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第1章

第25話 女王

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 坑道の中へ入るが、暗く何も見えない。坑道の中は普通だと壁にランタンがあり、辺りを照らすはずだが、ここは何年も前から使用されていないため明かりが一切点いていない。

 マリアはポケットから信心用具を取り出す。目が金色に光り、祈りの言霊を吐く。
 無数の光の玉が浮き、辺りを照らした。

「マリア、助かったわ」
「気にしなくて大丈夫です。先を急ぎましょう」
「そうね、みんな、走っていくわよ」

 再びバルカスが先行する。道は狭く、ゴブリンは律儀に一列で歩いてくる。そのため、クラーラの魔法で想定以上に敵が減っていた。

 狭い道を抜けると、広い場所にでる。皆一斉に足を止めた。
 20m以上の岩壁に囲まれた天井は大きな穴が空き、空が見える。
 
 マリアは光の玉を消した。

 陽の光に照らされ、10m近いゴブリンの女王は壁に寄りかかり、座ったまま、風船のように膨らんだお腹を撫でている。女王の目がマリア達を映すと、その体にしがみつく大量のゴブリン達もこちらに目を向けた。
 女王の視線に体が重くなるだけのプレッシャーを感じるが、特に攻撃を仕掛けてくる気配はない。
 他のゴブリンも、女王にしがみつくだけで、動こうとはしない。

 バルカスが言葉を発しようとしたとき、手前の地面が波打ち、揺れた。そこから菱形の石が飛び出し、女王に向かって大量に放出されるが、女王の手前で石が飛散する。

「目に見えないけど、障壁が張られているわね」

 イレーネは顔を顰める。

 手前の地面に小さな波が起こり、メアが地上に顔を出す。

「攻撃が来ます」

 メアの声は、マリアが想像していたより幼い少女の声だった。

 女王が咆哮を上げ、振動で体が震える。
 他のゴブリン達も女王を称えるように雄叫びを上げた。

 マリアは咄嗟に、ゴブリン達を覆うようにドーム状の結界を張る。

 女王の口から禍々しい黒い霧が発生し、数秒後、高濃度の黒い光を放出したが、マリアの結界により拡散する。

「大した結界ですね」

 オーランドは緊張感のない声でマリアを称える。

「内側にいる敵は外側に出られるんですか?」
「私が想定した強さなら、まず出てこれませんし、私達は自由に出入り出来ます。外側からなら攻撃を弾くことはないです」
「それは便利ですね」

 オーランドは感心したように頷く。
 マリアはため息を吐くと、目が黒色に戻る。彼女の魔力量なら、破壊されない限り、数日間は問題なく維持することができる。それができるのは彼女と聖女くらいだ。

「オーランド様、何もしなければ、大体1分間隔でゴブリンが数体ほど増えていきます。生まれる数にばらつきがあり、十体以上のときもありました」

 メアは地上に顔だけ出した状態で、口を開く。

「攻撃は通りますか?」
「いえ、全く通る気配がありません」

 メアは再び地面に消えた後、大量の魔法弾を叩きつけるが、女王まで届かない。

「クラーラ、魔法」

 クラーラは頷くと、杖を女王の方に向け、炎の弾丸を放つが、やはり女王の前で拡散してしまう。
 クラーラは涙目でイレーネを見る。
 イレーネは駄目元で矢を放つが、やはり届かない。
 
「魔法も、物理も無理とか、ちょっとこれは、どーしたものかしらね」
「俺が打って出るか?」
「それはちょっとリスキーな話よ」
「これ、逃げた方がいいっすかねぇ?」

 エディの言葉に、誰も返事を返さない。

「ソフィー様」

 オーランドに名前を呼ばれ、ソフィーはため息を吐く。

 ソフィーは右手を前に突き出し、手を広げた。周辺に粒子が溢れ出し、剣の形になる。手に取ると軽く振り回し、目に留まらぬ速さで女王の頭上まで飛ぶと、剣を頭へ叩き込んだ。
 女王へ触れる前にバリアと剣が反応し、爆散した。風圧で弾き飛ばされたが、ソフィーは直ぐに空中で体勢を整える。

 女王は悲鳴に近い声を出すと、お腹が急激に膨らみ、数十体のゴブリンが、女王の股下から飛び出してくる。すぐにこちらへ向かって走ってくるが、マリアの結界により体が弾き飛ばされる。
 それでもすぐに起き上がり、こちらに向かってくるため、クラーラとエディは魔法で攻撃した。

 女王のお腹からあれだけのゴブリンが出てきても、あまり萎んだ気配がない。

「攻撃すれば、ゴブリンが発生しないんじゃなかったんですか?」

 マリアの言葉にオーランドは考え込む。

「恐らく、女王はマナの力により力を肥大化させています。ソフィー様の力もマナの力です。そうであるなら、攻撃すればするほど、女王の力は増していくことになりますね」
「それって、打つ手なしってことじゃないですか?」
「体の表面に浮かぶ障壁がマナの力を吸収しているように見えます。それならば、ソフィー様とは余りにも相性が悪すぎる。なので、マリア様、よろしくお願い致します」

 マリアは目が点となる。

 オーランドはいい笑顔で頷く。

「女王とマリアさんの相性は最高の筈ですから」

 その言葉に、マリアは顔を顰めた。
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