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第1章
第9話 ライバル
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「そろそろ、泣き止んだ?」
「泣いてませんけど!?」
マリアは 部屋の時計に目を向ける。
もうすぐ、晩御飯の時間だ。
「部屋に戻りますから」
マリアはソファから立ち上がる。
結局、他愛のない話しかしていない。
セラ様の気まぐれで呼ばれただけだと、マリアは結論付けた。
「ちょっと待ちなさい。まだ大事な話が終わっていないわよ」
「大事な話なんかあるんですか?」
「あるに決まってるでしょ」
「本当ですかねぇ?」
「何言ってるのよ、さっきまでの会話だって、涙もありの有意義な、大事な話だったでしょ?」
「まじで、私泣いてませんからね? 変な風評被害は勘弁してくださいよぉ」
セラはニマニマと笑う。
「帰りますよ?」
「だから大事な話をがあるって言ってるじゃないの」
「では、さっさと言って下さい」
「マリア、今日中に荷物を纏めてちょうだい」
理解が追いつかない。
「はい?」
***
食堂は大ホールとなっており、百人ほどの人間が食事を出来る広さとなっている。
長テーブルがいくつも並んでおり、食べる場所の指定がないため、平民と貴族は綺麗に分かれる。
食事は生徒達が当番制で行う。
マリアは席に付き、シチューに浸したパンを口にいれた。
「そう言えば、聖女様は何の用事だったの?」
隣の席に座るアンナは、素朴な疑問を投げかけた。
「私、明日からはお城の方で住む事になったんですよ」
アンナは手に持ったパンをシチューの中に落とす。
「それで今日中に荷物を纏めろって言うんですよ? 急な話でビックリしましたよ」
アンナは勢いよく立ち上がり、椅子をふっ飛ばし、右手を机に叩きつける。
「マリア、教会から出ていくの!?」
アンナの声は大ホール中に響き渡る。
騒がしかった食堂が徐々に静かになって行く。
「何で!? 一緒に貴族を打倒し、平民の時代を築くんだって、約束したじゃない! あれは嘘だったの!?」
いや、してませんけど?
周りの子達も立ち上がり、マリアの方へワラワラと近寄ってくる。
「退きなさい!」
人が波のように動き、道が出来る。
ツインドリルのお嬢様がマリアの前までやって来る。取り巻き二人を引き連れて。
彼女の名前は、エリーナ。年齢は19、身長は166cm。金髪の縦巻きロールが特徴的であり、由緒正しき大貴族のご令嬢嬢である。
聖女候補の一人であり、マリアの次に魔力が高い。
マリアは平民の代表に担ぎ込まれ、彼女は自ら貴族代表に名乗りを上げた。
「マリアさん、どう言う事ですの?」
「いや、明日からお城に行く話は――」
「逃げるのですか!? 私とあなたの勝負はまだ、終わっていませんわよ!」
取り巻き二人は腕を組み、一度大きく頷いた。
「エリーナさん、一度もマリアに勝てたことないじゃん」
「アンナさん、勝負はまだ続いていますわ。勝敗と言うのは、戦いが終わった時に決まるものなのですよ」
エリーナはマリアに向かって、指を突きつける。
「私が終わったと言うまで、戦いは決して終わりませんわ!」
「え? それは卑怯じゃん」
アンナは取り巻きに睨まれ、愛想笑いで誤魔化した。
「だから、勝手にいなくなることは、この私が決して許しませんわ。あなたは、私のライバルなのですわよ?」
エリーナはマリアに突きつけた手を胸に置き、悲しげに顔を歪める。
取り巻き二人は主人の姿に、涙腺を緩ませた。
マリアは頬を掻く。
「あのですね、お城に滞在するのは長くても一ヶ月ほどかと」
沈黙。
「だから、また戻ってきますよ?」
潮が引くように、みんな無言で自分の席に座り、何事もなかったかのように雑談が始まる。
「マリア、今日のシチューはいまいちだね」
マリアは食事を再開する。
まあ、いつもの事だ。
***
マリアが自分の部屋で荷造りしていると、扉が開き、アンナの顔が覗く。
「マリア、一緒にお風呂行こうよ」
「お風呂ですか? いいですよー」
荷造りは中止し、お風呂の準備を始める。
「荷造り、本当にしてるんだ」
「もう明日ですからねぇ」
「マリアって、意外と淡泊だよね。一言もしゃべらずに、真面目な顔を維持できれば、慈悲深い女神様の様に見えるのに」
「それ、褒めてますかぁ?」
「ん~、微妙かな。マリアはもっと私に優しくして、愛情を注がないと駄目だよ。花は直ぐに枯れちゃうもんなんだよ。だから、水をおくれ、水を」
マリアは下唇に人差し指を突きつけ、暫く思案した後、両手を広げる。
「抱きしめますよ?」
「マリアは本当、分かってないなぁ。催促されている時点でもう駄目なんだよ。だってそこに、マリアの心はないんだから」
なるほど、とマリアは頷いた。
「私、こう見えて結構寂しいんだよ。マリアはたかが一ヶ月って思ってるかも知れないけど、今まで毎日会っていたのに、会えなくなるのはやっぱり悲しいよ」
マリアは立ち上がると、アンナを抱きしめて背中を優しく撫でた。
「だから、心にもないことは――」
「私がしたいからするんです。ちゃんとありますよ。私の心が、ちゃんとアンナに向いていますから」
「······本当、ずるいよね、マリアは」
アンナは、静かに目を閉じた。
「泣いてませんけど!?」
マリアは 部屋の時計に目を向ける。
もうすぐ、晩御飯の時間だ。
「部屋に戻りますから」
マリアはソファから立ち上がる。
結局、他愛のない話しかしていない。
セラ様の気まぐれで呼ばれただけだと、マリアは結論付けた。
「ちょっと待ちなさい。まだ大事な話が終わっていないわよ」
「大事な話なんかあるんですか?」
「あるに決まってるでしょ」
「本当ですかねぇ?」
「何言ってるのよ、さっきまでの会話だって、涙もありの有意義な、大事な話だったでしょ?」
「まじで、私泣いてませんからね? 変な風評被害は勘弁してくださいよぉ」
セラはニマニマと笑う。
「帰りますよ?」
「だから大事な話をがあるって言ってるじゃないの」
「では、さっさと言って下さい」
「マリア、今日中に荷物を纏めてちょうだい」
理解が追いつかない。
「はい?」
***
食堂は大ホールとなっており、百人ほどの人間が食事を出来る広さとなっている。
長テーブルがいくつも並んでおり、食べる場所の指定がないため、平民と貴族は綺麗に分かれる。
食事は生徒達が当番制で行う。
マリアは席に付き、シチューに浸したパンを口にいれた。
「そう言えば、聖女様は何の用事だったの?」
隣の席に座るアンナは、素朴な疑問を投げかけた。
「私、明日からはお城の方で住む事になったんですよ」
アンナは手に持ったパンをシチューの中に落とす。
「それで今日中に荷物を纏めろって言うんですよ? 急な話でビックリしましたよ」
アンナは勢いよく立ち上がり、椅子をふっ飛ばし、右手を机に叩きつける。
「マリア、教会から出ていくの!?」
アンナの声は大ホール中に響き渡る。
騒がしかった食堂が徐々に静かになって行く。
「何で!? 一緒に貴族を打倒し、平民の時代を築くんだって、約束したじゃない! あれは嘘だったの!?」
いや、してませんけど?
周りの子達も立ち上がり、マリアの方へワラワラと近寄ってくる。
「退きなさい!」
人が波のように動き、道が出来る。
ツインドリルのお嬢様がマリアの前までやって来る。取り巻き二人を引き連れて。
彼女の名前は、エリーナ。年齢は19、身長は166cm。金髪の縦巻きロールが特徴的であり、由緒正しき大貴族のご令嬢嬢である。
聖女候補の一人であり、マリアの次に魔力が高い。
マリアは平民の代表に担ぎ込まれ、彼女は自ら貴族代表に名乗りを上げた。
「マリアさん、どう言う事ですの?」
「いや、明日からお城に行く話は――」
「逃げるのですか!? 私とあなたの勝負はまだ、終わっていませんわよ!」
取り巻き二人は腕を組み、一度大きく頷いた。
「エリーナさん、一度もマリアに勝てたことないじゃん」
「アンナさん、勝負はまだ続いていますわ。勝敗と言うのは、戦いが終わった時に決まるものなのですよ」
エリーナはマリアに向かって、指を突きつける。
「私が終わったと言うまで、戦いは決して終わりませんわ!」
「え? それは卑怯じゃん」
アンナは取り巻きに睨まれ、愛想笑いで誤魔化した。
「だから、勝手にいなくなることは、この私が決して許しませんわ。あなたは、私のライバルなのですわよ?」
エリーナはマリアに突きつけた手を胸に置き、悲しげに顔を歪める。
取り巻き二人は主人の姿に、涙腺を緩ませた。
マリアは頬を掻く。
「あのですね、お城に滞在するのは長くても一ヶ月ほどかと」
沈黙。
「だから、また戻ってきますよ?」
潮が引くように、みんな無言で自分の席に座り、何事もなかったかのように雑談が始まる。
「マリア、今日のシチューはいまいちだね」
マリアは食事を再開する。
まあ、いつもの事だ。
***
マリアが自分の部屋で荷造りしていると、扉が開き、アンナの顔が覗く。
「マリア、一緒にお風呂行こうよ」
「お風呂ですか? いいですよー」
荷造りは中止し、お風呂の準備を始める。
「荷造り、本当にしてるんだ」
「もう明日ですからねぇ」
「マリアって、意外と淡泊だよね。一言もしゃべらずに、真面目な顔を維持できれば、慈悲深い女神様の様に見えるのに」
「それ、褒めてますかぁ?」
「ん~、微妙かな。マリアはもっと私に優しくして、愛情を注がないと駄目だよ。花は直ぐに枯れちゃうもんなんだよ。だから、水をおくれ、水を」
マリアは下唇に人差し指を突きつけ、暫く思案した後、両手を広げる。
「抱きしめますよ?」
「マリアは本当、分かってないなぁ。催促されている時点でもう駄目なんだよ。だってそこに、マリアの心はないんだから」
なるほど、とマリアは頷いた。
「私、こう見えて結構寂しいんだよ。マリアはたかが一ヶ月って思ってるかも知れないけど、今まで毎日会っていたのに、会えなくなるのはやっぱり悲しいよ」
マリアは立ち上がると、アンナを抱きしめて背中を優しく撫でた。
「だから、心にもないことは――」
「私がしたいからするんです。ちゃんとありますよ。私の心が、ちゃんとアンナに向いていますから」
「······本当、ずるいよね、マリアは」
アンナは、静かに目を閉じた。
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