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第194話 崖の上へと

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12時を回り、みんなを起こしハーピーのいる崖越えをする時間となる

すでにみんな起きて準備も万端な状態だ

僕らを囲っている岩をどかすと、吹雪はやみ空には月がでていた

「・・・寒いな」

だが冷気耐性をつけている僕らでさえ、さす寒さを感じる

クリスとグリーンウッドは大丈夫だろうか

「こ、この中を本当にいくのかい」

「死ににいくようなもんだ」

「俺とノエルはいくぞ、ここでノエルと離れても死ぬと思うけどな」

アルの言葉に寒さで揺らいだ気持ちも、また渋る様に決心している

「時間も今から移動しておかないと、1時に崖の上へといけませんよ。急ぎましょう」

クリス達には寒さで死ぬかもという新しい問題が出てきているが、僕らに残されている薄い可能性は1時~2時の間の短い時間だ

「僕が先頭で雪を仕舞いながら歩くので、みんなはその後に続いてください」

去年シスレーとそんな散歩したなと思い出しながら、雪道を登って行く

午前中にきこえていた歌声の地点に着くがいまは静かなもんだった

時間をみると0時37分

「ノエルいくぞ」

「はい、みなさんつかまってください」

アルは1時丁度を待つつもりはなかったようだ

ブリンク

今回はそのまま崖の上へと降り立つ

雪が1mほど積もってた頂上は皆体の半分が埋もれた様子だ

イベントリで雪を仕舞い、アル達も周りの様子を確かめ始める

「・・・雪のおかげで俺たちも隠れれるが・・・真っ白じゃねーかよ」

「ですね、昼間はまだ目を凝らせば違いが分かりましたが、今は全くわかりません」

「・・・俺は見えている。おれが先導しよう」

雪と雪ハーピーの境目が分からない所に目のいいエルフのグリーンウッドだ

「わかるのか?」

「あぁ、ここから左へぐるっと迂回していく形になるが、雪とスノーハーピーの境目があの岩あたりできれている」

グリーンウッドは500mほど離れた左前方にある岩の山を指さす

「よし、じゃあ先導はノエルとグリーンウッドだ」

その答えを聞き、アルが隊列を指示すると

僕らの隠密行動が始まる

積雪で体は隠れているが、岩の山にいる一番上のやつには僕らの姿は丸見えだろう

時折、グリーンウッドが顔をのぞかせ進路を伝えてくれるが、僕は目の前が雪だけな為、一歩間違えれば目の前が崖ということもあり得るのだ

幸い、僕はおちても何とかなるが、その時に雪崩などが起きて雪ハーピーが起きる心配の方が強い。その為にゆっくりとだが慎重に進む必要があった

そんな緊張感のもと低姿勢で移動はゆっくりだったが、確実に前へと進むことができ、グリーンウッドがいう雪ハーピーの境目まで到着するが

「・・・まずいな」

「はい、僕も見えてます」

グリーンウッドがそう呟くのと同時に僕の視界にもそいつは入っていた

周りの雪ハーピーよりもひと際大きい個体がうずくまる様に、岩の山の後ろにいた

「クイーンですね・・・」

クラリアもそれを見て、やはり上位種という事を伝えてくる

普通のハーピーが人間ほどのサイズで2mだとする、クイーンはその10倍ほどの大きさだ。それに普通のハーピーよりも下半身が大きく、どこかケンタウロスのよう体系をしている

ふんふん・・・ここは一度ブリンクで飛んだ方がいいか?

「グリーンウッドさん、ここからどこまで雪ハーピーの群れは続いてますか?」

「どこまでか・・・ここからだと3つ目の山はみえるか?」

「えっ、はいぎりぎりですが小さくあるのは見えます」

「あの辺りまでは続いているな」

グリーンウッドが示した場所は1km先ほどをしめしていた

ブリンクで渡りきれる距離ではない

・・・この得たいのしれないクイーンの真横を通り過ぎるのか?

それとも来た道を戻り、右から迂回していくか・・・どれが正解だ

「ノエル、ここまできたら行くしかないぞ」

僕が悩んでいるのを察知し、アルが後ろから後押ししてくる

こういう時に判断を僕に任せず、リーダーとして指示してくれるアルはとても心強い。それが何も考え無しでいっていようともだ

時間をみると1時20分ほどになっていた

確かに今が一番深く眠っているとなると、アルの後押しもありいくしかないような気がしてきていた

「このまま進みましょう」

「・・・わかった」

先頭の僕ら3人が決め、クリスやホルンに口をはさむ余地はなかった

クイーンがいる場所はほぼ崖端だ。崖から10mもない位置で眠りこけている

だが、雪で埋まってしまっているこの状況。どこまで地面があるのか確認できない為に僕が先導してギリギリを確認しながら進んでいく

「行きます」

イベントリで吸い込むと、自分が次に一歩踏む出そうとしていた部分は雪だった

ふー・・・踏み外してもいいけど、このクイーンのいる状況だと流石にヒヤヒヤしてしまう

方向修正をして、イベントリを使いながら進み始めた

慎重にかつ、スムーズに

クイーンは寝息を立てながら気持ちよさそうに、体に空気を取り入れ上下に膨らんでいる

この体系から発せられる歌に僕は抗えるのだろうか

そんな心配をしながらも、先頭の僕はクイーンの横を通り過ぎることに成功する

慎重に行動したために、密集せずに間隔をあけてクイーンの横を通り過ぎている為に渡りきるのに、時間差があった

グリーンウッドを順番に、アル、クラリア、クリス、ホルンを最後に渡りきろうとした時だ

クイーンがおもむろに羽ばたいた

!?

みなその様子に動きが止まる

言葉にならない声をあげそうになるが、みなじっとまつ

恐らくハーピーの寝がえり、羽根を広げて羽ばたくが、起きた様子ではなく縮めていた羽根を伸ばし伸びをした感じのように見えた

その羽根をまた仕舞おうとする為に、なんともなく終われと思っていたみんなと目を見合わせる

みな顔には緊張感が漂い強張っていたが、終わりが近づくのをみるとみな気を少し緩めた瞬間だった

羽ばたいた羽根が僕らを優しくなでるかのように、戻って行く時にクラリアが羽根に引っかかりハーピーの羽根の隙間にしまわれてしまったのだ

「ッ!?」

一瞬の出来事と気の緩みで反応できなかった

それは僕だけではなく、クラリアを挟んだクリスやホルンも同じだったのだろう。後ろ、前にいたクラリアが突如消えてしまい驚きの表情を隠せず、声を漏らしそうになっている

クイーンの羽根と体の隙間からクラリアの右手だけがかろうじて、出ている

「ノエル!」

アルが小さく僕の名を呼ぶが・・・どうしろというんだ

僕は顔を横に振る

その様子に、アルは僕を一度睨みつけたかと思うがアルも同様に目を少しつぶり息を小さくはくと

「・・・進ぞ」

「アルフレッドさん!」

「アル君!ひどいっす!兄貴!」

アルに僕が言わせたようなものだが、どうやって助ければいいのだ

「諦めろクリス、ノエル君でもどうしようもないだろ」

グリーンウッドさんも僕らもまだ危険な状況に変わりはない事を分かっている

「クラリア君はまだ生きているんだぞ」

「どうすれば助けれるのか教えてください」

僕はいい案があるならと、クリスに問う

「・・・分からない」

「ホルンさんは」

「わからねっす・・・」

「・・・僕が思うに、今は我慢してください。ここを安全に渡りきった後に僕一人で助けにいきますから」

「それまで放置するというのか」

「正直、僕からしたらみなさん足手まといなんですよ。僕一人ならクラリアさんを助けて、もしそれで見つかっても逃げきる自信があります」

「・・・」

「ノエル、みんな分かってるよ。クリスも今は落ち着け、ノエルが助けるっていってんだ任せろ。ホルンもな」

僕は思っている事を包み隠さずいう。アルにも刺さる言葉だが、アルは僕の気持ちを汲みクリスを諭す

一人でだって助けれる自信はない。それでもみんなを今危険な状況に巻き込む事はできないのだ

「兄貴・・・信じるっす」

「では急ぎましょう。もう1時45分です」

クリスの返事は待たずして、僕らは前へと進み始めた

後ろを振り返ると、クリスはその場に座り込んでいた。僕が戻るのをあそこでまつという事なのだろうか

「あのばかやろう・・・」

「グリーンウッドさん、クリスさんも僕が後で連れていきますよ。でもクリスさんは今後僕の秘蔵の料理はあげませんから」

「・・・すまない」

グリーンウッドさんが連れ戻しに向かおうとしているが、それを制止する。一刻も早く渡るためにはグリーンウッドの視力が必要だからだ

僕らは歩みを急ぐが、クイーン以外でもこの数の敵は回したくないので注意をはらいつつだった

「ここが切れ目だな、奥にはハーピーはいない」

ハーピーの巣の切れ目、目の前には斜面が広がっている。暗月のブローチをつけていないアル達には闇が広がっている様に見えるだろう

「グリーンウッドさん、あそこ分かります?斜面を100mほど下った場所のでっぱりあそこ洞窟っぽくなってないですか?」

「どこだ?」

「ほら僕の指の先です、暗くなってないとこですよ。いけ、ミラージュ」

分身は雪の上を歩いて進む。その先には入口が高さ4mはありそうな洞窟らしきものへ

「おぉ!?」

「アル、僕の分身について行ってください。坂なので足を滑らせないように気を付けてくださいね」

「助けに行くんだな」

「仕方ないじゃないですか・・・はぁ、クリスさんもクラリアさんも・・・」

正直放置でもいい、だがクリスのベクトル石はサーヤさん救出に必要だ

「ノエルって意外に働きもんだな」

「以外じゃないでしょう・・・ベストを尽くしますが、ハーピーを起こして連れて行ったらごめんなさい」

「それは許さねーぞ。撒いてからこいよな」

「・・・善処はします」
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