精霊の子と呼ばれ恐れられる姫様に、何故か私だけが溺愛されて困ってます!

tataku

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第1章

第18話 友達

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 マリアは部屋でメイド服からいつものシスター服と靴に履き替えた。
 どちらも対魔力に優れた装備である。
 そして、部屋から出ようとした時に、エリーナから貰ったアクセサリーのことを思い出す。
 メイド服から星を取り出し、しばらく眺めた後、ポケットの中に入れて部屋から出た。

 メイド長に伝えた通り、少し早めにソフィーの晩御飯を取りに行くと、コック長から大きめなバスケットを渡される。

「昼も遅めになったからまだ食えんかもしれん。だから軽食を作ったから、部屋でも馬車の中でも好きに食べてくれ」
「ありがとうございます」
「多めに作ったから、お前の分も中に入ってるからな」
「本当ですか? 嬉しいです。コック長の料理は凄く美味しいですからねぇ」
「嬉しいこと言ってくれるじゃないか」

 コック長は腰に手を置き、豪快に笑った。


 
 ***
 

 
 バスケットを持ってソフィーの部屋の扉を叩く。
 暫く待っても反応がないため、もう一度叩いてから部屋に入った。入ってすぐにソフィーが立っていたため、マリアは驚いた。そんな彼女を、ソフィーは無表情で眺める。

「遅かったですね」

 戸惑っていたマリアに、ソフィーは、ぽつりと口にした。
 まだ18時にもなっていない。

「待っていてくれたんですか?」
「そんなことはありえません。馬鹿なんですか?」

 ソフィーはふいっと顔を背けると、東側の窓を開け、外を眺める。

「お腹、空いてます?」
 
 ソフィの傍まで寄ると、彼女は顔だけマリアの方に向けた。
 
「空いていません」

 マリアは蓋の閉まったバスケットを宙に上げ、ソフィーに向かって軽く揺らした。
 
「コック長が気を利かせて、軽食を作ってくれたんです。私の分もあるみたいですし、後で馬車で頂きましょうね」
「好きにしてください」
「それでは、そろそろ行きましょうか?」
「まだ時間はあると思いますが?」

 何故かマリアの顔が少しだけ引き攣る。
 
「でもここを降りるのに15分近くはかかるので、時間的にはそろそろ向かった方がいいかもしれませんね」
「飛んで行けばすぐですから」
「いや、まぁ、それはそうなんですけどぉ」

 宙に上げたバスケットを下ろし、小刻みに体を揺らし始める。

「それではー、私、先に行かさせて貰いますかねぇ?」

 無意味に体を揺らすマリアを、ソフィーはしばらく眺める。

「怖いのですか?」
「え? いや、そんなことありえませんけどぉ?」

 マリアは笑う。少し、引き攣ってはいるが。

 ソフィーは少し邪悪な笑みを浮かべる。マリアはずっとソフィーの笑顔を見たかった。だが、こんな状況で、こんな笑顔ではない。

「今すぐ行きましょう」

 顔だけでなく体もマリアの方に向け、近づいてくる。

「いや、でも、早く行っても邪魔になるだけですからねー」
「大丈夫です。邪魔にならぬまで、空の上で待機していればいいだけですから」
「いやー、それはちょっとー」

 マリアの持っていたバスケットが勝手に宙に上がり、窓台の上に置かれた。

「これは、しばらくここに置いておきます」
 
 ソフィーは再びマリアの背中と膝裏に触れ、お姫様抱っこで持ち上げる。

「ご、強引ですねぇ」
「黙っていなさい。舌を噛みますから」

 ソフィーは飛んで部屋を出る。
 マリアは瞼を閉じ、必至にソフィーにしがみ付く。

「ですから、引っ付かないでください」
「そんなの、無理ですから!」

 首筋から伝わるぬくもり。何かを思い出しそうになり、ソフィーは少しだけ唇を嚙んだ。

「速度、少し上げますから」
「それは――」

 マリアが言い切る前に、ソフィーは速度を上げ飛んで行く。

 ソフィーは近くの山の頂上にある1本の大きな樹木の上でマリアを下し、二人は太い幹の上に座った。

「大きな樹ですね」

 マリアは呼吸を落ち着けてから、口にした。
 
「ええ、何千年も生きた樹ですから」

 ソフィーは王都を見下ろす。
 マリアもソフィーの顔を見た後、彼女の見る世界に目を向けた。

「綺麗な景色ですねぇ。好きなんですか?」
「そんなことはありえません。ただ、たまに来るだけです」

 マリアは声を立てずに笑う。

「そうですか、でも、本当にいい場所ですねぇ」

 暫く2人で黙って景色を眺めた。
 そろそろ、日が傾く頃合いだ。

「今から、しばらく独り言を言ってもいいですかね?」
「好きにすればいいのではないですか?」

 ソフィーの言葉はそっけない。
 でも、マリアは気にしない。

「私には昔、とても大事な友達がいました。ここの王都にきてしばらくしてからです。でもその子は見えないんです。話しかけても、何も答えない。でも、私にはそこに誰かいた気がしたんです。それは空想上の友達です。分かってはいました。でも、私は救われた。次第に、ここの生活にも慣れて、忘れていきましたけど。でも、その子がいたから、私は少しだけでも、ましな自分になれた気がします。だから、お礼を言いたいんです」

 マリアはソフィーの顔を見る。

「ありがとう、あの時の私を救ってくれて」
「……何故、私を見て言うのですか?」
「さぁ、なんでですかね?」

 少しむっとした顔になると、ソフィーは腰を上げる。

「では、そろそろ行きますよ」

 ソフィーの言葉に、マリアは何とも言えない表情になった。
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