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第196話 八方塞がり

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「ハックション!」

自然現象、なんてことのない事。ただのくしゃみ・・・だが今この場では致命的なミス

僕は振り返ると、口元を覆うクリスの姿があった

僕は目を見開いているだろう、クラリアも同じだ

静寂の中でのクリスのくしゃみは響いた

今が吹雪だったらなと頭をよぎるが、快晴。風一つない状況だ

クリスがくしゃみをし、全ての時が止まったような間隔

3人が音を立てず、ハーピーが起きていないか探る様に聞き耳を立てる

・・・

5秒ほど止まり、物音が聞こえない事を判断し

「気を付けて!」

小声だが指をクリスに向けて叱責する

クリスには冷気耐性を渡していない。寒かったのかもしれないが、今このタイミングであんな気持ちの良いくしゃみをする必要はないだろと

クリスも両手を合わせ、謝ってくる素振りに、先ほどの主人公はいなくなっていた

クラリアも先ほどのような甘い表情はなくなり、少し引き気味の様子だ

それだけならよかった

クリスの失敗談で終わるならよかったのだ

バサバサ

ピーーー

羽根の羽ばたく音、ハーピーの鳴き声が聞こえ始めた

「やばい!はしって!」

頭上には空を飛び、僕らを見下ろしているハーピーがいたのだ

ただのくしゃみが危険を迫らせた

僕に続くように、クリス達も走り出す

ピーーーピーーーー

警戒音のようにハーピーは鳴き始め、その音に他のハーピーも起き始めると輪唱のように響き合う

「うっウィンドシールド!」

すでに鳴き声は巣全体から響いているようで、音量がすごい事になり始めていた

後ろを振り返ると、クリスとクラリアは耳を塞ぎ必死に走っている

ブリンクの回数と、アル達がいる洞窟まの距離的に全てのMPを使っても足りない

ハーピーが歌い出す前に少しでも二人には走って貰わないといけないのだ

僕はクラリアを抱きかかえると

「えっ!」

「大丈夫です、僕が担ぐ方が早いので」

クラリアは驚くが、僕の言葉にクラリアも僕にしがみつく

「クリス!急いで!」

クリスは苦しい表情をしながらも必死で走る

僕のいそげという声はクリスには届いていないだろう

そこにひと際大きな鳴き声が響いた

ぴいいいいいいいーーーーー

クイーンだ・・・

直感でその主がクイーンだと嫌でも分からされる声量

その鳴き声に、雪ハーピー達は鳴くのを一度やめるとバサバサと羽ばたく音とは違う、眠りへと誘うメロディを口ずさみ始めた

くそ・・・まだ距離が足りない・・・

空には何匹もハーピーが飛び始めていた

眠りへと誘うその歌声は、クリスに届き僕の目の前を走っていたクリスはその場に倒れた

それを見てか1匹のハーピーが頭上を旋回し、クリスへと急降下を始める

クリスを掴むとすぐにブリンクをする

後ろではクリスを捕まえ損ねたハーピーが鳴き、また空を登って行く羽ばたく音が聞こえる

クラリアもすでに僕を掴んだ手には力が抜けて、夢の世界へと飛び立っている

僕が移動した先へとまたハーピーは急降下してくる、次は同時に3匹が真っすぐこちらに向かってくる

くそ!ブリンク!

その調子でブリンクでしか距離を稼げずに進むが、徐々にMPの底が見え始めていた

2人はすでにダウン、MPの残量的に残り2回。だがアル達がいる洞窟まではまだ300mはあるだろう

逃げる場所も隠れる場所もなく、転生から3度目の絶体絶命にさらされた
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