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46.謝らないといけないこと
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「アルテミス」
「なあに? オライオン」
眠ったと思っていたオライオンに呼ばれて、アルテミスも彼の名を呼び返す。それだけでくすぐったい気持ちがして、頬が緩んでしまう。
「君に謝らないといけないことがある」
「私も、オライオンに謝らないといけないことがあるわ」
上半身を起こして床に座ったオライオンを、アルテミスも寝台に座って見つめる。
「君に貰ったペンダントを、討伐中に失くしてしまった」
「構わないわ。あなたが生きていてくれたなら」
申し訳なさそうに顔を歪めているオライオンに微笑むと、アルテミスは立ち上がって彼の正面に座り直す。
磨き抜かれた瑪瑙のように滑らかになったオライオンの火傷痕に、そっと優しく触れる。これ以上傷つけないように、痛みを与えないように。
どれほど痛かっただろうか、どれほどの危険を掻い潜ってきたのか。生きていてくれたことが本当に奇跡のようで、アルテミスは神に深く感謝した。
「火トカゲとの戦いの最中に鎖が切れて、慌てて手を伸ばしたけど、届かなかったみたいだ。でもそのお蔭で一命を取り留めることができた」
視界の端で飛んでいくペンダントを追って体を動かした直後に、それまで彼がいた場所を、火トカゲが吐き出した炎が襲った。
もしもペンダントが切れなければ、オライオンはその炎で焼かれていただろう。
衝撃的な告白に目を丸くしたアルテミスは、悲鳴を上げそうになって口を押える。
「無事でよかったわ。あなたに万が一のことがあったら、耐えられない」
「きっと君が助けてくれたんだ」
正直に言えば、オライオンはその出来事で自分の選択を責めていた。
アルテミスとの思い出の品を失ってしまったこと。そして、地獄のような日々から解放されなかったこと。辛い選択肢だけを選び取ってしまったと思っていた。
「今度は私の番ね。オライオンに貰った髪飾りを、置いてきてしまったの」
オライオンへの想いを断ち切るため、館の私室にある棚の奥へしまっていた。塔に閉じ込められていた時、面会に来た兄に頼んだのだが一蹴されてしまった。
「気にしなくていい。あれは俺が傍にいない時にも、君が俺を忘れないでほしいと願って贈ったものだ。今は俺がいる。気になるなら」
と、オライオンは手を伸ばし、優しくアルテミスの髪をすいた。二人は見つめ合い微笑む。
もう離れなければ良いのだ。
「疲れただろう? もう休んだ方がいい。また明日」
「ええ。また明日」
オライオンはアルテミスを抱き上げると、寝台の上におろす。
疲れがたまっていたのは事実で、横になったアルテミスが目をつむると、気付いた時には朝が来ていた。
「おはよう、アルテミス」
「おはよう、オライオン」
同じ部屋で一夜を過ごしたこと、そして寝顔を見られてしまったかもしれないこと。アルテミスは真っ赤になった顔を毛布で隠しながら、先に起きていたオライオンに挨拶をする。
「あ、あのね、オライオン」
「何?」
「言い忘れていたんだけど、王都でポセイダー様にお世話になったの」
「叔父上に?」
塔で幽閉されていた時にポセイダーが訪ねてきてくれて、身の回りの品を差し入れてくれたことを話す。
「そうか。今度お礼の手紙を送っておくよ」
「ええ。私からも感謝していると伝えてくれる?」
「ああ」
罪人であるアルテミスが手紙を出すことは難しい。下手に送ればポセイダーにあらぬ疑いが掛かるかもしれない。
そしてアルテミスが生きていること、元気にしていることは、王都には知られないほうが良いだろうと、二人とも考えていた。
保存用に乾燥させた硬い黒パンと、魔獣の肉のスープで朝食を済ませると、アルテミスをケルヌたちの執務室へ送り届けてから、オライオンは魔獣討伐へと出かけていった。
「なあに? オライオン」
眠ったと思っていたオライオンに呼ばれて、アルテミスも彼の名を呼び返す。それだけでくすぐったい気持ちがして、頬が緩んでしまう。
「君に謝らないといけないことがある」
「私も、オライオンに謝らないといけないことがあるわ」
上半身を起こして床に座ったオライオンを、アルテミスも寝台に座って見つめる。
「君に貰ったペンダントを、討伐中に失くしてしまった」
「構わないわ。あなたが生きていてくれたなら」
申し訳なさそうに顔を歪めているオライオンに微笑むと、アルテミスは立ち上がって彼の正面に座り直す。
磨き抜かれた瑪瑙のように滑らかになったオライオンの火傷痕に、そっと優しく触れる。これ以上傷つけないように、痛みを与えないように。
どれほど痛かっただろうか、どれほどの危険を掻い潜ってきたのか。生きていてくれたことが本当に奇跡のようで、アルテミスは神に深く感謝した。
「火トカゲとの戦いの最中に鎖が切れて、慌てて手を伸ばしたけど、届かなかったみたいだ。でもそのお蔭で一命を取り留めることができた」
視界の端で飛んでいくペンダントを追って体を動かした直後に、それまで彼がいた場所を、火トカゲが吐き出した炎が襲った。
もしもペンダントが切れなければ、オライオンはその炎で焼かれていただろう。
衝撃的な告白に目を丸くしたアルテミスは、悲鳴を上げそうになって口を押える。
「無事でよかったわ。あなたに万が一のことがあったら、耐えられない」
「きっと君が助けてくれたんだ」
正直に言えば、オライオンはその出来事で自分の選択を責めていた。
アルテミスとの思い出の品を失ってしまったこと。そして、地獄のような日々から解放されなかったこと。辛い選択肢だけを選び取ってしまったと思っていた。
「今度は私の番ね。オライオンに貰った髪飾りを、置いてきてしまったの」
オライオンへの想いを断ち切るため、館の私室にある棚の奥へしまっていた。塔に閉じ込められていた時、面会に来た兄に頼んだのだが一蹴されてしまった。
「気にしなくていい。あれは俺が傍にいない時にも、君が俺を忘れないでほしいと願って贈ったものだ。今は俺がいる。気になるなら」
と、オライオンは手を伸ばし、優しくアルテミスの髪をすいた。二人は見つめ合い微笑む。
もう離れなければ良いのだ。
「疲れただろう? もう休んだ方がいい。また明日」
「ええ。また明日」
オライオンはアルテミスを抱き上げると、寝台の上におろす。
疲れがたまっていたのは事実で、横になったアルテミスが目をつむると、気付いた時には朝が来ていた。
「おはよう、アルテミス」
「おはよう、オライオン」
同じ部屋で一夜を過ごしたこと、そして寝顔を見られてしまったかもしれないこと。アルテミスは真っ赤になった顔を毛布で隠しながら、先に起きていたオライオンに挨拶をする。
「あ、あのね、オライオン」
「何?」
「言い忘れていたんだけど、王都でポセイダー様にお世話になったの」
「叔父上に?」
塔で幽閉されていた時にポセイダーが訪ねてきてくれて、身の回りの品を差し入れてくれたことを話す。
「そうか。今度お礼の手紙を送っておくよ」
「ええ。私からも感謝していると伝えてくれる?」
「ああ」
罪人であるアルテミスが手紙を出すことは難しい。下手に送ればポセイダーにあらぬ疑いが掛かるかもしれない。
そしてアルテミスが生きていること、元気にしていることは、王都には知られないほうが良いだろうと、二人とも考えていた。
保存用に乾燥させた硬い黒パンと、魔獣の肉のスープで朝食を済ませると、アルテミスをケルヌたちの執務室へ送り届けてから、オライオンは魔獣討伐へと出かけていった。
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