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第66話 騎士の交渉

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食卓へと着く前に騎士達はその重い鎧を外す為に、別室へと連れていかれる。

僕は一人先に食卓へと案内され、先ほどの毅然として女性と二人っきりとなった。

テーブルには食器などを並べていく、使用人の人がいる為にまるっきり二人っきりという訳ではないので少し安心して騎士達が戻ってくるのを背筋を伸ばして静かに待つことにした。

「あなたも騎士なのでしょうか」

「あっいえ・・・ぼく、いえ私は魔道兵という兵科ですが、身分としては平民です・・・あっ!?そうですよ一緒に食事をとるなんて、あっ申し訳ないです」

僕は質問に答えながら、騎士や貴族などの身分の人と一緒に食事をとろうとしている事自体がおかしな事なのだと今更ながらに気が付いた。

すぐに立ち上がる。

「あっいえいえ、大丈夫ですからお座りになってください。2人な為に会話をと思っていたのですが、気の利いた始まりが出来ず申し訳ありませんわ」

だがアイシャさんは特段身分を聞きたい訳でなく、会話のとっかかりのような質問だったようだ。

「い、いえ・・・ではお言葉に甘えます」

そして僕は座り直し、さらにピンっと背中を張る。

「うふふ、そんな体勢だと窮屈でしょう。もう少し楽にして、お話でもしながら待ちましょう。騎士様方の鎧を脱ぐのは時間がかかりますから」

「・・・はい、少し辛かったので、ありがとうございます」

毅然とした態度は僕と同じように作っていた様子で、今は普通の年ごろの女性のように笑うアイシャさんの笑顔で僕の緊張の糸も少し切れた。

「では改めて自己紹介から始めましょう。私はアイシャ・ホーキン。夫のホニシス・ホーキンの第2婦人です。よろしくお願いいたします」

「僕は・・・魔道兵、メイジ1級のノエルと申します。よろしくお願いします」

自己紹介に、少し肩書のようなものをつけたくてメイジ1級と、1級という響きを使って見栄のような物をはってしまった事を言ってすぐに後悔。

「まぁ1級ですか、お若そうなのに立派ですわね」

「いえ、そんな・・・」

でも、やはり魔道兵の位なんて一般兵は知らないし、一般人ならそれこそ無縁なのだからメイジの上にウィザード、ソーサラーなんて物があるのを知らない。だから1級という響きですごいと思われてしまうのも無理はないが・・・そんな事で見栄をはった自分が恥ずかしくなった。

「ノエルさんはおいくつなのでしょうか?」

「ぼ、私は16ですね」

「成人したてで、すぐに兵にですか?」

「えっと、兄弟が多い事から徴兵でですね」

別になりたくてなったわけではない。それは言っておかないと、アルスさん達のような志を持って志願兵となっている人に申し訳ないと思い、いつもこの質問には徴兵と言っている。

「そうですか。でも自らではないにしろそのお年で、魔道兵という立場なら優秀なのでしょうね」

アイシャさんはそう言いながら、また上品に笑った。

「あっええっと・・・すいません1級というとすごいように聞こえますが、下位のクラスの1級です。メイジの上にウィザードやソーサラーというクラスがあるので、本当は下から数えて3番目なんです・・・優秀ではありません・・・」

褒められて悪い気はしないが、どこかむずがゆく、騙しているような気がして正直に話す。

それを聞いて、一度アイシャさんは目を丸くして驚いた後に大きく笑った。

「うふふふ、そんなに正直にお話する必要はありませんよ。それにこちらには有志の民兵を集めにいらっしゃのでしょう、嘘でも優秀と言ったり振舞わないと、兵はついてきませんわ」

そう言われて僕はしまったと思った・・・そうだ、自分の気持ちとかは二の次で兵を集めにきたんだったと言った側からまた後悔。

そして、アイシャさんは兵を集めに来た事を察している様子だった。

「あっいや・・・えっと・・・今のは・・・」

もう何か喋れば、ドンドンぼろが出そうな為に言葉に詰まってしまう。

「うふふ、はい。正直な魔道兵さんに免じて、今のはここだけのお話にしましょう」

「・・・助かります」

また大きく笑うとアイシャさんは一度、笑いを抑えた後に一息いれて話を再開する。

「ふー、私も何の戦で兵をと探ろうかと思っていましたが、それは別の方とお話をします。別のお話をしましょう」

「それは・・・助かります・・・」

しばらくぎこちない僕の受け答えにも、楽しそうに会話を続けてくれるアイシャさんと待っていると順番に料理は並び、騎士も席に着き始めたので会話は終わった。

アイシャさんも微笑んだ表情も少し、堅くして口元だけがほほ笑んでいる状態へと戻し、僕も背筋をピンと張りなおす。

「お前一人で粗相はなかっただろうな」

「はい・・・」

なんでこの人が隣なんだと、ホース卿が横に座り僕を注意するように言ってきた。

やはり若いせいか、騎士としての身分は同じだが、年のせいでか僕と同じように下座の方に座っている。

「平民なのに俺達と同じ席とは、魔道兵というものはくるってるな」

「そ、うですね」

「あまりガツガツ食うなよ、俺達もアイシャさんにお前と同類だと思われてしまうからな」

「はい、気を付けます」

すでに食事を前だというのに楽しくなくなっている。

「はぁ~、でもやっぱり綺麗だよな」

「・・・」

その後はホース卿がアイシャさんの褒める言葉を聞き流しながら、騎士が揃うのを待ち、領主のホニシス卿が来るのを待った。



皆が揃い食事は和やかに始まる。ガツガツと食べるなと言っていたホース卿だが、食事が進めば簡素な物しか食べていなかった騎士達はすごい勢いで食べ始めたのだ。

大皿で取り分けて食べる用だと思ったが、一人で大皿を空にしようとするホース卿。肉を使った料理だった為に欲しかったが、声を掛けることが出来ず黙って別皿の料理を進めた。

食事が佳境になると、領主のホニキスが騎士の一人に何の用でこの地に来たのかと本題を聞き始めたので、ガヤガヤと満腹になった他の騎士達も手を止めて話を聞く体制に入った。

僕は緊張からか、音を立てない様に静かに食べていたのでまだお腹いっぱいにはなっていない。その為に、皆が手を止めている傍らでゆっくりとだが目立たないように食事を続けた。

「ホニシス殿、今回こちらに来たのは民兵の募集で訪れたのだ。じきにボーンズ砦を攻めに異教徒共が押し寄せてくる。こちらも数を集める必要があってきた」

「民兵ですか・・・それはどのぐらいの人数でどのぐらい頂けるのでしょうか・・・」

民兵は農民、領地の労働力を減らしたくないという言葉を既に言っていた。その為にあまり協力的ではないと言う事は分かっての言葉だ。

「一人に付き銅貨1枚、人数は最低100。その他にも物資も譲っていただきたい」

下級兵士の一か月の賃金が銀貨1枚だったので、その10分の1だ。

「何をバカな事を・・・」

「馬鹿なことではないぞ、ホニキス殿。異教徒がボーンズを落とせば、更に異教徒たちは領土を拡大させてこの豊かな地にまで手が伸びるのだ。今出し渋って悪い結末を迎える事もないだろう」

悠然と騎士の一人は続ける。

「それでも、一人銅貨1枚はないだろ・・・」

「いやここだけの話だが、更にボーンズに近い土地には無償で呼びかけている。貰えるだけありがたいと思った方がいい」

この騎士と領主のやりとりで民兵は個人の気持ちで受ける物でなく、領主が何人出すかで決めるようなのだと知る。

そして黙って頭を抱える領主をよそに、騎士は続ける。

「更に断るという選択肢をとったのなら、今後この土地で何か問題が起きても王国は見てみぬふりをする。その事は十分に分かっているだろ」

「ぐっ・・・もちろん協力はしたい気持ちはある、物資は協力させてもらうが・・・人が100は・・・」

すでに脅迫に近い騎士の言葉だが、でもそういう事なのだろう。他の場所に困っている時に手を貸さないなら。お前が困っていた時はこっちも手を貸さない。それだけの事だ。

だがやはり労働力を失うという気持ちは拭い去れない様子なのだ。

そんなホニキス卿へ、更に言葉を続ける。

「だがな、それこそホニシス殿は運がいい。今回は魔道兵が我らと一緒という事だからな、怪我をして今動けないやつらも人数にいれていいぞ。無償で怪我を治してやる」

「それは・・・」

「民兵を返す時も怪我人は治療させて返す事を、約束しよう。それも無償だ」

「それでも、死ねば治したところで・・・」

「兵と物資させ揃えれば、ボーンズでの籠城、防衛戦だ。死ぬことの方が少ない、民兵なんて投石や兵へ食料や矢を運ぶ仕事だからな」

「それは分かっているが・・・」

「まぁ急に我らが訪れたにも関らず歓迎してくれているからな、悩む時間は与える。今日1日考え、明日の朝に返事を貰おうか。物資は先ほどの協力してもらえる旨を聞いたのでな、それだけは先に準備をするよう伝えておいてくれ」

「・・・あぁ分かった、アイシャ騎士達がおやすみになるようだ。寝床へと案内を頼む」

げっそりとした顔のホニキス。一方的に言い放った騎士には交渉の余地も無かったようで意気消沈していた。

席を順に立ち上がり、アイシャさんに続いて部屋を出ていく騎士。

まだ食事中だったのにな・・・そんな思いがあるせいか、僕は一番最後に立ち上がる。

「お前、魔道兵。・・・本当に怪我を治せるのか」

食堂に残されたホニキスは重たげな顔をあげて、僕を見ながらそう言ってきた。

「はい、治せますよ。敵の魔導士から魔法を受けた重傷者も治した経験があります」

先ほどの騎士とのやりとりを見ていたので、僕もめいいっぱい毅然と態度で応対する。ここで僕がナヨナヨとしてしまと、兵を出す気持ちが揺らいでも困る。

「そうか・・・」

そしてその態度を崩さない様に、僕は誰も手をつけなかった林檎と桃をその勢いのまま手に取ると部屋を出ていくのだった。
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