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第2章
第30話 永遠
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シェディム王国。精霊の子が築いた国。神々の遺物を多く残し、奇跡を起こす、人の唯一の国家。城を中心にし、市内を囲う城壁の長さはおよそ30㎞。その王国の周りには結界が張られている。神々が残したと言われる神器の1つ、結界を生み出す装置に聖女は魔力を定期的に流す。その間隔は聖女の魔力により異なる。今の聖女は1か月ほどの間隔で魔力を流し込む。それは彼女の、膨大な魔力により可能となる間隔。
国は1つだけ。しかし大貴族の治める土地がいくつかあり、それは1つの小さな国家となっている。小国とも呼ばれているが、王国は国として認めていない。小国はすべて王国の管轄内だが、実際は大貴族により管理され、王国はほとんど関わっていないのが実情である。
人が治める国の他に、エルフが治める国、ドワーフの治める国があるが、どちらも数百年国交が断絶となっている。
***
次の日の早朝、馬車で王都まで帰還した。途中でヴァレッタに寄り、兵士や領主の方々から祝福を受けたが、夕方になる前には戻ってこれた。
城門前から人だかりができており、中々に派手なパレードとなっていた。いつも外側から眺めていただけなので、マリアとしては感動を覚えた。ソフィーは相変わらず無表情で興味がなさそうにしている。
「ソフィー様、みんなが祝ってくれてますよ」
馬車の外を見ながら、マリアは嬉しそうに言った。
「だから、何ですか。私には関係ありません」
「関係なくなんかないですよ。だって、ソフィー様がいたから、みんなの笑顔があるんですから」
「なんですか、それは」
ソフィーは鼻で笑う。
「ソフィー様がいるから、今、私はここにいるんですよ。だからあなたに、祝福を」
マリアは馬車の窓にかかるカーテンを閉め、ソフィーの方に身を乗り出す。
「私があなたの勇士を称え、祝福したいって――この気持ちだけは信じてくださいね」
ソフィーはマリアを見つめる。
「あなたのことなんて、信じられません。でも、今ここにいる今のあなただけは、信じています」
ソフィーはマリアの頬に触れる。
「あなたは、私を裏切りませんか?」
「私はあなたを、裏切りませんよ。かならず」
「駄目ですね、私は今のあなたしか信じられません」
「どうしたら信じてくれますかね?」
「あなたの心を、もっと私にください」
ソフィーはマリアの顔に近づいていく、少しずつ。
触れるか、触れないか、そんな距離で、二人はしばらく見つめ合った。
「好きですよ、ソフィー様」
「好きの意味も知らないのに?」
「あなたに触れたい。それが答えじゃだめですかね?」
マリアはソフィーの服の裾を軽く引っ張る。
「私も、あなたに触れたい、もっと、あなたの心を知りたい」
「では、もっと触れてください」
「マリア、目を閉じて」
唇に触れたのは、ほんの一瞬。でも、それは永遠のように感じた。
***
お城では豪華な祝賀会が行われた。ほとんど準備はできていたが、大変そうだったのでメイド服に着替え、マリアも手伝った。とは言っても、食器などを運ぶだけだが。
気に食わないのは、王族や貴族だけでのパーティであり、命を懸けて戦った人間はほとんどその中にいない。何より、ここにソフィーがいないことをマリアは許せなかった。
何だかすごくバカバカしい気持ちになってくる。
とりあえず大量においしそうな料理をくすねて、マリアはソフィーの部屋に向かった。
相変わらず長い階段を登り切り、部屋の扉を叩いて、声をかけてから中に入る。
ソフィーはベットから上体を起こした。机の上にあるランタンを魔法で火を点けた後、縁の部分に座る。そして、姫様は自分の隣を叩いた。
少しだけ、マリアは身を硬くする。
唇の感触を思い出し、1人で勝手に赤面する。あれから、何故かソフィーの顔を直視出来なくなった。
大した事はないと思っていたのに、少し触れただけでマリアは一杯一杯になった。なのに、ソフィーはさらにキスをしようとしてきたため、マリアは全力でそれを止めた。これ以上は自分の身が持たないと分かったからだ。だから、不満気に自分を見るソフィーが余裕そうに見え、悔しい気持ちで叫びたい気分になった。
「マリア、まだですか?」
ソフィーは自分の隣を、再び叩いた。先程よりも、少し強めに。
マリアは躊躇したが、意を決してソフィーの隣に座った。
「パーティで美味しそうなもの、たくさん持ってきましたよ。これはもう、ハッピーですねぇ」
マリアが持ってきたのは、ものの見事に肉料理しかない。バランスのへったくれもない、これがマリアのセンスだ。
「なぜこっちを見ないのですか?」
マリアは冷や汗を掻く。ソフィーの視線を痛いほど感じるため、料理の方から目線が外せない。
「だって今は、食事の時間ですからねぇ。主役はこの子達ですから、ソフィー様も見てやってくださいな。きっと、嫉妬しちゃっていますよぉ」
マリアは何とか、ソフィーの視線を料理達に向けさせようと必死になる。
ソフィーはマリアを不満そうに眺めた後、料理に視線を向ける。
「では、私が食べさせてあげます」
「え?」
トレイの上に乗ったフォークを掴むと、小さな肉を刺し、マリアの口元に近付ける。
「こちらを見てください、マリア」
「いやー、でもぉ、私はメイドなのでー、流石にご主人様に食べさせていただく訳にもいきませんしー」
マリアの目が泳ぐ。
「その主人が良いと言えば、それでいいんじゃないのですか?」
「いやー、でもぉ、私の方が2歳も年上ですしねぇ」
「マリアが、物心がついたころは何歳ですか?」
「え?」
マリアは記憶を遡る。
「5歳、くらいですかねぇ」
「私は0歳です。だから、大丈夫です」
謎理論が飛び出し、マリアは困惑する。
「そう言えば、私も0歳の頃の記憶が微かにあるようなないような、そんな気がしてきました」
マリアは必死になって、昔の記憶を遡って行く。
ソフィーは不機嫌な顔になると、体を起こし、マリアの前に立つと、彼女の持つトレイを片手で取り上げる。
「つべこべ言わないで下さい」
フォークに刺したお肉を再び、マリアの口元に近付ける。
マリアは目を瞑り、お肉を口にした。
「美味しいですか?」
正直、味が良く分からなかった。
「今まで、可愛いと思う感情を理解できませんでしたが、今は良く分かります。あなたが顔を赤くし、戸惑う姿を見ていると――」
ソフィーはフォークをトレイの上に置くと、マリアの顔に近付ける。息遣いが分かるぐらい、近くに。
「だから、その可愛い顔を他の人には見せないでください。見せてしまえば――私はその人をどうしてしまうか分かりませんから」
ソフィーはマリアの唇を、指で軽くなぞった。
国は1つだけ。しかし大貴族の治める土地がいくつかあり、それは1つの小さな国家となっている。小国とも呼ばれているが、王国は国として認めていない。小国はすべて王国の管轄内だが、実際は大貴族により管理され、王国はほとんど関わっていないのが実情である。
人が治める国の他に、エルフが治める国、ドワーフの治める国があるが、どちらも数百年国交が断絶となっている。
***
次の日の早朝、馬車で王都まで帰還した。途中でヴァレッタに寄り、兵士や領主の方々から祝福を受けたが、夕方になる前には戻ってこれた。
城門前から人だかりができており、中々に派手なパレードとなっていた。いつも外側から眺めていただけなので、マリアとしては感動を覚えた。ソフィーは相変わらず無表情で興味がなさそうにしている。
「ソフィー様、みんなが祝ってくれてますよ」
馬車の外を見ながら、マリアは嬉しそうに言った。
「だから、何ですか。私には関係ありません」
「関係なくなんかないですよ。だって、ソフィー様がいたから、みんなの笑顔があるんですから」
「なんですか、それは」
ソフィーは鼻で笑う。
「ソフィー様がいるから、今、私はここにいるんですよ。だからあなたに、祝福を」
マリアは馬車の窓にかかるカーテンを閉め、ソフィーの方に身を乗り出す。
「私があなたの勇士を称え、祝福したいって――この気持ちだけは信じてくださいね」
ソフィーはマリアを見つめる。
「あなたのことなんて、信じられません。でも、今ここにいる今のあなただけは、信じています」
ソフィーはマリアの頬に触れる。
「あなたは、私を裏切りませんか?」
「私はあなたを、裏切りませんよ。かならず」
「駄目ですね、私は今のあなたしか信じられません」
「どうしたら信じてくれますかね?」
「あなたの心を、もっと私にください」
ソフィーはマリアの顔に近づいていく、少しずつ。
触れるか、触れないか、そんな距離で、二人はしばらく見つめ合った。
「好きですよ、ソフィー様」
「好きの意味も知らないのに?」
「あなたに触れたい。それが答えじゃだめですかね?」
マリアはソフィーの服の裾を軽く引っ張る。
「私も、あなたに触れたい、もっと、あなたの心を知りたい」
「では、もっと触れてください」
「マリア、目を閉じて」
唇に触れたのは、ほんの一瞬。でも、それは永遠のように感じた。
***
お城では豪華な祝賀会が行われた。ほとんど準備はできていたが、大変そうだったのでメイド服に着替え、マリアも手伝った。とは言っても、食器などを運ぶだけだが。
気に食わないのは、王族や貴族だけでのパーティであり、命を懸けて戦った人間はほとんどその中にいない。何より、ここにソフィーがいないことをマリアは許せなかった。
何だかすごくバカバカしい気持ちになってくる。
とりあえず大量においしそうな料理をくすねて、マリアはソフィーの部屋に向かった。
相変わらず長い階段を登り切り、部屋の扉を叩いて、声をかけてから中に入る。
ソフィーはベットから上体を起こした。机の上にあるランタンを魔法で火を点けた後、縁の部分に座る。そして、姫様は自分の隣を叩いた。
少しだけ、マリアは身を硬くする。
唇の感触を思い出し、1人で勝手に赤面する。あれから、何故かソフィーの顔を直視出来なくなった。
大した事はないと思っていたのに、少し触れただけでマリアは一杯一杯になった。なのに、ソフィーはさらにキスをしようとしてきたため、マリアは全力でそれを止めた。これ以上は自分の身が持たないと分かったからだ。だから、不満気に自分を見るソフィーが余裕そうに見え、悔しい気持ちで叫びたい気分になった。
「マリア、まだですか?」
ソフィーは自分の隣を、再び叩いた。先程よりも、少し強めに。
マリアは躊躇したが、意を決してソフィーの隣に座った。
「パーティで美味しそうなもの、たくさん持ってきましたよ。これはもう、ハッピーですねぇ」
マリアが持ってきたのは、ものの見事に肉料理しかない。バランスのへったくれもない、これがマリアのセンスだ。
「なぜこっちを見ないのですか?」
マリアは冷や汗を掻く。ソフィーの視線を痛いほど感じるため、料理の方から目線が外せない。
「だって今は、食事の時間ですからねぇ。主役はこの子達ですから、ソフィー様も見てやってくださいな。きっと、嫉妬しちゃっていますよぉ」
マリアは何とか、ソフィーの視線を料理達に向けさせようと必死になる。
ソフィーはマリアを不満そうに眺めた後、料理に視線を向ける。
「では、私が食べさせてあげます」
「え?」
トレイの上に乗ったフォークを掴むと、小さな肉を刺し、マリアの口元に近付ける。
「こちらを見てください、マリア」
「いやー、でもぉ、私はメイドなのでー、流石にご主人様に食べさせていただく訳にもいきませんしー」
マリアの目が泳ぐ。
「その主人が良いと言えば、それでいいんじゃないのですか?」
「いやー、でもぉ、私の方が2歳も年上ですしねぇ」
「マリアが、物心がついたころは何歳ですか?」
「え?」
マリアは記憶を遡る。
「5歳、くらいですかねぇ」
「私は0歳です。だから、大丈夫です」
謎理論が飛び出し、マリアは困惑する。
「そう言えば、私も0歳の頃の記憶が微かにあるようなないような、そんな気がしてきました」
マリアは必死になって、昔の記憶を遡って行く。
ソフィーは不機嫌な顔になると、体を起こし、マリアの前に立つと、彼女の持つトレイを片手で取り上げる。
「つべこべ言わないで下さい」
フォークに刺したお肉を再び、マリアの口元に近付ける。
マリアは目を瞑り、お肉を口にした。
「美味しいですか?」
正直、味が良く分からなかった。
「今まで、可愛いと思う感情を理解できませんでしたが、今は良く分かります。あなたが顔を赤くし、戸惑う姿を見ていると――」
ソフィーはフォークをトレイの上に置くと、マリアの顔に近付ける。息遣いが分かるぐらい、近くに。
「だから、その可愛い顔を他の人には見せないでください。見せてしまえば――私はその人をどうしてしまうか分かりませんから」
ソフィーはマリアの唇を、指で軽くなぞった。
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