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第57話 フライトレス

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「ノエル来たんだね」

「うん、食料難で魔道兵とかそんな事いってられないからね」

「何をいまさらって感じだけど、一緒になれて嬉しいよ」

食料難の為に、兵士や傭兵が合同になって狩りを行う。

狩る獲物はフライトレスという、地を駆ける大きな鳥。群れで生息し、南部周辺でよく見かける魔物だというのだ。

兵士や傭兵が追い立て、そこを射手や魔道兵が討ち取っていく狩りの仕方だといい僕とグルームは近くに待機していた。

「フライトレスの狙いどころは聞いている?」

「狙いどころ・・・そんな余裕は僕にはないよ。当てるだけで精いっぱいです」

グルームとは魔法のコツという事で色々話をしてはいたが、実際に魔法を放つ事はなかった。使ったとしても水よ来たれなどの非戦闘魔法だけ。

「いい機会だから、魔法の練習にもなるしよく狙うんだよ。フライトレスは首の付け根がねらい目だからね」

「狙えるのかな・・・」

「意識が大事さ、大まかに捉えるよりもピンポイントで狙った方が精度は上がる物だから」

「確かにそれはありそうですね」

同い年ではあるが、グリモワール歴では何年もグルームの方が上。教わることは多い。

「ノエルには多分まだ無理だと思うけど、本当に魔法のみに集中したら魔法を放つ一瞬だけ世界がゆっくりと感じられるようになるから」

「何をそんなデタラメを・・・」

「この感覚をデタラメって疑う様ではやっぱりまだまだって事だね」

グルームはからかうように僕を笑った。

「むぅ~・・・僕はまだグリモワールをもって数か月だし」

「ふふ、だから上達するには集中する事だね」

「分かりましたよ、グルーム先生」

「素直でよろしい」

人との命の奪いあいではない為に、僕の心には余裕が生まれていた。それにやはりグルームといるのは楽しかった。

ただ僕らの前にいる兵士や騎士、隣にいる射手たちは空腹も相まって僕らの緩い会話にいい気はしないようで舌打ちやため息が聞こえてきていた。

無駄に緊張感は持ちたくなかったが、周りのぴり着いた空気に僕らは顔を見合わせ苦笑いをした後に、静かに待機した。




バタバタバタバタ

ドドドドドッ

羽音と足音が聞こえ始めていた。それとは別に兵士達の大声や太鼓などの音が大きくでる楽器。

「くるぞ」

「一匹も逃すなよー、俺達の当分の食料だからなー」

足音と共に平原を走るフライトレスの姿が見えてきた。ダチョウのような想像をしていたが全くの別物。共通するのは長く細い足で走っているだけだった。

羽毛の様な物はなく、肌がむき出しのツルツルとしている見た目。顔には細く長いくちばしがあり、頭には鶏のようなトサカまでついていた。

プテラノドンに足を長くはやした見た目をしている事であいつが魔物なのだと実感する。

「あれがフライトレス・・・」

「どうしたの?想像と違ってた?」

「かなり」

「まぁ味はいいから、沢山狩ろうね。よく狙うんだよ」

「そ、そうだね」

すでにグリモワールを構え、光の矢を放つ準備は出来ていた。

フライトレスは僕ら射手組の前を通り過ぎるように追い立てられる。目の前を勢いよく疾走していくフライトレスに当てなければいけないという、僕にとっては難易度の高そうだ。

ただ群れで移動しているし適当に撃っても当たるかな?僕らの横には射手も沢山並んでいる為に僕一人外した所でそこまで心配する必要はないかなと、フライトレスの数をみて思う。

「ノエル、自分一人外しても影響ないとか思ってない?」

「えっ・・・なぜ」

「はぁ~・・・やっぱり思ってたんだ。駄目だよ、みんながノエルと同じように思ったらどうするのさ」

「いや~みなさんはそんな事は・・・」

グルームに心を読まれたかのような質問を受け、僕は返答しながら周りの射手たちを見渡す。

だが、僕の気持ちとは裏腹に僕らの会話を聞こえていた兵士達もギクっとしたような苦い表情をしていた。

「だからこういう時こそ狙いをつけるんだよ。あれは自分が仕留めるってね。これは戦でも同じ、闇雲に撃っても敵は減らせない、敵を減らせば味方を救える。なら魔法1っ発1っ発に集中する事」

「分かりました・・・」

「まぁこれも師匠の受け売り、それにノエルは神聖だから元から味方を救う魔導書だからね、ちょっと違うけど魔法を使うんだから適当には駄目だよ」

「分かりました先生」

「よろしい」

グルームには学ぶ事がいつも多く、彼には魔道兵としての心得もいらなかったのではないかというぐらい、考えはしっかりと持っていた。


バシュバシュバシュ

「おっやったぜ」

「くそ、外した。次だ次」

魔道兵よりも射程の長い弓兵は僕らよりも先に矢を撃ち始めていた。

隣のグルームも集中を始めたのか、獲物に狙いを定め始めグルームのグリモワールと手が深い闇の霧に覆われていく。

「フー」

小さく息を吐く音が聞こえると、グルームは兵士よりも前に出て魔法名を口にした。

「穿つ闇の手」

グルームの右手から闇の霧状の触手が伸びていく。

その禍々しさに僕は目が離せなくなっていた。

その触手はグルームの右手と繋がったまま、20m?30m?ぐらいの長さにまで伸びきるとグルーム右手を横に振るう。

その触手はムチのようにしなりをみせ、フライトレスの塊を一瞬にして薙ぎ払った。

足をやられたフライトレス10匹ほどが勢いよくこけて、そのこけたフライトレスに躓く後列のフライトレス。

「今だ今だ!」

「チャンス!」

獲物が足を止めると更に勢いを増す射手たちの矢。

「ほらノエルもそろそろ撃てる距離でしょ、ぼーっとしない。良く狙って」

霧の触手がグルームの手に戻ってきたのと同時に、グルームはまた兵士よりも下がって僕の横に並ぶとそう言った。

「う、うん!・・・・・・・」

詠唱をし、倒れている1匹。あしをやられもがくフライトレスの首元に狙いを定める・・・

「光の矢!」

白く輝く矢は真っ直ぐに僕が狙ったフライトレスへ飛んでいく。飛距離があると思ったほど早くはない矢だなというのが感想だ。

これだと動いている相手には偏差撃ちが必要だなと思わされるぐらい遅い速度。

その光の矢を目で追い、僕が狙ったフライトレスには刺さらず別の走っていたフライトレスに突き刺さった。

「おっ、やった」

「残念、でも狙いはよかったよ。次次」

「あっばれた?」

グルームは僕が狙っている獲物に当たっていない事を分かっていたようだ。

「もちろん、僕もそっち使うかな・・・・・・闇の矢!」

そしてグルームは光の矢と同じような魔法、真っ黒で黒い瘴気のような物を放ちながら飛ぶ矢の魔法を生成した。

その矢は僕の光の矢よりも速く鋭い。目で追えたのは一瞬、他の弓兵と同じ速度の矢だ。

シュン!

闇の矢は突き刺さらずにフライトレスの頭を打ちぬいていた。目で追えはしなかったが、倒れているフライトレス1匹の頭から闇の矢と同じような瘴気の残りが少し漂い、黒い煙を出していた。

「こんな感じに狙うんだよ、ほらノエルも」

「すごい・・・うん!・・・・光の矢!」

怒涛のフライトレスの群れは魔法の練習にももってこいだった。隣には目標となる先生もいる。目の前で初めてグルームの魔法の修練度を痛感し、僕とグルームとの力量の差を感じた。だがそれは落ち込むことではなく、僕もグルームのようになれる、練習すればああなれるという期待や希望のような物だった。
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