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魔王復活編

385.厨房に移動した雪乃たちは

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 本人の許可も下りたところで、人間たちはほっと安堵する。
 うっかり小さな樹人の正体をばらしかけたことで、胸に重いものがつまりかけていた。

 食事を終えると応接室に移動し、そこで雪乃の正体をララクールに見せた。彼女は目を大きく開いて言葉を失っていたが、ローズマリナたちが雪乃の正体を知った上で受け入れているのだと気付き、口を引き結んだ。

「ユキノ殿が人と変わらぬ存在だとは、理解しています。このことは決して他言いたしませんし、ユキノ殿を魔物と扱ったりはいたしませんので、ご安心ください」

 右手を胸に当て騎士としての礼を取ると、そう宣誓した。
 けれどそれは、樹人の雪乃を認めるという意味ではなく、雪乃を人として扱うという意味だ。
 雪乃はちょっぴり葉を萎らせ、ローズマリナたちも微かに眉を寄せたが、誰も何も言わなかった。ナルツたちもまた、雪乃の存在を受け入れるまでに時間を要したのだから。
 魔物がどういった存在なのか話していたとしても、すぐに切り替えることは難しいだろう。

 重くなった空気を押しのけるように、それぞれが動き出す。
 ナルツとマグレーンは城に向かい、フレックとララクールは買い出しに出かけた。匂いの強い香草などを買ってきてもらうためだ。
 厨房に移動した雪乃たちは、さっそく薬作りに取り掛かる。

 始めはポーションをという予定だったが、マグレーンから日持ちのする煎じ薬か丸薬にしたほうが良いとアドバイスを受け、薬草を乾燥させて調合することにした。
 煎じ薬の場合は材料が露見する可能性が高いのではないかと危惧したのだが、薬はマグレーンの父兄に管理してもらい、煎じた薬湯だけ配るということで雪乃の能力が露見することを防ぐことになった。

 使用人たちには厨房以外の仕事を頼み、昼食の用意もローズマリナが行うと伝え、人払いは済ませてある。
 これで人目を気にせずに作業ができる。雪乃はアエロ草と、シーマー国で手に入れた、大陸にはない果物を実らせる。
 未知の味が含まれることで、材料の特定を難しくさせるという寸法だ。

「あら、美味しそうな果物ね」
「旅の途中で見つけました。後で皆さんでも食べてください」
「ありがとう」

 朝食の時に出そうかと悩んだ雪乃だったが、すでに料理が用意がされているところに出すのも悪いかと考え、控えたのだ。

 フレックたちが帰ってくるまでの時間に、雪乃が生やしたアエロ草の下拵えを済ませておく。
 雪乃とローズマリナが厚い皮を剥いて取り出した透明な葉肉を、マンドラゴラたちが薄く切って運び、ザルに並べていく。そこにカイが火魔法で熱を加えて乾燥させる。

 静かに見学していたダルクが、残りのアエロ草を闇で包んだ。ぽいっと出てきたアエロ草は、綺麗に皮が消えている上にかぴかぴに水分が飛んでいて、透明で薄いが張りのあるセロハンのようだ。

「あら凄いわね、ダルク。助かるわ」
「母上のお役に立てて嬉しいです」

 ローズマリナに褒められて、ダルクは頬を緩ませる。
 雪乃はじいっと自分の小枝を見つめた後、生やしたアエロ草をぷつりと抜いて、おもむろに小枝をかざして魔力を集める。

「わー?」

 気付いたマンドラゴラたちが、雪乃の小枝を見つめて根を傾げた。
 アエロ草に変化は起こらない。

「どうして同じ樹人の王なのに、私にはダルクさんのような魔法が使えないのでしょう?」

 疑問に思いはしたものの、使えたところで使うことはないだろうと、雪乃はすぐに思考を手放す。
 香りや味の濃い果物を皮ごとマンドラゴラたちがスライスし、ダルクが乾燥させていく。
 雪乃とカイは乾いたものから次々とすり潰していった。臼が欲しいところだがなかったので、すり鉢ですり潰している。

 フレックたちが帰ってくると、買ってきてくれた香草の中から薬効に悪影響のあるものを外して、香りや味が強く、ついでに疲労回復に役立ちそうなものを選別する。
 それらも乾燥させてから、細かくすり潰していく。

「わー」
「わー」
「わー」

 マンドラゴラたちがアエロ草を除く乾燥させた薬草や香草、果物を、バランスよくすり鉢に加えていき、人族がすり潰す。
 体力のいる仕事はカイとララクールに任せて、雪乃とローズマリナは昼食の準備に取り掛かり始めた。

「使わなかった香草がたくさんあるから、鳥の香草焼きとサラダ、それにユキノちゃんの果物にしましょうか」
「はい」

 葉をきらめかせて料理の手伝いをする雪乃を、ぶすりと頬を膨らませたダルクが睨む。

「母上、俺も手伝います」
「ありがとう。じゃあこれを千切ってくれる?」
「はい」

 ダルクも嬉しそうにローズマリナを手伝う。

「完全に親子だね」

 ぽつりと、フレックが呟いた。

 出来上がった粉末を一回分ずつ油紙にすくい分け、そこにアエロ草の粉末も加えてかきまぜてから包む。煎じ薬の予定だったが、このままお湯に溶かして飲めそうなほど細かい粉末に仕上がっていた。
 粉薬に含まれるアエロ草の量は、微々たるものだ。ほぼ水分のアエロ草は、乾燥すると本当にわずかな量になった。
 お蔭で他の果物や香草で、アエロ草の存在は味も匂いも隠れている。

 実際に皆でお湯に溶いて飲んでみたが、アロエが入っていることは分からないと人間たちは太鼓判を押した。
 元々皮さえ剥いてしまえば、無味無臭とまではいかずとも味も匂いも薄いアエロ草だ。強い香草を入れてしまえば気付かれない。
 カイは嗅ぎ分けていたようだが、人間には分からないだろうと、城に持っていくことを承諾した。

「これは薬効抜きに、フルーティで飲みやすいですね。ジュースとしては少し薄めですけれど、こんな薬なら大歓迎です」

 果物を使ったのが良かったようで、ララクールは騎士団で支給されていた薬がどれだけ不味かったのかを力説し始め、元騎士のフレックも、うんうんと、何度も相槌を打っていた。
 薬効のほうだが、これはフレックだけが体感したようだ。他の三人は疲れていなかったようで、首を捻るに留まる。

「身体が軽くなったよ。意識してなかったけど、やっぱり色んなところに負担が掛かっていたみたいだ」

 手足を失い義手や義足で生活しているフレックは、肩や腿を動かして嬉しそうだ。その姿を見た雪乃は、薬の一部をフレックにと考えたのだが、

「気持ちは嬉しいけど、俺は一生、この身体と付き合っていくわけだから」

 と、雪乃でなければ作り出せない薬に頼り続けることはできないと、首を横に振って断った。
 少し寂しいような気分になった雪乃だが、フレックの気持ちも分かったので、こくりと頷いて引いた。

 早めの昼食を済ませたローズマリナは、城に行くための準備をするため部屋に戻る。その間に寝坊助ムダイも加わって昼食を取り、ドレスに着替えたローズマリナと共に全員で邸を出た。
 もちろん使用人たちの食事もきちんと用意して、厨房に残している。
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