精霊の子と呼ばれ恐れられる姫様に、何故か私だけが溺愛されて困ってます!

tataku

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第2章

第33話 ロザリア家の内情

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 ソフィーがマリアを降ろしたのはお城にある庭の中。

 マリアは吐き気を堪えながら、袋の中身を確認し安堵の息を吐く。

「ソフィー様、正直、前より速度がありましたよねぇ?」
「さぁ、どうなんでしょう。覚えていません」
「今回、そこまで急ぐ必要なかったと思いますけどぉ?」

 不満そうにぶつくさ言うマリアを、ソフィーはじっと眺める。

「な、なんですかぁ。や、やりますかぁ、こらぁ」

 足元がふらつきながら、マリアは頬を膨らまし、ファイティングポーズをとる。これは、ただの照れ隠し。最近、ソフィーに見つめられることへの耐性が、かなり低下している。

「さっきの女はマリアの何なんですか?」
「それって、どっちのことを言ってます?」
「赤いドレスの女」
「ああ、エリーナさんのことですか」
「何なんですか?」
「ライバル、みたいなものかと」

 ソフィーがじっと眺めてくるため、マリアは頬を掻く。

「――友達になれたらなぁーとは思っていますけど、ただ、それだけですよ」
「彼女には気を付けてください」
「えっと、何でです?」
「理由なんかどうだっていんです。マリアはただ、気を付けてくれればいいんです」

 そう言って、ソフィーは姿を消した。



 ***
 


 メイド長に買い物袋と財布を渡し、ソフィーと暫く外出することを伝え、頭を下げた。
 
 メイド長は笑顔を、若干引きつらせた。
 
 流石に、彼女の独断でソフィーの外出許可を出せるわけもなく、二人でオーランドの仕事部屋を訪ねることになった。彼がソフィーの担当みたいなものだと、メイド長はマリアに伝えた。

 オーランドの部屋に入ると、彼とソフィーの二人だけしかいない。

 たくさんの本棚に囲まれた場所であり、オーランドの机の上には書類が山積みとなっている。

「マリアさん、丁度良かった。こちらから伺わないといけないと思っていた所ですから」

 オーランドは席から立ち上がると、マリアの方に近づいてくる。

「メイド長、わざわざありがとうございます。マリアさんを案内してくれて。そろそろ、仕事に戻ってくれて構いませんよ」
「承知いたしました。それでは、席を外させて頂きます」

 メイド長は深々と頭を下げると、部屋を後にした。

「マリアさん、ソフィー様より話は聞いております。ロザリア家が治める地へ行くことは了承しましたよ」
「そうですか、分かりました」

 メイド長に話して気付いた。一国の姫を連れ出すことの重大さに。
 とは言え、それを承認できるオーランドがただ者ではないと、マリアはそう認識した。

「ソフィー様より、ロザリア家の内情を聞かれましたが、僕もそれほど詳しいわけではありません」

 マリアはソフィーの方に視線を向けると、彼女はそっぽ向く。
 わざわざ聞いてくれたことに、マリアは感動した。

「知っていることと言えば、10年ほど前に内紛があり、当時の大領主とそれを支持するもの全員が殺されたこと。そしてそれを実行したのは、その弟であり、彼が大領主になったということくらいですかね」

 大領主。国王から小国を任された人間の称号。
 
「それ、問題にならなかったんですか? 大領主と言えば、国王から直々に選ばれた人ですよね? それを勝手に殺したってまずい話じゃないんですか? いくらその人の弟とはいえ。それとも、王国もそれに関与していたんですかね」
「流石にその時は僕もただの若造でしたからね、詳しいことは分かりません。ロザリア小国はもともと王国の管轄内でしたが、先王が亡くなって暫くは、政治的に混乱し、それ以来は小国にまで気を回す余裕はなくなりました。それを利用されたんじゃないんですかね? 実質、今も向こうのことは向こうにお任せですよ」
「昔の大領主はどんな人だったんでしょうかね」

 謀反を起こされるだけの理由があるのなら、まだ救いはある話なのかもしれない。

「聞いた話ですが、人格者だったらしいですよ。貴族と平民を平等に扱い、無理な税の取り立てもしない。困った人間には救いの手を差し伸べ、貧しい人間には施しを与えたとか。それに何より、彼の魔力は飛びぬけて高かったらしいですよ。彼は誰よりも強く、誰よりも前線に出て、誰よりも魔物を打ち取ったと聞いています」
「非の打ち所がないですね」
「彼の魔力の高さはともかくとして、平民に対する対応は、貴族からは評価が悪いと思いますよ。所詮は貴族社会です。平民から指示を得てもあまり意味はありませんから。とは言え、あの小国は王国以上に魔力の高さがその人の価値を決めます。何に、今の大領主はほとんど魔力がないと聞きます。何でそんな人間が、大領主に勤まっているのか理解できませんね。そして何より、今の大領主は貴族至上主義と言う話です。僕の嫌いな人種ですよ」
「あなたには、嫌いな人種しかいないでしょ」
「嫌だなー、そんなことありませんよ、僕は人間が大好きですから」
「そうですか」

 ソフィーはオーランドの顔を見ることなく、素っ気なく言った。

「何も分からないというのなら、調べておいてください。あなた、そういうの得意でしょう?」
「分かりました。分かり次第、連絡させます」

 オーランドは肩を竦め、苦笑する。

「お願いします」

 マリアか頭を下げると、オーランドは軽く頷く。

 ソフィーは窓を開くと、風が彼女の髪を揺らした。

「マリア」

 名前を呼び、ソフィーは彼女に向かって、手を伸ばす。

 飛ばなくてもいいと思いますけど――そう言ったって、無駄なことぐらい、マリアはもう分かっている。
 
 ソフィーの手を取る。彼女の笑顔に、マリアはつられて笑ってしまう。手を引っ張られ、抱きしめられる。マリアは彼女の肩に額を押し付ける。顔が熱くなって、冷えてくれない。

「そろそろ、行きますよ」

 耳元でささやかれる。心が押しつぶされそうだ。

 空の浮遊感も、彼女の感触も、とても慣れそうにない。きっと、永遠に。
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