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第2章
第32話 信用と信頼
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エリーナの言葉に、クラーラは顔面が蒼白になる。
「えっと、意味が分からないよ」
声が震えている。
頭で理解しても、心が理解できない。
「彼女と、宿営場で話した時、嫌な予感がしていましたわ。ロザリア家の領地でクーデターが頻発していると聞いていましたので」
「それが、イレーネさんと関係してるって言うの?」
「分かりませんわ。だから、今日から暫く実家へ帰ることにしましたの。厄介払いされた私が、戻ったところで、なんの意味もないかもしれませんが」
エリーナは自嘲気味に笑った。
「私も行く」
クラーラは、声を振り絞り、言葉にした。
「これは、私のただの勘。何の根拠もない話であり、イレーネとは何の関わりもないかもしれませんわよ」
「それでもいい。だって、ただ待っているだけなんて、嫌だもん」
「危険ですわよ」
「いい。それでも、私は行く」
エリーナは、ため息を吐く。
「それなら、好きにすればいいですわ」
「うん、好きにするよ」
マリアはベンチの上へ置いた買い物袋に目を向けた後、エリーナに尋ねる。
「いつ行く予定なんです?」
「今すぐに向かう予定ですが――」
「できたら、少し待って欲しいんだけど」
クラーラは申し訳無さそうに、手を合わせた。
エリーナは近くにある時計台で時間の確認をする。
「私にも、馬車等の準備もありますから、11時45分に西口の門に集合で問題ないかしら?」
「大丈夫、間に合わせるから」
そう言って、クラーラはすぐに走り出した。
「私も行きますよ」
そう言って、マリアは買い物袋を手に持った。
「何故、貴方まで?」
理解できない、そんな顔。
「だって、心配ですから」
「私では、信用できないとでも言うんですの?」
エリーナは少し、苛立ったように言った。
「エリーナさんのこと、ちゃんと信用してますし、信頼していますよ」
「では――」
「それでも、大切な人なら心配しますよ。クラーラさんのように」
エリーナは盛大なため息を吐くと、額に手を置いた。
「貴方って言う人は、いちいち言い方が――」
マリアは頭上に気配を感じた瞬間、頭に衝撃を受け、涙目で地面に蹲った。
後ろから恐ろしい気配がする。振り向くと、ソフィーが見下ろしていた。無表情で。
マリアは背筋が凍る。
「あのー、私、何かやらかしましたかね?」
片手でタンコブができていないか確認する。
「気にしないで下さい。少し腹がたっただけなので」
ソフィーの理不尽な言葉に、マリアは開いた口が塞がらない。
「マリア、行くのですか?」
「あ、はい。一度、メイド長には頭を下げに行かないといけませんが」
「つまり、仕事を放棄するのですね」
マリアは言われて気付く。仕事を放棄すると言うことは、ソフィーの面倒を見ないと言うことだ。そんな当たり前の事実に今更気付いた。
「いやー、そのぉ……すみません」
言い訳が思い付かず、マリアは素直に謝罪した。
「別に構いません、あなたがそういう人間だと、理解しているつもりですから」
「えっと――帰ったら、普段以上に頑張りますよぉ」
マリアは片手で作った拳を天高く掲げる。
「つまり、私がすることを拒否しなくなると、そう、判断すればよいのですね」
マリアの掲げた拳が徐々に降下していく。
「ま、任して下さい」
マリアは考える。――1回でもキスをすれば、きっとソフィーは気が済むだろうと。それに何より、2回目なんだから、きっと耐性もできている筈だ。
マリアは心の中で拳を作り、心の中で気合の叫び声を上げた。
ソフィーは笑う。その笑みを少しだけ、怖いとマリアは思った。ソフィーはマリアの耳元に口を近づける。
「怖いですか?」
「え? いやぁー、そんなことないですよぉ」
ソフィーには分かる、それは嘘だと。でも、それすら可愛いと思う私は、きっとおかしいのだろうと、ソフィーは思った。
マリアの手を取り、彼女を起こし、手を離したら、熱が逃げる。そのとき感じた感情は、寂しい――そんな言葉が、ソフィーの頭の中に浮かんだ。
「因みにですが、私も行きますので」
ソフィーのその言葉に、マリアは驚く。
「今更ですが、もしかして話、ずっと聞いてました?」
「さぁ、どうですかね。それより、その頼まれた買い物袋、持っていかないのですか?」
「何でそんなことまで知ってるんですかね?」
「それぐらい、簡単に予想できますよ」
「まぁ、それは確かに」
マリアは簡単に納得し、エリーナの方に視線を向ける。今の状況をまだ理解できていない彼女は混乱しているが、マリアはそれに気付かない。
「それでは、私たちも一緒に行きますが、一旦抜けますので。それでは、西口のほうで」
「え、ええ」
マリアが背を向けた瞬間、エリーナは慌てて呼び止める。
「ち、ちょっとお待ちくださいまし。もしかして、本当に姫様もお越しになられますの?」
「何か、問題でもありますか?」
ソフィーの不機嫌そうな顔に、エリーナは悲鳴を上げたい気分になる。
「そ、そう言うわけではありませんわ。ただ、普通の馬車しかご用意をしておりませんので」
「別に、構いません」
「は、はぁ」
ソフィーは断りもなく、マリアを軽々と持ち上げる。
「こ、今回はさすがに飛ばなくても」
「しっかり掴まないと振り落とされますよ」
「前はあまり掴むなって言ってたじゃないですかぁ」
一声もなく急に飛び始めたため、マリアは慌てて彼女にしがみ付く。
嫌がらせのように速度を上げたため、ソフィーとマリアの姿は、下から見上げるエリーナの目からはすぐに見えなくなった。
「何なんですの? 一体」
エリーナは茫然と、二人の消えた空をしばらく眺めた。
「えっと、意味が分からないよ」
声が震えている。
頭で理解しても、心が理解できない。
「彼女と、宿営場で話した時、嫌な予感がしていましたわ。ロザリア家の領地でクーデターが頻発していると聞いていましたので」
「それが、イレーネさんと関係してるって言うの?」
「分かりませんわ。だから、今日から暫く実家へ帰ることにしましたの。厄介払いされた私が、戻ったところで、なんの意味もないかもしれませんが」
エリーナは自嘲気味に笑った。
「私も行く」
クラーラは、声を振り絞り、言葉にした。
「これは、私のただの勘。何の根拠もない話であり、イレーネとは何の関わりもないかもしれませんわよ」
「それでもいい。だって、ただ待っているだけなんて、嫌だもん」
「危険ですわよ」
「いい。それでも、私は行く」
エリーナは、ため息を吐く。
「それなら、好きにすればいいですわ」
「うん、好きにするよ」
マリアはベンチの上へ置いた買い物袋に目を向けた後、エリーナに尋ねる。
「いつ行く予定なんです?」
「今すぐに向かう予定ですが――」
「できたら、少し待って欲しいんだけど」
クラーラは申し訳無さそうに、手を合わせた。
エリーナは近くにある時計台で時間の確認をする。
「私にも、馬車等の準備もありますから、11時45分に西口の門に集合で問題ないかしら?」
「大丈夫、間に合わせるから」
そう言って、クラーラはすぐに走り出した。
「私も行きますよ」
そう言って、マリアは買い物袋を手に持った。
「何故、貴方まで?」
理解できない、そんな顔。
「だって、心配ですから」
「私では、信用できないとでも言うんですの?」
エリーナは少し、苛立ったように言った。
「エリーナさんのこと、ちゃんと信用してますし、信頼していますよ」
「では――」
「それでも、大切な人なら心配しますよ。クラーラさんのように」
エリーナは盛大なため息を吐くと、額に手を置いた。
「貴方って言う人は、いちいち言い方が――」
マリアは頭上に気配を感じた瞬間、頭に衝撃を受け、涙目で地面に蹲った。
後ろから恐ろしい気配がする。振り向くと、ソフィーが見下ろしていた。無表情で。
マリアは背筋が凍る。
「あのー、私、何かやらかしましたかね?」
片手でタンコブができていないか確認する。
「気にしないで下さい。少し腹がたっただけなので」
ソフィーの理不尽な言葉に、マリアは開いた口が塞がらない。
「マリア、行くのですか?」
「あ、はい。一度、メイド長には頭を下げに行かないといけませんが」
「つまり、仕事を放棄するのですね」
マリアは言われて気付く。仕事を放棄すると言うことは、ソフィーの面倒を見ないと言うことだ。そんな当たり前の事実に今更気付いた。
「いやー、そのぉ……すみません」
言い訳が思い付かず、マリアは素直に謝罪した。
「別に構いません、あなたがそういう人間だと、理解しているつもりですから」
「えっと――帰ったら、普段以上に頑張りますよぉ」
マリアは片手で作った拳を天高く掲げる。
「つまり、私がすることを拒否しなくなると、そう、判断すればよいのですね」
マリアの掲げた拳が徐々に降下していく。
「ま、任して下さい」
マリアは考える。――1回でもキスをすれば、きっとソフィーは気が済むだろうと。それに何より、2回目なんだから、きっと耐性もできている筈だ。
マリアは心の中で拳を作り、心の中で気合の叫び声を上げた。
ソフィーは笑う。その笑みを少しだけ、怖いとマリアは思った。ソフィーはマリアの耳元に口を近づける。
「怖いですか?」
「え? いやぁー、そんなことないですよぉ」
ソフィーには分かる、それは嘘だと。でも、それすら可愛いと思う私は、きっとおかしいのだろうと、ソフィーは思った。
マリアの手を取り、彼女を起こし、手を離したら、熱が逃げる。そのとき感じた感情は、寂しい――そんな言葉が、ソフィーの頭の中に浮かんだ。
「因みにですが、私も行きますので」
ソフィーのその言葉に、マリアは驚く。
「今更ですが、もしかして話、ずっと聞いてました?」
「さぁ、どうですかね。それより、その頼まれた買い物袋、持っていかないのですか?」
「何でそんなことまで知ってるんですかね?」
「それぐらい、簡単に予想できますよ」
「まぁ、それは確かに」
マリアは簡単に納得し、エリーナの方に視線を向ける。今の状況をまだ理解できていない彼女は混乱しているが、マリアはそれに気付かない。
「それでは、私たちも一緒に行きますが、一旦抜けますので。それでは、西口のほうで」
「え、ええ」
マリアが背を向けた瞬間、エリーナは慌てて呼び止める。
「ち、ちょっとお待ちくださいまし。もしかして、本当に姫様もお越しになられますの?」
「何か、問題でもありますか?」
ソフィーの不機嫌そうな顔に、エリーナは悲鳴を上げたい気分になる。
「そ、そう言うわけではありませんわ。ただ、普通の馬車しかご用意をしておりませんので」
「別に、構いません」
「は、はぁ」
ソフィーは断りもなく、マリアを軽々と持ち上げる。
「こ、今回はさすがに飛ばなくても」
「しっかり掴まないと振り落とされますよ」
「前はあまり掴むなって言ってたじゃないですかぁ」
一声もなく急に飛び始めたため、マリアは慌てて彼女にしがみ付く。
嫌がらせのように速度を上げたため、ソフィーとマリアの姿は、下から見上げるエリーナの目からはすぐに見えなくなった。
「何なんですの? 一体」
エリーナは茫然と、二人の消えた空をしばらく眺めた。
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