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一章
プロローグ
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光の届かない天井に向かって巨大な柱が何本もそびえ立ち、巨人が造った神殿なのではないかと思えるくらいに平らで開けた空間を覆っていた硝煙が薄くなっていく。エアコンが車内を強制的に冷却する音が先ほどまで続いていた発砲音の残響をかき消していたが、体はまだ少し揺さぶられている気がした。
ヘッドマウントディスプレイに映し出される車外の映像に動くものはなく、視線操作でセンサーの表示をいくつか切り替えてもモンスターが新たに近付いてくる騒がしい気配はない。
(本当にもう終わりっすか?)
狭く薄暗い車内で浅い呼吸を繰り返しながら、自動車整備士で元社畜の渡飛雄馬はもう一度周囲を見回す。射撃ボタンに触れる指はいつでも押す準備ができていた。
不意にヘッドホンからわずかなノイズが聞こえる。
「撃ち方止め」
一瞬おいて共通通訳機で通訳されたリーダーの低く落ち着いて不思議とよく通る声が聞こえて、飛雄馬は大きく息を吐いた。
射撃ボタンにかけていた指を離して、その指で正面の多目的ディスプレイに表示されたいくつものボタンを叩いて武装の状態を確認し安全状態に戻す。そして、まだぎこちなさが残る手つきで砲塔を正面に固定、センサーマストの設定を自動に変更した。
もう一度息を吐くとモンスターとの戦闘が始まってから流していたゲームの戦闘曲がまだそのままになっていることに気付いて止める。静かになると思ったら、今度は共通通訳機で通訳された仲間たちの気楽そうな雑談が聞こえてきた。
「やっと進めますね。飛雄馬さんもだいぶ命中するようになってきて良かったです」
「まったくいつもいつもどこから出てくるのかしら」
「スポンサーを見付けて調べてみたいですね」
「それより、ワタシの活躍見てくれてた?」
飛雄馬は仲間たちの元気そうな声を聞いて安心した。半年前にこの世界で目覚めたばかりの飛雄馬にとって仲間たちは命の恩人であり、この世界で生きるための術と場所を与えてくれた何よりも大切な存在だった。
(みんなすごいっす)
まだ戦闘になるとガチガチに緊張してしまう飛雄馬と違って聞こえてくる仲間たちの声や口調に不安や緊張は感じられない。
飛雄馬を含めて六人いるパーティーは二人を除くと全員が異なる星の出身で姿も大きさも異なり、話すために使う手段も異なっていてそのままでは会話できなかったから、その声や口調は飛雄馬が共通通訳機の設定でそれぞれの印象から勝手に割り当てたものものだったが、今ではすっかりなじんで本人が話しているようにしか思えない。
半年前に初めて会ったときはとんでもないところに連れてこられてしまったと毎日のように地球に日本に帰りたいと願っていたことが嘘のようだ。
「師匠の探知と分析の能力は超一流っす。オレも早く師匠みたいにできるようになりたいっす」
「ありがとう。飛雄馬も次の目標に移るときの判断が正確になってきたじゃない。ワタシも良い弟子に恵まれてうれしいよ」
「師匠の教え方がうまいからっす。師匠みたいに教えるのがうまい先輩がいなかったらオレはここにいられなかったっす。今だって師匠が教えてくれてなかったらオレは待ち伏せに気付かなくてパニックになってたっす」
「ほめすぎだよ。そんなに言われたらさすがに恥ずかしいって。ワタシがいなかったとしてもリーダーだってみんなだってそんなに薄情じゃないってば。飛雄馬だって飲み込みが早いんだからすぐにできるようになるよ」
照れて否定しながらも弾んだ声でモンスターを特定するための分析のコツやそれをつかむまでの苦労を話し始めた師匠に相づちをうちながら、飛雄馬は気楽に話せるように座席を後ろにずらして音声をヘッドホンから車内のスピーカーに切り替え、ヘッドマウントディスプレイとヘッドホンが付いたヘルメットを外した。
元々飛雄馬は話をするのも聞くのも好きで、子供のころは家族や友達はもちろん、町内に住むよく知らない高齢者と話し込むことも珍しくなかった。学生のころはさすがに誰とでも話し込むのは止めたが、自動車整備士より営業職の方が向いているのではと言われてケンカすることもあった。
でも、念願の自動車整備士として働いていた以前の職場では全員が慢性的な過重労働だったために人間関係がギクシャクして会話を楽しいと感じることがほとんどなかっただけに、また仲間たちと会話を楽しめるということがうれしくてならなかった。
飛雄馬は師匠の話に耳を傾けながら師匠とパーティーの仲間たちの姿を思い浮かべた。
「リーダー」は飛雄馬たちのパーティーでの役割の名前であり、飛雄馬が付けたあだ名だ。本当の名前は別にあるものの飛雄馬には発音も聞き取りも難しいので声や口調と同じように印象から勝手に付けた。
その姿は背丈が飛雄馬の倍以上あって全身が灰色の毛皮に覆われ、黒くて鋼鉄のように固い爪のはえた手と四本の丸太のように太くたくましい腕を持つというもので、地球の生き物だと熊が直立した姿に似ている。
性格は静かで打たれ強い。無口なこともあって大声を上げたところを見たことがないが、戦い方は暴風のように容赦がなくてどんな障害を使っても止められない。
先生と組んでパーティーを立ち上げる前は傭兵をしていて「血まみれ」というあだ名を付けられるぐらい活躍していたらしい。
「師匠」も飛雄馬が付けたあだ名だ。背丈は飛雄馬より小さくて飛雄馬のへそくらい。気分や感情、周囲の様子で体の色がディスプレイのようによく変わるのが特徴で、二本の長く伸びる腕と八本の短めの足を持ち、地球の生き物だとイカが直立したような姿をしている。
話をするのが好きで話が長いのは寿命が短い種族なため記憶や記録を伝えることに一番の価値を置いているためらしい。
パーティーでは観測や電子戦、車両や機械の整備や修理を担当していて、飛雄馬がパーティーに加わった直後から必要なことを過剰なくらいに教えてくれた。
「先生」はリーダーと二人でこのパーティーを立ち上げ、依頼された調査を行うというパーティーの方針を作った人だ。
その姿は飛雄馬よりずっと大きく、地球にいる五本足のヒトデを二つ折りにして四本足の動物にした感じで、目の粗い紙やすりのようにザラザラして硬い紺色の皮膚をしている。
パーティーを立ち上げる前はどこかの研究所で科学者として働いていたらしい。
パーティーでは調査と迫撃砲などによる間接的な火力支援を担当しているが、接点が少ない上にリーダー以上に無口なので性格はよく分からない。お嬢の話によるとブラックジョークが好きで怒るとリーダーより怖いらしい。
「お嬢」は飛雄馬が付けたあだ名の中でも一番ピッタリだと思っているあだ名だ。
モンスターと戦うために目立たないよう地味なカーキ色に染めているが元々は華やかで豪華なドレスのような羽毛らしいし、上下関係にうるさくていつもリーダーや先生に次いで三番目に偉いのだと威張っている。
初めて会ったときに作業服みたいな色だと言ったら頭をわしづかみされて爪を立てられたことは忘れていない。
姿は地球の鳥に似ていて自力で空を飛ぶことができ、翼を広げると飛雄馬の背丈よりも大きい。パーティーでは通信管制と外部との交渉を担当している。
「ばあや」はお嬢との関係から付けたが、お嬢と同じ年らしいので申しわけないとも思っている。
背丈は飛雄馬のヒザくらいで、姿は地球のモルモットに似ているが腹這いになったモルモットがさらに薄くなったみたいに少し平べったい。また、体の毛が薄いので服を着ている。
お嬢の種族と助け合いながら進化してきた種族だそうで、ばあやもお嬢と大体一緒にいてお嬢をたしなめたり、お嬢に運んでもらったりしている。
性格は礼儀正しく几帳面で、お嬢以外にも結構小言を言う。パーティーでは総務や経理といった事務作業を一手に担当しているのでパーティーで三番目に偉いのはばあやじゃないかと思っている。
最後に、パーティーの名前は「シーダー」だった。
これは飛雄馬が付けたあだ名ではなく英語への直訳で、日本語だと「種をまく者」になる。
名前の由来はリーダーと先生がパーティーを立ち上げたときに、モンスターなどと戦って自分たちの世界を広げるという最初の段階から離れて、その次の段階である調査を新たな仕事とし、さらにその次の段階である開発につながる種をまいていきたいという願いを込めたとのことだった。
思い浮かべた仲間たちを頭の中で整列させ終えた飛雄馬が師匠の話に意識を戻すと、お嬢が割って入ったところだった。
「ちょっと、一人でいつまでも話してないでよ。まだ調査は終わってないんだからね」
「ごめんね。そんなに話してるつもりはなかったんだけど、うれしくてちょっと話しすぎちゃったみたい」
「まったく。今度演説を始めたらあなたの共通通訳機からの発信だけ制限するからね」
「ごめんって」
お嬢にくぎを差された師匠が謝る。時計を見ると、確かに雑談はそろそろ終わりにした方が良さそうだった。
師匠がおとなしく話を止めたので飛雄馬もあきらめることにし、座席を元に戻す前に水を一口飲んで金平糖を数粒かじった。
いつもの時間が戻ってくる。
飛雄馬は手足を伸ばして体をほぐしてから座席を元に戻し、大きく息を吐いてヘルメットをかぶった。
「リーダー、一号車は準備完了っす」
「二号車も大丈夫です」
「三号車も異常ありません」
「通信班もいつでも行けます」
「四号車も問題なさそうだな。
よし、全員前進。警戒態勢のまま地下施設の調査を続行する」
「了解」
仲間たちも準備を終えていたようで飛雄馬の報告に仲間たちからの報告が続き、リーダーが号令をかけた。
飛雄馬はハンドルを握りなおしてからヘッドマウントディスプレイに映る車外前方の様子を注視し、アクセルをゆっくり踏み込んで一〇五ミリ戦車砲搭載の砲火力支援型八輪装甲車を静かに発車させる。飛雄馬はこの装甲車に「ヘルキャット」というあだ名を付けていた。
飛雄馬たちのパーティーは飛雄馬が運転するヘルキャットのほか、師匠が運転してお嬢とばあやが同乗する通信・電子戦型八輪装甲車を一両、先生が運転する間接火力支援型八輪装甲車を一両、無人運転で徒歩のリーダーが付き添う大型トラックを一両と合計四両の車両を持ち、町の有力者からの依頼で行う地下資源調査などの野外調査を主な仕事としていて、今も近くにある町の商会からの依頼で行っていた地質調査中に発見した地下施設を調査しているところだった。
(今度こそ師匠より先に見付けるっす)
パーティーで主力と車両の整備や修理を担当し、今も先頭を任されている者として飛雄馬は心の中でつぶやく。
奥へ進めばほぼ確実にモンスターがまた出てくる。戦闘になると思うと決意がすぐに鈍りそうになるが、確実に戦闘になると決まっているわけではない。それより、師匠より先に見付けられれば成長していることを仲間たちにはっきり示せるはずだと気持ちを奮い起こす。
飛雄馬は自分をまだ半人前以下のお荷物だと判断していた。仲間たちは誰でも最初からうまくできるわけではないと誰もそのことについて言わなかったし、飛雄馬もその温情と励ましが心の支えになっていた。
でも、飛雄馬は早く一人前になってパーティーの役に立ちたかったし、仲間たちと対等な立場で会話を楽しみたいと思っていた。
ヘッドマウントディスプレイに映し出される車外の映像に動くものはなく、視線操作でセンサーの表示をいくつか切り替えてもモンスターが新たに近付いてくる騒がしい気配はない。
(本当にもう終わりっすか?)
狭く薄暗い車内で浅い呼吸を繰り返しながら、自動車整備士で元社畜の渡飛雄馬はもう一度周囲を見回す。射撃ボタンに触れる指はいつでも押す準備ができていた。
不意にヘッドホンからわずかなノイズが聞こえる。
「撃ち方止め」
一瞬おいて共通通訳機で通訳されたリーダーの低く落ち着いて不思議とよく通る声が聞こえて、飛雄馬は大きく息を吐いた。
射撃ボタンにかけていた指を離して、その指で正面の多目的ディスプレイに表示されたいくつものボタンを叩いて武装の状態を確認し安全状態に戻す。そして、まだぎこちなさが残る手つきで砲塔を正面に固定、センサーマストの設定を自動に変更した。
もう一度息を吐くとモンスターとの戦闘が始まってから流していたゲームの戦闘曲がまだそのままになっていることに気付いて止める。静かになると思ったら、今度は共通通訳機で通訳された仲間たちの気楽そうな雑談が聞こえてきた。
「やっと進めますね。飛雄馬さんもだいぶ命中するようになってきて良かったです」
「まったくいつもいつもどこから出てくるのかしら」
「スポンサーを見付けて調べてみたいですね」
「それより、ワタシの活躍見てくれてた?」
飛雄馬は仲間たちの元気そうな声を聞いて安心した。半年前にこの世界で目覚めたばかりの飛雄馬にとって仲間たちは命の恩人であり、この世界で生きるための術と場所を与えてくれた何よりも大切な存在だった。
(みんなすごいっす)
まだ戦闘になるとガチガチに緊張してしまう飛雄馬と違って聞こえてくる仲間たちの声や口調に不安や緊張は感じられない。
飛雄馬を含めて六人いるパーティーは二人を除くと全員が異なる星の出身で姿も大きさも異なり、話すために使う手段も異なっていてそのままでは会話できなかったから、その声や口調は飛雄馬が共通通訳機の設定でそれぞれの印象から勝手に割り当てたものものだったが、今ではすっかりなじんで本人が話しているようにしか思えない。
半年前に初めて会ったときはとんでもないところに連れてこられてしまったと毎日のように地球に日本に帰りたいと願っていたことが嘘のようだ。
「師匠の探知と分析の能力は超一流っす。オレも早く師匠みたいにできるようになりたいっす」
「ありがとう。飛雄馬も次の目標に移るときの判断が正確になってきたじゃない。ワタシも良い弟子に恵まれてうれしいよ」
「師匠の教え方がうまいからっす。師匠みたいに教えるのがうまい先輩がいなかったらオレはここにいられなかったっす。今だって師匠が教えてくれてなかったらオレは待ち伏せに気付かなくてパニックになってたっす」
「ほめすぎだよ。そんなに言われたらさすがに恥ずかしいって。ワタシがいなかったとしてもリーダーだってみんなだってそんなに薄情じゃないってば。飛雄馬だって飲み込みが早いんだからすぐにできるようになるよ」
照れて否定しながらも弾んだ声でモンスターを特定するための分析のコツやそれをつかむまでの苦労を話し始めた師匠に相づちをうちながら、飛雄馬は気楽に話せるように座席を後ろにずらして音声をヘッドホンから車内のスピーカーに切り替え、ヘッドマウントディスプレイとヘッドホンが付いたヘルメットを外した。
元々飛雄馬は話をするのも聞くのも好きで、子供のころは家族や友達はもちろん、町内に住むよく知らない高齢者と話し込むことも珍しくなかった。学生のころはさすがに誰とでも話し込むのは止めたが、自動車整備士より営業職の方が向いているのではと言われてケンカすることもあった。
でも、念願の自動車整備士として働いていた以前の職場では全員が慢性的な過重労働だったために人間関係がギクシャクして会話を楽しいと感じることがほとんどなかっただけに、また仲間たちと会話を楽しめるということがうれしくてならなかった。
飛雄馬は師匠の話に耳を傾けながら師匠とパーティーの仲間たちの姿を思い浮かべた。
「リーダー」は飛雄馬たちのパーティーでの役割の名前であり、飛雄馬が付けたあだ名だ。本当の名前は別にあるものの飛雄馬には発音も聞き取りも難しいので声や口調と同じように印象から勝手に付けた。
その姿は背丈が飛雄馬の倍以上あって全身が灰色の毛皮に覆われ、黒くて鋼鉄のように固い爪のはえた手と四本の丸太のように太くたくましい腕を持つというもので、地球の生き物だと熊が直立した姿に似ている。
性格は静かで打たれ強い。無口なこともあって大声を上げたところを見たことがないが、戦い方は暴風のように容赦がなくてどんな障害を使っても止められない。
先生と組んでパーティーを立ち上げる前は傭兵をしていて「血まみれ」というあだ名を付けられるぐらい活躍していたらしい。
「師匠」も飛雄馬が付けたあだ名だ。背丈は飛雄馬より小さくて飛雄馬のへそくらい。気分や感情、周囲の様子で体の色がディスプレイのようによく変わるのが特徴で、二本の長く伸びる腕と八本の短めの足を持ち、地球の生き物だとイカが直立したような姿をしている。
話をするのが好きで話が長いのは寿命が短い種族なため記憶や記録を伝えることに一番の価値を置いているためらしい。
パーティーでは観測や電子戦、車両や機械の整備や修理を担当していて、飛雄馬がパーティーに加わった直後から必要なことを過剰なくらいに教えてくれた。
「先生」はリーダーと二人でこのパーティーを立ち上げ、依頼された調査を行うというパーティーの方針を作った人だ。
その姿は飛雄馬よりずっと大きく、地球にいる五本足のヒトデを二つ折りにして四本足の動物にした感じで、目の粗い紙やすりのようにザラザラして硬い紺色の皮膚をしている。
パーティーを立ち上げる前はどこかの研究所で科学者として働いていたらしい。
パーティーでは調査と迫撃砲などによる間接的な火力支援を担当しているが、接点が少ない上にリーダー以上に無口なので性格はよく分からない。お嬢の話によるとブラックジョークが好きで怒るとリーダーより怖いらしい。
「お嬢」は飛雄馬が付けたあだ名の中でも一番ピッタリだと思っているあだ名だ。
モンスターと戦うために目立たないよう地味なカーキ色に染めているが元々は華やかで豪華なドレスのような羽毛らしいし、上下関係にうるさくていつもリーダーや先生に次いで三番目に偉いのだと威張っている。
初めて会ったときに作業服みたいな色だと言ったら頭をわしづかみされて爪を立てられたことは忘れていない。
姿は地球の鳥に似ていて自力で空を飛ぶことができ、翼を広げると飛雄馬の背丈よりも大きい。パーティーでは通信管制と外部との交渉を担当している。
「ばあや」はお嬢との関係から付けたが、お嬢と同じ年らしいので申しわけないとも思っている。
背丈は飛雄馬のヒザくらいで、姿は地球のモルモットに似ているが腹這いになったモルモットがさらに薄くなったみたいに少し平べったい。また、体の毛が薄いので服を着ている。
お嬢の種族と助け合いながら進化してきた種族だそうで、ばあやもお嬢と大体一緒にいてお嬢をたしなめたり、お嬢に運んでもらったりしている。
性格は礼儀正しく几帳面で、お嬢以外にも結構小言を言う。パーティーでは総務や経理といった事務作業を一手に担当しているのでパーティーで三番目に偉いのはばあやじゃないかと思っている。
最後に、パーティーの名前は「シーダー」だった。
これは飛雄馬が付けたあだ名ではなく英語への直訳で、日本語だと「種をまく者」になる。
名前の由来はリーダーと先生がパーティーを立ち上げたときに、モンスターなどと戦って自分たちの世界を広げるという最初の段階から離れて、その次の段階である調査を新たな仕事とし、さらにその次の段階である開発につながる種をまいていきたいという願いを込めたとのことだった。
思い浮かべた仲間たちを頭の中で整列させ終えた飛雄馬が師匠の話に意識を戻すと、お嬢が割って入ったところだった。
「ちょっと、一人でいつまでも話してないでよ。まだ調査は終わってないんだからね」
「ごめんね。そんなに話してるつもりはなかったんだけど、うれしくてちょっと話しすぎちゃったみたい」
「まったく。今度演説を始めたらあなたの共通通訳機からの発信だけ制限するからね」
「ごめんって」
お嬢にくぎを差された師匠が謝る。時計を見ると、確かに雑談はそろそろ終わりにした方が良さそうだった。
師匠がおとなしく話を止めたので飛雄馬もあきらめることにし、座席を元に戻す前に水を一口飲んで金平糖を数粒かじった。
いつもの時間が戻ってくる。
飛雄馬は手足を伸ばして体をほぐしてから座席を元に戻し、大きく息を吐いてヘルメットをかぶった。
「リーダー、一号車は準備完了っす」
「二号車も大丈夫です」
「三号車も異常ありません」
「通信班もいつでも行けます」
「四号車も問題なさそうだな。
よし、全員前進。警戒態勢のまま地下施設の調査を続行する」
「了解」
仲間たちも準備を終えていたようで飛雄馬の報告に仲間たちからの報告が続き、リーダーが号令をかけた。
飛雄馬はハンドルを握りなおしてからヘッドマウントディスプレイに映る車外前方の様子を注視し、アクセルをゆっくり踏み込んで一〇五ミリ戦車砲搭載の砲火力支援型八輪装甲車を静かに発車させる。飛雄馬はこの装甲車に「ヘルキャット」というあだ名を付けていた。
飛雄馬たちのパーティーは飛雄馬が運転するヘルキャットのほか、師匠が運転してお嬢とばあやが同乗する通信・電子戦型八輪装甲車を一両、先生が運転する間接火力支援型八輪装甲車を一両、無人運転で徒歩のリーダーが付き添う大型トラックを一両と合計四両の車両を持ち、町の有力者からの依頼で行う地下資源調査などの野外調査を主な仕事としていて、今も近くにある町の商会からの依頼で行っていた地質調査中に発見した地下施設を調査しているところだった。
(今度こそ師匠より先に見付けるっす)
パーティーで主力と車両の整備や修理を担当し、今も先頭を任されている者として飛雄馬は心の中でつぶやく。
奥へ進めばほぼ確実にモンスターがまた出てくる。戦闘になると思うと決意がすぐに鈍りそうになるが、確実に戦闘になると決まっているわけではない。それより、師匠より先に見付けられれば成長していることを仲間たちにはっきり示せるはずだと気持ちを奮い起こす。
飛雄馬は自分をまだ半人前以下のお荷物だと判断していた。仲間たちは誰でも最初からうまくできるわけではないと誰もそのことについて言わなかったし、飛雄馬もその温情と励ましが心の支えになっていた。
でも、飛雄馬は早く一人前になってパーティーの役に立ちたかったし、仲間たちと対等な立場で会話を楽しみたいと思っていた。
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