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第1章
第10話 贈り物
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マリアとアンナは、湯船に浸かり息を吐いた。
「私、ちょっと嫉妬してたかも」
「嫉妬? 何でです?」
「ここより、お城で暮らすことをマリアは喜んでると思ったからかな」
「何でそう思ったんです?」
「だって、マリアはソフィー様の大ファンだから」
マリアは吐きかけた息を飲む。
湯船に寄りかかった体を起こし、アンナの方に顔を向ける。
「もしかして、気づかれてないとでも思ってた?」
アンナは驚きの声を上げる。
マリアは昨日ようやく、自分がソフィーに対して好意を抱いているのかも、と認識できたばかりだ。
それなのに、アンナの方が先にその事実を知っていた事に、マリアは軽いショックを受けた。
「他の王族の方がパレードしても、何の興味も示さないのに、ソフィー様の時はあんだけ興奮してたら、普通分かるよ。マリアがあれだけ感情的になるのはソフィー様だけだからね」
マリアは急激に気恥ずかしさを覚える。
「あらら、もしかして照れちゃった?」
「違いますよぉ。ちょっと逆上せたんですぅ」
マリアは目を瞑る。頬を指で突っついて来る相手を、暫く好きにさせた。
***
普段より、2時間も早く起きる。
外はまだ、暗い闇の中。
マリアは寝間着からシスター服に着替える。軽く髪を整え、荷物を手に持って部屋を出た。
夜目が利くため、灯りを持たず部屋を出る。
聖女はロビーの階段手摺に寄りかかって、煙草を吸っていた。彼女の右肩の付近に魔法による光の玉が、フヨフヨと浮いている。
「お早うマリア、良く起きられたわね。偉いわよ」
「お早うございます。セラ様、ここ煙草禁止ですから」
セラは左手に持った携帯灰皿の上に煙草の火を押し付け、蓋を閉めた。
灰皿をマリアの方に見せ、これで大丈夫でしょ? という顔をする。
「ここで吸うこと自体が駄目なんですよ」
「灰皿の上で吸ってたし、ゴミが出ていないからセーフよ、セーフ」
「煙と匂いが残るじゃないですかぁ」
「私は好きだから大丈夫よ」
「それ、セラ様だけですよ」
「マリアが知らないだけで、煙草愛好家は星の数ほど存在するわ」
「だとしても、ここで吸うのは禁止ですよ。それがルールなので」
「そう、それじゃあこれからは、私以外は禁止、と言う事でひとつ頼むわね」
セラは笑顔でマリアの肩を叩く。
これはもう、何を言っても無駄だと諦めた。
「それにしても。荷物、少ないわね」
始めは荷物を色々詰め込んでいたが、止めた。
「日用品と寝間着だけにしました。服は向こうの仕事着を着る事になりますし、必要ならまた取りに帰ればいいですしね」
距離はせいぜい歩いて20分ほどだ。
「なるほど、少しは成長しているのね」
マリアは何かと無駄に物を詰め込む癖がある。それを知っているため、セラは少し関心した。
二人は教会を出て、お城の方に向かう。
聖女は光の玉を歩く道の先に移動させる。
「お見送りなしなんて、マリアも案外人気がないのね、意外だわ」
「昨日の夜、アンナを中心に皆が送別会を開いてくれたんです。それ以上は求めていませんよ?」
「そう、それは良かったわね」
セラはマリアの頭を撫でる。
淡く光る鳥がマリア達の前を横切り、二人の周りを旋回する。足を止めるとマリアの肩の上に乗り、鳴き始めた。
下級だが精霊であり、それなりに魔力を内包している。
光の玉はマリアの頭上を照らした。
「これ、エリーナさんの使役している使い魔ですねぇ」
「そのようね」
「どうしましょうか?」
「しばらく待っていればいいんじゃないかしらね」
セラはそう言って笑った。
「それはどう言う――」
玄関の扉が開き、黒いネグリジェ姿のエリーナが現れマリアの方に向かって走って来る。
「マリアさん」
名前を呼んだ後、エリーナは息を整える。
落ち着くと、手に持ったネックレスをマリアの首に掛ける。
シンプルなデザインで、胸元に小さい星が付いている。
「ロザリア家は、ライバルの旅立ちにネックレスを送るのが風習となっていますわ。あなたはたかが一ヶ月と思っているかもしれませんが、私はその間にもっと強くなります。だからマリアさんはそのペンダントを見て、私を思い出しなさい」
エリーナの手が、マリアの首筋から離れる。
「私に追い抜かれない様、励む事を忘れずに」
エリーナはそう言って、微笑んだ。
「エリーナさん、ありがとうございます。大事にしますよ」
「これはあなたの為なんかじゃありませんわ。私自身の為です」
エリーナは気を引き締めると、聖女に頭を下げる。
「私のために時間を取らせてしまい、申し訳ありませんわ」
「気にしなくて良いわよ」
「痛み入りますわ」
マリアはエリーナの姿を眺める。
「それにしてもエリーナさんの寝間着、凄くエロいですねぇ」
黒いスケスケのネグリジェ姿。セラも確かに、と納得した。
エリーナは顔を真っ赤にし、胸元を隠す。
「い、急いでいまして、それで――」
「マリアはスケベだから、エリーナは少し気を付けたほうが良いわよ」
「違いますけどぉ!?」
エリーナは涙目でマリアを睨みつけた後、逃げる様に教会の中に戻った。
「あーあ、泣かしちゃったわね」
「私の所為ですかねぇ!?」
マリアの絶叫が木霊した。
「私、ちょっと嫉妬してたかも」
「嫉妬? 何でです?」
「ここより、お城で暮らすことをマリアは喜んでると思ったからかな」
「何でそう思ったんです?」
「だって、マリアはソフィー様の大ファンだから」
マリアは吐きかけた息を飲む。
湯船に寄りかかった体を起こし、アンナの方に顔を向ける。
「もしかして、気づかれてないとでも思ってた?」
アンナは驚きの声を上げる。
マリアは昨日ようやく、自分がソフィーに対して好意を抱いているのかも、と認識できたばかりだ。
それなのに、アンナの方が先にその事実を知っていた事に、マリアは軽いショックを受けた。
「他の王族の方がパレードしても、何の興味も示さないのに、ソフィー様の時はあんだけ興奮してたら、普通分かるよ。マリアがあれだけ感情的になるのはソフィー様だけだからね」
マリアは急激に気恥ずかしさを覚える。
「あらら、もしかして照れちゃった?」
「違いますよぉ。ちょっと逆上せたんですぅ」
マリアは目を瞑る。頬を指で突っついて来る相手を、暫く好きにさせた。
***
普段より、2時間も早く起きる。
外はまだ、暗い闇の中。
マリアは寝間着からシスター服に着替える。軽く髪を整え、荷物を手に持って部屋を出た。
夜目が利くため、灯りを持たず部屋を出る。
聖女はロビーの階段手摺に寄りかかって、煙草を吸っていた。彼女の右肩の付近に魔法による光の玉が、フヨフヨと浮いている。
「お早うマリア、良く起きられたわね。偉いわよ」
「お早うございます。セラ様、ここ煙草禁止ですから」
セラは左手に持った携帯灰皿の上に煙草の火を押し付け、蓋を閉めた。
灰皿をマリアの方に見せ、これで大丈夫でしょ? という顔をする。
「ここで吸うこと自体が駄目なんですよ」
「灰皿の上で吸ってたし、ゴミが出ていないからセーフよ、セーフ」
「煙と匂いが残るじゃないですかぁ」
「私は好きだから大丈夫よ」
「それ、セラ様だけですよ」
「マリアが知らないだけで、煙草愛好家は星の数ほど存在するわ」
「だとしても、ここで吸うのは禁止ですよ。それがルールなので」
「そう、それじゃあこれからは、私以外は禁止、と言う事でひとつ頼むわね」
セラは笑顔でマリアの肩を叩く。
これはもう、何を言っても無駄だと諦めた。
「それにしても。荷物、少ないわね」
始めは荷物を色々詰め込んでいたが、止めた。
「日用品と寝間着だけにしました。服は向こうの仕事着を着る事になりますし、必要ならまた取りに帰ればいいですしね」
距離はせいぜい歩いて20分ほどだ。
「なるほど、少しは成長しているのね」
マリアは何かと無駄に物を詰め込む癖がある。それを知っているため、セラは少し関心した。
二人は教会を出て、お城の方に向かう。
聖女は光の玉を歩く道の先に移動させる。
「お見送りなしなんて、マリアも案外人気がないのね、意外だわ」
「昨日の夜、アンナを中心に皆が送別会を開いてくれたんです。それ以上は求めていませんよ?」
「そう、それは良かったわね」
セラはマリアの頭を撫でる。
淡く光る鳥がマリア達の前を横切り、二人の周りを旋回する。足を止めるとマリアの肩の上に乗り、鳴き始めた。
下級だが精霊であり、それなりに魔力を内包している。
光の玉はマリアの頭上を照らした。
「これ、エリーナさんの使役している使い魔ですねぇ」
「そのようね」
「どうしましょうか?」
「しばらく待っていればいいんじゃないかしらね」
セラはそう言って笑った。
「それはどう言う――」
玄関の扉が開き、黒いネグリジェ姿のエリーナが現れマリアの方に向かって走って来る。
「マリアさん」
名前を呼んだ後、エリーナは息を整える。
落ち着くと、手に持ったネックレスをマリアの首に掛ける。
シンプルなデザインで、胸元に小さい星が付いている。
「ロザリア家は、ライバルの旅立ちにネックレスを送るのが風習となっていますわ。あなたはたかが一ヶ月と思っているかもしれませんが、私はその間にもっと強くなります。だからマリアさんはそのペンダントを見て、私を思い出しなさい」
エリーナの手が、マリアの首筋から離れる。
「私に追い抜かれない様、励む事を忘れずに」
エリーナはそう言って、微笑んだ。
「エリーナさん、ありがとうございます。大事にしますよ」
「これはあなたの為なんかじゃありませんわ。私自身の為です」
エリーナは気を引き締めると、聖女に頭を下げる。
「私のために時間を取らせてしまい、申し訳ありませんわ」
「気にしなくて良いわよ」
「痛み入りますわ」
マリアはエリーナの姿を眺める。
「それにしてもエリーナさんの寝間着、凄くエロいですねぇ」
黒いスケスケのネグリジェ姿。セラも確かに、と納得した。
エリーナは顔を真っ赤にし、胸元を隠す。
「い、急いでいまして、それで――」
「マリアはスケベだから、エリーナは少し気を付けたほうが良いわよ」
「違いますけどぉ!?」
エリーナは涙目でマリアを睨みつけた後、逃げる様に教会の中に戻った。
「あーあ、泣かしちゃったわね」
「私の所為ですかねぇ!?」
マリアの絶叫が木霊した。
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