますわ、トーレス。あなたはどちらですの? 貴方は変わらないまま、私に槍を向け続けるのかしら」
「俺は変わらない。変わらないまま、ずっと馬鹿のままだ」
そう言って、トーレスは左手を何もない空間に向かって伸ばすと、ドアが現れる。
「だから、俺はお前の言葉を信じてしまう」
ドアノブを掴む。
「私を拘束しなくていいんですの?」
「不自然な動きをしたら、容赦なく殺す。それは忘れるな」
ドアが開く。そこから微かな光が漏れてくる。
「先に言っておく、これは俺の独断だ。俺はお前らが何もしなければ手は出さない。しかし、他の奴らの行動までは保証しない。それでも良ければここを通れ」
エリーナがクラーラ、マリアの順で目配せする。二人共、静かに頷いた。
「マリア、気を付けてください」
頭上からソフィーの小さな声。
「私が言うのもなんですが、彼女の外見は人間でも、中身は化け物そのものです」
「彼女?」
「あぁ、なるほど。マリアは彼女が男だと勘違いしているのですね。彼女は男装をしていますが、れっきとした女性ですよ」
マリアは、トーレスを眺める。
なるほどと頷いた。
確かに、男性にしてはあまりにも綺麗すぎる。
「ソフィー様、彼女の心は人間だと思いますよ」
マリアの言葉により、長いため息が出た。
「嘘はついていないようですが、どうか気は許さずに」
「分かってます」
マリアは光の玉を消すと、エリーナ、クラーラの後に続いて、扉を通り抜けた。
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