36 / 115
第2章
第34話 対抗心
しおりを挟む
何か必要な物はありますかと、ソフィーが気を利かせてくれたため、繁華街で旅の準備をすることとなった。
マリアはポケットに入れてあった、懐中時計で時間を確認する。
ここから西口の門まで走って10分以上の距離だが、ソフィーなら1分もかからない。
マリアは何気なく辺りを見回すと、周りの人は遠巻きにソフィーを見て、固まっている。まるで化け物にでも出会ったかのようだ。マリアは嫌な気分になったが、ソフィー本人は特に気にしていないため、マリアも気にしないと、そう決めた。
買い物もひと段落したため、マリアは屋台で売っているクレープを2人分買うと、1つはソフィーに渡した。
「ああ、マリアがよく食べているものですね」
何故、知っているんですか? という突っ込みは、もうしない。無駄だからだ。
「食べたことあります?」
「ありません」
マリアは不敵な笑みを浮かべる。
「それでは、ソフィー様もこの子の虜になってしまいますねぇ。心して食べてくださいよぉ」
ソフィーは躊躇なく食べ始める。
「た、ためらいなくいきましたねぇ。さすがはソフィー様。恐れを知らない方です」
マリアは、ゴクリと生唾を飲み込む。
「ど、どうですかねぇ」
マリアは恐る恐ると尋ねた。
「普通ですね」
ソフィーの言葉に、マリアは雷に打たれたような衝撃を受ける。
「ソフィー様、もしかして味覚おかしいんですか?」
「そこまで言うことですか? 私はあまり、食欲はない方なので」
「それ、人生の半分は損していますよ」
ソフィーはクレープを飲み込むと、マリアの方に視線を向ける。
「それでは、その半分をあなたが埋めてください」
そう言って、ソフィーは笑った。それは微かな変化。他の人間には区別がつかないかもしれないが、マリアには良く分かる。
マリアは自分でも理解できないぐらい、動揺した。
「そ、それ、まるでプロポーズみたいですよ」
マリアはうろたえてしまった自分を、誤魔化すように笑って言った。
「好きに受け取ってください」
ソフィーのその言葉に、マリアは耐えきれずに顔を背けた。
――良く、笑うようになったなぁと、マリアは思う。嬉しいけど、心臓に悪い。
***
西の門に着くと、エリーナの姿があったが、クラーラがまだいない。
エリーナがソフィーを見て、緊張しているのはマリアから見てもよく分かる。
「よ、よくお越し頂きました。感謝、致しますわ」
エリーナは冷や汗を流し、笑顔は引き攣っている。
「馬車の準備は出来ておりますわ。そろそろ伺いましょうか」
「いや、クラーラさんがまだですから」
「遅刻、ですわ」
マリアは時計を確認するが、まだ約束の時間にはなっていない。
「時間はまだ大丈夫ですよ」
「そんなの関係ありませんの。ソフィー様がいらっしゃた時点で、それがタイムリミット、ですわ」
それはご無体な話だ。
マリアが何かを言いかけた時、クラーラが走ってくるのが見えた。
「ご、ごめん、お待たせ」
クラーラはマリア達の前まで来ると、地面に大きめな布袋を置いた。膝をつき、息切れしながらも言葉を吐く。
「でも、何とか間に合ったからよかったよ」
「何を言っておりますのクラーラさん、遅刻ですわよ」
「え? でも――」
「遅刻ですわ」
「あ、はい。すみません」
エリーナの迫力に、クラーラは涙目になり、謝罪に追い込まれた。
マリアは4人用の馬車だと考えていたが、実際は12人用だった。
馬車の運転手は門から出て来るエリーナの姿を見付けると、笑顔で手を振った。しかし、ソフィーの顔を見ると、笑みが凍りつく。
カクカクとした動きで馬車の扉を開け、引きつった笑顔でマリア達を招いた。
両側にソファーがあり、広々としている。贅沢な内装となっており、マリアは感激の声を出す。
「エリーナさん、奮発しましたねぇ」
マリアの言葉に、エリーナは笑みを引きつらせる。
「そ、そんなことありませんわよ」
「てっきり、4人用の馬車かと思ってましたよ」
「長い旅になりますし、広いほうがいいですわよね?」
「それは、勿論ですよぉ」
――そう、広いほうがいい。エリーナはつくづくとそう思う。狭い密室の中で、ソフィーと自分が長時間一緒にいる姿を想像しただけで身震いがする。
想定していなかった出費にエリーナとしてはため息の1つでも吐きたい気分だが、ふかふかとしたソファーに寝そべり、嬉しそうにするマリアの姿を見てしまえば、これで良かったのかもと思えた。
エリーナは腰に手を置き、やれやれと思いながらも、マリアの笑顔につられてつい笑ってしまう。少しだけ心が穏やかになったのも束の間、ソフィーの視線に気付き、エリーナは足元を震わせる。とんでもないプレッシャーを感じた。
ソフィーはマリアの隣に座ると、彼女の頭を撫でた後、何故か再びエリーナの方に視線を向ける。無表情に見えるが、エリーナは挑発されている気がして、少しだけムッとした。これだけ広い中、わざわざマリアの隣に座ったことも、彼女を苛立たせる要因となった。
しかし、怖いものは怖い。不満を募らせながらも、エリーナは彼女達の反対側の席で、一番端っこの席に座る。
悔しい気持ちはあるが、ここは我慢だと自分にいい聞かせた。
マリアは後で絶対にこっちへ振り向かせる――そう考え、嫉妬している自分に気付くと、顔が熱くなる。自分の体温を冷やすために手の甲を額に押し付けた。
クラーラがエリーナの隣に座る。
「どうしましたの?」
「避難中」
自分と同じ考えに、エリーナはつい笑ってしまった。
マリアはポケットに入れてあった、懐中時計で時間を確認する。
ここから西口の門まで走って10分以上の距離だが、ソフィーなら1分もかからない。
マリアは何気なく辺りを見回すと、周りの人は遠巻きにソフィーを見て、固まっている。まるで化け物にでも出会ったかのようだ。マリアは嫌な気分になったが、ソフィー本人は特に気にしていないため、マリアも気にしないと、そう決めた。
買い物もひと段落したため、マリアは屋台で売っているクレープを2人分買うと、1つはソフィーに渡した。
「ああ、マリアがよく食べているものですね」
何故、知っているんですか? という突っ込みは、もうしない。無駄だからだ。
「食べたことあります?」
「ありません」
マリアは不敵な笑みを浮かべる。
「それでは、ソフィー様もこの子の虜になってしまいますねぇ。心して食べてくださいよぉ」
ソフィーは躊躇なく食べ始める。
「た、ためらいなくいきましたねぇ。さすがはソフィー様。恐れを知らない方です」
マリアは、ゴクリと生唾を飲み込む。
「ど、どうですかねぇ」
マリアは恐る恐ると尋ねた。
「普通ですね」
ソフィーの言葉に、マリアは雷に打たれたような衝撃を受ける。
「ソフィー様、もしかして味覚おかしいんですか?」
「そこまで言うことですか? 私はあまり、食欲はない方なので」
「それ、人生の半分は損していますよ」
ソフィーはクレープを飲み込むと、マリアの方に視線を向ける。
「それでは、その半分をあなたが埋めてください」
そう言って、ソフィーは笑った。それは微かな変化。他の人間には区別がつかないかもしれないが、マリアには良く分かる。
マリアは自分でも理解できないぐらい、動揺した。
「そ、それ、まるでプロポーズみたいですよ」
マリアはうろたえてしまった自分を、誤魔化すように笑って言った。
「好きに受け取ってください」
ソフィーのその言葉に、マリアは耐えきれずに顔を背けた。
――良く、笑うようになったなぁと、マリアは思う。嬉しいけど、心臓に悪い。
***
西の門に着くと、エリーナの姿があったが、クラーラがまだいない。
エリーナがソフィーを見て、緊張しているのはマリアから見てもよく分かる。
「よ、よくお越し頂きました。感謝、致しますわ」
エリーナは冷や汗を流し、笑顔は引き攣っている。
「馬車の準備は出来ておりますわ。そろそろ伺いましょうか」
「いや、クラーラさんがまだですから」
「遅刻、ですわ」
マリアは時計を確認するが、まだ約束の時間にはなっていない。
「時間はまだ大丈夫ですよ」
「そんなの関係ありませんの。ソフィー様がいらっしゃた時点で、それがタイムリミット、ですわ」
それはご無体な話だ。
マリアが何かを言いかけた時、クラーラが走ってくるのが見えた。
「ご、ごめん、お待たせ」
クラーラはマリア達の前まで来ると、地面に大きめな布袋を置いた。膝をつき、息切れしながらも言葉を吐く。
「でも、何とか間に合ったからよかったよ」
「何を言っておりますのクラーラさん、遅刻ですわよ」
「え? でも――」
「遅刻ですわ」
「あ、はい。すみません」
エリーナの迫力に、クラーラは涙目になり、謝罪に追い込まれた。
マリアは4人用の馬車だと考えていたが、実際は12人用だった。
馬車の運転手は門から出て来るエリーナの姿を見付けると、笑顔で手を振った。しかし、ソフィーの顔を見ると、笑みが凍りつく。
カクカクとした動きで馬車の扉を開け、引きつった笑顔でマリア達を招いた。
両側にソファーがあり、広々としている。贅沢な内装となっており、マリアは感激の声を出す。
「エリーナさん、奮発しましたねぇ」
マリアの言葉に、エリーナは笑みを引きつらせる。
「そ、そんなことありませんわよ」
「てっきり、4人用の馬車かと思ってましたよ」
「長い旅になりますし、広いほうがいいですわよね?」
「それは、勿論ですよぉ」
――そう、広いほうがいい。エリーナはつくづくとそう思う。狭い密室の中で、ソフィーと自分が長時間一緒にいる姿を想像しただけで身震いがする。
想定していなかった出費にエリーナとしてはため息の1つでも吐きたい気分だが、ふかふかとしたソファーに寝そべり、嬉しそうにするマリアの姿を見てしまえば、これで良かったのかもと思えた。
エリーナは腰に手を置き、やれやれと思いながらも、マリアの笑顔につられてつい笑ってしまう。少しだけ心が穏やかになったのも束の間、ソフィーの視線に気付き、エリーナは足元を震わせる。とんでもないプレッシャーを感じた。
ソフィーはマリアの隣に座ると、彼女の頭を撫でた後、何故か再びエリーナの方に視線を向ける。無表情に見えるが、エリーナは挑発されている気がして、少しだけムッとした。これだけ広い中、わざわざマリアの隣に座ったことも、彼女を苛立たせる要因となった。
しかし、怖いものは怖い。不満を募らせながらも、エリーナは彼女達の反対側の席で、一番端っこの席に座る。
悔しい気持ちはあるが、ここは我慢だと自分にいい聞かせた。
マリアは後で絶対にこっちへ振り向かせる――そう考え、嫉妬している自分に気付くと、顔が熱くなる。自分の体温を冷やすために手の甲を額に押し付けた。
クラーラがエリーナの隣に座る。
「どうしましたの?」
「避難中」
自分と同じ考えに、エリーナはつい笑ってしまった。
6
お気に入りに追加
63
あなたにおすすめの小説
隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました
ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら……
という、とんでもないお話を書きました。
ぜひ読んでください。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
【R18】無口な百合は今日も放課後弄ばれる
Yuki
恋愛
※性的表現が苦手な方はお控えください。
金曜日の放課後――それは百合にとって試練の時間。
金曜日の放課後――それは末樹と未久にとって幸せの時間。
3人しかいない教室。
百合の細腕は頭部で捕まれバンザイの状態で固定される。
がら空きとなった腋を末樹の10本の指が蠢く。
無防備の耳を未久の暖かい吐息が這う。
百合は顔を歪ませ紅らめただ声を押し殺す……。
女子高生と女子高生が女子高生で遊ぶ悪戯ストーリー。
先生!放課後の隣の教室から女子の喘ぎ声が聴こえました…
ヘロディア
恋愛
居残りを余儀なくされた高校生の主人公。
しかし、隣の部屋からかすかに女子の喘ぎ声が聴こえてくるのであった。
気になって覗いてみた主人公は、衝撃的な光景を目の当たりにする…
男子中学生から女子校生になった僕
葵
大衆娯楽
僕はある日突然、母と姉に強制的に女の子として育てられる事になった。
普通に男の子として過ごしていた主人公がJKで過ごした高校3年間のお話し。
強制女装、女性と性行為、男性と性行為、羞恥、屈辱などが好きな方は是非読んでみてください!
さくらと遥香
youmery
恋愛
国民的な人気を誇る女性アイドルグループの4期生として活動する、さくらと遥香(=かっきー)。
さくら視点で描かれる、かっきーとの百合恋愛ストーリーです。
◆あらすじ
さくらと遥香は、同じアイドルグループで活動する同期の2人。
さくらは"さくちゃん"、
遥香は名字にちなんで"かっきー"の愛称でメンバーやファンから愛されている。
同期の中で、加入当時から選抜メンバーに選ばれ続けているのはさくらと遥香だけ。
ときに"4期生のダブルエース"とも呼ばれる2人は、お互いに支え合いながら数々の試練を乗り越えてきた。
同期、仲間、戦友、コンビ。
2人の関係を表すにはどんな言葉がふさわしいか。それは2人にしか分からない。
そんな2人の関係に大きな変化が訪れたのは2022年2月、46時間の生配信番組の最中。
イラストを描くのが得意な遥香は、生配信中にメンバー全員の似顔絵を描き上げる企画に挑戦していた。
配信スタジオの一角を使って、休む間も惜しんで似顔絵を描き続ける遥香。
さくらは、眠そうな顔で頑張る遥香の姿を心配そうに見つめていた。
2日目の配信が終わった夜、さくらが遥香の様子を見に行くと誰もいないスタジオで2人きりに。
遥香の力になりたいさくらは、
「私に出来ることがあればなんでも言ってほしい」
と申し出る。
そこで、遥香から目をつむるように言われて待っていると、さくらは唇に柔らかい感触を感じて…
◆章構成と主な展開
・46時間TV編[完結]
(初キス、告白、両想い)
・付き合い始めた2人編[完結]
(交際スタート、グループ内での距離感の変化)
・かっきー1st写真集編[完結]
(少し大人なキス、肌と肌の触れ合い)
・お泊まり温泉旅行編[完結]
(お風呂、もう少し大人な関係へ)
・かっきー2回目のセンター編[完結]
(かっきーの誕生日お祝い)
・飛鳥さん卒コン編[完結]
(大好きな先輩に2人の関係を伝える)
・さくら1st写真集編[完結]
(お風呂で♡♡)
・Wセンター編[不定期更新中]
※女の子同士のキスやハグといった百合要素があります。抵抗のない方だけお楽しみください。
【完結済み】正義のヒロインレッドバスターカレン。凌辱リョナ処刑。たまに和姦されちゃいます♪
屠龍
ファンタジー
レッドバスターカレンは正義の変身ヒロインである。
彼女は普段は学生の雛月カレンとして勉学に励みながら、亡き父親の残したアイテム。
ホープペンダントの力でレッドバスターカレンとなって悪の組織ダークネスシャドーに立ち向かう正義の味方。
悪の組織ダークネスシャドーに通常兵器は通用しない。
彼女こそ人類最後の希望の光だった。
ダークネスシャドーが現れた時、颯爽と登場し幾多の怪人と戦闘員を倒していく。
その日も月夜のビル街を襲った戦闘員と怪人をいつものように颯爽と現れなぎ倒していく筈だった。
正義の変身ヒロインを徹底的に凌辱しリョナして処刑しますが最後はハッピーエンドです(なんのこっちゃ)
リョナと処刑シーンがありますので苦手な方は閲覧をお控えください。
2023 7/4に最終話投稿後、完結作品になります。
アルファポリス ハーメルン Pixivに同時投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる