『種族:樹人』を選んでみたら 異世界に放り出されたけれど何とかやってます

しろ卯

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魔王復活編

393.必ず取り戻してみせます

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「ノムルのことを頼む」

 彼もまた、ノムルを想う人の一人なのだ。
 雪乃はさわりと葉を揺らす。

「はい。必ず取り戻してみせます」

 顔を上げたドインはどこか気恥ずかしそうながら、眩しそうに雪乃を見ていた。

「樹人や魔物のことは、冒険者ギルドも全力で協力する。時間は掛かるかもしれないが、待っていてくれ」
「はい。よろしくお願いします」

 今度は雪乃が頭を下げた。
 その後、雪乃は人払いされた体育館よりも広い部屋で、マンドラゴラたちの幻覚が使えることを確認してから、ナルツの邸に戻った。

 そして現在、雪乃はダルクからじとりと睨まれていた。
 雪乃が悪いわけではないのだ。ただローズマリナのデザイナー魂に、火が着いてしまったのだ。

「こっちの方がいいかしら? 白は清楚に見えるけれど、精霊王ならやっぱりアースカラーで。でも緑だと単調になりやすいわね」

 精霊王としてお披露目される際に身につける服について相談に乗ってもらい、マンドラゴラたちによって人型を見せたところ、次々と衣装が縫いあがっていった。それはもう、恐ろしいまでのスピードで仕立てられていく。

「ええっと、ローズマリナさん。お気持ちは嬉しいのですが、マンドラゴラの幻覚であって、本当に着るわけではないので」

 デザインだけ用意してもらえればよいのであって、仕立てる必要はないのだと言おうとしたのだが、

「大丈夫よ、ユキノちゃん。精霊王に戻った時に着てちょうだい。それにインスピレーションが止まらないの!」

 おーほほほほっと、彼女らしくない高笑いまで始めてしまい、雪乃はちょっぴり引き気味だ。思い返してみれば、初対面の時も彼女はデザイナー魂に火が着いて、ちょっと変わった人になっていた。
 断ることはできそうにないと、雪乃は流れに身を任せることにする。
 そうして出来上がったのは、淡い紅藤色の透けるように薄い生地を重ねて作った、花のようなドレスだった。一見すると無駄な飾りのないシンプルなデザインに見えるが、近付けば手の込んだ繊細なドレスだと分かる。

 緑あふれる森の中で精霊たちに囲まれて踊っていそうな、まさに精霊の女王にふさわしい幻想的な仕上がりだ。夜会で着るような正式なドレスは作れないと言っていたローズマリナだが、謙遜だったのだと雪乃は思わずにはいられない。
 あまりおしゃれに興味のない雪乃も、本能をくすぐられるように魅入り、自分自身で着てみたいとさえ思う。

「さすがは母上です」

 ダルクも褒めているが、ドレスのセンスが分かっているのか、単にローズマリナを褒めているのかは不明である。

「後は刺繍を施して完成ね。明日の朝までには作っておくから」

 やりきったローズマリナは爽やかな笑顔を浮かべるが、雪乃はぽかんとして彼女を見つめる。

「え? これで完成では?」

 ドレスとローズマリナを交互に見比べて、幹を傾げた。

「ここからが私の腕の見せ所よ。楽しみにしていてね」

 ふふっと楽しそうなローズマリナだが、すでにもう十着近いドレスを縫い上げている。そして目の前のドレスは、充分素敵なのである。雪乃にはこれ以上、手を加える必要はないように思えた。
 しかし芸術家というのは、高みを目指すものである。

「ご、ご無理はしないでください」
「ありがとう」

 心配しながらも、雪乃はお任せすることにした。
 それから数日の間、特にお呼び出しもなくローズマリナたちと過ごしていた雪乃だったが、とうとうその日が来た。 



 体育館どころかコンサートホールほどはある広い部屋には、大きな円卓が置かれていた。ぐるりと囲む椅子に要人達が座り、その後ろには彼らの側近が座り、更に護衛が控える。
 何とも重々しい空間に、雪乃はつないでいたカイの手に縋るように身を寄せた。
 カイは優しく雪乃の小枝を撫でると、円卓から離れて並べられた席に進む。今日はさすがに雪乃を膝の上に座らせることは控え、隣の椅子に座っている。

 雪乃とカイの他に、ムダイ、ナルツ、マグレーンが並ぶ。魔王討伐の選定メンバーたちだ。聖剣に選ばれた勇者はナルツという事になり、聖剣は現在、彼の手元にある。
 紹介があるまでは正体を隠しておいたほうが良いということで、雪乃は白いローブを身にまとっていた。
 光沢のある艶やかな生地で仕立てられたローブには、銀糸を用いて、植物や精霊をモチーフにした刺繍が施されている。もちろん、ローズマリナの作だ。

「事前にご連絡したとおり、聖剣によって勇者が選ばれました」

 正面に座るルモン大帝国皇帝の背後に控える渦巻き髭が、会談の趣旨を説明する。
 要人たちの注目は、ムダイからマグレーンやナルツ、カイへと移り、最後に雪乃へと向かった。その目には、場違いな子供に対する疑問や憤りが見える。

「子供が混じっているようですが?」

 太っちょの王族らしき男が、嘲るように鼻で笑った。彼に追従するように、そこここで嘲笑が浮かぶ。
 身を竦める雪乃の小枝を、カイはそっと握って励ます。

「精鋭が足りないようですので、我が国からも騎士をお貸しいたしましょうか?」

 黒いちょび髭にオールバックの男が、髭を指で摘まみながら皇帝に口を添える。

「ほう? そこにいるやつらより上のやつが、あんたの国にいるってのか? そりゃあ驚きだ」

 腕を組んでくつくつと笑うのは、ドインだ。太っちょと黒ちょび髭が睨み付けるが、まったく意に介さない。

「たかが兵士上がりが。なぜこの場に同席している? 立場をわきまえよ」
「そもそもラジン国は貴殿の故国であろう? それにノムル・クラウの管理はどうした?」

 雪乃に向けられていた剣呑とした感情が、ドインへと移っていった。上手く釣れたとばかりに、ドインの口角がにやりと笑みを浮かべる。

「ご静粛に。まずは彼らの紹介からさせていただきます」

 皇帝の後ろに控える渦巻き髭の声で会場は静まり、再び注目が雪乃たちに向かう。視線を受けて、雪乃たちは立ち上がった。

「まずは聖剣に選ばれし勇者であるナルツ・バーグル」
「はっ」

 名前を呼ばれたナルツは返事をして立ち上がると、大きく一歩前に出る。きりりとした表情に隙はないが、緊張しているようで身体が強張っている。腰から鞘ごと聖剣を抜き、正面に掲げて要人たちに見せた後、左手で柄を持って鞘から抜いた。
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