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56.初々しいわ
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ポセイダー自身もすでに最盛期は過ぎているため、自らの技術と力を子供に伝えきれるか自信がない。
ならば子供のころから騎士見習いとして預かり、トリーテも息子のように可愛がっていた甥のオライオンを養子に取り、跡を継がせようと考えていたのだ。
そんな話を聞かされたアルテミスは、今更のようにオライオンを意識してしまい、顔を赤く染めた。オライオンも同様だったようで、耳まで染めて明後日な方向を見ている。
「まあまあ、初々しいわねえ。ふふふ」
微笑ましく見守るトリーテの笑い声に、二人は更に顔を赤く染めるのだった。
ケルヌが王都から辺境クレータに戻ってからというもの、王都とのやり取りは活発化してい た。正確にはポセイダーとケルヌのやり取りというべきなのだが。
アモールは剣を振るうほどとまでは行かずとも、通常の生活には支障がないほどに回復していた。
周囲に気付かれないよう、それまで通り病弱な振りをしていたそうだが、クピードたちに怪しまれている節があるという。
どうやら盛られている毒の量を考えると、すでに起き上ることもできず、命を落としていても不思議ではない程に悪化しているはずなのに、そうなっていないことで疑問を抱き始めたようだ。
そのことはアモールも予測していたが、そこまで酷い病状をさらせば、すでに彼から離れかけている貴族たちの心が完全に離れかねない。
第一王子が立太子する可能性を消えさせない、ぎりぎりのところを見極めて演じていたのだが、限界が来たようだ。
そしてその毒の出どころは、フルムーン侯爵領であると断定された。
使われている毒ムッセリーの生息地は、森の奥にある清らかな湿地。その条件だけでも候補地は絞られたが、辿り着ける場所となると、フルムーン侯爵領にある生息地しか該当しなかった。
なにせ森には魔獣がいる。奥地にある湿原など、早々行けるはずがないのだから。
「本当にいいのか?」
この情報を得たとき、ケルヌは改めてアルテミスに確認を取った。アモール側に付けば、家族である侯爵家を敵に回すことになる。
「国のため――領民のためですから。それに、兄はクピード殿下の側近候補として、親しくされていました。今更ですわ」
そう笑ってアルテミスは答えたが、内心は穏やかではなかった。
毒がフルムーン侯爵領で採取されているのなら、間に入ったのは兄か父であることは容易に想像が付く。アルテミスはクピードだけではなく、家族とも戦わなくてはならないのだ。
王都ではポセイダーを中心に着々と調査が進んでいた。しかしクピードがアモールを毒殺しようとした決め手となる証拠は、中々手に入れることができなかった。
力づくで排除することもできたが、それではクピードとやっていることは変わらない。
それどころか兄想いの第二王子という世間一般の評判を考えれば、アモールこそが残虐な暴君と呼ばれることになりかねない。
決定打を得られぬまま、第二王子クピードと聖女プシケーの結婚式を数日後に控えた今日、アルテミスはオライオンと共に王都へ入ったのだった。
ケルヌも明日か明後日には王都に入る予定である。彼の場合は二人と違い、第二王子の婚姻を祝うために、堂々と戻ってくる。
「疲れたでしょう? 今日は採寸を終えたら、しっかり休んで頂戴」
にっこりとトリーテから微笑まれたアルテミスは、侍女たちに急かされるようにして客室に連れていかれた。
旅装を解き、旅の埃を落すと、体のサイズを計られてから、ようやく寝巻に着替えて寝台に入ることを許された。
久しぶりに味わうふわふわのマットは、まるで雲の上に寝転がっているかのようだ。こんなに気持ちのいいものだっただろうかと考えている内に、アルテミスは夢の中へ入っていた。
ならば子供のころから騎士見習いとして預かり、トリーテも息子のように可愛がっていた甥のオライオンを養子に取り、跡を継がせようと考えていたのだ。
そんな話を聞かされたアルテミスは、今更のようにオライオンを意識してしまい、顔を赤く染めた。オライオンも同様だったようで、耳まで染めて明後日な方向を見ている。
「まあまあ、初々しいわねえ。ふふふ」
微笑ましく見守るトリーテの笑い声に、二人は更に顔を赤く染めるのだった。
ケルヌが王都から辺境クレータに戻ってからというもの、王都とのやり取りは活発化してい た。正確にはポセイダーとケルヌのやり取りというべきなのだが。
アモールは剣を振るうほどとまでは行かずとも、通常の生活には支障がないほどに回復していた。
周囲に気付かれないよう、それまで通り病弱な振りをしていたそうだが、クピードたちに怪しまれている節があるという。
どうやら盛られている毒の量を考えると、すでに起き上ることもできず、命を落としていても不思議ではない程に悪化しているはずなのに、そうなっていないことで疑問を抱き始めたようだ。
そのことはアモールも予測していたが、そこまで酷い病状をさらせば、すでに彼から離れかけている貴族たちの心が完全に離れかねない。
第一王子が立太子する可能性を消えさせない、ぎりぎりのところを見極めて演じていたのだが、限界が来たようだ。
そしてその毒の出どころは、フルムーン侯爵領であると断定された。
使われている毒ムッセリーの生息地は、森の奥にある清らかな湿地。その条件だけでも候補地は絞られたが、辿り着ける場所となると、フルムーン侯爵領にある生息地しか該当しなかった。
なにせ森には魔獣がいる。奥地にある湿原など、早々行けるはずがないのだから。
「本当にいいのか?」
この情報を得たとき、ケルヌは改めてアルテミスに確認を取った。アモール側に付けば、家族である侯爵家を敵に回すことになる。
「国のため――領民のためですから。それに、兄はクピード殿下の側近候補として、親しくされていました。今更ですわ」
そう笑ってアルテミスは答えたが、内心は穏やかではなかった。
毒がフルムーン侯爵領で採取されているのなら、間に入ったのは兄か父であることは容易に想像が付く。アルテミスはクピードだけではなく、家族とも戦わなくてはならないのだ。
王都ではポセイダーを中心に着々と調査が進んでいた。しかしクピードがアモールを毒殺しようとした決め手となる証拠は、中々手に入れることができなかった。
力づくで排除することもできたが、それではクピードとやっていることは変わらない。
それどころか兄想いの第二王子という世間一般の評判を考えれば、アモールこそが残虐な暴君と呼ばれることになりかねない。
決定打を得られぬまま、第二王子クピードと聖女プシケーの結婚式を数日後に控えた今日、アルテミスはオライオンと共に王都へ入ったのだった。
ケルヌも明日か明後日には王都に入る予定である。彼の場合は二人と違い、第二王子の婚姻を祝うために、堂々と戻ってくる。
「疲れたでしょう? 今日は採寸を終えたら、しっかり休んで頂戴」
にっこりとトリーテから微笑まれたアルテミスは、侍女たちに急かされるようにして客室に連れていかれた。
旅装を解き、旅の埃を落すと、体のサイズを計られてから、ようやく寝巻に着替えて寝台に入ることを許された。
久しぶりに味わうふわふわのマットは、まるで雲の上に寝転がっているかのようだ。こんなに気持ちのいいものだっただろうかと考えている内に、アルテミスは夢の中へ入っていた。
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