上 下
68 / 72

第68話 人との繋がり

しおりを挟む
僕が全員治すと言う事で、農民の人はふてくさりながらも並び直し、シープス卿はカッコつけるなと耳元で小言を言われた。

それから30人を急いで治療をしたが、ハンスさんやマジールさんと行った救護テントの経験が生きてかあの時よりも上手くやれたのだ。



「ふー・・・とりあえず終わりましたか」

30人の治療を終えて、ズキズキと響く頭痛に頭を押さえて一息いれた。

「お疲れ様です、ノエルさん」

「30人そこらで、体力のないやつだな本当に」

連続30人の癒しの光って、結構すごいって褒めて貰った事あるのにな・・・

「ちょっと失礼します・・」

先ほど貰った葡萄をパクりと口に。渋みは少しあるが甘くて美味しい、それに軽く噛んだらつるっと喉を水気と一緒に通っていくので食べやすい。

「これで一通り、終わらせましたので館に戻りましょうか。ドライフルーツもお約束しておりますからね」

用事は終わったので戻ろうという提案のアイシャさんの言葉に、シープス卿は待ってたにも関らず今思いついたようだ素振りで話だす。

「あー、折角だから少し村を案内して頂けないか」

「あっそれもいいですね、果物がお二人ともお好きならもぎ立てを食してみてください」

もぎ立てというのに心を惹かれるが、シープス卿の目は僕を見ていて何を伝えようとしているのかはよく分かっていた。

「えっと・・・僕は魔力の使い過ぎで疲れているので、嬉しいお誘いですが先にもどり休ませて頂きます」

その言葉にシープス卿は今までにない笑みを浮かべる。

「そうか、お前は立派な戦力だからな。休息は大事だ」

「それでしたら、シープス様には他の者をおつけしますので私はノエルさんと一緒に館に戻りましょう」

そう言って、アイシャさんは近場の者に声を掛けに行った。

シープス卿が、あっいやっと止める間もなくだ。

「魔道兵、お前邪魔をするつもりか」

「えぇ~・・・僕は協力しようとしてたじゃないですか・・・」

すぐに低い言葉で僕の耳元で脅してくるシープス卿。

だがアイシャさんは若い村娘を連れてきたので、怒り気味のシープス卿もすぐに機嫌をなおした。

「いや折角アイシャさんにと思ったが、忙しい身であるのなら仕方ない」

「では、ルーシィ、シープス様をご案内して。粗相のないようにね」

「はい、アイシャ様。ではご案内いたしますわシープス様」

ルーシィというアイシャさんには劣るが、可愛い女性の案内ということでご機嫌に僕らから離れて行った。僕の護衛じゃなかったのかと言いたくなるが、僕も一緒に居たい訳ではないのでせいせいした。

「ノエルさんはしばらく休息してからにいたしましょうか」

「申し訳ないですが、そうして頂けたらと思います・・・」

ずっと立ちっぱなしだった事で、村の広場にあるベンチに腰掛けて一度休息をとる。

「ふー・・・」

「そんなにグリモワールとはお疲れになるものなのでしょうか」

「そうですね・・・連続で使用は人それぞれですが・・・疲れます」

「そうですか・・・よかったら横になりますか?」

そういうアイシャさんは自分の膝をポンポンと叩いた。

「え?」

「そのままでは堅いので頭がいたくなると思ったのですが」

それが膝枕をしてくれるのだと分かると僕は一気にかっと体があつくなった。

「だだだいじょぶです。こうやって座って何か食べればゆっくりと魔力を回復していけ、いけるので」

「うふふ遠慮する必要はありませんのに」

「あっええっと、アイシャ様は生まれが、みな、港街という事ですが、ロックベイですか?」

焦った気持ちで強引に話を変えてしまったので、久しぶりにめちゃくちゃ噛んでしまう。

「はいそうですわ、ロックベイをご存じでしたか?」

「いえ、知り合いが港町出身の人でロックベイは良い街だといつも言ってましたけど、行ったことはありません」

「それは勿体無い、季節ごとに獲れる魚にいつ行っても美味しい料理が待ってますのに」

「あはは、その知り合いも魚魚って言ってました。あっこれもその知り合いから貰った物なんですよ」

ちょっと共通点と魔力の回復が始まったのか、僕はリラックスとした気持ちになっていた。そしてアルスさんから貰った水晶がついたチョーカーを服の中から取り出す。

「水晶ですか・・・あら?それはどなたに貰ったものでしょう」

僕が首から下げたままのチョーカーを、じっくりと見るために少しアイシャさんの顔が近くにきてドキっとしてまた僕の心拍数はあがった。

「えあ、アルスさんという方です。僕の兵の先輩であり友人であり恩人です」

「アルス?アルスをご存じなのですか?体が大きく、髪は色は黒から少し色が抜けたような赤毛。太い眉毛にきりっとした目の」

アルスさんの特徴を言われ、僕の知っているアルスさんと同じような為にアイシャさんはアルスさんの事を知っているのだと分かった。

アイシャさんは落ち着きながらも、少し早口な様子で聞いてくる感じはただの知り合いや顔見知りという訳では無い事が分かる。

「あっお知り合いですか?その人で会ってると思います」

「彼は、彼はまだ生きているのでしょうか?」

「はい、えっと一か月ほど前までは一緒にいましたので」

「そ、そうですか・・・今はどちらにかはご存じでしょうか?」

「北へ行くと聞いてます、帝国との国境付近にと」

「あぁ・・・そうですか・・・」

アイシャさんも国境付近が一番危ない事を知っている様子で、僕の言葉で意気消沈というような表情をした。

「で、でもアルスさんも僕と同じ魔道兵です。前線ではなく、後方からの魔法がメインになるかと・・・すいません気休めですが・・・」

自分でいいつつ、魔道兵だからといってずっと後方から魔法を撃つのが戦ではないのは知っていた為に、言い切る前に自信を無くしてしまった。

「アルスが魔道兵ですか!?あのアルスが!?」

だがそんな僕の尻すぼみの言葉に少し被る様に、驚いた様子のアイシャさん。僕の最後の方はほぼ聞こえていなかったかもしれない。

「は、はい。そうですよ」

「本当に魔道兵になっちゃうなんて・・・やっぱりすごいわねアルスは」

そういうアイシャさんの表情は落ち着いた微笑みに変わっていた。

「アイシャさんはアルスさんとは仲が良かったんですか?」

「そうよ、小さい頃から一緒だったの――――――――」

僕らはお互いの共通点が出来た事で、その場で話し込んだ。周りがせっせて戦の準備をしている中、広場の隅の木陰になっているその場所で。




「――――――本当、アルスなんて読み書きも18ぐらいにやっと覚えたのよ、それが魔道兵でグリモワールを読んでいるなんてうふふ」

「でも生まれ持った魔力は人並み以上らしいので、素質は高いようですよ」

「それもビックリですよ、はー・・可笑しいわ。久しぶりにロックベイにいた頃のように笑ったわ、あの時は私、リア、アルス、スナイプの4人でいつも些細な事で笑ってたわね~・・・あっそういえばアルスがいるのなら、スナイプもしっているのかしら?」

小一時間この場所で喋っていた。頭の隅にはスナイプさんの事もあった、だが無意識に自分からは避けていたのかスナイプさんの話題にはならなかったが・・・アルスさんと幼馴染と言う事はスナイプさんともなのは必然だった。

「あっ・・・」

そして片隅にあったとしても僕は、その質問に固まってしまった。どう答えるのが正解なのか・・・

嘘でも知る術がすぐにないのなら生きているといえばいい、アルスさん同様に今は知らないでもよかった。折角楽しい時間を過ごしているのなら、壊す必要はなかったのだ。

「・・・」

「・・・」

ただ僕の一言と表情でアイシャさんは悟ってしまった。僕も何か言えばいいのに、アイシャさんの表情で何も言葉は出なくなってしまった。

静かに涙を流したアイシャさんへ、言葉が見つからず、ただアイシャさんが泣き止むのをまっていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

処理中です...