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第193話 しばらくの時間潰し

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「じゃあ夜になるまで待つという事でいいな」

まだ昼に入ったばかりだというのに、今日の移動は終わった。クラリア曰く、ハーピーの寝る時刻は夜の1時~2時の間が一番深いということだ

そんな時間に火を焚けずに移動することは、寒さとの戦いにもなりそうだ。メルさんのこの深紅のローブをつけていても寒いと感じる気温

アルやクリスはもっと寒いのではないだろうか

「アル寒くないです?」

「・・・かなり冷えてる。なんかあるのか?」

「ありますよ、メルさんに作って貰ってるやつ」

「・・・さっさとだせよなったく」

「その言い方だと出したくないですね~」

「うぜ~・・・くれよ頼む」

「仕方なし、これどうぞ」

マフラーと耳まで隠れるロシア帽のような形の帽子を渡す

「・・・だせぇな」

「文句ばかり、いらないなら返してください」

そういうと黙ってつけるアル

「おっ・・・かなり温くなった。おぉ」

「まったく・・・」

僕らの作戦とは裏腹に天気が崩れ出し、雪がふぶき始める

大岩を置いて、風よけなどを作るが、寒さがみんなを襲っているだろう

「クラリアさん、ホルンさん大丈夫ですか」

「寒いです・・・すみません」

「ささむいっす・・・」

祝福とか関係なしにみな寒い様子だ

「う~ん・・・これとかどうですか?」

冷気耐性のケープを2人へ渡す

「ありがとうございます・・・あっあたたかい・・・」

「あったかいっす・・・兄貴・・・あざす」

2人はすぐに装備し、メルさんの効果を実感しているだろう

その様子を2人が見ている

「あっもう冷気耐性もってないんですよ、クラリアさんに渡したのも本当は僕とアル用のやつなので」

「・・・そうかい」

「期待した俺がばかだった」

ガチガチと震える様子の2人。流石に冷気耐性はないが毛布ぐらいは貸してあげる

「これだけですが使います?」

「あ、ありがとう!」

「見直したぞノエル君、ありがたく使わせてもらうよ」

「いえいえ、山越えは僕らの計画だったので、クリスさん達が準備していないのは仕方ないですよ」

みなに防寒具を渡した所で

「クラリアさん、ホルンさん美味しいスープがあるんですよ」

サリア特性のコーンスープだ

「ありがとうございます、はぁこれ持ってるだけで心も温かくなります」

「兄貴がいい人にみえるっす・・・」

「・・・ホルンさんの言葉が気になりますがどうぞ」

またその光景をみているクリス達だが

「アルはスープよりコーヒーですか?」

「あぁ頼む、あっミルクいれたやつにしてくれよな」

「おっけー、じゃあこっちですね」

アルへコーヒーを渡し自分へはココアを用意する

「あ、ノエル君・・・ぼくらは」

「あ?喉渇きました?水なら出しますよ」

「そこは変わらずか・・・」

本当に何もすることのない空いた時間、ただじっと待つしか僕らには出来なかった

「クラリアさんはどんな街に住んでいたんですか?」

「帝都ですよ、帝国で唯一ダンジョンがある街です」

「どんな所なんです?帝国のこと僕なにもしらないんですよ」

「そうですねー、街並みは王国と変わらないと思いますね。でもダンジョンがこの世界の唯一無二の存在だと思います」

唯一無二か

「それはなんでです?」

僕がクラリアと話をしているところにアルが割って入る

「帝国のダンジョンは登るんだよ」

「登る?」

「あぁ、天高くそびえたつ塔。その中は何層もあり外観からは想像できない広大な地形のダンジョンが上へ上へと続いてるんだぜ」

「ふんふん、少しサイシアールっぽいですね。それで今、最高は何層まで攻略を?」

「・・・」

アルはそこで黙ってしまい、クラリアを見る

「現在最高到達階層は、23層と言われてますね」

「23層それ登ったら帰ってこれるんですか?」

「転送ポイントがありますので、5層をくぎりに行きも帰りもそこを経由することができます」

・・・まさしくゲーム

「クラリアさんは何層まで?」

「私は、以前いたPTで13層が最高です」

「13層ですか、それは結構すごい感じですかね?」

「う~ん、4等級だとそのぐらいでしょうか?いわゆる普通だと思います」

その会話を聞きながら、こちらをみてくるホルン

「?ホルンさんもダンジョンに挑戦してました?」

「もちろんっす!兄貴聞いてほしいっす。私達は12階層っす!」

「それはクラリアさんの事を考えるとすごそうですね」

「そうですね、ホルンたち龍の爪はもうすぐ4等級にあがる直前だったかしら?」

「そっすよ、この任務が達成した、あかつきに・・・は・・・」

ホルンは喋っている途中に気づいてしまったのだろう、今回の任務は失敗でその後のことがどうなるのかを

「ごめんねホルンさん、いいところだったみたいですけど」

「・・・いえ兄貴たちは兄貴たちで使命を全うしてるっすから」

楽しいお喋りをと思ったが、やはり境遇が違う為に何かしらで地雷を踏むようだが

「ホルンが12層なら、俺とノエルが挑戦したら14層ぐらいいけそうだな」

アルはそんな事を気にしないかのように、ホルンをからかう

「それは兄貴がいるからっすね、アル君だけだと4層でギリって感じっすよ」

「ほー、ばばあの癖に調子乗った口聞いてんな」

「またばばあっていったっす!クラリアさん!」

「・・・いいんです、事実なので」

アルの不用意な発言でホルンは持ち直すが、クラリアが落ち込む

「根本的な事聞いてもいいですか?なんで帝国の人って王国の人が嫌いなんですか?」

「え?それは・・・王国民は自国にダンジョンがあるにも関わらず、帝国のダンジョンを攻略してまわり潰しまわったからでは・・・」

「ふんふん・・・それって結構昔からの事ですよね?」

「そうでしょうね、前攻略されたダンジョンは1000年まえぐらいと書物でみました」

そんな昔からの事を長年戦争しているのか

僕らの会話をガタガタと震えながら聞いていたクリスが口を挟む

「それも王国民だという根拠もないのにね、おかしな話だよ」

「一応・・・帝国には王国の方が攻略したという記録が残ってます」

「そんなのでっちあげることだって出来るさ」

「信頼のおける魔道具を使った記録簿ですので、改ざんは不可能かと・・・」

「君たち帝国の人が信頼しても、僕ら王国民は信頼していないのさ」

どうしたクリスさん?温厚な人柄だが寒さでいら立ってるのかな?

「・・・」

クラリアさんは何か言い返したい様子だったが、口をつぐんだ

「クリスさんどうしました?クラリアさんも。愛国心が2人は強い感じです?」

「・・・そういうわけじゃ」

「私も・・・」

「じゃあ1000年以上前のことなのでいいじゃないですか、どっちが攻略したかなんて」

「よくないです・・・そのせいで帝国民は不遇に晒されてます・・・みなダンジョンでお金を稼がなければ生きて行けないんです」

「それこそ、その勘違いのせいで戦争が今起こってるんだ。たまったもんじゃないよ」

ありゃりゃ、これは小さい頃からそう教育されたらそうなってしまうのだろうか

「まあまあ、クリスさんとクラリアさんはこれから長い付き合いになるかもしれないので、国なんかの為にいがみ合うのはやめましょうよ」

「長い付き合いですか・・・?」

「なぜだい?」

「え?だって戦争が終わるまではクリスさん、クラリアさんとホルンさんの面倒みてくれるんですよね?」

「私もっすか!?」

「・・・戦争が終わるのって何年かかると思ってるんだい」

「知りませんよ、でもその覚悟で僕から救ったのでは?あれ?」

一応サーヤさんを救うまでは、僕らの存在はばらさないで欲しい。願わくば戦争が終わるまではこの状態を維持しておいてほしいのだ

「それは・・・」

「え?逆にどのタイミングでクラリアさん達を解放しようと思ってました?」

「・・・何も考えてなかったよ。あの時は必死でクラリア君を助けたいと思ったから・・・」

「じゃあこれからも必死で助けてあげてくださいね。じゃないと今約束してもらわないと、僕は折角仲良くなれた彼女らを雪ハーピーのとこに置き去りにしなければなりませんよ」

僕の声のトーンが変わるのを見てか

「ク、クリス様・・・一生奴隷でもいいので・・・まだ私は生きていたいです」

「私もっす!たのむっす!」

「わ、わかったよ。戦争の間はすまないが・・・制限術はかけたままだが、戦争が終わればすぐに開放すると約束する」

「ふー、クリスさんが半端ものだと思って一瞬焦っちゃいましたよ。先走ってレイの魔法でホルンさんの額目掛け撃ち込む所でしたよ。全く」

僕は額の汗をぬぐう仕草でクリスに忠告をしておく

「怖いっす・・・兄貴ならやりかねないっす」

「お前、恐怖政治はなにもうまねーぞ」

「うわっアルからまともな言葉が。でも、3人は長い付き合いになるので仲良くした方がいいという事は伝わりましたね」

「あぁそのようだね、クラリア君熱くなってすまなかったね・・・なぜか僕のしっている知識が間違っていると言われた気がしてね」

「・・・私も同じです、申し訳ございません」

僕はうんうんと頷きクリスとクラリアを見ているが、その僕をみて呆れたアルがため息をはいていた

深夜の移動に備え、各自眠りはじめ起きているのは僕とグリーンウッドさんのみとなった頃

「グリーンウッドさんこれどうぞ」

「え?あぁいいのかい?」

「流石にお腹すいてますよね」

溶岩鳥の串焼きを1本と、卵スープを渡す

「ありがたく頂くよ」

「僕も同じの食べよ」

2人で弾力のある肉をモグモグと噛み、スープを含み柔らかくして流す

「旨いな・・・どういう風の吹き回しだ?」

「気分ですかね?僕だけ食べるのは気が引けるじゃないですか」

「そうか」

いたって静かだ。アルやホルンが起きていた先ほどとは打って変る

「クリスをあまり虐めないでくれると助かるな」

一度溶岩鳥を飲み込むと、グリーンウッドはため息をはくようにそう言った

「虐めている様に見えます?」

「・・・違うのならいいのだが」

「う~ん・・・クリスさん優しいですよね。王都で出会った時もそう感じ、今も命がけの任務でも変わらずそう思ってます。でも優しいだけならいいですが、甘いと捉えることも出来ます。それがこの先僕らを危険に晒す場面が出てくると思うと厳しくしてしまっているかもしれませんね」

「甘いか・・・俺もその甘さに助けられた身だからな。悪くは言えないな」

多くは語らないが、グリーンウッドたちにも僕らの知らない冒険譚があるのだろう

「ふんふん、まぁそのおかげでクラリアさんからは有意義な情報を貰えているので僕らも助かっている事には違いありませんね」

「そう思ってくれてるならいい」

「はい、起きたら温かい食べ物でも出しますよ」

「喜ぶと思う・・・ご馳走様、俺も少し目をつぶる」

「はい」

ディティマールになり、抜けかけていた部分を持っているクリスに少し嫉妬していたのかもしれない。人間らしく感情で動くクリスが羨ましかったのかもしれないな

グリーンウッドとの少ない会話で、そう思えたのだった
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