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第38話 アルスの場合2

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軍の配属先を言い渡された日

◇アルス視点◇

「おう、ノエルどうだった」

「はい、僕は第四王子の軍のままでした」

「そうか、俺は第三王子の軍に配属になった」

「そうですか、残念ですが・・・お互い別の場所でも頑張りましょう」

「おっ、おう。そうだな」

ノエルがギレルさんの所に戻ってくるときは、暗い顔をしているかもと思い元気づけようと思ったが・・・そこまで気にしていない素振りに俺は拍子抜けをした。

俺が思っているよりも、やっぱりノエルは強いやつなのかとギレルさんには余計な心配を話しちまったなと少し恥ずかしくなる。

「あっ、僕少し買い物を頼みに行ってきますね」

「あぁ」

そして逆にあっさりとしているノエルにそんなもんかと、いら立ちとは別の虚無感のような何か気分が晴れない気持ちに少しなり、ノエルが部屋を出て行った時に少しあーっと少し声が漏れていた。

そこからは早かった。2日後には王都を出るという事で新たにカバンを支給してもらい、着替えの服や携帯食料などを準備するとあっという間に2日は経とうとしていた。

その間、ノエルに4元素のグリモワールを見比べたいとの頼みで部屋で行軍の準備をする間に、ノエルにグリモワールを貸してやっていると

「げっ!?それ紙かよ!?そんな馬鹿高いものどうしたんだよ!?」

「あっ見ないで下さい!?これ僕のグリモワールの研究資料なので!論文が出来た時に発表するようです!」

ノエルの方を見ると、羊皮紙ではない紙へグリモワールを見て何かを綴っていた。俺が覗き込むと必死に体で書いたもの隠そうとする素振りは何か発見をしたのかと不思議に思う。

賢いやつだと思っていたが、本当にノエルならグリモワールの事を解明しそうだなとその時は思った。

そして出発の前日の夜。俺とノエル、ナタリアの3人で最後の食事をとる事になった。

「結局ナタリアは俺についてくるのか。お前前線だぞ?大丈夫なのか?」

「私達に意向はないの。魔道兵が成長できる環境に合わせるのが私達リーディアの仕事よ」

「はぁ~、高尚なお気持ちをもってらっしゃいますね」

ギレルさんには伝えたが・・・やはり魔道兵の個人としての願いは叶わなかった。せめてナタリアがノエルについていれば安心だと思ったが、そう上手くはいかないか。

「ノエルも一人で準備は進んでいるのかしら?聞いた話だと、ギレル様たちも3日後には出発するそうよ」

「僕は大丈夫ですよ」

「そう、あまり無理はしないようにね」

「魔力の調整ですよね、覚えてます」

どこか立派な返答をするノエルに違和感を感じるが、成長したという事なんだろうか

「あれだけびびって何もできなかったのにな、あれが3か月ぐらい前か?」

「あぁ・・・以外に短いもんですね」

「それを言ったら私なんて一か月とちょっとだけよ」

「短い期間に色々あったな・・・」

スナイプやマールたちとも俺はこんな会話をしていたっけな・・・

「ですね、でもこれからも色々ありますよ」

「何感傷に浸ってるのよ」

「これからもか」

俺はまた近しい人を変えて結局自分だけが生き残っていく予感がしていた。出来るならこの2人には戦争では無縁の場所、いやせめて前線とは離れた場所で生きていて欲しいと願ってしまった。

だがナタリアは俺のリーディアに任命され、前線へと赴く。

正面に座っているナタリアを見て、俺はこいつだけでも守ろうと決めたのだった。

「・・・何よ黙ってじっとみて」

俺が黙って見ていると気味悪がられたのか、つっこまれてしまった。

「えっいやなんでもない。これからもナタリアには世話になるんだなって思ってよ」

誤魔化すようにそういうと、ナタリアはふんっ一言いうだけだった。

「お二人とも頑張ってくださいね」

「何のんびりした返事してんただよ。ノエルはノエルで大変だろ」

「僕は神聖なので忙しいかもしれませんが、大変とまではいわないので」

「ふ~ん、なんかハキハキしてるな今日は」

「それはそうですよ。もうアルスさんに頼ってはいられませんから」

「くくく、いっちょ前な事をいいやがって」

・・・別れを惜しむなとまでは言わないが、どこかノエルが巣立ちをし、俺が側にいなくても平気だと思わせてくれる様子は逆に俺を寂しくさせていた。

いや、魔道兵になってノエルは見違えた。グリモワールを手にしてから2度命を救って貰っている、もとからこいつは出来るやつだったのかもしれない。

俺達はその後ゆっくりとした思い出話に花を咲かせた。だが、別れを惜しむような事は誰一人いう事はしなかった。

ナタリアに明日の朝迎えに行くと言われ、俺とノエルは自室へと戻った。

「はー・・・このベッドともお別れか」

「ふふ、僕はあと3日はここで一人でくつろげますよ」

「そうかよ」

ベッドに寝転び、天井を仰ぐ。平和な日常を過ごすと、戦地へと赴くのがとても気だるい・・・だが同胞が今も尚戦っている。

目をつぶり、深く息を吐いてそろそろ気持ちを切り替えないとなと思っていると

「アルスさん」

「ん?なんだ?」

ノエルがベッドに座りこちらを見ている。それは神妙そうないつもとはまた全く別の顔をしている。それに右手に何か握っているようだ。

「あの、お守りを作ったんです。どうぞ」

「ん、お守りか。悪いな」

渡された巾着はカードぐらいのサイズ。中に何か入っているような少し厚みがある物だ。

「・・・肌身離さず持っていてください。でも、水には濡らさないで下さいね」

「なんだよ肌身離さずってグリモワールかよ」

濡らすなって事はなんだ?濡らすと壊れるとかか?

「いえ・・・それと中身は絶対見ないで下さい。戦で窮地に陥った時だけその中身を見てください」

「なんなんだよ、すげー気になるじゃねーか!」

「お願いです。後それを開く時は一人の時、それが無理なら人気が少ない場所で」

中身が気になるが、ノエルの初めてみる威迫に俺はノエルの気持ちを汲むことにした。

「すっげー気になるが・・・お前が俺の為に作ってくれたもんだからな、その通りにするわ。サンキューな」

俺が納得すると、安堵の表情でいつもの顔へと戻った為に俺もホッとした。

「いえ・・・アルスさんにはお世話になったのに、これぐらいしかできなくて申し訳ないです」

「何言ってんだよ、俺だって何度お前に助けられたか。俺の方は何も渡す物とか考えて無かったんだよな・・・何かないか・・・」

貰いっぱなしも悪いと思い、ベッドから立ち上がり自分の荷物の中を探る

「いっいえ、大丈夫ですよ。そういうつもりで準備してたわけじゃないんで」

「んー・・・バルグ砦でほぼ荷物をとられたから何も残ってないよな・・・」

「いえ、大丈夫ですよ」

カバンの中には何もなく、自分の身に着けている物などを体を探る

「おっ・・・おー・・・悪いこんなんしかないけど受け取ってくれるか?」

志願兵となる前に故郷を忘れないようにと幼馴染のリアに渡された、ロックベイで採れた水晶と小さな貝殻がついたチョーカー。

取り外すと、紐の部分はすでに結構擦り切れて・・・汗や血を含んで紐の色も大きく変色している。

正直渡そうと思ったが・・・流石にこれは人に渡せるものではないと思い、自分では言ったもの手を引っ込めようとすると

「それ、アルスさんの故郷のものですか?貝殻ってここ内陸だと珍しいですよね」

「えっそうなんだよ。綺麗だろ?この水晶も海に繋がる川でよくとれるんだぜ?」

「おぉ、そんな高価なもの貰ってもいいんですか?」

「高価?こんなもん銅貨1枚あれば買えるぞ。貰ってくれるのか?」

「はい!いらないと遠慮しましたが、もらえるなら欲しいです。やはり・・・いえ」

ノエルが何か言いかけたが、欲しいという事ならこんなもんで悪いがとノエルの両手に下げていくように渡した。

「ありがとうございます!大切にします」

薄汚れたチョーカーを嬉しそうに着けたノエルの様子を見ると、あんなもんでも渡してよかったと思えた。

「そうか、また何かの機会があればロックベイに行こうぜ」

「はい!ホーリーオーツもです!」

そして俺達の最後の夜は過ぎ去った。





次の日の朝、早朝に俺達は王都を出発した。

王都の北門までノエルは見送りをしてくれるようだ。

ノエルなら泣くかもなと思っていたが、ずっと明るく俺達を見送ろうとしている。

「ガッハッハ!俺がいれば北部は安泰だ!」

ウィロスも同じ北部へと派遣されるのか・・・朝からあいつは元気に声高らかにいつもの調子を振る撒いていた。

「ノエル、じゃあ行ってくるぜ」

「はい、お気をつけて」

「ノエル、元気でね」

「ナタリアさんも、お体に気を付けてください」

淡々としている様子に、俺は無理していないかと声をかけようと思い

「ノエル、本当に大丈夫か?お前・・・無理してないか?」

「アルス」

そこまで聞くとナタリアが俺を呼ぶ。

「大丈夫ですよ、僕は一人でへ、へいきです」

ナタリアが目配せでノエルの手や足を指さした。

俺はその指さす視線の先をみると。ノエルの両手は強く握りしめられていた。足も踏ん張っているようだった。

その様子に俺も気づいた。

・・・俺に心配かけまいとこいつも必死なのか・・・だが、今もなお崩れそうな気持ちを隠し大見得を張っている最中なんだと。

ふっ・・・俺は小さく笑う。

そしてノエルのその強がりをくみ取ることにした。

「だな、お前はもう立派な魔道兵、男だったな」

右手にかばんを持っている為に、左手だけでノエルを抱きしめた。

「行ってくる」

「は、はい・・・お気をつけて」

「アルスそろそろ行くわよ」

俺達はノエルへ別れを告げて、軍の隊列へと向かっていく。

すすり泣く声は今は聞こえていない振りをとおしてやるかと、心の中で少しだけほくそ笑む。

俺の小さな親友。その臆病な性格とは裏腹にいざという時にはとても大きく見える背中。またいつか出会える事を願って俺は北部へと旅立っていった。
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