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第1章
第20話 これはキスの味?
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馬車に乗り、王都を出る頃には、完全に日が落ちる。
天井にあるランタンを、ソフィーは魔法で火をつけた。
マリアは窓の外から視線を戻し、ソフィーの方に体を向ける。
「街の人達が一杯手を振ってくれましたね」
「だから何ですか? 見送りなんて何の意味もない、無駄な行為です」
「そんなことないですよ」
はあ? という顔をされる。
「だって、私は勇気を貰いましたよ。やってやるぞーって、そんな気分になりましたからねぇ」
「私はなりません」
「みんな同じじゃないんですから、それはしかたないですよ。私みたいな人間もいれば、姫様の様な考えを持つ人もいます。皆違って、それでいいじゃないですか」
「それをいいと思うあなたの考えが、私には理解できません」
「まあ、それは一旦置いといて――」
マリアはバスケットを掲げる。
「そろそろ、食べませんか?」
「好きにしてください」
「ではでは、そうさせて貰いますからねぇ」
マリアはバスケットを膝の上に乗せ、蓋を開けた。
色とりどりのサンドイッチが現れる。グチャグチャになって。
「私のせいじゃありませんよ?」
マリアはソフィーの顔色を伺う。
「私のせいだと言うのですか?」
「まあ、どっちでもいいですよね。形が崩れているだけですから。全然問題ないですよ、きっと」
マリアは、紙で挟まれたサンドイッチを掴み、ソフィーの口元に近付ける。
「何ですか?」
ソフィーは相変わらず不機嫌そうだ。
「食べてみて下さい。一番綺麗で、美味しそうですよ?」
ソフィーは暫く思案した後、小さい口でそのまま齧り付く。
手渡しのつもりだったため、ソフィーの予想外の行動に、マリアは不覚にも一瞬、胸が高鳴った。
これじゃー、イレーネさんとクラーラさんと一緒じゃないですか!
不覚にも、あーん、をしてしまった自分の姿を想像し、身悶える。
ソフィーからはジト目を向けられた。
「自分で食べます」
ソフィーがサンドイッチを取ろうとした時、マリアの指に触れ、お互いの手が反射的に離れた。サンドイッチが床に落ちたため、マリアは慌てて拾い上げた。何度も息を何度も吹きかけ、何故かほっとしたような顔をする。
「完璧な早さでしたねぇ、今の。自分で自分をほめてあげたくなりましたよ。姫様、知ってます? これが3秒ルールです。いや、今のはコンマ何秒の世界でした」
ドヤ顔でサンドイッチを持つマリアに、ソフィーは蔑んだ目を向ける。
マリアは気にせずサンドイッチを口にした。
「それ、間接キス――」
ソフィーは言いかけて、止めた。マリアと視線が合うと、直ぐに反らした。
ランタンの光に灯されたソフィーの顔は、赤く見えた。
***
目的地に到着したのは、だいたい3時間後。
城門前にいるのはヴァレッタの兵士達。慌ただしく準備をしており、忙しそうだ。王国軍は彼らと合流し、状況の確認を行う。
王家の馬車はそのまま都市の中に入っていった。
要塞都市ヴァレッタは領主ヨーゼフにより治められ、王都周辺の砦をまとめ上げる防衛の本拠地となっている。
住んでいる人間は基本的に兵士とその家族達だが、商い達も多く暮らしており、1つの都市として賑わいを見せていた。
本来なら、例え深夜前でも人通りで騒がしいが、今の繁華街は閑散としている。
マリアは一度、冒険者の仕事でここを訪れていた。その時とは違う街の雰囲気に、何とも言えない気持ちになる。
領主の住む建屋は石壁で強固に作られていた。
その建屋の前で馬車を降りると、後ろを走っていた馬車からアレンとカーチス、オーランドが出て来る。
マリアが頭を下げると、アレン以外は笑顔で反応を返してきた。
中から領主ヨーゼフが出て来る。
年齢は65、身長は180cm。
前王から絶対的な信頼を得、多くの武勲を立てた人物である。
「わざわざお越し頂き、感謝いたします」
ヨーゼフは膝をつき、頭を下げる。
「顔を上げてくれ、ヨーゼフ。俺はそう云うのがあまり好かん。気楽にしてくれればいい」
アレンは面倒くさそうに言った。
「これは、申し訳ありません、王子。そういう訳には参りませんが、心遣い感謝いたします」
「そんなつもりはない。無駄な挨拶で時間を取られるのが馬鹿らしいだけだ。今は、そんなことで時間を浪費するわけにもいかんだろう?」
「確かに、その通りで御座います」
「さっそくで申し訳ないが、明日のことで話し合いたい」
「それでは、中で話しましょうか」
ヨーゼフが中に招こうとしたとき、ソフィーは口を挟む。
「私が参加する必要はないのでしょう?」
ヨーゼフは困った顔でアレンを見る。
「ヨーゼフ殿、この愚昧を――誰かに部屋を案内させて貰えないか?」
「分かりました、直ぐその様に手配いたします」
入口の扉を開くと、光が漏れ出す。
両隣に数人のメイド達がおり、客人に頭を下げる。そんな彼女らをぼんやりと照らすのは壁と天井にある魔法のランタン。
ヨーゼフは手前にいるメイドを呼び、ソフィーを部屋へ案内するよう伝えた。
「分かりました、旦那様」
メイドはソフィーの方に顔を向け、頭を下げた。
「ソフィー様、それではこちらへ」
後ろを向き、歩き出した。ソフィーはその背中の後に続き、ヨーゼフ達は彼女とは反対方向に向かって歩き出す。
マリアは交互を見比べ、ソフィーの後を小走りで追いかけることにした。
天井にあるランタンを、ソフィーは魔法で火をつけた。
マリアは窓の外から視線を戻し、ソフィーの方に体を向ける。
「街の人達が一杯手を振ってくれましたね」
「だから何ですか? 見送りなんて何の意味もない、無駄な行為です」
「そんなことないですよ」
はあ? という顔をされる。
「だって、私は勇気を貰いましたよ。やってやるぞーって、そんな気分になりましたからねぇ」
「私はなりません」
「みんな同じじゃないんですから、それはしかたないですよ。私みたいな人間もいれば、姫様の様な考えを持つ人もいます。皆違って、それでいいじゃないですか」
「それをいいと思うあなたの考えが、私には理解できません」
「まあ、それは一旦置いといて――」
マリアはバスケットを掲げる。
「そろそろ、食べませんか?」
「好きにしてください」
「ではでは、そうさせて貰いますからねぇ」
マリアはバスケットを膝の上に乗せ、蓋を開けた。
色とりどりのサンドイッチが現れる。グチャグチャになって。
「私のせいじゃありませんよ?」
マリアはソフィーの顔色を伺う。
「私のせいだと言うのですか?」
「まあ、どっちでもいいですよね。形が崩れているだけですから。全然問題ないですよ、きっと」
マリアは、紙で挟まれたサンドイッチを掴み、ソフィーの口元に近付ける。
「何ですか?」
ソフィーは相変わらず不機嫌そうだ。
「食べてみて下さい。一番綺麗で、美味しそうですよ?」
ソフィーは暫く思案した後、小さい口でそのまま齧り付く。
手渡しのつもりだったため、ソフィーの予想外の行動に、マリアは不覚にも一瞬、胸が高鳴った。
これじゃー、イレーネさんとクラーラさんと一緒じゃないですか!
不覚にも、あーん、をしてしまった自分の姿を想像し、身悶える。
ソフィーからはジト目を向けられた。
「自分で食べます」
ソフィーがサンドイッチを取ろうとした時、マリアの指に触れ、お互いの手が反射的に離れた。サンドイッチが床に落ちたため、マリアは慌てて拾い上げた。何度も息を何度も吹きかけ、何故かほっとしたような顔をする。
「完璧な早さでしたねぇ、今の。自分で自分をほめてあげたくなりましたよ。姫様、知ってます? これが3秒ルールです。いや、今のはコンマ何秒の世界でした」
ドヤ顔でサンドイッチを持つマリアに、ソフィーは蔑んだ目を向ける。
マリアは気にせずサンドイッチを口にした。
「それ、間接キス――」
ソフィーは言いかけて、止めた。マリアと視線が合うと、直ぐに反らした。
ランタンの光に灯されたソフィーの顔は、赤く見えた。
***
目的地に到着したのは、だいたい3時間後。
城門前にいるのはヴァレッタの兵士達。慌ただしく準備をしており、忙しそうだ。王国軍は彼らと合流し、状況の確認を行う。
王家の馬車はそのまま都市の中に入っていった。
要塞都市ヴァレッタは領主ヨーゼフにより治められ、王都周辺の砦をまとめ上げる防衛の本拠地となっている。
住んでいる人間は基本的に兵士とその家族達だが、商い達も多く暮らしており、1つの都市として賑わいを見せていた。
本来なら、例え深夜前でも人通りで騒がしいが、今の繁華街は閑散としている。
マリアは一度、冒険者の仕事でここを訪れていた。その時とは違う街の雰囲気に、何とも言えない気持ちになる。
領主の住む建屋は石壁で強固に作られていた。
その建屋の前で馬車を降りると、後ろを走っていた馬車からアレンとカーチス、オーランドが出て来る。
マリアが頭を下げると、アレン以外は笑顔で反応を返してきた。
中から領主ヨーゼフが出て来る。
年齢は65、身長は180cm。
前王から絶対的な信頼を得、多くの武勲を立てた人物である。
「わざわざお越し頂き、感謝いたします」
ヨーゼフは膝をつき、頭を下げる。
「顔を上げてくれ、ヨーゼフ。俺はそう云うのがあまり好かん。気楽にしてくれればいい」
アレンは面倒くさそうに言った。
「これは、申し訳ありません、王子。そういう訳には参りませんが、心遣い感謝いたします」
「そんなつもりはない。無駄な挨拶で時間を取られるのが馬鹿らしいだけだ。今は、そんなことで時間を浪費するわけにもいかんだろう?」
「確かに、その通りで御座います」
「さっそくで申し訳ないが、明日のことで話し合いたい」
「それでは、中で話しましょうか」
ヨーゼフが中に招こうとしたとき、ソフィーは口を挟む。
「私が参加する必要はないのでしょう?」
ヨーゼフは困った顔でアレンを見る。
「ヨーゼフ殿、この愚昧を――誰かに部屋を案内させて貰えないか?」
「分かりました、直ぐその様に手配いたします」
入口の扉を開くと、光が漏れ出す。
両隣に数人のメイド達がおり、客人に頭を下げる。そんな彼女らをぼんやりと照らすのは壁と天井にある魔法のランタン。
ヨーゼフは手前にいるメイドを呼び、ソフィーを部屋へ案内するよう伝えた。
「分かりました、旦那様」
メイドはソフィーの方に顔を向け、頭を下げた。
「ソフィー様、それではこちらへ」
後ろを向き、歩き出した。ソフィーはその背中の後に続き、ヨーゼフ達は彼女とは反対方向に向かって歩き出す。
マリアは交互を見比べ、ソフィーの後を小走りで追いかけることにした。
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