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第一章
第九話 戦士の眼
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重く張り詰めた空気が修練場を支配し、剣と剣の衝撃音が私の心臓にまで響き渡る。その音の振動が全身に伝わり、手が震え、体がガタガタと震えた。
内心では「これでいけるのか」という疑念と、「もうだめかも」という不安が交錯していた。
その瞬間、突然圧力が和らぎ、視界が戻ってきたことで、周囲の修練場の景色が再び鮮明に映る。ヴィルの姿がぼんやりとした白から、実体のある鋭い輪郭へと戻り、その表情が見て取れた。
そこには一切の動揺もなく、息一つ乱れていない。その唇がわずかに引き締まり微笑みに変わる。それは興味深げで、私の必死な姿を楽しむようにも感じられ、どこか腹立たしかった。
「俺の初撃をよく耐えた。普通ならこれで終わっていてもおかしくない一撃だ」
ヴィルの言葉に、私はようやく胸をなでおろした。しかし、その安堵の裏にはまだ不安が隠れていた。
「何故……。何故、全力で振り抜いて押し切らなかったの?」
震える声が、場の緊張を引き裂くように響いた。ヴィルは冷静に答えた。
「そんな事をしたら、今頃お前は壁にめり込んでいただろうな」
「え……」
その恐ろしい情景を思い浮かべた瞬間、背筋が凍るような感覚に襲われた。
「まず一回目は合格だ」
まだ一回目、それもほんの一瞬だったというのに、私の心臓は速く鼓動し、全身に一気に汗が吹き出ていた。緊張感が体中に走り抜け、手足が震えている。この緊張感こそが試練の証であり、本気で向き合わなければならない現実を物語っていた。
そう心に投げかけていると、ヴィルが口を開いた。
「なかなか面白いことをやるじゃないか。風の障壁を展開させて、俺の勢いを削ごうとするは」
その指摘に、私は驚きの表情を隠せず、悔しさが込み上げてきた。私の策略が見破られたことに、焦りとともに不安が広がる。
「それは光栄だわ」
強がって答える私に、ヴィルはさらに問いかけた。
「いい判断と対応だった。しかし、いつの間に魔術を仕込んでいたんだ?」
「合図の後からよ」
「すると、お前とその剣の魔導具の属性は風か?」
「さあ? それはどうかしら?」
ヴィルの追及に対して、私は意図的に誤魔化す。相手に手の内を見せるわけにはいかない。
「ミツル、お前はもしかして、無詠唱で魔術を使えるのか?」
「さあ? かもしれないわね」
ヴィルの眼が鋭く光る。彼の探求心は冷徹で、私の心に一層の圧迫感を与える。
「ふむ……。お前は詠唱なしで、背後で魔術の風の障壁を仕込んでいたようだな。そして、俺の打ち込みのタイミングに合わせてぶつけてきた」
「へえ、よく見抜いたわね」
表面上は冷静を装いつつも、私は内心でぞっとしていた。
「それくらいは感触でわかるだろう。俺がどれだけ場数を踏んでいると思っているんだ?」
ヴィルは自信を覗かせた。その言葉には深い経験に裏打ちされた自信が滲んでいた。
「普通は魔導具を使っても簡単な詠唱が必要だったり、発動までにラグが生じるものなんだが、見た感じそんな感じはしなかった。それだけじゃない。剣がぶつかる前に、瞬時に次を展開して、勢いを殺そうとしていただろう?」
驚いた。ほんの一瞬の鍔迫り合いだったにもかかわらず、彼はそこまで細かく観察していた。私の作戦が、まるで透けて見えるかのようだった。
「でも、あなたは障壁を真正面から切り裂いてきた。そんなことができる人がいるなんて、思いもしなかったわ……」
私の震える声が、重く張り詰めた静寂の中に響いた。一方、ヴィルの表情は変わらず、微笑みを浮かべながらも、その眼差しには一片の動揺もなかった。
「まあな。無詠唱であろうと、仕込みであろうと、俺にとっては大した問題じゃない。それよりも速く、強く、ただひたすらに斬るだけだ。この間合いなら、俺を止められる魔術師はまず存在しない」
「なんですって……」
私の声は震え、思わず呆然とした。彼の言葉には、理屈など何も存在しないように思えてしまう。
剣の長さや障壁の有無など、彼にとっては些細な問題なのかもしれない。私の中で、現実と非現実の境界が曖昧になりつつあった。
でも、それは違う。
彼の言葉には、長い時間をかけて技術を磨き続けた熟練の職人が、まるで未熟な弟子に対して示すかのような重い説得力があった。その言葉の一つ一つに、彼の長年の経験と自信が込められているのを感じた。これが熟練の者の重み。私には、まだ遠い世界の話であると実感する。
「恐れ入ったわ……」
「はっはっはっ」
ヴィルの笑い声が、空気を振るわせる。彼の笑いには挑戦者に対する余裕と共に、確固たる自信が滲んでいた。その声に、私はさらに深い感慨を覚える。私が知るべきことはただ一つ。彼の前では、私がまだ未熟であるということだけだった。
率直に言って、彼の存在は桁が違う。父さまの旧友という肩書きが示す通り、その実力は計り知れない。心の中では畏怖と敬意が入り混じり、自らの未熟さに対する悔しさが渦巻いていた。その一方で、彼の存在が新たな挑戦への意欲を私に与えていることも感じていた。
そうだ。私にはまだ多くのものが不足している。だからこそ、もっと強くなりたい。この試練は私が乗り越えなければならない大切な課題だと、改めて心に刻んだ。
目の前の戦士が示す道は、私が成長するための貴重な機会だ。たとえその道が険しくとも、私は挑み続ける覚悟を持っている。
強くなるために、前へ進むしかない。
内心では「これでいけるのか」という疑念と、「もうだめかも」という不安が交錯していた。
その瞬間、突然圧力が和らぎ、視界が戻ってきたことで、周囲の修練場の景色が再び鮮明に映る。ヴィルの姿がぼんやりとした白から、実体のある鋭い輪郭へと戻り、その表情が見て取れた。
そこには一切の動揺もなく、息一つ乱れていない。その唇がわずかに引き締まり微笑みに変わる。それは興味深げで、私の必死な姿を楽しむようにも感じられ、どこか腹立たしかった。
「俺の初撃をよく耐えた。普通ならこれで終わっていてもおかしくない一撃だ」
ヴィルの言葉に、私はようやく胸をなでおろした。しかし、その安堵の裏にはまだ不安が隠れていた。
「何故……。何故、全力で振り抜いて押し切らなかったの?」
震える声が、場の緊張を引き裂くように響いた。ヴィルは冷静に答えた。
「そんな事をしたら、今頃お前は壁にめり込んでいただろうな」
「え……」
その恐ろしい情景を思い浮かべた瞬間、背筋が凍るような感覚に襲われた。
「まず一回目は合格だ」
まだ一回目、それもほんの一瞬だったというのに、私の心臓は速く鼓動し、全身に一気に汗が吹き出ていた。緊張感が体中に走り抜け、手足が震えている。この緊張感こそが試練の証であり、本気で向き合わなければならない現実を物語っていた。
そう心に投げかけていると、ヴィルが口を開いた。
「なかなか面白いことをやるじゃないか。風の障壁を展開させて、俺の勢いを削ごうとするは」
その指摘に、私は驚きの表情を隠せず、悔しさが込み上げてきた。私の策略が見破られたことに、焦りとともに不安が広がる。
「それは光栄だわ」
強がって答える私に、ヴィルはさらに問いかけた。
「いい判断と対応だった。しかし、いつの間に魔術を仕込んでいたんだ?」
「合図の後からよ」
「すると、お前とその剣の魔導具の属性は風か?」
「さあ? それはどうかしら?」
ヴィルの追及に対して、私は意図的に誤魔化す。相手に手の内を見せるわけにはいかない。
「ミツル、お前はもしかして、無詠唱で魔術を使えるのか?」
「さあ? かもしれないわね」
ヴィルの眼が鋭く光る。彼の探求心は冷徹で、私の心に一層の圧迫感を与える。
「ふむ……。お前は詠唱なしで、背後で魔術の風の障壁を仕込んでいたようだな。そして、俺の打ち込みのタイミングに合わせてぶつけてきた」
「へえ、よく見抜いたわね」
表面上は冷静を装いつつも、私は内心でぞっとしていた。
「それくらいは感触でわかるだろう。俺がどれだけ場数を踏んでいると思っているんだ?」
ヴィルは自信を覗かせた。その言葉には深い経験に裏打ちされた自信が滲んでいた。
「普通は魔導具を使っても簡単な詠唱が必要だったり、発動までにラグが生じるものなんだが、見た感じそんな感じはしなかった。それだけじゃない。剣がぶつかる前に、瞬時に次を展開して、勢いを殺そうとしていただろう?」
驚いた。ほんの一瞬の鍔迫り合いだったにもかかわらず、彼はそこまで細かく観察していた。私の作戦が、まるで透けて見えるかのようだった。
「でも、あなたは障壁を真正面から切り裂いてきた。そんなことができる人がいるなんて、思いもしなかったわ……」
私の震える声が、重く張り詰めた静寂の中に響いた。一方、ヴィルの表情は変わらず、微笑みを浮かべながらも、その眼差しには一片の動揺もなかった。
「まあな。無詠唱であろうと、仕込みであろうと、俺にとっては大した問題じゃない。それよりも速く、強く、ただひたすらに斬るだけだ。この間合いなら、俺を止められる魔術師はまず存在しない」
「なんですって……」
私の声は震え、思わず呆然とした。彼の言葉には、理屈など何も存在しないように思えてしまう。
剣の長さや障壁の有無など、彼にとっては些細な問題なのかもしれない。私の中で、現実と非現実の境界が曖昧になりつつあった。
でも、それは違う。
彼の言葉には、長い時間をかけて技術を磨き続けた熟練の職人が、まるで未熟な弟子に対して示すかのような重い説得力があった。その言葉の一つ一つに、彼の長年の経験と自信が込められているのを感じた。これが熟練の者の重み。私には、まだ遠い世界の話であると実感する。
「恐れ入ったわ……」
「はっはっはっ」
ヴィルの笑い声が、空気を振るわせる。彼の笑いには挑戦者に対する余裕と共に、確固たる自信が滲んでいた。その声に、私はさらに深い感慨を覚える。私が知るべきことはただ一つ。彼の前では、私がまだ未熟であるということだけだった。
率直に言って、彼の存在は桁が違う。父さまの旧友という肩書きが示す通り、その実力は計り知れない。心の中では畏怖と敬意が入り混じり、自らの未熟さに対する悔しさが渦巻いていた。その一方で、彼の存在が新たな挑戦への意欲を私に与えていることも感じていた。
そうだ。私にはまだ多くのものが不足している。だからこそ、もっと強くなりたい。この試練は私が乗り越えなければならない大切な課題だと、改めて心に刻んだ。
目の前の戦士が示す道は、私が成長するための貴重な機会だ。たとえその道が険しくとも、私は挑み続ける覚悟を持っている。
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