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第156話 ミミック

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レイスの扉から、鉄格子のある一部屋目だ

中には何もなく、ぼろきれの様な布がマット代わりに引かれているぐらいだった

シスレーが罠の有無を確認し、鍵もかかってない事を確認すると

「何もなさそうですね」

「中に入ってもいいですか?」

「はぁ・・・2,3分でお願いね」

「やった!シスレー急ぎましょう!」

「えーうちもー?」

「早く早く!ライトフローディング!」

シスレーも巻き込み、すぐに部屋を調べるが本当に何もない。布の下に何かかくされているのではないかと思ったが何もなく、本当に2分ほどで調査も終わる

「次に行きましょう」

「はい、次も2、3分もらえるんですか?」

「えぇ・・・手短にお願いね」

「はい!」

次の部屋、次の部屋、シスレーが鉄格子の扉を調べ部屋を簡単に探索するが、特段なにもなく4部屋目に

正直ここが一番探索したかったのだ

「シスレーあの宝箱あやしいですよね」

「うん、ミミックかどうか先にここから調べよう」

シスレーは鉄格子の罠、鍵を確認すると先ほど同様にスーパーボールに火をつけてミミックへ転がした

すると

「うわぁ」

宝箱から手足が生えて、上蓋が口のように開くとひょいっとスーパーボールを掴み口の中へと入れた

ガガガガガと鳴き声なのか、何かこすれる音なのか判別が出来ない音が聞こえた後にミミックは手を天を仰ぐように手を上にあげ、だらりと力が抜けたように動かなくなった

「どうなりました?」

「気絶したかな?今のうちに倒しちゃおう」

「気絶したのに倒すんですか?」

「ほっとくと起きて違う他の冒険者を襲うよ?」

「でもレイス同様にまた湧くんじゃ?」

「まぁそうだけど、ミミックは必ず何かしらドロップするから倒せるなら倒した方がいいよ」

害がなくなると分かるとすぐに戦意を喪失するのも悪い癖だなと思っていると

「私がやるよ!おらー!」

呪い状態が回復し、ファーストエイドももう一度かけなおしたアンナさんが元気よく後ろから突っ込んでいき、ミミックを突き刺した

案外もろいのか、アンナさんが3回ほど突き刺すとミミックは消滅し、魔石とポーションのような瓶が落ちていた

「へへーん、ラッキー」

アンナさんがそういいながら、魔石と瓶を拾い上げている

「ミミックってあまりたいした事ないんですね」

「そう?うちは新人のころミミックと気づかずに殺されかけよ」

「へー、その話今度おしえてください」

「うん、じゃあさっさと調べよっか」

ミミックのいた部屋も調べ、何もないただの部屋だった

残り1部屋はアンナさんが腕だけ切り落としたスケルトンがいる部屋だった

「ここで最後だね」

「はい、マジックミサイル!」

鉄格子越しから、2重杖でマジックミサイルの5弾が飛んでいくと、頭部からコロっと魔石が落ちるが

「あれ?消滅しませんね」

「スケルトンやグールは基本、冒険者だからね。ダンジョンが作り上げる物とは別物扱いなんじゃないかな」

「・・・不思議ですね」

「鍵空いたよ」

スケルトンを調べると、冒険者カードが着ている服にはいっていた為それを拾い、小銭入れになっている小袋など使えそうな物を探る

「手慣れてるね」

「アハハ、自分でもさっきそう思いました」

「じゃこれで探索も終わりかな」

「はい、サーヤさんありがとうございました」

一部屋2分といえど、みんな戦闘疲れもあり6部屋調べると10分は足止めをしていた。歩くだけでも30分かかっているのに少し申し訳なく思った

「いえ、これも調査として記せるのでよかったわ」

僕とシスレーが入口を空けて、レイスの間を抜けるのだった



レイス討伐後、ホルドさんとサーヤさんとガナートさんはMPが尽きているため、マジックポーションを1度飲んだだけの10しかない

デックスさんも女性を抱えているため、自由に動けるのは実質僕とシスレーと少し気だるげなアンナさんだけだった

「少し休息しないと駄目ね、そちらの女性も目を覚まさないようですから」

ここは市民街、扉をでると中に入れそうな建物が沢山あるが・・・魔物もわく可能性も多々ある

「シスレー、セーフティーエリアまでまだあるんでしたっけ?」

「うん、今日実質まだ4時間分ほどしか進んでないからね。セーフティーエリアまで行くとなると5時間かかるよ」

レイスとの戦闘でほぼ一日の終わりを感じていたが、マッピングという意味では何一つ進んでいなかった

「泊ったセーフティーエリアに戻る方が早そうですね」

「そうだね」

僕らが雑談していると、サーヤさん達も方針を決めたみたいようだ

「この住居区をでるとこまで進み、そこで小休止をとりましょう。幸いこの大通では魔物はみてませんから」

「分かりました」

シスレーが返事をし、引き返す予定はないようだ

シスレーと先頭を歩きながら、10分程先の住居区の出口へ

一応魔物の警戒をしてるが、何かでてくる素振りはない。家の中から物音は聞こえるため用心はする

「きゃあーーー!」

(なんだ!?マジックミサイル!)

用心したすぐのことだった、悲鳴が聞こえ咄嗟に使い慣れた魔法を使っていた

「うぉう!あ、あばれるな!?」

だがすぐにデックスさんの慌てる声が聞こえ、声の主が倒れていた女性が目を覚ました声だと分かる

「デックス、おろしてあげなさい」

サーヤさんの落ち着いた声で喋りかけている様子から、女性の悲鳴もとまると

「ノエル君、反応はやいね。うちの手もにぎちゃって」

「アハハ・・・もう癖ですね」

今回は反応速度が裏目にでた感じだった

マジックミサイルを消して、僕達も様子をみにいくことに

女性は地面に座り込み、ヘタレながら周りをキョロキョロし、サーヤさん達の顔と周りの風景を確認していた

「気が動転してるのでしょうか」

「そうだよね、レイスに多分あの呪いの炎をうけたと思うから」

僕らもデックスさん達の影に隠れながら様子を伺う

「大丈夫かしら?私は木漏れ日の午後のサーヤ、あなたのお名前は?」

「え・・・コレット・・・他のみんなは」

これがいつもの喋り方なのか、気が動転しているのか分からないが女性はアンナさんのようなぶっきら棒差がみえる

「信じがたいでしょうが、お仲間の女性は亡くなってました。男性3人は逃げていかれました」

「セシル・・・あいつら!」

セシルというのは亡くなった女性かな?冒険者カードじっくり確認してなかったな

「レイスがあの部屋にいましたが、コレットさん達もレイスと相対したと思っていいのかしら」

「レイス・・・あの不気味なやつ・・・だからあたしはやめようって!くそ!」

また一人あの部屋であったことを思いだしたように、呻きをあげている

ここはサーヤさんに任せるかと思い、つないだままの手をひっぱりシスレーと少し離れる

「どうしたの?」

「いえ、特段やることなかったので。これどうぞ、あの鉄格子のミミックの場所とか罠とかまだ記してないですよね」

「えっあぁそうだね。こっちまとめておこっか」

シスレーが地図に罠を記している間、僕は水やおやつ替わりのプリンを自分とシスレーの口へ運ぶ

「これおいしいね」

「はい、ゼリーと同じでこういう時食べやすいですよね」

「あーん」

「はい、どうぞ」

「おいしい、あっミミックってここだったよね」

「ですね、うわぁそんな上手な絵いりますか?」

「でも分かりやすいでしょ?」

シスレーとのしばしの休息をとっていると、コレットさんの声も徐々に声量をおとし落ち着いてきている様子がわかった

「シスレーどうです?向こう話が終わりそうな感じですよ」

「あとちょっとー・・・これを描いたらおっけー・・・」

絵以外でもこういう時シスレーは真剣な表情な為、少しドキっとしてしまう

「シスレーさん、ノエル君おまたせしました。コレットさんも一時的に今日から共に行動をしますわ」

「あっそうなんですね。Dランクの祝福探しのノエルです、臨時で木漏れ日に雇われています。よろしくお願いします」

「同じく祝福探しのシスレーです。よろしくお願いします」

「コレットよ、助けて貰ったみたいで感謝するわ」

コレットさん、ナタリーと同じようなゆったりとした神官のような服だが、少し雰囲気が違う。栗色のセミロングの髪型に目は特徴的な釣り目をしているが、美人と思われる部類だ。恐らく喋り方からしてきつい口調が顔にも出ているのだと思う

身長も僕より高く、高圧的に感じる口調も増す

「あのセシルさん?でしたっけ、お仲間の遺品と冒険者カードを預かっているのでどうぞ」

僕が一つにまとめた小袋を渡すと、奪い去るように僕の手から取り

袋の中の物を一つ一つ確認していく

「・・・ない!セシルのブレスレット!」

「ブレスレット?」

そんなものしていたかな?

「これ!あたしと同じの!おそろいだったの!」

「う~ん、みてないですねー」

「盗んだんじゃないの!」

「え?」

まさかそんな反応が返ってくると思わなかった

「お前何言ってんだ!」

僕がキョトンとしているとアンナさんがすぐに声を上げた

「だってないの!こいつDランクって聞いたから盗んだのよ!あれは高価な装飾品だったのよ!」

「サーヤ!こんなやつほっておけよ!ノエルを疑うとか信じられねー!」

「そうです!善意で遺品をノエル君は集めたのに!」

隣のシスレーも怒りを隠そうとしない顔をしている

「善意も何も一番高価な物だけ取ってるじゃない!悪意しか感じないわ!」

「コレットさん、それは本当にセシルさんが今回も身に着けていたのですか?」

「そうです!あたし覚えてます!」

サーヤさんには敬語を使うあたり、この人の程度が知れるな・・・

「もしかしたら、僕の回収忘れかもしれないので探して来たらいいのではないでしょうか」

「え・・・あんたが忘れたんならあんたがいきなさいよ!」

「は?てめーがいけ!」

またゴチャゴチャしだしたが、僕も流石に気分が悪い。でも、シスレーやアンナさんが味方になって否定してくれていることは嬉しい

「セシル・・・!もういいわ!とってくる!」

コレットさんはまたレイスの間に体を向き直していたが、進む様子はない

「ほらいけよ!シスレー、サーヤもうここで時間潰すのももったいないだろ、ガナートやホルドは休息が必要なんだからよ」

「そうね・・・コレットさん、申し訳ないですがノエル君は私達の大事なPTの一員です。事情がどうにしろ私もノエル君を疑う事はしませんし、みなレイスとの闘いで疲弊してますので探しに行くこともしません」

「え・・・そんな・・・妹との唯一の繋がりだったのに・・・」

サーヤさんからの無常な言葉に、そこに立ち尽くしてしまい

「妹とか関係ねーよ!ほらノエル、シスレー休憩しようぜ!」

アンナさんは僕とシスレーの肩を組んで先に歩いて行こうとする

「悪いな嬢ちゃん」

デックスさんも僕を信じてか、アンナさんを信じてか、コレットさんに一言声をかけて僕らの後に続く

その後にホルドさん、ガナートさんも同様に続き

「私達はあちらの住居区の出口で小休止をとります。一人でここを抜けるのを不安に思って言うなら来てください。少しはお助けできると思います」

最後にサーヤさんの言葉が聞こえ、サーヤさんも後ろから続いてくるのがわかった

一連の流れでシスレーやアンナさんと言った、僕に好意を持ってくれている人以外のデックスさんやガナートさんも、僕を疑う言葉を一つも言わなかった事が何よりも木漏れ日に雇われてよかったと思えたのだった

レイスの間からこの入口まで歩いて10分なのに、かなり時間かかったなと思ったがやっとみんなも休憩となった

住居区の出口付近に屋根付きの円型のベンチが併設されており

そこへみんな腰掛けると

「やっと落ち着けたー・・・俺ねます」

「私も休まさせてもらうよ・・・」

MPを切らし気味のホルドさんとガナートさんは寝にはいり

「サーヤお前も寝ておけよ」

「えぁ、そうね・・・デックス、アンナ頼むわね」

「おう、2時間後に起こすかなら」

サーヤさんもアンナさんが気に掛けて眠りにはいった

「ノエル、お前も寝ろよ。ノエルにはゴースト相手には頑張ってもらわなきゃいけねーからな」

「僕は大丈夫ですよ、ご心配なく」

「大丈夫か?にいちゃん」

「はい、僕はサーヤさん達と違って上級魔法使ってないので」

「まぁそれがあいつらがCランクの魔法使いの由縁だからな!」

Cランクは一応上級のスキルブックを一個は使える前提かな?とアンナさんの言葉が少しひっかかかった

「お二人、何か食事しますか?」

「そうだな、俺は水と軽いくいもんが欲しいぜ」

「私は酒と肉!」

「アンナ酒は駄目だろ、サーヤに任せるって言われてるじゃねーかよ」

「ちっ堅物が」

りんごとベーコン、パン、ナッツにチーズを広げ4人で食事をしながらサーヤさん達のMP回復をまつのだった

「ち・・・あいつどっかいけよな」

目の端で捉えていたが、結局コレットさんは一人でレイスの間に行く勇気はなく僕達におくれてここの出入り口にたどり着き、通路を挟んだ反対側の屋根付きベンチで一人座り丸まっている

「ほんとですよ!遺品も渡す必要なんて最初からないのに!」

「だよな!まじであいつイラつくぜ」

ここにきて共通の敵が出来たシスレーとアンナさんは一気に仲良くなっている

「まぁまぁ落ち着けよ二人とも、あの嬢ちゃんも妹をうしなっ・・・」

「は?どっちの肩もってんだデックス」

「言っていいこと、悪い事があります!」

デックスさんの言葉に食い気味に反論する、アンナさんとシスレー

「だっだよな・・・ハハ」

僕は少し時間が経ち、当事者なのにすでにどうでもよくなっていた。ディティマール気持ちの整理は優秀すぎだよ

だが、疑われたままいるのもしゃくな為

もう一度、今までの事を振り返ってみる・・・イベントリへブレスレットらしきものはない・・・取りこぼしは・・・セシルさんはサリアのようなコートだ

だが丈は・・・半そで・・・自分の記憶術が確かな事は異世界のこの体になって疑いようがない。

うん、セシルさんの腕にはブレスレットはなかった

だとしたら・・・うん?あいつ何かもってなかったかな?

「あ!」

思い出してしまった、あのシスレーを付き飛ばそうとして華麗に避けられ、転んだ冒険者。あいつの右手、シスレーを突き飛ばそうとしていたのに右手は握りこまれていた

「どうした?」
「どうしたの?」

「いえ、思い出しごとが。ほらレイスから逃げてきた冒険者で一人こけたやついたじゃないですか」

「いたね、まさか殴られそうになるとは思わなかったよ」

殴ろうとしたにしては不自然な動き、そもそも邪魔だからって殴りはしないだろう

「あれ殴ろうとしたんじゃないと思うんですよ。本当につき飛ばそうとしただけだと思うんですが、手に何か握ってたから殴ろうとしたように見えたんだと思います」

「手に何か?」

「アンナ流石に俺でもわかったぜ、ブレスレットだよな」

「はい、僕もそう思います」

「デックスでしゃばんなよ、私はノエルとシスレー二人としゃべってんだからな!」

「ひでぇ・・・」

「アンナさん僕はデックスさんにも聞いているので」

「・・・にいちゃん気を遣わせて悪いな」

デックスさんが不憫に見えて仕方ない。ウェッジコートから王都までの道のりの有頂天のデックスさん、あの時は鬱陶しいと思っていたが、今となってはもう少し寛容に見てあげていればと思う

「まぁ今のは推測ですが、僕の記憶をたどっても取り残しは無さそうなのでその線が一番濃厚ですが・・・でも推測なので確実じゃないですね」

確証がないため推測の域をでない、それにあの冒険者はどこにいったかもわからないから問い詰めようもなかった

「もうそれでいいだろ、あんな奴に構う事ねーよ」

「ですね、これ以上考えると助けなかったら良かったと思いそうになります」

「おっ・・・おう、まぁ落ち着けよ二人とも」

シスレーとアンナさんはベーコンやパンに怒りをぶつけるかのように咀嚼し食べ、デックスさんが見た目と裏腹に大人しそうにナッツをポリポリと食べていた



2時間が経つとアンナさんはサーヤさんから順に3人を起こした

「はぁ~・・・ふーー」

「何もないかしら・・・」

疲れが取れた様子のないホルドさん、静かなガナートさん、すぐに仕事モードになるサーヤさん

「おう、異常ないぞ。サーヤ達も少し食事しておけよ」

「そうね」

「どうぞ、ここに並べるので好きなの食べてください」

アンナさん達と同様の物を並べ、ゆっくりとした食事をとりながら本来のマッピングの仕事をする為に軌道修正を図る

「このままセーフティエリア目指す方向でいいのか?」

「そうね、レイスがいるとなると他の場所にも上位種はいるということよね・・・」

「だろうな、リビングアーマーだからデュラハンか?」

サーヤさんはシスレーの持っている地図を広げてルートを選択し始めた

当初の予定通りいかない事もあるけど、サーヤさん達がここまで準備してきていてもそれは同じなのか

後は、ここから状況に応じて対応する事を求められるんだろうな・・・リーダーは大変だ・・・アル頑張れ

サーヤさんの姿をみて、アルの姿が目に浮かび無責任にも丸投げしようと考えるのだ

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