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第233話 気持ちの整理は荷物の整理と

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アルに小言を言われながら宿屋へ向かっていくと、後ろから走ってくる音が聞こえる。

「ちょっとちょっとまつっすー!」

ホルンの声はよく通るなという感想がでるくらい、静かな夜の街に響いた。

「・・・どうした?」

「いやいや何か兄貴が最後の別れ感出してたっす!このままじゃ置いて行かれるって思っちゃったっす!」

「ほらね、ちゃんと伝わってましたよアル」

「ほらねじゃないっす!?なんでっすか!?」

「お前は残れ、折角迎え入れてくれる街やPTがあるんだ。無理して着いてくることはない」

なんかアルの気持ち聞いたからか、少し気まずいのは僕だけなんだろうな。

そこからカップルの別れ話のような2人のいい合いが始まった。

「なんでそうなるっすか!?私はついて行くって決めたと言ってるっす」

「俺はお前の為を思って言ってるんだ」

「いや、私の為だと思うなら着いて行かせてほしいっす」

徐々にヒートアップしていく2人。僕は暇を持て余し、地面に雪で絵を描いたり小さな雪だるまを作って時間を潰す。

20分後

「わからねーやつだな、なんでこんな良いところ捨ててこっちにこようとするんだよ」

「別にいいじゃないっすか、それに駄目だったら後から戻ればいいだけっすから」

あっシスレー達は今日はカレーか、僕も久しぶりにサリアのカレー食べたいな。

40分後

「自分の時間を無駄にするなって言ってんだよ。お前4等級に上がる直前とか言ってただろ、お前が抜けたらPTにも迷惑掛かるだろ」

「それはアル君には関係ないっす、余計なお世話っす」

ズズズー。雪が降る中で熱いコーヒーは格別に美味しく感じるな。

1時間後

「はぁ・・・らちが明かねーな。いいのか?お前が思うようにはならねーぞ?」

「こっちのセリフっす。なんすか・・・それでもいいと言ってっるっす・・・」

長い・・・ホルンはアルが好きな事を匂わす発言をしているが、アルは頑なにそこは隠している。

ホルンが匂わせれば匂わすほど、アルにとっては逆効果だ。

「はぁ~~~~~~~、僕の肺活量すご」

煙のようにもくもくと白い息がでる。



もう暇潰しの材料が切れかけた時に、アルが折れる形となった。

気持ちを隠している分、アルの方がついてくるなという言い訳が苦しくなったようだった。

「分かった・・・。はぁ~・・・自分の好きな様にしろ」

「最初からそうするつもりっす。・・・じゃあ途中だったっすから戻るっすけど、私を置いて行かないでくださいっすよ」

「あぁ・・・もし荷物があるならノエルと取ってこいよ。頼むなノエル」

「あっ終わりました?」

「あっ、兄貴、えっと・・・荷物お願いしていいっすか」

「はい、いつでもいいですよ。明日の朝とかにしますか?」

「いや、この後すぐにするっす。ちょっと声かけてくるので待っててほしいっす」

「そうですか、じゃあアル先に戻ってますか?」

「あぁ・・・疲れた・・・いや俺もいくわ」

「わわっいや駄目っす!ちょっと今アル君とは距離おくっす!」

「なんだよそれ、いいわ俺は戻ってるからなノエル後頼む」

「えっはい、分かりました」

アルは一人、さきほどよりも積もった雪道を歩いていった。

「あっじゃあ私もパパっと別れの挨拶してくるっす」

「・・・ぱぱっと出来る感じではないと思いますが」

「大丈夫っす!じゃあちょっと行ってくるっす」

そういうホルンがまた酒場に入っていくのを見ると、またワッと酒場から声が溢れ、そのあと阿鼻叫喚のガヤガヤした声が響き・・・待つこと30分。

・・・だから明日の朝にしようって言ったのに。

「あーっみんなまた戻ってくるっすから!今までお世話になったっす!」

ホルンを崖から落とす算段をつけているときに、無理やり輪の中から外れたように酒場からやっと出てきた。

パシャリと酒場のドアを閉め、こっちに向き直るホルン。

「兄貴、申し訳ないっすお待たせして!」

「いいですよ、山登る時一度崖から突き落とさせてもらうので」

「ヒッ!?顔がまじっす!?冗談じゃない感じやめてほしいっす!?」

「冗談じゃないですもん、とまぁさておき挨拶がすんだのなら行きますか」

「そこは冗談っていってほしいっす!?・・・こっちっす」

げんなりした顔のホルンに並び、ホルンが拠点にしていたという場所へ向かう。

「おかえり会がお別れ会になってみなさん悲しんでいたんでしょうね」

「いやぁ~まぁ・・・泣いてくれている人もいたっすけど」

「PTの方も納得してくれたんですか?」

「・・・全然す」

「あらら」

まぁ任務失敗して行方不明からの脱退となれば、少なからず後ろ指をさされたり裏切者の烙印を押されても仕方ないか。

よくよく考えればめちゃくちゃ迷惑かけてるぞこいつ。よく顔出せたな・・・いや僕やアルが顔出させに行かせたのか。

「かるっ!?はぁ~・・・これで良かったんすよね」

大きなため息をついたホルン。僕の方が肺活量多いなとホルンがため息と同時に出した白い息を見てそう思う。

「あれ?今になって後悔してます?」

「・・・さっきはムキになって意地もあったすけど・・・冷静になってみると私はこの街で5年ほど冒険者もやって、アル君に言われた通り街の人達も大好きっすから・・・それにPTも・・・」

「そうですか」

「それにアル君から・・・きっぱりと何も起こらないと言われちゃったっす・・・」

「でも、それを承知でPTに入ったんじゃ?」

「そうっすけど・・・やっぱこの2週間かそこらでずっと一緒にいると、気持ちは高ぶる一方じゃないっすか・・・言い合いのような事も楽しくて」

「そうですか」

「兄貴真剣に聞いて欲しいっす!私さっきPT抜ける、この街出ていくっていったら何人かから求婚されたっす!PTの私の事何とも思ってないと思っていたメンバーにも言われて少し戸惑ってるっす!」

「ほー」

返事と同時に息で輪っかを作れるか試すが難しい。

「だから返事!・・・それで、ここに残れば少なからず結婚して家族をもってって・・・簡単な想像は出来るっすけど・・・アル君について行くと・・・楽しそうではあるっすけど先が見えないっていうか・・・」

う~ん・・・僕は誰の味方をすればいいんだ?僕?アル?サーヤさん?サリア?ホルン?

正直一夫多妻制なら、アルの気持ち次第で全員受け入れればいいが・・・ハーレムはいかん!

僕が目を瞑れば、アルはそんな器じゃないって言うが、そんな器だと僕は思う。

「まぁ今、冷静になったのならよく考えるチャンスだと思いますよ。僕はそんな事より5龍ってのが気になっているのですが」

「そんな事ってなんすか!?私の人生がかかってるっすよ!?」

「僕はどっちでもいいと思いますよ」

「兄貴・・・ちょっとは私に興味もてっす」

「僕の意見でホルンさんの人生左右させたくないですもん」

「いや、そうかもしれないっすけど・・・はぁ~・・・何か希望があれば・・・」

ホルンは頭を抱え悩みこむ。本当にどっちをとろうか悩んでいる様子だ。

5年同じPT、住み慣れた街でやってきて・・・ふと出会った男にその時の感情に任せて、今までの物を投げ捨てる勇気か。

僕からは何も言う事はないかなと、そのままホルンのどっちつかずの悩みを聞きながらホルンの家へとたどり着く。

「ここっす、ちょっと散らかって恥ずかしいっすけど」

ホルンの家はヨーロッパの街並みにあるような建物と建物が繋がっているテラスハウス。

「ここに一人で住んでいるんですか?」

「そうっすよ、それにこれ一応私の持ち家っす」

「えぇ!?家もあるのについて来ようとしてるんですか?」

「・・・また心を揺さぶるような事言わないで欲しいっす・・・とりあえず中へ」

ホルンがカギを開けて中へと入る。

「ライトフローディング」

「あざす」

暗い中に光の球が進んでいくが、すでに玄関には物が散乱している。

「あっ兄貴もどうぞ中へ」

「ホルンさん、これホルンさんがいない間に泥棒が入ってませんか?」

「そんな事ないっすよ、ちょっと散らかってるぐらいっす。遠慮せずに」

「えっはい・・・」

ディティマールのスイッチをいれようと思うほど部屋は荒れている。

足の踏み場もないとはこういう事なのだろう。

アルを連れてきたくなかった理由も分かる。

少し入る前はホルンであっても、女性の一人暮らしということで胸が少し踊りそうになったが、現実は非情だった。

もう一つライトフローディングと飛ばし、明かりを確保する。

「汚いですね」

「いやぁいきなりの依頼だったっすから、仕方ないっすよ」

ホルンはそういうが、これは数日かの積み重ねではないように思える。

「ちょっと必要な物だけまとめるっすから、くつろいでいてくれっす」

どこにくつろげる場所が?そう言いかける

魔物の素材のような物、拾ったであろう剣などの武器、お皿にコップとぐちゃぐちゃだ。

今すぐに僕のいるエリアだけでもリコールを掛けてしまいたい。

「・・・ここら辺の収集物みていていいですか?」

「いいっすよ、大したものはないっすけど」

ガサゴソと荷物を漁っているホルン、僕も手持無沙汰な為に帝国のダンジョンなどではどんな物がとれるのかと興味本位で少し見せて貰う事に。

手袋をはめて、これでよし。

明らかにギトギトとしていそうな物が付着していたりと、直接は触りたくないので防備は完璧に。

鑑定がある訳ではないので、物自体をみても何も分かることはないが・・・どこかホルンが僕らの知らない冒険をしていたんだなと思うが感慨深い。

特に効果も無さそうで、ホルンも使わない剣を残しているのは何の為なのかな?

この魔獣の革は結構傷がついているのに、残している意味は?

どれもゴミに見えそうな物でも残している感じは、整理は出来ていないがどれもホルンにとっては思い出の品なのかもしれないなと、少しホルンが可愛らしく思えた。

ゴミのような思いでの品を見ていき、一つの布切れを手に取る。

「これは・・・?」

「わー、見ちゃ駄目っす!兄貴えっちっす!」

僕がとったのはパンツだったようだ。

「えっごめんなさい」

「もう、ちょっとじっとしててくれっす!」

「分かりましたが・・・よく見るといたるとこに下着が落ちてますよ」

「わーーー!ちょっと目をつぶっててくれっす!」

今更慌てだしたホルンは大急ぎで、色々と回収していく。

僕も大人しく目をつぶりながら、先ほどみた物の話をする。

「ホルンさん、思い出を大事にされる方なんですね?」

「思い出っすか?」

「さきほど散らばっている物を見ていたら、何の為にとっているのか不明な物がありました。僕の大切な人もそういうのを部屋に飾っていましたから」

「不明なものっすか?」

「ほら、傷だらけの魔物の革やホルンさんが使わないような武器とかですよ」

「あー、あれっすか・・・兄貴がいいように解釈しれくれて申し訳ないっすけど、あれゴミっすね」

「ゴミ?」

「適当に拾ってカバンにしまいっぱなしだったり、売るのも面倒で放置してるような物っす。ほしければあげるっすよ」

やっぱりホルンはホルンだった。そんなシスレーみたいな繊細な心の持ち主ではないことに逆に安心した。

「ふ~ん・・・貰えるなら貰いますよ?リコールで綺麗にすれば売れるかもしれませんし」

「まじっすか、逆に私も片付くのでラッキーっす。おねがいしゃす」

店主に頼んだら少しはお金になるかと思い、いらない物なら貰ってしまう事に。だが、先ほどの事もある為に一応だが先に確認しておく。

「下着が混ざってたら、ここの住民に売っていいんですか?」

「ぶふぉっ、誰がかうっすか!やめてくれっす!私も一緒に監修するっす!」

簡単な荷物の整理だと思ったが、ちょっとした引っ越しのようになって部屋の物をホルンの指示のもとイベントリに入れ始めた。

「あっ荷物も一緒に入れてもらっていいっすか?」

「いいですけど、いる物といらない物はわけてくださいね。何か目印とか大袋に入れるとかで」

「おっけーっす。ほぼいらない物っすから」



あんなに汚い部屋が綺麗に片付いていく。

ゴミといいながらも、拾った時の経緯を覚えている物もありその時のエピソードを話ながらイベントリへ入れていく。

捨てるか、捨てないか悩む物も出てきたり、存在自体を忘れている物も多々あるようだ。

「なんか・・・気持ちがスッキリしていくっすね」

「あぁーそれはあるかもしれません。行動することで後から気持ちが着いてくるみたいな感じでしょうね」

引っ越しというのはそういうものだろう。新天地への準備なのだから。

「思い悩んでたっすけど、やっぱ私はアル君について行くっす。先が見えないのも冒険者らしくていいっす!」

あらかた片付くとホルンは手をぐっと握り、吹っ切れたようにそういう。

「そうですか、そこまで決めたらなら僕もアドバイスできますよ」

「えっ何すか何すか」

「今の調子で頑張ってください」

「ん?それがアドバイスっすか?」

「はい、アルの心がいつか揺れるかもしれません。アルはホルンさんの事を少なからず気になっていると思います」

「えっまじっすか!?信じるっすよ!?よっしゃー絶対振り向かせるっすよー!2番手ぐらいには滑り込むっす!」

ただそれとは別で僕の気持ちもある。

「でも僕はアルがハーレムを築くのは反対なので、邪魔するかもしれません」

「えぇ!?このタイミングでそれ言うっすか!?兄貴の協力が一番必要っす!絶対兄貴が駄目っていったらアル君はこっちに傾かないっすよ!」

「そこはホルンさんの努力不足ということですね。もう荷物は以上ですか?」

「それにこの話おしまいにしようとしてるっす!?」

「以上っぽいですね。じゃあ僕は戻りますけど、ホルンさんはこの部屋で泊まりますか?」

「本当に終わったっす・・・・。いや、アル君に今は会いたいので私も行くっす」

「そうですか、僕の見てるとこで僕の胃にストレスがかかる事をしたらホルンさんの下着をこの街にバラまくので」

「わー!分かったっす!そこも配慮しながら頑張るっす!」



あれだけゴチャゴチャしていたホルンの家は、ものの2時間ほどで殺風景な何もない空間になってしまった。

「兄貴が一緒にきてくれてよかったす。荷物と一緒に気持ちの整理も出来たっす」

「ただイベントリに入れただけですけどね」

「じゃあ行くっすか」

「はい」

僕が先にホルンの家を出る。

だがホルンはすぐにはついてはこない。

後ろを振り返ると、ぼそっといってきますと何もない部屋に言っているように聞こえたので、僕は気にしていない素振りで外で待つ。

もう二度と戻らないと言っているような、寂しさと決意が込められているいってきますに聞こえた。

「すいません、お待たせしたっす」

「いえ、じゃあ行きましょうか」

「はいっす、兄貴改めてこれからよろしくお願いします」

「はい、こちらこそよろしくお願いしますホルン」

これで本当にホルンが僕らの正式なメンバーになった実感がした。

ホルンをめぐってこの街の人VSアルなんて構図も予想していたが・・・結局はアルとホルン当事者の気持ちの問題の為、よそ者が入り込んでくる事は一切なかった。

僕としては王道な主人公っぽいアルにはそういう展開も期待はしたが、今回はすんなりとした結果に残念な気持ちと早く家に帰りたい気持ちがぶつかっていたのだった。
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